まおうはたおされた▼_   作:ケケフカ

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まおうはたおされた▼_ 三話

 

 

 両者、間合いは十分ではない。

 どちらも前進しなければ攻撃は当たらない状況。それでも彼らが動くことはない。

 

 ジャルガンは基本的なリーチながらも、突剣術による長い間合いを得意とする。そして、付随する剣の能力で死角からの攻撃を一つの札として持っている。

 

 片やルネカはジャルガンのように突出した能力を持ち合わせていない。しかし、この状況においてある意味有利であり、同時に不利な立ち位置に彼女はいた。

 

 ルネカの背後は壁。それに次いで壁は弧を描いているコロッセオ型。

 ジャルガンが見せた死角からの攻撃は上空を除いて、ほぼ不可能となった。

 

 なによりルネカはそれを利用した武器の構え方に変えていた。

 

「刃の腹を見せる構え……カウンター狙いか」

「さあ、どうだかねぇ」

 

 自身の背丈の小ささと経験の少なさをカバーする為の防御の構え。冒険者の中でも大男などの防御に心得のある者が担う前衛【タンク】が主に使う戦法の一つ。

 

 だが、その姿にジャルガンも懐疑的になっていた。

 

 彼女の技量ならば、自分の攻撃に対してカウンターを仕掛けることは不可能。むしろカウンターを仕掛けた瞬間こそ、こちらの攻撃が通るチャンスになる。

 彼女もそれは分かっている筈、戦う者ならばと、そこで思考を止めた。

 

 何故、彼女を“ 同族 ”だと断定してしまったのか。

 

 ジャルガンは刃を下に向けたまま、ゆっくりと前進する。彼の足元に生えた根も彼の動きに付随するように移動し始める。

 

「カウンターで来るならば、剣技で対応しよう。それ以外ならば、我が切り札にて貴公の策を破る」

 

 ルネカは冒険者ではない。

 

 その思考は短絡的。だが、それ故に有効。

 どれだけ身体能力に優れ、その場の判断で身体のイメージを動かせたとしても、戦闘における対策の数は経験でしか得られない。

 

 彼女の勝ち目はカウンターか切り札の二択。

 

 ジャルガンの武器のレンジまで入った。それでもルネカは不動のまま、構えを崩すこともない。

 

 ジャルガンの構えを取る。

 だが、その構えは中段突きの構えではなく、下段から上段へ剣先を向けていた。

 

 剣先が虚空夜窓に触れる。その数秒後、虚空夜窓が手元から離れた。

 

「“ ガードブレイク“。これは冒険者であれば、知っている技巧だ。それ故に引っかかるのは魔物ぐらいであるとされている」

 

 “ 相手の防御を破られた ”という因果を与える剣技。

 故に、どんな敵に対してもその効力は落ちることなく、弱点を露呈させる。弱点のない一撃。

 

 “ 発動までの構えと発動の遅さという弱点を知らなければ ”という初見殺しの前提付きであることを除けば。

 

 構えを中段に直し、再度突きを行うジャルガン。

 

 吹き飛ばされ、彼女の傍に刺さった虚空夜窓。ガードが剥がれたルネカの胴体にその攻撃が決まることを結論付けていた。

 

「それを待ってたよ。冒険者」

 

 ルネカの胴体に衝突した剣撃。二度目の攻撃は成功。しかし、彼女は笑顔を浮かべながら自身に突き出された刃を両手で掴んだ。

 

 彼女の両手から血が滴る。それは加護の効力が効いていないことに他ならない。

 

 ジャルガンは動揺し、引き抜こうとするも抜くことができない。それほどまでにしっかりと彼女は刃を握っていた。

 

「痛いって……本当にアタシのこと好きなの?」

「離せっ‼︎ 離さねば指が落ちるぞ。ささっと離さねば────」

「引き抜いた瞬間、自分自身に課した勝利条件が果たせなくなるって?」

「……」

「図星、だね」

 

 ルネカはジャルガンの戦い方に疑問を思っていた。

 

 連続した攻撃は行わない。切り札すらすぐに抜くこともない。ある程度の実力が分かってからも、ガードブレイクなんて舐めた技を利用してくる。

 

