ザコ妖魔ごときに私の処女が雑にコキ捨てられるなんて!?という退魔巫女たちがヒロインのエロゲーにTS転生してしまった元男の私が発情して妖魔を食う話   作:エルフスキー三世

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興が乗ったので書いてしまいました

一部抜けていた文章の追加(少改稿)


異性を射止めるには胃袋からは同性にも効く

 昨夜は色々あった……ありすぎた。

 風切綾瀬(かぜきりあやせ)のマンションで目覚めた私は、彼女の提案に甘えて一晩だけ泊まることになった。

 だけど「ところでブレイカーさんはどこに住んでいるの?」という質問に「その日その日で寝れそうなところ」と答えたらおっとりとした表情だった綾瀬が一瞬で真顔になり、何故かそのまま居候させてもらうことになったのだ。

 そういえば、猫の掛け布団は結構暖かいのよと笑って伝えたら引きつった顔をしていたっけ。

 なんでかな、解せないわね……

 まあ、正直なところ行く当ても金も無いので、綾瀬のそういうお人好しな善意は非常にありがたい。

 綾瀬のマンションは中層階のファミリー向け3LDKらしいのだが、一人暮らしには十分すぎる間取りである。

 彼女曰く祖母から譲り受けたもので、その祖母も現在はすでに他界しているから遠慮なく居てくれていい言ってくれた。

 

「晩御飯は私が作りますね!」

 

 綾瀬はそう嬉しそうに宣言して、鼻歌を歌いながら猫さん柄のエプロンを装着した。

 台所に立つ姿はこうなんというか「お母さん……」って口走りそうになるほど母性的で似合っていた……のだが。

 

 結論から述べると綾瀬のお嫁さん力は料理に関していえばゼロを振りきってマイナスであった。

 

 ダークマター製造装置?

 あるいは破壊兵器工場?

 お出しされた料理はチャーハン。

 料理を少しでもしたことある人ならば、料理と呼ぶほどのものではないと口をそろえて言う簡単調理の代表みたいな食べ物だ。

 見た目こそまともであった……が、味が壊滅的で一口食べる度に頭蓋骨が揺さぶられる苦しみに襲われた。

 というか酸っぱいやしょっぱいは味付けの範疇だからまだ理解できるが、砂じみた食感のチャーハンってどうやったら作れるの?

 彼女自身も食べたとたんにえずいてトイレに駆け込んでいる辺り、まあなんか色々と仕方ない。

 残った料理は全部私が処分……じゃなくて食べた(吸収)した。

 この体になって以来、常に微弱な飢えに襲われていた私がこれ以上なにも食べたくないと心底思ったのは逆にすごいことだ。

 

「ごめんね、料理は家庭科の授業でしかやったことがなくてぇ……」

 

「ええ、明日からは()()()()()()()()()を私が作るわ」

 

「はい、まことに申し訳ありません……」

 

 

 私の皮肉まじりの発言に綾瀬は眼をしょぼしょぼさせながらうなだれた。

 

 

 ◇

 

 

 

 翌日。

 トースト、ハムエッグ、コーヒーとベーシックな朝食をお出しして、綾瀬が大学に出かけるのを見送った私は食材の買い出しに出ることにした。

 コンビニが目の前にあり、スーパーまで徒歩数分という好立地な場所にマンションがあるので非常にありがたい。

 綾瀬の家の冷蔵庫を拝借する……といっても飲料水と何個かの調味料しか入ってなかったので使っても問題ないだろう。

 今朝の食事程度で、「やっほい!」と、びっくりするくらいの喜びを見せていた彼女は普段何を食べて生きているのか謎だったけど(冷凍物やインスタントのストックが大量にあるあたりで察しはついた)これで少しは改善されるはず。

 

 食材を吟味して、買い物袋が両手いっぱいになるまで買い物していたらいい時間になっていた。

 マンションまでの道のりを歩いていると……突如周囲の喧騒が変わった。

 人々が騒ぎ始めているのだ。

 何事かと見回すと前方から足早に逃げてくる人たちが見えた。

 同時に脳内にシステムメッセージが出現する。

 

『近隣にて妖魔出現 lv.2(多数)』

 

(……!)

