ザコ妖魔ごときに私の処女が雑にコキ捨てられるなんて!?という退魔巫女たちがヒロインのエロゲーにTS転生してしまった元男の私が発情して妖魔を食う話   作:エルフスキー三世

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見知らぬ天井とリノリウムの床を出すのは小学生までだよね(なお

 夜明けの薄明かりの中、私は一晩の宿として潜り込んだ廃墟じみた小さな神社の本殿で目を覚ます。

 私の体の上で惰眠を貪る野良猫たちに挨拶するのも忘れない。

 昨夜の興奮は冷めぬものの、体内に溜まったエネルギーと反比例するかのように押し寄せてくるのは、途方もない空腹感だ。

 妖魔を貪り食って消化した後だからだろうか、それとも能力を行使した副作用なのか、とにかく胃袋が悲鳴をあげていた。

 

「お腹すいた……本当に、お腹すいた」

 

 独り言は虚しく木造の梁に響く。

 毛布代わりにしていた野良猫たちを摘まみあげて体の上から押しのける。

 にゃーと抗議の声をあげるが聞きません。

 彼らが出ていくのを見届けると、参道脇の小汚い自動販売機で買ったミネラルウォーターのペットボトルを握りしめ、渇いた喉に流し込む。

 ぬるい水でも喉を滑り落ちると少しはマシになるものの、腹の虫は収まらない。

 

 

 **ピコン**

 

 唐突に軽快な電子音が頭の中に響いた。

 

『システムメッセージ』

『識別:シナリオブレイカー Lv.1 → 2』

『称号追加:退魔の守護者(特定対象:風切綾瀬(かぜきりあやせ))』

 

 なんぞこれ!?

 

 突然脳内でポップアップする半透明の文字列に一瞬混乱する。

 まるでゲームのシステムメッセージみたいだ。

 いや、これは見たことがある『退魔巫女絶頂白書』のステータス画面だ。

 レベルアップの概念があるということは、やはりこれはゲーム世界そのもの……いや、あるいはそれに近い現実なのか?

 称号の「特定対象:風切綾瀬」に赤い警告マークがついているのが気になる。

 守ると宣言したからだろうか?

 

「それにしても今でも十分強いのにレベル2……私はまだまだ強くなれるのか」

 

 レベル表示を見て内心苦笑する。

 原作ゲームではキャラクターの育成はかなり厳しかった。

 退魔巫女たちは地道な修行や妖魔討伐、そしてイベントやシナリオクリアで少しずつ成長していく設計だった。

 最大に上げられるレベルは10だけど、そうすると一人のキャラクターの育成を集中しなくてはならず、それをしてしまうとほかのキャラクターが育成不足になってシナリオ戦闘を進めることが不可能になってしまうのだ。

 そのためエンディングを見るためには全キャラクター平均6~7レベルくらいで調整するのが現実的である。

 だが、今の私は違う。

 単純に妖魔を物理的に食べることだけで強くなれる。

 エロゲーのバッドエンド回避どころか、この仕様自体がチート級すぎる。

 

 

 細かいステータスも確認していたが腹が減っていて、このままでは何もできない。

 境内を出てすぐ近くの商店街に向かうことにした。

 古臭いデザインの黒いセーラー服姿のままでは目立つだろうが、他に替えの服もない。

 というか住むところも頼れる家族らしきものもない。

 この世界での戸籍があるかどうかも不明である。

 下手をしたら人間かどうかもわからん。

 かろうじてお金だけはいっぱい(幼児なみの思考放棄)持っている。

 歩いていくと、学校が近くにあるのか通学途中らしき学生たちと何度もすれ違う。

 彼ら彼女らは私が横を通ると何故か一斉に立ち止まり、そして息をひそめ、じっと視線を向けてくる。

 

『なんか変な人がいる』

 

 そう思われているのかもと考えつつ商店街を目指す。

 朝のパン屋から漂ってくる小麦とバターの濃厚な香りに、また胃がキュッと縮こまる。

 飢えに誘われるまま店に入ると、店主らしきおばさんが不思議そうな目を向けてきた。

 

「お客さん? 見かけない制服だけど学校はどうしたの?」

 

「おはようございます。色々あって遠くからきたのですが、朝食を食べ損ねまして……」

 

