まおうはたおされた▼_   作:ケケフカ

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まおうはたおされた▼_ 四話

 

 

 “ 魔神族 ”。

 

 魔王の血族であり、不死身の存在。

 肉体的な死では死なず、己が魂を別の生物に移し変えることで命を繋ぎ止める悪しき存在。

 

 不死身であるが故に、研鑽された思考と技巧は他の種族を凌駕する。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「白い甲冑姿の巨人族……貴様、魔神奏のエゼルベルトか⁉︎」

 

 白い騎士に視線を移したジャルガン。その顔に汗が浮かぶ。

 

 魔王ではなく、その血族を殺す者。

 勇者が訪れた場所に訪れ、その周囲にいる魔王の血族を狩る。その者が人格者だろうが、国を支える立場であろうが、魔神族ならば必ず葬る。

 

「……? ああ、そういうことね。彼を人間だと思ってるわけだ」

 

 ジャルガンの方へ、白い騎士と共に歩いていくルネカ。

 

 ジャルガンが手を向けると地面に張っていた根が迫り出し、騎士へと攻撃を行う。騎士は根が自身に触れる寸前に握り、思いっきり引っ張りあげた。

 

 すると、地面からその根に繋がった複数の人型の果実が姿を現した。その姿は黄金の鎧を着たジャルガンそのものであった。

 

「やっぱり、マンバロメッツじゃん。エゼルベルト、よろしく」

 

 エゼルベルトと呼ばれた騎士は、その手で叩き、殴り、握り潰した。予想通りか、その果実達から血が噴き出す。

 

 ロンドスタム中に血の雨が降る。

 歓声は悲鳴に変わり、最前列の酒が、血で薄まった。

 観客の阿鼻叫喚が聞こえる中、ルネカとエゼルベルトは歩みを続ける。

 

「お、女ァ‼︎ 決闘に横槍が入った────」

「横槍……ぷっ、あははっ‼︎ 横槍だってさ。そもそも……アンタさ、まだ決闘な気分なわけ? 魔神族が目の前に現れたんだよ? これは決闘じゃなくて、公開処刑でしょ」

「ふざけるな……私は魔神族じゃないっ‼︎ そもそもこの国に魔神族が入れない筈ないだろうがっ‼︎」

 

 明らかに激しく動揺をしているジャルガン。そんな彼の前に二人は立っていた。一人はうすら笑顔を浮かべ、もう一人はその眼光を向けるばかりであった。

 

「“ 醒めるエトーチ ”、“ 蘇りのマトリツォ ”、“ 鉄核のロワンコ ”」

「な、なんでその名を……」

「なんでって……魔神奏だからだよ。魔神族は一人残らず殺す。どこまで逃げようとも、隠れようとも、どんな立場になっても、生きている限り足跡を辿って殺す。アンタが殺して入れ替わった“ 不死身の冒険者達 ”の足跡を追って、アンタ本人に辿り着くことは普通のことなんだよ」

「たかだか、東西のC級冒険者だぞ……そんなのを調べ尽くすなんて」

 

 ここ百年間、ある日を境に行方不明になった三人の冒険者。彼らに共通する点が三つあった。

 

 一つ目は決闘への執着。

 

 二つ目は初めての決闘後に得た冒険者の“ 理想 ”である蘇生能力。

 

 三つ目は端麗な容姿。

 

 C級という中途半端な等級であることは関係ない。

 それだけの情報は今までの魔神族殺しの中でも容易い。なにより、これから行われる彼の殺害すらも容易い部類であった。

 

「答えに合わせに満足した?」

「異常者共がっ‼︎」

 

 エゼルベルトが拳を振り上げ、叩きつける。ジャルガンは拳の勢いに耐えきれず、地面に埋まるように潰れた。

 

 それとほぼ同時にエゼルベルトの背後。潰されたはずのジャルガンが現れ、その首元へと剣を突き立てる。

 

「ははっ……やったぁ! 最後の魔神族である私が、あの魔神奏を殺したっ‼︎ 私が殺したん────」

「知ってたよ。マンバロメッツだもんね」

 

 黒い泥のようになって崩れ落ちるエゼルベルト。その横でオレンジ色の閃光が走る。

 瞬間、喜びの声をあげていたジャルガンの胴体が穴だらけとなり、地面へ零れ落ちていった。

 

 その爆発音の正体。それはルネカの手元で煙を上げる鉄筒であった。

 

 血だらけの両手には短い鉄棒をヒンジで組み合わせたかのような簡略的な作りの銃身。パイプガンと呼ばれるそれは、この異世界における高価な武器である。

 

 第二関節から上のない指はトリガーをかけるには精一杯であり、手首を強く捻ることでようやく撃てていた。

 

「いっっッ⁈」

 

 やはり衝撃を抑えられなかったのか、痺れた手では支えきれずにパイプガンを落とす。

 

 エゼルベルトを助ける為に構えたものの、切断された指での操作は劣悪。エゼルベルトが消滅した後に撃ったこの攻撃に意味はほとんど無い。

 

 穴だらけになったジャルガンの遺体。赤色の肉塊と共に、掌サイズの肌色の種が至る場所に落ちていた。

 

 ルネカも死んだとは思ってない。

 先程の実のカタチから、ジャルガンなど変えが効く肉人形の一つでしかないのだから。

 