 

 買い物袋をぎゅっと握りしめ、私は即座に足を速めて現場へと向かった。

 

 角を曲がると、そこには非日常的な光景が広がっていた。

 

 商店街のメインストリートを封鎖するかのように展開する警察の黄色いロープとバリケード。

 その向こうには、まるで悪夢から抜け出してきたような異形の影が蠢いていた。

 武器を持った緑色の肌を持つ小鬼タイプの妖魔たちがゲラゲラと笑い声を上げながら店舗を破壊している。

 20……いや、30体はいる!?

 周囲のシャッターやショーケースが壊され、ガラス片が鋭い刃となって路面に散乱していた。

 

「退避!!一般人はただちに安全圏へ!!」

 

 スピーカーを通して叫ぶ警察官のがなり声と、妖魔の耳障りな咆哮が入り混じる。

 遠目に見ていると、一糸乱れぬ隊列を組んでいる退魔巫女たちの姿があった。

 

 鮮やかな紅白の装束をまとった退魔巫女たち。

 その数およそ十数人ほど。

 最前列で巨大な薙刀を振るうのは、年の頃二十代後半くらいと思われる妙齢の退魔巫女。

 彼女の薙刀捌きはまさに芸術的だった。

 風を切り裂くような鋭い一閃で妖魔の首を刎ねるたびに、血霧が宙に舞い上がる。

 その後ろでは十代半ほど思われる若い退魔巫女が薙刀の退魔巫女をサポートすべく、刀を低く構えて妖魔と対峙していた。

 薙刀の退魔巫女ほどは相手の間合いに入らず、妖魔の手や足を刀で斬り裂いて動きを鈍らせている。

 

 離れた位置には弓隊と銃隊が展開している。

 弓を携えた退魔巫女たちが祈るように弦を引き絞り、放たれた矢は銀の軌跡を描いて妖魔の体を貫く。

 銃隊──三八式歩兵銃に似た木製の銃身を持つ武器からは霊符が込められた弾丸が発射され、着弾と同時に青白い炎が妖魔の腹部を包み込んだ。

 そしてその中でも特に私の目を引いたのは……

 

 風切綾瀬の姿だった。

 

 彼女は他の退魔巫女とは一線を画す動きを見せていた。

 短刀を逆手に持ち、背中を丸めるようにして低く身を屈めている。

 まるで狩りをする獣のように素早いサイドステップを駆使し、敵の攻撃範囲の境界ギリギリを縫うように疾走する。

 その動きに一切の無駄がなく、敵の注意を巧みに引きながら他の退魔巫女への攻撃を逸らしている。

 

 一瞬の隙をついて呪符を取り出し、口元に当てて小さく祝詞を唱える。

 綾瀬の手から放たれた呪符が薄紫の光を帯びて浮遊し、接近しようとした妖魔の足元で爆ぜる。

 光が収まると、妖魔の四肢には見えない重圧がかかったかのように動きが極端に鈍くなっていた。

 

 あれは……『結界・縛』だ。

 

 『退魔巫女絶頂白書』ゲーム内での防御低下や移動低下などの妨害系の術。

 ゲームの仕様上、一部の妖魔以外では使う機会があまりないスキルである。

 しかし、現実と化したこの状況では有効のようで、その堅実な術によって他の退魔巫女たちが確実に一体、また一体と妖魔を仕留めていく。

 

「警戒!二時の方向!!」

 

 薙刀の退魔巫女が鋭い声をあげると同時に、妖魔の一体が退魔巫女たちの防御ラインを突破しようと横から猛然と突進してくる。

 綾瀬は即座に短刀を構え、妖魔に接近する。

 寸前で猫のようなしなやかさで跳躍。

 妖魔の眼球めがけて短刀が閃いた。

 貫通こそしなかったものの視界を奪われた妖魔は混乱し、バランスを崩す。

 その隙を逃さず、近くの退魔巫女たちの攻撃が正確に胴体を貫いた。

 