 うん、微妙に嘘は言ってないのがなんとも……

 哀れそうに答える私に、おばさんはパン籠を指差した。

 

「あらあら、それは可哀そうに。クロワッサンでいいかい? コーヒーはサービスしてあげるから、そこのテーブルで食べていきなさい」

 

 焼きたてのクロワッサンとハムチーズパン、そしてカフェラテを受け取ると店の隅にあるイートインスペースへ。

 温かいパンをハフハフと夢中で頬張る。

 うめぇ……うめぇよぅ……すきっ腹が満たされいくぅ……

 

『近隣にて妖魔出現 Lv.1 (数:3)』

 

「!!」

 

 パンを食べきったと同時に、脳内に赤文字が点滅し、場所を示す地図データが表示される。

 こんな機能まであるのか……便利だな。

 カフェラテを飲みほして立ちあがる。

 

「ごちそうになりました。ありがとうございます」

 

「いえいえお粗末さま。お嬢さん、車に気をつけていくのよ~!」

 

 笑顔で送り出してくれるおばさんに対し、リーマン時代に培った丁寧なお辞儀をしてから全力で駆け出した。

 距離は500mほど。

 道を走り抜け、住宅街を飛び跳ねるようなパルクールじみた移動をすると、あっという間に目的地へ辿り着く。

 視界の先では、子供連れの主婦たちとランニング中らしき若者が、逃げ惑っていた。

 その中心には緑色の肌をした小型妖魔が三体、涎を垂らして女性たちに迫っている。

 この世界に来てから何度も遭遇した、ゲーム序盤によく出てくる小鬼(ゴブリンぽいビジュアル)タイプだ。

 

「間に合ったようね」

 

 私は最も近くの一体へ跳躍した。

 足先で軽く蹴り飛ばすだけで妖魔の腕がスポンと千切れ飛ぶ。

 状況がまったく理解できないのか、???とした顔の妖魔に対し、足裏で地面に叩きつけて喉笛をぐしゃりと踏み潰す。

 

「えっ……な、なにあれ?」

 

 逃げていた人たちが足を止め呆然とした声をあげている。

 危機的状況にかわりはなく、少々警戒心がなさげに感じられるが、ここからは離れているし被害はなさそうだからヨシ!(現場猫スタイル)

 残りの二体がこちらを用心するかのようにじりじりと近寄ってくる。

 右のほうの妖魔の前に歩いていき、途中で体を大げさに揺さぶって突進するかのようなフェイントを仕掛けてみる。

 

「お馬鹿さん」

 

 あっさりとつられた妖魔が両手のかぎ爪で届かない攻撃をし、態勢を大きく崩したのを確認した後、あらためて一歩踏み込む。

 右手を伸ばして首を掴み、引き寄せと同時に骨を折った。 

 そのまま左手の指先で心臓を貫くと、派手に血をまき散らす肉塊と化す。

 

「……ッ!」

 

 人前である、流石に食べることはできない。

 肌からの接触部分だけで吸収すると生暖かい感触と鉄臭さが全身を巡る。

 股間がジンッと熱くなり思わず達しそうになるのを堪える。

 人目が多いところで絶頂するほど性的に倒錯していない。

 私は変態な娘じゃないもん!

 

「さて、おまえはどう料理してほしい?」

 

 残りの一匹は完全に怯え切って後ずさりしている。

 私はゆっくり近づく。

 このままでは戦意喪失で逃亡してしまう可能性がある……面倒になるのでその前に片付けるか。

 そう思った矢先、妖魔の背後の空間が歪み始めた。

 

「なに!?」

 

 空中から長槍を持った妖魔が出現したのだ。

 妖魔の能力で召喚したのか?

 しかも先ほどまで弱っちそうだった妖魔まで武装して強化されている。

 

「ちっ……油断した」

 

 ステータスウィンドウには『妖魔 Lv.2 追加1』と表示されていた。

 装備持ちの上位個体ということか……?

