「クソバカトリオ。とりあえずそこ並べや。準備中の札出してきたから」
店の制服らしいチャイナドレスを着たお団子ヘアの少女が顎で指示すると、大きくも怯えが滲む声で返事をした松竹梅はカウンターの前に横並びになった。
「松。舎弟みたいな挨拶やめろ言うたやんな?」
「スンマセンッ! 癖で!」
「竹。あたしんことちゃんとこの子らに説明したんか?」
「アッハイ! あかりが説明しました!」
「梅。なんて言うとった?」
「ハイ!! えっと……大物扱いするな、と……あ、さん付けで呼べって!」
「で、言うたお前らがアレかいな。なあ松」
「……スンマセンッ!!」
「…………」
切り揃えられた黒い前髪からぎらぎらと覗く少女の視線。三人はそれだけで殺されてしまいそうなほど恐縮していた。一連の様子をテーブル席から戸惑いを覚えつつ見守る二人。呪いで心が読める
この、どう見積もっても中学二年生程度の背格好の少女が、「商店街の裏の支配者」と噂される「桃園」だとは。
「……ハァ。この話はあとにしよか。お客さんの前やしな」
「う、っす!」
「あ、すいませんアタシたち客じゃな……くて……」
言いかけたカルテの喉がきゅっと締まる。流し目一つ寄越されただけで空気が一変するのを感じた。カルテの自室二つ分ほどという狭い店内すべてを、彼女の機嫌が支配している。「情報を聞き出しに来ただけで飲み食いするつもりはない」などとは口が裂けても言えない。
「お客さんやな?」
「は、はい……」
「何食べる?」
「えと……」
少女はにっこりと笑みを作ってかわいらしく脚を揃え手を後ろに回し前傾する。どこか計算高さを感じるそのあざとい動きがさらに緊張感を高め、カルテはメニュー表の料理を見てもどれが何やら理解できない。いや、焦眉のプレッシャーをさておいても料理名に使われている漢字が難しすぎてどのみちカルテには注文できなかった。
万事休すか、涙目になりながら顔を上げる。すると深衣は手を挙げ、少女に向けて質問するところだった。
「おすすめはどれなのです?」
「季節のは
「ではそれを全部お願いするのです。南瓜鶏丁香辣炒は二人でシェアするので、お皿をお願いします」
「はいよ。アンタもそれでいいの?」
「あ……はい」
「かしこまりました。注文一丁!!」
「「「ハイヨロコンデー!」」」
注文内容を復唱して中華ドレスの少女はバックヤードへ入る。返事をした松竹梅の三人は厨房に入ってなにやら準備を進める。カルテは大きなため息をついて脱力し机に臥せる。どくどくと激しく心臓が脈打つのを感じた。
「み、ミーコ、よくビビらず注文できたわね……」
「いえ、かなり緊張したのです。ただ、店主さんを困らせては申し訳ないので」
「ああ、なるほどね」
身体を起こすと対面の深衣は両手で側頭部をぐりぐりとマッサージしていた。店主の不機嫌やカルテたちの恐怖に共感していた彼女を、いい子の呪いが頭痛と共に命じて動かしたのだろうと理解する。
また、「呪われたミーコ」に助けられた。
ぼそぼそと小さく「ありがと」と呟いたカルテ。深衣は朗らかに笑って「いえいえ」と返す。一足先に運ばれてきた杜仲茶を啜り、赤いチャイナドレスから白いコックコートに着替えた少女が厨房で料理を作る様子を見守った。
◇
「ご……ごちそうさまでした」
「おそまつさま。どやった、美味かった?」
「…………」
「とても体に良い味だったと思うのです!」
「ミーコ……」
完食後、皿を下げに来た料理人に二人は挨拶を返す。
親友が「二人でシェア」と言って注文してくれたことにカルテは心から感謝していた。もしこれを一人で一皿平らげるという話であれば、箸が最後の一切れを取ることはなかったという強い確信。「体に良い味」とはよく言ったものだ、と二杯目の杜仲茶を啜りながらしみじみとする。店に入ったとき誰も客がいなかったことももはや納得の内であった。
「ありがとう。うちは薬膳やからね、そう言ってくれるんが一番嬉しいわ」
「やはりそうだったのですね。もしかして、お店の看板のシートが掛けられていた部分って?」
「そう。『薬膳中華タオシェンジン』って名前でやらせてもらっとる。でも時勢柄、『
少女は食器を洗い場に置くと、コックコートを脱ぎながら店内に戻ってくる。丁寧に畳んだそれをカウンターの上に置きシャツ姿になり、カウンター席の椅子を引っ張ってきて二人が着くテーブルの前に荒々しく座った。
「あたしは桃園
名乗る彼女の目には鋭い光が宿っている。それは一料理店の主が持つものでは到底ありえず、怨敵への怒りに燃える修羅の瞳だった。
「
圧倒されながらも。深衣とカルテは事情を説明した。