 戦闘は熾烈さを増す。

 妖魔が吠え猛り、退魔巫女たちが祈りの声をあげる。

 金属音と霊符の燃焼音、そして妖魔の悲鳴が商店街を支配している。

 地面に散らばる妖魔の肉片や、霊符の灰が舞い上がる様は一種の地獄絵図のようだった。

 それでも彼女たち退魔巫女は怯まない。

 互いの背中をカバーし合い、声を掛け合いながら着実に戦果を積み上げていく。

 彼女たちの額には汗が滲み、肩で息をする者も多いが、その眼光は鋭く獲物を捉え続ける。

 

 テレビ局のクルーたちも遠巻きにカメラを回していた。

 マイクを持ったリポーターが必死に実況している。

 

「ご覧ください!退魔巫女部隊が妖魔と激しい戦いを繰り広げています!危険ですので商店街付近にいる市民の皆さまは冷静に避難してください!」

 

 そのような中継が、社会に根付いた退魔巫女という存在が確かに機能している証左だった。

 

 やがて最後に残った巨漢の妖魔が弓隊からの連続射撃を受け、膝をつく。

 そこに薙刀の退魔巫女が静かに歩み寄り、その首を無音で薙いだ。

 血が吹き上がり、妖魔の巨体が轟音と共に崩れ落ちる。

 

 戦闘終了を告げるサイレンが鳴り響く。

 

 退魔巫女たちは臨戦態勢を解き、警察や消防隊が崩れた瓦礫や負傷者の確認、周囲の安全確保に取りかかる。

 地面に飛び散った妖魔の血痕や肉片も、専門の清掃班によって迅速に処理されていく。

 その作業は洗練されており、まるで定期的に発生する災害に対応するかのようだった。

 

 私は風切綾瀬を見た。

 

 彼女は短刀を鞘に収め、額の汗を手の甲で拭っている。

 浅い呼吸を繰り返し、肩が上下している。

 大きな外傷はなさそうだが、あれだけ周りをサポートし気を張って動いていたのだ。

 体力的、精神的な疲労は明らかだった。

 それでも彼女は次の指示を待ちながら直立不動で佇んでいる。

 その姿を美しいと思った。

 

 ああ、この光景はすごい。

 

 退魔巫女だけじゃない。

 みんな、みんなこんな状況でも絶望せず一生懸命自分にできることをして生きているんだって、うまく言えないけどそう思えた。

 

(……夕飯は何を作ろう)

 

 ふうっと息を吐き、頭の中でそんなことを考えた。

 とりあえずは、がんばった綾瀬のために美味しいものをたくさん作ってあげよう。

 そう、優しい気持ちで帰ろうとしたその時……

 

 キャアアアアアアアァァァァァァ!!

 

 突然、空気を切り裂くような奇声が響いた。

 声の源は()()()()()()()()()()()から現れた巨大な影だった。

 棘だらけの蜘蛛の体。

 鋭い毛に覆われた八本の脚。

 だがその頭部は――艶めかしい女の上半身。

 黒い長髪が風になびき、血の色の唇が歪んだ笑みを浮かべている。

 妖艶と狂気と暴力が煮詰まったようなその異形美の化け物。

 

「な、なんで……?」

 

 それを認識した瞬間、私は呻くようにつぶやいていた。

 あれは今までの妖魔とは完全に別種の怪物。

 本来、こんな序盤で出てきていい相手ではないのだ。

 何故なら『退魔巫女絶頂白書』のゲーム内において、主人公たちが戦う中ボスの一体として()()()()()()()()()()()()大型妖魔だからだ。

 

『警告:妖魔 Lv.6(    )の存在を感知』

 

 脳内のシステムメッセージが狂ったように警告を鳴らした。

 瞬時に無理だと悟った。

 私はもとより、この場にいる退魔巫女たち全員が束になっても勝ち目がないのは明らかだった。

 

 シュンッ!

