都市伝説少女   作:龍田乃々介

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第19話 七不思議怪異攻略、完

 テケテケ討伐から九十分後。

 小路(こみち)一行は順調に七不思議怪異を攻略していた。

 

 

 ◇

 

 

 特別棟二階 理科準備室 『動く人体模型』

 いつも通り開こうとしたこの教室の扉は電子錠がロックされていた。

 これは想定外だったらしい小路はやや迷った後に扉を破壊しようとしたのだが、「せめて適当な番号を試してからにしましょう!」と深衣(みい)が申し出て挑戦。三回目に[2005]を()()()()()()()開いた。

 

 中は一見普通の備品置き場。埃の被った棚やデスク、シートを掛けられた器具が安置されているのみ。

 ただ、見覚えのないホルマリン漬けの標本で棚が埋め尽くされていたことが不審だった。

 虫や動物、臓器や赤子の手のように見える不気味な肉片の標本たち。手に取って調べようと小路が近づく。

 

 すると死角だった棚の脇から、半年の調査期間で小路が「ない」と確認したはずの人体模型が現れた。

 

 掴みかかられた小路。「おっと」と軽い調子で躱し、流れで足を掛けて人体模型を転倒させた。模型はまるで生きているかのように生々しく水気を帯びた臓器を納めていて、飛び出してしまった自らの腸を手に巻いて回収しようとしていた。

 

 小路はこれを亜風伯で圧し潰し、楽器ケースのような鞄から御符の束を取り出してばら撒き模型の水気を吸い取らせると、一ツ火でそれに着火。

 

 人体模型が灰に変わると、背負っていた楽器ケースを床に置きおもむろに展開する。

 それは「折り畳み型の祭壇」だった。

 

 小路はケース内に収めていた銀銭と塩、酒、ドライフルーツなどの供物を入れた小瓶を祭壇部分に並べて幣を立てると、祭文を読み上げ理科準備室の祓を行った。

 彼女が朗誦するうちにホルマリン漬けは灰に変わっていき、儀式が終わるころには跡形もなく消え去っていた。

 

「その鞄の中身、祭壇だったのですね」

「陰陽師はみんな持ち歩いとるよ。これがないと祭祀術使えへんから」

「言っちゃなんですけど、折り畳みの祭壇なんかでも効果あるんですね……」

「あー。それはまあ……ノーコメントで」

 

 

 特別棟三階 女子トイレ 『トイレの花子さん』

 理科準備室を出て通路を西に歩くと、教室棟へ続く渡り廊下にシャッターが下ろされていた。その先の検証は後にして三階に上がったところ、通路にひしめく生徒の霊のうち数人が女子トイレへ入っていくのを見かけたため、その他の霊を祓いつつ後に続く。

 特別棟三階の女子トイレ。入ってみると、これまた小路の調査で存在しないと確認されていた三番目の個室があった。三人が踏み入ったときには既に霊たちは消えていた。

 カルテの説明を受け、小路をすぐ隣に従えた深衣が存在しないはずの個室を三回ノックしておまじないを口にする。

 

「は~なっこさん。あ~そび~ましょっ、なのです」

「なのですいらない!」

 

 カルテの突っ込みに食い入る速さで「がこん」と鍵が開く音がして、扉がゆっくりと開く。

 歯茎を剥き出しにして笑うおかっぱ頭の少女がそこにいた。

 トイレという狭い空間。彼我の距離は1メートルもない。襲い掛かられれば逃げるのは不可能。

 

 しかし。

 伸びてきた少女の手は不可視の空気の壁に阻まれて。

 小路が上から放り込んだ一ツ火が花子さんに着弾、炎上。跡形もなく焼き殺した。

 

「今更やけど、学校で火遊びはまずかったかな」

「火災報知器は許してくれたみたいですけど」

「あたしは何も見ていないのです……!」

 

 

 教室棟三階 音楽室 『ひとりでに鳴るピアノ』

 女子トイレを出たところでピアノの演奏が聞こえてきた。

 音を辿って東通路を渡る。教室棟三階の東端に位置する音楽室でそれは奏でられていた。

 こちらも部屋の電子錠がロックされていたが、深衣がナンバー入力を試みた途端「ピピッ」と電子音が鳴って解除された。

 小路はカルテのアドバイスを受けて亜風伯による真空のヘッドホンで耳を覆い、一ツ火を出した状態で音楽室に入る。

 中には誰もいなかった。そして例のごとく、昼間は無かった音楽界の偉人の肖像と、ピアノがあった。

 

