都市伝説少女   作:龍田乃々介

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第4話 陰の中の陽

「本っっっ当に、ごめんなさい!!」

 

 直角に近い美しい姿勢で、陰陽師少女は頭を下げた。

 その瞬間流れ込んでくる強烈な罪悪感と謝罪欲求は、15年の人生で深衣(みい)が一度も経験したことがないほどのもの。

 続く自己嫌悪は彼女の誠実な謝意をさらに裏付けていた。

 

「ウチは標戸の調伏師として、その怪異を祓う義務があった。やのに、()()()にして、みーちゃんや他の人たちに被害が出た。こんなことされても困るやろうけど、どうか、謝らせてほしい」

 

 あなたを守ることができなかった。ごめんなさい。

 

 切実な声色でそう言われる。彼女と同じ罪悪感に巻かれている深衣は自分こそ謝らせてほしいと拒もうとしたが、『いい子の呪い』はそれを許さない方へ働いた。

【謝った人は許さなくてはならない】

 

「こみ先輩。あたしはこの通り大丈夫なので、あなたを責めたりできません。許させてもらいますです」

「……ありがとう。他の被害者も、見つけ次第心からお詫びして、救済措置を講じると約束する」

「え……」

 一瞬当惑した深衣。すぐに彼女を許すことに戻る。

「はい。それなら、安心なのです。頑張ってください、こみ先輩」

「……っ、みーちゃんは、ホンマにええ子になっとんねんなあ……」

 

 顔を上げてはにかむ小路(こみち)。警戒していたさっきまでとは全く異なる、複雑でぎこちない笑顔。

 自分の未熟さがために呪われた少女。彼女を苦しめるその『いい子の呪い』に、しかし救われている自分がいる。その感情に、吐きそうなほどの自己嫌悪が湧き出してくる。

 

 ──なに許されとんねん、卑怯者。……っと、

 

「アカンな、『共感の呪い』で全部伝わるんやっけ。気ぃ悪ぅしてまうな」

「う、いいえ、あたしの方こそ無差別に読み取ってしまって申し訳ない限りで……」

「……ついででもう一個謝らせてもらうとな。 ウチ、みーちゃんはなんかよからぬ呪術に手を出したんやないかって疑っとったんよ」

 

 最初に女子トイレで会ったときには、やたらと「穢れ(負の想念)」を背負っているかわいそうな女の子だった。

 それがある日から突然、後光の差さんばかりの強い霊的気配を放ちながら登校してくるようになったのだ。何かあったのは間違いない。それも、怪異にかかわる事柄に手を出している。本人が平気そうにしているところから鑑みれば、自分の益になることに違いないはずだ。

 そう思い込んでいたからこそ、先に陰陽師という身分を告げ、「霊怪隠匿原則」と【桔梗様】の存在を明かして脅迫した。

 

 道を踏み外しているのなら必ず死に至らしめてやる。そんな心づもりだった。

 

「完全に……完っっっ全に勘違いでした! ほんまに、ごめん!!」

「いえいえ、こみ先輩の立場なら当然のことなのです。先輩はすべきことをしただけだと思いますです」

「うう……やさしい……うう……ごめんなあ」

 

 許される喜びと罪悪感と自己嫌悪でぐちゃぐちゃの小路が深衣の肩に頭を寄せてくる。

 

「おお、よしよし……歩きづらいのです」

 

 気づけば二人の足はすでに天へと続くと言われる裏門階段を登り切り、第二グラウンド外周を通って校舎前の坂を登るところだった。

 ここにはすでに部活動の朝練をしている生徒がいる。うっかり怪異の存在を知らせるような言い方をしないよう気を付けなくては、と深衣は自分を律した。

 

「そういえばこみ先輩、先ほど()()()と言っていませんでしたか?」

「んぅ? ああ、そうなんよ。実は、その件でちょっとみーちゃんに手伝ってもらいたいこともあって、ウチのこと話した面もあってな?」

 

 その頼みたいことゆうんが……、と言いかけた小路は口も目も開けた状態のまま表情を硬直させ、校舎の方を向く。

 

「高さが変や」

「へ?」

 

 深衣も校舎を見てみるが、その様相に普段との違いは見受けられない。

 

「いつも通りの四階建てでは……」

「この距離まで気づかんかった。ああッ、ごめんみーちゃん先行く!」

「え、こみ先輩!?」

 

 長々続いた坂と階段を上ったばかりだというのに、目にもとまらぬ速さで小路は校舎前の坂を走り去る。

 

 その背中からありありと伝わった針に刺されるような緊張、取り返しのつかないことが起こりそうな底冷えのする不安、一刻を争うという予感。

 深衣も俄かに駆け出して小路を追った。

 

 小路は第二グラウンドで朝練をしている生徒から見えないところまで坂を上ると道を無視して校舎裏に回った。かなり無茶をして目指したのはおそらく中庭。

 

 慣れない獣道を通った深衣はやや遅れて到着した。

 中庭の真ん中に立った小路は上を見上げて、誰かに何かを叫んだところだった。

 

 

 

「こぉおおおおおおおおおみぃいいいいいいいいいいちぃいいいいいいいいいいさぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!!!」

 

 喜色に満ちた絶叫。異常性を孕んだ呼び声。

 それが発された上方には、一人の女教師がいた。

 彼女は屋上のフェンスの外側に、中庭に向かって立っている。

 

 今にも飛び降りそうだった。

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