 

 蜘蛛女の胴体から伸びる糸が音もなく鞭のようにしなり、先程まで勇敢に戦っていた薙刀使いの退魔巫女をあっけなく跳ね飛ばした。

 彼女はとっさに薙刀を盾にして身を守ったようだが……威力を全く防ぐことができず電柱にぶつかりそのままぴくりとも動かなくなった。

 

「ひ……っ」

 

 現場全体が凍りついた。

 一瞬の静寂の後、悲鳴と怒号が同時に爆発する。

 退魔巫女たちは反射的に武器を構え直すが、その手足は例外なく震えていた。

 レベルなど見えなくとも巫女としての力をもつ彼女たちにはわかるのだ、あの化け物の規格外の強さが……

 蜘蛛女の頭部にある女の口から粘液混じりの唾液が滴り落ちた。

 

「八ノ瀬さん!?」

「なんだこいつは!!」

「応援を呼び……いやダメだ!」

 

 混乱が渦を巻く。

 蜘蛛女は嘲笑するかのように嬌声を上げると、両手を広げた。   

 次の瞬間、その腹部から幾本もの銀色の糸が射出され、商店街の柱や壁に突き刺さった。

 糸はまるで生き物のように這いあがり、建物を引き裂くように蹂躙する。

 ガラスの割れる音、鉄骨の折れる軋み。

 悲鳴のような破壊音が連鎖する。

 

「逃げなさい……!!」

 

 私は叫んだ。

 蜘蛛女の視線が獲物を探すように泳ぎ……そして一点で止まった。

 その視線の先には負傷した仲間を庇うように立つ綾瀬がいた。

 

「逃げてぇぇぇぇ!!」

 

 私は絶叫した。

 蜘蛛女の上半身が傾き、蛇のように細長い舌が伸びる。

 毒を含んだ粘液が綾瀬の足元に落ち、蒸気を上げてコンクリートを溶かした。

 

「風切!」

 

「伏せて!」

 

 弓や銃を持つ退魔巫女たちが一斉に蜘蛛女に攻撃するもまったくの無傷。

 綾瀬への注意は反らせたものの、代わりに近くにいた退魔巫女の胴体に蜘蛛女の攻撃が命中する。

 砕ける鈍い音とともにその体が吹き飛び、受け止めようとした別の退魔巫女を巻き込んでお店のショーケースに激突した。

 苦悶のうめき声が次々とあがる。

 

 蜘蛛女は嘲笑いながらさらに衝撃波を放つ。

 圧縮された妖気が、商店街の中で無差別に爆散する。

 退魔巫女たちの軽鎧が砕け、血飛沫が噴きあがる。

 数人が耐えきれずにその場で倒れ伏した。

 現場にとどまっていた警察官や消防士たちが負傷者を担ぎ上げて必死に退却を始めている。

 

 蜘蛛女は獲物を弄ぶ獣のように一歩ずつ進み出した。

 その先には呆然と尻もちをつく少女が、刀を使っていた若い退魔巫女がいる。

 彼女は怯えて全身を震わせ、刀こそ放していないが体は硬直し、口は笑っているかのような半開きになって目の焦点はあっていない。

 恐怖のあまりに漏らしているようで座り込んだ場所に水溜りができていた。

 蜘蛛女の口元が喜悦に三日月のように歪んだ。

 

「澪、立って!」

「やめろぉ!」

「逃げてくれ!」

 

 退魔巫女、そして警察官や消防士からも悲鳴があがる。

 綾瀬も目を見開き負傷した薙刀使いの上に体を伏せたまま固まっていた。

 もう猶予はない。

 

「…………っ!!」

 

 私は悪態をつきながら飛び出していた。

 地面を蹴る感触さえももどかしい。

 体が風のように加速し、一直線に突き進む。

 蜘蛛女の右前脚が少女めがけて突き出される。

 刃物のように鋭利な爪が風を切る。少女は目を閉じることすらできず震えていた。

 私の両手がその凶刃を受け止めようと重なる。

 ガキィィン!