「ったく、演技はいいから……早く出てきなよ。まだストックはあるんでしょ?」

 

 ルネカが呼びかけるように叫ぶと、地面から無数の金色の腕が飛び出した。

 それはまるで這い上がってくるように現れ、その姿を露わにする。

 

 現れたのは十数人のジャルガン。その容姿も、装着している鎧も剣でさえも全てが同一。

 

「私に奥の手を使わせた獲物は初めてだ。なにより、私の存在を暴いた挙句、この美しい身体を破壊した‼︎ ああ、なんたる罪深きこと‼︎」

「だが、その麗しい身体を貰い受ければ許してやろう」

「その身体で私は────新たな魔王として名を馳せよう」

「あの忌々しい魔神奏も死んだのだから」

 

 ジャルガン達が薄気味悪く笑みを浮かべる。同調しているのか、次々と喋り出すその光景は非現実的であった。

 

 彼らは「人実なる木【マンバロメッツ】」。

 

 文字通り、人の形を模した実を生らせ、擬態の後に捕食させる魔物の一種。実を地面に生らせる習性を持つ。

 それでも、通常の魔物であれば、実は擬態するだけが精一杯である。

 

 だが、その植物に意思が宿ることにより、実はラジコンのように動作する。擬態における必要最低限な素質、“ 人と言葉を交わす ”ことなど容易い。

 

 つまり、魔物の肉体に魔神族の魂が根を張った────それが、冒険者ジャルガンのガワを被った“魔神”である。

 

 マンバロメッツに囲われたルネカ。

 既にパイプガンを撃ち切ってしまい、エゼルベルトという協力者すらも失った絶望的な状況でも、その表情は余裕であった。

 

「魔王か……あはっ」

 

 ルネカは笑みを浮かべる。

 

「冒険者でもないお前の攻撃に意味はない」

「武器も無ければ、生み出すためのモノさえもない」

「お前を助ける者は皆、逃げ帰った」

「さあ、その身体を明け渡すといい」

「この我が魂である黄金の剣“ 懐樹擅命 ”によって、今ここで貴様の身体を奪おう‼︎」

 

 懐樹擅命────枝が絡みついた黄金の剣。彼の核であり、魂を埋め込むための道具。

 

 それを自らの身体から生やし、手に持った一体のジャルガン。

 ルネカに近づくと彼女の衣服を縦に切り裂き、胸の中心へと刃を立てた。

 

「お前が“ あの魔王 ”になれるはずないだろ」

 

 胸の中心から一滴ほどの血が垂れる。

 それでもルネカは笑みを浮かべていた。

 

「必死の強がりは終えたのか? だが、それでは何も起こりはしない。貧弱な人間が出来ることなぞ神への祈り事だけだということだ。ああ、弱い‼︎ やはり人間はこうでなくては。人間は支配されるのが常であることを理解しろ‼︎ 魔神族こそ、世界を支配する者であることを‼︎ 」

「良いことを教えてあげる」

「なんだ、命乞いか?」

「いい加減、自分から弱点を曝け出すのはやめた方がいいよ」

 

 その瞬間、懐樹擅命が真っ二つに折れた。

 

「は?」

 

 黄金の剣を折ったのは白い拳。

 

 その見覚えのある手甲。

 ジャルガンは先程受けた一撃を思い出し、そしてそれによって自分の生命線であり核である懐樹擅命が折れたことを理解した。

 

 その原因である拳が自身の腹から伸びている事も。

 

「何故、生きている」

「お前は私が殺したはずだぞ」

「殺したんだ。殺したはずなんだ」

 

 ジャルガン達は驚嘆していた。

 自身が持つ長い生の中で、該当する生物としてアレを測れる物は存在しない。

 

 話で聞いていた魔神奏の噂。魔神族に対して最強の一言であるが、その最たる技術も魔法など聞いたこともない。

 

 右腕で貫く者。

 

 “ ⬛︎⬛︎⬛︎ エゼルベルト ”

 

 虚空夜窓を媒介とし、引き換えにその肉体を創り出す存在。

 臓器は存在せず、痛覚も存在していない。

 生物に姿形を似せただけの異星体である。

 

 行動原理は騎士の如く、召喚者を守り、敵を殴殺する。

 

 

 また、彼の切り札は────

 

 

「焼却印」

 

 

 魔神族の魂を焼却する“ 浄化炎 ”。

 その一点のみに特化している。

 

 ルネカの台詞と共に、貫かれたジャルガンと懐樹擅命共々粉々に砕け散る。そして、彼の身体を包むように薄紅色の炎が燃え上がった。

 

「「「「「「「「ああっ……あああああああああああッ‼︎」」」」」」」」

 

 炎に巻かれるジャルガン。

 燃えていないはずのジャルガン達も同様に叫び声を上げ、胸を押さえたまま苦しんでいた。

 

 魔神族を必ず殺す者。

 その者がどれだけの善意を働いていたとしても、彼女にとってそれが魔神族である限り必ず魂を焼却する。

 

 殺された魔神族は必ず叫び声を上げ、壮絶な最期を遂げるとされている。

 

 故に“ 魔神を奏でる者 ”の二つ名で呼ばれていた。

 

 

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