 種族は同じ小鬼っぽいが、さっきまでのザコとは明らかに雰囲気が異なる。

 鋭利な槍先をこちらに向けて構える姿はなかなか様になって凶悪である。

 

「まあ、関係ないわ」

 

 私は弱っちそうなのに狙いを決め一気に距離を詰める。

 槍で攻撃されたけど子供が棒きれを振り回すような大振りで、回避することは容易く、あっさりと攻撃の内側に入ることができた。

 妖魔の槍を持つ腕をつかんでへし折った次の瞬間、接触部分からの吸収が始まり、手首から上が消失する。

 妖魔は悲痛な叫びをあげ苦しむが慈悲はない。

 足払いをかけバランスを崩させ、無防備になった胴体に拳を叩き込む。

 そのまま地面に倒れた妖魔のお腹の上に自分のデカ尻を叩きつけるように落として、さらに追加ダメージ確定。

 

「私のような美少女が最後の()()()で嬉しいでしょ?」

 

 騎乗位じみた馬乗りのまま、頭部を両手で掴み──ぐしゃり、と握り潰した。

 迸る血液と脳漿が私を染めていく。

 

「つぎ……!」

 

 もう一体の妖魔が慌てて槍を振り回す。

 先ほどの妖魔よりはましだがそれでも()()()()でもない。

 冷静に見極めて避け、槍先が何度か体をかすめるが恐れずに間合いを詰めていく。

 すれ違いざまにローキックで脛裏を粉砕。

 足元がぐらついたところで背後へ回り込んで小さな体を持ちあげる。

 そのまま胸の中で抱きしめてへし折った。

 背骨が折れる音が耳障りな悲鳴となり、妖魔は口から泡を吹いて絶命する。

 

「やっぱり腹は膨れないわね」

 

 一部分とはいえかなり吸収したにも関わらず、満たされる感覚がない。

 

「もっと強くて……もっと栄養のあるものを……」

 

 飢餓感だけが増幅してゆく。

 まるで薬物中毒者のようだ。

 私の脳裏に風切綾瀬の顔が浮かんだ。

 事情を話してみようか……綾瀬ならきっと心配してくれるだろう、彼女は聖人レベルでお人よしだから。

 でも、あんな美しい女性を悲しませるのは嫌だなぁ。

 

 

『近隣にて妖魔出現 Lv.4(数:1)』

『守護対象:退魔巫女・風切綾瀬 Lv.1』

 

「!!」

 

 脳内通知が私を現実へ引き戻す。

 綾瀬が来ていたのか。

 

「妖魔のレベルが高い……綾瀬が危険だ」

 

 私は血に濡れたセーラー服を気にせず、指定された場所へと急いだ。

 そこは巨大なショッピングモールの駐車場。

 大勢の人々の悲鳴がこだまする。

 逃げ惑う客たちの背後には、大型ダンプのような巨大な蟹型の妖魔が、駐車してある車を玩具のように次々と跳ね上げて暴れていた。

 甲殻類特有の外骨格は堅牢そうで、巨大な二本腕の鋏はもとより、脚の先端にもついている無数の鋏がアスファルトや車を破壊している。

 

「綾瀬……どこ?」

 

 辺りを見回すと、逃げ惑う人々をよそに巫女装束の綾瀬がすぐそばの建物の陰に隠れていた。

 彼女は震える手で短刀を握り、決意した表情で今にも決死の突撃をしそうだ。

 常人とは違う、退魔巫女として妖魔を祓う力を持っているとはいえ彼女のレベルはたったの1。

 あの妖魔に立ち向かえば一瞬で倒されてしまうだろう。

 

「綾瀬!!」

 

 焦りのあまり叫ぶと、彼女が驚いた顔でこちらを見た。

 

「どうして……あなたがここに……?」

 

「話はあと! あれは私がやるから今すぐ下がって!」

 

 私の言葉に従い、綾瀬は素直に後ろへ退く。

 彼女に怪我はないようだ。

 安心した瞬間、巨大蟹がこちらに気づいて巨躯を向き直らせた。

 巨大な複眼がギョロリと私たちを捉える。

 

「あなた無粋よ、デートの邪魔しないでくれない?」

 

 私は蟹に向かって挑発するように言い放つ。

 奴は不愉快そうに身を捩ると、巨大な鋏を振り下ろしてきた。

 衝撃波が空気を震わせ、アスファルトが砕け散る。

 私は横跳びで回避し、ひっくり返った車を足場に高く跳躍する。

 

「弱点は……やっぱり関節ね!」

 

 落下と同時に、右脚の一本……そこを狙って蹴りを叩き込む。

 甲殻の隙間から体液が噴き出す。

 続けて右手で殴打を続けながら左手は鋏脚の根本を掴み──強引に引きちぎった。

 

 蟹型妖魔の絶叫!