 甲高い衝撃音。

 しかし、まともには受け止められず、蜘蛛女の爪は私の掌に深々と喰い込んでいた。

 叫び声すら出せぬほどの激痛が走る。

 蜘蛛女の爪は私の掌を易々と貫き、そこから熱い液体が溢れ始めた。

 吸収はおろか押し返すことすらできない。

 蜘蛛女の爪がどんどん重量を増していく。

 私の膝が耐えきれず沈み込み始める。

 

「くっ……!」

 

 私の表情に苦痛の色が浮かんでいたのだろう。

 蜘蛛女の女体の顔が愉悦に歪んだ。

 その貌が私の眼前まで近づき、私の表情を観察するかのように首を傾げ、涎が垂れる口が大きく開かれて……

 

「ゲヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」

 

 商店街に響き渡るほどの耳障りな哄笑をあげる。

 まるで小ばかにするかのようなその仕草と笑いは、私たちを虫けらか玩具程度と認識している暴虐者のものだった。

 

「……」

 

 胸の奥底から沸々と湧きあがるものがあった。

 それは理不尽に対する怒り。

 人々を守るために、それこそ命を懸けて戦う退魔巫女たち。

 恐怖に震えながらも避難誘導や人命救助を、職務を全うしようとする警察官や消防士たち。

 彼らが必死に築き上げてきた日常をこうもあっさりと踏みにじれる傲慢さへの怒り。

 

 私は確かに感動していたんだ……

 

 『退魔巫女絶頂白書』という凌辱物の成人指定ゲーム……そんな地獄のような世界が現実になっても、ここで生きる人たちは地に足を着けて確かな希望をもって、力強く生きているんだと!

 

 でも、こいつが……目の前のこいつが全部台無しにした……!

 

 蜘蛛女の爪がさらに深く喰い込む。

 流れ出る血がセーラー服の袖口を濡らし、噛みしめた私の唇からも血が滲んだ。

 しかし視界は鮮明さを増していく。

 蜘蛛女の巨躯の隙間から見える人々の恐怖に慄く表情。

 その中には瓦礫の下敷きになっている老人がいる。

 それを必死に助けようとしている学生服の少年たちがいる。

 泣きじゃくる幼子の手を引く母親もいる。

 動かなくなった父親の傍で泣く子供がいる。

 

「ゲヒャヒャヒャヒャ!!」

 

 そんな地獄のような光景を目の前の嘲る、たった一体の妖魔が作りだしている現実が許せなかった。

 

「何がおかしい?」

 

 私の声は自分でも驚くほど低く唸るように響いた。

 蜘蛛女の動きがぴたりと止まる。

 

「聞いているのよ……なにがおかしいのかしら?」

 

 そう問いかけると「ぎゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」蜘蛛女が嘲るように大爆笑した。

 瞬間、頭が真っ白になった。

 

「おまえごとき化け物が……美しいものたちを笑うな!!」

 

 掌の傷口から迸る血液が光り始めた。

 最初は小さな蛍火の如き輝きだったが、瞬時にして燃え盛る紅蓮の炎のごとき鮮烈なエネルギーへと変貌する。

 傷口から溢れた血潮が意思を持つように脈打ち、形を変え始めた。

 一本の線。

 やがてそれは実体を得て、一振りの刀を形作った。

 漆黒の柄に真紅の刀身。

 血で創られたこの剣は私の魂を映し出す鏡のようだった。

 

「あああああっ!!」

 

 絶叫とともに刀を振りかざす。

 蜘蛛女の爪を砕き、鋼鉄の脚を斜めに切り裂く。

 刀身は意志を持つかのように延び縮みし、斬撃は止まることなく続く。

 八本の脚を全て切断したかと思えば次は妖魔の胴体を袈裟懸けに裂く。

 

 血の刀はどこまでも伸びていき最終的には妖魔の首と胴体を分断した。

 

 蜘蛛女の上半身が虚ろな目をこちらに向けて落下する。

 断末魔さえも発することは叶わなかった。

 巨大な下半身も糸が切れたように倒れ伏す。

 轟音とともに商店街の地面に崩れ落ちた。

 

 周囲は静寂に包まれた。

 

 人々の息遣いさえ聞こえないような沈黙。

 やがて退魔巫女たちが震える声で呟いた。

 

「今の……いったい……?」

「あれは……なに……?」

「刀……血で刀を……!?」

 

 困惑と畏怖が混ざり合った視線が私に集中する。

 黒髪赤目黒いセーラー服の異様な姿はこの惨状の中で異質な存在感を放っているだろう。

 誰もが呆然と私を見つめている。

 

「あら……」

 