 台詞からも、その態度からも強力なスキルを使うことを躊躇しているようにも感じていた。

 

「エドヴァルドの加護。無敵とも言える効果だけど、明確な二つの弱点がある。その一つが相手から攻撃を受けた直後は加護の効果が一時的に無効になる性質。自傷は判定外。じゃなきゃ尻尾を叩きつけた瞬間も、今の状況も加護が発動していた筈だからね」

「……そうだ。だが、それが分かったところで君に勝ち目はない」

「けど、二つ目の弱点。それが今の状況において最も憂慮すべき点」

「っ……」

「最初に言った三回の攻撃を無効化してしまうという説明。それは三回の攻撃を無効化してくれるのではなく、“ 三回の攻撃を無効化しなければならない ”という条件でしょ」

 

 攻撃の無効化を三回請け負う加護。

 それは加護という名を冠した呪いである。

 

 ────初めてブローチを持った者はその時代においては最強の弓兵であった。

 

 最強の弓兵は後方にいる限り、一日三回だけ攻撃を請け負ってしまう加護は事足りてしまうものであった。

 

 だがある日、慢心した彼は二人の槍兵の前に出た。

 

 弓兵は攻撃することなく、攻撃を優々と受けた。ほんの少しの時間差で突き出された二つの槍。一つ目の槍は弾かれ、二つ目の槍は彼を貫いた。

 

 弓兵は二回の攻撃程度で死ぬことはないと、敵前で矢をつがえる。隙だらけの弓兵を二人の槍兵は悠々と刺し殺した。

 

 三回の攻撃を受け切らなければならない加護。つまり、その概念から逸脱した時点で加護は消失する。

 

「アンタの勝利条件は“ 三回の攻撃で無効化の効力 ”を消すこと。他の方法でも解除できる説明をしなかった時点で、その三回から逸脱した行為は取れない。そんな事をすれば、アンタは勝負の中で不正を行うことになる。格下相手に、それも女に不利な勝負を投げた卑怯者だってね」

「……私が伝えなかったのは、貴公の身体を傷つけないためだ」

「でも、アタシのことは愛してないもんね。アンタが欲しいのはアタシの身体、でしょ? クソ童貞」

 

 今までの台詞。

 全部、身体に関することを褒めていた。容姿、能力────彼女の意思など最初からジャルガンは見ていなかった。

 

 その時、ジャルガンは剣を勢いよく引き抜き、ルネカの両指を切断した。

 

「っ……指なぞ後で直せばいいっ‼︎ それにぃ、加護の効力が消えるのは足元からなんだよ。首を狙えば、三つ目は成り立つッ‼︎」

 

 彼の表情は先程の騎士たるものではなく、三日月のように口元が緩んだ外道の笑顔。

 

 その手の剣先はルネカの首元に迫っていた。ルネカの反応よりも速いそれを彼女が止められる筈もない。

 

 そう、彼女でなければ止められる。

 

「────女の扱いを教えてあげる」

 

 瞬間、ジャルガンの身体が弓形になって右方向へ吹き飛んだ。

 

 大きな音を立てて、壁に激突したジャルガン。瓦礫に身体を預け、血を吐く。

 

 未だ崩れ落ちる瓦礫。何が起きたのかと唖然とし、声援が消えた観衆。

 

 攻撃を受けた本人であるジャルガンは腐ってもA級冒険者。

 何が起きたのかを理解するために、即座にルネカの方へ顔を上げた。

 

「女を知らない奴って限られるんだよね。ナードか金持ちのボンボンか────」

 

 修道服のルネカ────そして、その横には白色のフルメイル姿の巨人がいた。

 

 所々に襞襟が有り、まるで自身を皇帝だと言わんばかりの出立ち。明確な武器など持たず、砂色に汚れた拳のみが武器だと言わんばかりであった。

 

 甲冑から見えるピンク色の眼光をジャルガンへ向けていた。

 

「アンタみたいなクソッタレの魔神族か、ね」

 

 猫歩 ルネカ。

 

 冒険者資格剥奪者。

 

 元S級冒険者。

 

 二つ名、“ 魔神奏のエゼルベルト ”。

 

 

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