 

 それをBGMとし、蟹型妖魔を煽るような優雅な所作で鋏脚を喰らう。

 大量の甲殻片と蟹肉が私の体内へ侵入し、全身の皮膚から吸収されていく。

 

「うっ……くっ……」

 

 脳髄を焼くような予想外すぎる強烈な快感が走る。

 今までとは比較にならない充足感が全身を駆け巡る。

 これは良い!

 とても良し!

 

「あ!?」

 

 綾瀬の声がした。

 ()()に夢中になってたのがいけなかったのか……蟹型妖魔の巨大な鋏腕が横振りに振るわれて私の体に直撃する。

 跳ね飛ばされ、ピンボールのように地面をバウンドし、照明ポールにぶつかってようやく止まった。

 綾瀬の悲鳴が聞こえた。

 体のあちこちが激痛を訴えている。

 けれど痛みの奥に、奇妙な昂ぶりがあった。

 強い相手なら……もっと満たされるはずだ!

 

「んっふふ……まだまだ遊んでくれる?」

 

 私は立ち上がり、敵に向かって走り出した。

 左手を大きく振りかぶり、妖魔の胸部目掛けて全力で叩きつける。

 

 ゴンッ!

 

 しかし硬い甲殻に阻まれて中の肉までは届かない。

 でも関係ない、私は狂ったように何度も拳を突き立てる。

 途中、蟹の鋏に挟まれ背骨ごと切断されそうになったが強引に引きちぎって吸収した。

 蟹型妖魔に叩かれ切り裂かれ弾き飛ばされ、血まみれになりながらも、甲殻を砕き、蟹肉を引きだし、臓腑を抉る。

 傷ついた端から私の肉体が再生する。

 逆に蟹型妖魔はどんどん体積を減らしていく。

 消耗した体は蟹型妖魔の肉を吸収することで回復……どうやら永久機関が完成しちまったなぁぁぁ!

 破壊の衝動に酔いしれながら、ほぼすべての脚を失い、びくびくと痙攣する蟹型妖魔の体内に掌を沈めていく。

 蒸気じみた温度の血液が皮膚から浸透するにつれ、飢餓感が徐々に満たされていく。

 

「これよ……これが食べたかった」

 

 私は右手を頬に添えながら恍惚とした表情で呟く。

 やがて一方的となった蹂躙は終わりをむかえ、残骸となった妖魔の死体だけが残された。

 心臓の鼓動は激しく、呼吸は荒い。

 

 なのに、あれほど激しく戦ったあとだというのに、心の奥底では物足りなさがくすぶっていた。

 

 その事実に血と埃にまみれながら、私は立ち尽くす。

 蟹型妖魔の残骸から滴る液体が靴先を濡らしている。

 体内で妖魔の肉片が大量に溶けていく感覚はあるのに、依然として飢えが消えないのだ。

 うそでしょとつぶやいた。

 もっと、もっと栄養のあるものが欲しい……!

 

「あ、あなた大丈夫なの?」

 

 遠慮がちな声に振り返ると、綾瀬が心配そうに駆け寄ってきていた。

 その姿に不思議とざわざわとしていた気持ちが落ち着いていく。

 彼女を見つめていると心が満たされてくる気がした。

 

「心配ありがとう」

 

 綾瀬が差し伸べてくれた手を無視して正面から抱きしめる。

 

「きゃっ」

 

 と短い悲鳴が耳元で響くが、気にせず体重を預ける。

 

「お願い綾瀬……私のそばにいて」

 

 唇を求めると綾瀬は目を見開いた。

 困惑したように身を強張らせる彼女に構わず、私は強引に唇を押し付けた。

 舌で歯列を割り、甘い口腔内を犯す。

 わずかな抵抗はあったがすぐに諦めたのか受け入れてくれた。

 彼女の体温と香水のような匂いが合わさって最高だ。

 

「んっ……はぁっ……」

 

 離れたくない気持ちでいっぱいになる。

 もっともっと繋がっていたい。

 しかし不意に意識が遠のく感覚に襲われた。

 血を流しすぎたせいか、それとも妖魔の瘴気を浴びたせいか分からない。

 私は意識を失った。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 次に目を開けたとき、見慣れぬ天……部屋であった。