 焦りが込みあげてきた。

 目立つのが得意な性格ではない。

 特にこのような形で注目されるのは想定してなく、不慣れなのだ。

 視線の重圧に耐え切れず思考が完全に停止する。

 

「あ……あの……!!」

 

 誰かが呼びかける声が聞こえたと同時に、放り出していた買い物袋を拾いあげ脱兎のごとく走り出した。

 すれ違う周囲の人々の息を呑む気配を感じながら全速力で商店街を駆け抜ける。

 途中で何度も躓きそうになりながらも必死に逃げ続けた。

 

 家まで辿り着くと荒い呼吸を抑えきれず膝から崩れ落ちた。

 窓から外を眺めても誰かが追ってくる気配はない。

 

「まったく!まったく!私らしくもない!!」

 

 ミステリアスなクールキャラを装っていたのに!

 拳をぺちんぺちんと床に叩きつけ、誰も見ていないところで一人反省会をすることになった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 綾瀬視点

 

 

「はあ……はあ……」

 

 肩で息をしながら地面に倒れている八ノ瀬先輩の傍らに膝をついた。

 応急処置用の霊符を取り出し傷口に貼り付ける。

 淡い青白い光が走り、出血が止まっていく。

 でも彼女の呼吸は浅くて早いままだ。

 

「しっかりしてください八ノ瀬先輩!今、応援が来ますから!」

 

 必死に呼びかけるけど先輩の瞼は重く閉ざされていた。

 他の退魔巫女たちも負傷者の応急処置に奔走している。

 商店街は半壊状態。

 壁の一部が崩落して道路を塞いでいる。

 

「いったい何が起こっているの……?」

 

「綾瀬さん!危ない!!」

 

 叫び声と同時に私の足元に粘つく液体が落ちる。

 蒸気を上げてコンクリートが泡立つ。

 見上げると……異形の化け物。

 蜘蛛の体に女の上半身。

 その妖艶さと狂気の混ざった笑みが脳裏に焼き付く。

 その巨体が私に向かって迫る。

 恐怖で体が硬直する。

 短刀を構えるべきなのに指先さえも震えて動かない。

 

「風切!」

 

「伏せて!」

 

 その言葉に、私は八ノ瀬先輩におおい被さるように伏せた。

 仲間たちの一斉攻撃……そして、蜘蛛女が周囲を破壊する衝撃波をはなった。

 

「あああっ……??」

 

 背後から女の子のか細い悲鳴。

 振り向くと刀を握った少女……退魔巫女になったばかりの新人の澪ちゃんが尻餅をつき震えている。

 股間には染みが広がっていて恐怖で粗相をしてしまったようだ。

 蜘蛛女の長い脚が今まさに澪ちゃんを串刺しにしようと突き出された。

 

(誰か……!誰か助けて……!!)

 

 無慈悲な一撃が澪ちゃんに迫る。

 私も駆け寄ろうとするけど立ちあがることすら出来ない—

 

「まったく不条理だわ」

 

 低い声と共に黒い影が現れた。

 それは、まるでヒーローのように颯爽と駆けつけた。

 

「ブレイカーさん?」

 

 黒いセーラー服。

 長い、腰まである艶やかな黒髪に紅を溶かしたような赤い瞳。

 今朝の穏やかな雰囲気とはまるで違う……圧倒的な威圧感と異様な気配を纏った彼女はまさに……

 

 最初に出会ったときの美しい「怪物」だった。

 

 ブレイカーさんが右手と左手を重ねて蜘蛛女の爪を受け止める。

 刹那、彼女の掌から血が吹き、溢れる。

 痛みに表情を歪ませるけど決して引かない。

 血が光を放ち始めた。

 

(嘘……あれは……刀?)

 

 紅の液体が刀の形を取り始める。

 それが実体を持って現れた時、私は自分の目を疑った。

 

「おまえごとき化け物が……美しいものたちを笑うな!!」

 

 ブレイカーさんの叫び声と共に血の刀が閃光となった。

 蜘蛛女の巨躯が文字通り粉砕される。

 あんなにも大きかった妖魔が八本脚も胴体もバラバラになり一瞬で消し去られた。

 

 静寂が訪れた。

 

 誰も何も言えなかった。

 だってあの怪物を倒したのは退魔巫女でも陰陽師でもなく……セーラー服を着た謎の少女だったから。

 

「……っ!!」

 

 ブレイカーさんは突然ハッとしたように周囲を見回すと逃げ出した。

 

(あ……待って……!)