 蛍光灯の白い光が目に眩しい。

 ベッドに寝かされているらしい。

 視線を動かすと整った家具の配置やシンプルな壁紙、そして窓から広がるのは高い場所から見える風景。

 ここがどこぞの一室だと分かる。

 窓際のデスクには教科書らしきものが積まれている。

 枕元には消毒液の匂い……手当てしてくれた形跡があった。

 服は……大き目なTシャツを着せられている。

 

「病院……ではないかな」

 

 かすれた声で呟くと扉が開き誰かが入ってきた。

 巫女服ではなく私服姿の綾瀬だった。

 シンプルなブラウスとデニム地のズボンで普段着っぽい。

 

「起きた?よかった……」

 

 ほっとしたように微笑む綾瀬を見て心が満たされる。

 

「ここは?」

 

「マンション……私の家よ」

 

 なるほど、ほかに人の気配らしきものはなく一人暮らしなのかもしれない?

 『退魔巫女絶頂白書』の作中には登場しないが彼女にも当たり前にプライベートはあるわけで納得だ。

 

「緊急措置として治療させてもらったわ……と言っても傷はみるみる消えていったから必要なかったかもだけど」

 

 そう、何でもないように微笑みながら言う綾瀬。

 いい女だなと思った。

 普通に考えて自然治癒を超えるレベルでの肉体再生なんて人外過ぎて不気味だろうに。

 

「助けてくれてありがとう。迷惑かけたわね」

 

 申し訳なさそうに言えば綾瀬は首を振った。

 

「そんなことない。むしろ助けられたのはこっちのほう……私はあの妖魔に対して何もできなかった」

 

 彼女の目じりにはうっすらと涙の跡があった。

 妖魔と戦う退魔巫女として情けなくなったのか。

 でも手助けのつもりで下手に手を出されるほうが邪魔になっていた。

 むしろ自分の実力をわきまえ、じっと我慢して戦いを見守っていた綾瀬は立派だと思う。

 

「泣かないで」

 

 ベッドから起き上がって手を伸ばし目元に触れる。

 そのまま指を動かして涙のあとを拭う。

 びくりと震えながらも拒絶せず受け入れてくれる綾瀬が愛おしい。

 

「綾瀬は私の宝物。傷一つでもついたら困るわ」

 

 真剣な眼差しで伝えると彼女は俯いた。

 耳まで赤くしているところをみると嫌ではないらしい。

 

「で、でも……私はあなたの名前すら知らないし……」

 

「名前?」

 

 言われて考え込む。

 前世の名前は……あれれ覚えてないや(コナンくん)

 かつての職業、趣味、好きな食べ物、関わっていた人たちの顔や名前などの諸々は憶えているのに自分の名前だけは度忘れしたかのようにでてこない。

 というか妖魔との遭遇バトルと、野良猫と寝床を争うサバイバル生活で気にする余裕がなかったが、この世界の私はどこの誰さんなんだろう?

 

「名乗るほどの者じゃないわ。ただの通りすがりの女子高生よ」

 

「あなたみたいな女子高生がどこにいますか」

 

 綾瀬はため息交じりにつぶやく。

 私は曖昧な答えしかできないので舌を出して笑ってみせた。

 

「ブレイカー……そう呼んでって言ってたわよね」

 

 そういえば昨日そんなことも言ったなと思い出して頷く。

 ステータスにはちゃんと反映されているし間違いない。

 

「じゃあブレイカーさん、夜も遅いから今夜はここに泊まりなさい」

 

 綾瀬は少し困った風に微笑んでそう言った。

 そんな提案されて即答する。

 

「遠慮なく!」

 

 綾瀬と一緒にいると安心するしご飯も期待できそうだ。

 さあ風切綾瀬くん! キミのお嫁さん力とやらを私に見せてもらおうか!!

 

「ところでブレイカーさんに質問なんだけど?」

 

「なにかしら?」

 

「なんであなたは私の名前を知っているの?」

 

「…………」

 

 私は腕を組んだ。

 そして、どう誤魔化したものかとうんうんと悩み、頭をぼりぼりかきながら長考した末に手の平を打ち、キョトンとした表情の綾瀬を強引に抱き寄せて長い口づけをすることで有耶無耶にした。




いましめ:射快人は衝動で行動してはいけない!ウっと放出するのは疲れるからね!!
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