 

 言葉も出ないまま彼女の後ろ姿を見送るしかなかった。

 

 

 

 

 

「あの子は一体何者だったんでしょう?」

 

「退魔庁から派遣された新しい退魔巫女……?」

 

「でも衣装が違いますよね?」

 

 仲間たちが困惑した様子で話している。

 私もブレイカーさんに聞きたいことは山ほどあるけど今は怪我人の搬送と商店街の後片付けが優先だ。

 結局夜遅くまで働いてやっと解放された。

 

 ◇

 

(疲れた……)

 

 泥のように重い体を引きずってマンションへ向かう。

 頭の中ではブレイカーさんの姿が何度も蘇る。

 血の刀。

 赤い瞳。

 そして逃げ出した姿。

 

 正体は不明……あの常軌を逸した力から普通の人間ではないと思うんだけど、そもそもなんで私なんかに執着するのかが分からない。

 まあ、彼女と出会ったあとに退魔庁に報告して知ったんだけど、実はずいぶん前から監視対象になっていたらしく、私のマンションに居てくれるのは……()()()()からしたら助かるらしい。

 善意だけで引き止めたわけではないけど、なんだか彼女を騙しているみたいで心苦しくなってくる。

 

 とりあえず早く帰りたい。

 ブレイカーさん……いるよね?

 そんな不安を思いながら玄関の扉を開けると……

 

「おかえりなさい」

 

 ブレイカーさんが立っていた。

 腰まである長い黒髪に真っ赤な瞳、そして恐ろしいくらいに整った顔立ちの美少女。

 というか、何度も言うようだけど、彼女は存在感というものがありすぎて思わず見とれてしまうような華があるのだ。

 黒い、古臭いデザインのセーラー服の上に白地のエプロン姿という地味な姿なのにはなぜか異様な可憐さがあって、同じ女でもグッとくるものがあった。

 ニコニコと(たぶん、何か企んでそうな顔だけどたぶん)しながら立っている彼女の後ろのテーブルには豪華な食事が並んでいる。

 私は思わず安堵のため息をついてしまった。

 

「あ、あの……体は大丈夫でしたか? その商店街……」

 

「ええ、問題ないわ」

 

 彼女はさらっと答える。

 

「それより食事とお風呂どちらがいい?」

 

「ええっと、食事で……」

 

「用意するから椅子に座って少しだけ待ってて」

 

 まるであの戦いなんて無かったみたいに。

 

(やっぱりこの人……本当は人間じゃないんだろうな)

 

 でも不思議と怖くない。

 むしろ彼女のことをもっと知りたくなっている自分がいた。

 

「ねぇ……ブレイカーさん」

 

「ええ?」

 

「もしよかったら……明日一緒に買い物に行かない? ほ、ほらブレイカーさんの使う生活用品とか必要でしょ?」

 

 言ってみてから気づく。

 これじゃまるでデートの誘いみたいじゃないか!?

 頬がじんわりと熱くなるのを感じる。

 彼女は大きく目を見開き、そしてフフッと笑うと頷いてくれた。

 

「いいわ、いきましょう」

 

 その微笑み(やはり何か企んでそうな顔だ)を見た瞬間、心臓がドキンと跳ねた。

 

(ああ……どうしよう……私…)

 

 お腹が痛いわけじゃないけど妙に落ち着かない気持ちになる。

 

(もしかしたら私……ブレイカーさんに)

 

 恋しちゃったのかも。

 そんなことを思いながら夕飯を平らげた。

 とても美味しく、そして懐かしい味がした。

 

 風呂上がりには、デザートでよく冷えた手作りシャーベットを出された。

 とてもとても美味しかった。

 

 ……真面目に、この娘、お嫁さんに来てくれないかしらと悩みこんでしまった。




エルフスキーの性癖開示

セーラー服にエプロン(男の娘も可)
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