 ピアノを調べる小路。周囲を回り、蓋を開けて中を覗き、手をついて下を調べてみると、裸足の足が見えた。体を起こすと、ピアノの傍でロングドレスを着た女が恨めしそうに小路を見ていた。

 

 憎らしそうに無数の皺を刻んだ形相で何事かを喚きながら、首を締めようと手を伸ばしてくる女。これに小路は容赦なく一ツ火を撃ち放つ。

 女は焼けて灰になり消えた。ここでも祭壇で祓をしてから、小路は部屋を後にした。

 

「ピアニストが演奏するための手で首絞めようなんてしたらアカンよなあ」

「下手に聞くと狂って自殺しちゃうってのが定番の演奏ですけどね」

「聴いてくれないときは普通に絞殺しに来るのですね……」

 

 

 教室棟二-三階 西階段踊り場 『死者の映る踊り場の鏡』

 音楽室を出た後、一行は各所がシャッターで閉じられている校内をしばし歩き回りながら霊を祓い、やがて教室棟を二階から三階へ上る階段にやってきた。

 そこには昼間には存在しなかった大きな姿見が張り付いており、先行して上っていた小路の姿を映した。

 深衣とカルテが上るのを制止して鏡の様子を伺う小路。

 

 すると鏡の中で、上下階から痩せこけた土気色の亡者たちが複数小路の元に迫ってきた。

 小路に掴みかかろうとする彼らは亜風伯の空気の体に阻まれて手を滑らせるばかり。

 しかし、やがて鏡の方へ向かうと、鏡面に手を突きつけ。

 

 ぬるりと境界を越えこちらに腕を出してきた。

 

「そぉ、りゃっ!」

 

 小路は鏡を祭壇ケース入りの鞄を回しぶつけて叩き割る。

 そしてすぐさまケースを開き祭壇を展開して、慣れた調子で祓を遂行した。

 厳かに祭文を読み上げる声はひび割れた鏡面を波打たせる。姿見はみるみるうちに細かな破片、そして塵へと変わっていき、儀式の終わりと共にこの世から姿を消した。

 

「あー。髪直してから消せばよかったかな」

「血まみれの自分が映るとか、死者が映るとか言われる鏡ですけど」

「祭壇セットが壊れていないか心配なのです……」

 

 

 教室棟四階-屋上入り口前 『13階段』

 一年生の教室が並ぶ教室棟四階にやってくると、そこには奇妙な姿をした生徒の霊がたむろしていた。

 頭から腕、手、指が鹿の角のように生えた生徒や、背中に皮膚の翼を持つ生徒、喉に第三の目をまばたきさせる生徒や、背骨に沿って浮き出た三本目の脚で宙を蹴る生徒。

 気味の悪い彼らを祓った小路は、その新手がさらに上の階から下りてくるのを見て、そこに怪異があると考え向かった。

 屋上前の階段。一見何の変哲もないそこを上って屋上へ上がろうとした。

 その小路の手を掴んでカルテが止める。

 

「先輩これ、『13階段』です! いつもより一段多い!」

「えぇっ? ……え、ほんまに?」

「言われてみれば多い……ような?」

 

 気づかずその階段を踏んでしまうと異界に連れ去られる、不吉な事が起こる、幽霊が現れるなどと噂されるその十三段目の階段。

 小路はその階段を上るのをやめ、踊り場に祭壇を広げて祓を執り行う。

 

 すると、小路が踏まんとしていたその一段はゆっくりと薄くなって消えていった。

 ……それ以上、何が起こるでもなかった。

 

「なんかこれだけ地味すぎひん?」

「踏んでからが怖い怪談だと思うので。下の気色悪い霊は踏んじゃった人たちかと」

「なにはともあれ、これで六つ目なのです!」

 

 

 ◇

 

 

 午前二時三十九分。

 七不思議の内六つの怪異を祓い終え、巡回のついでに校内に蔓延る生徒の霊を手当たり次第に掃除した小路一行。

 13階段を祓ってから三十分経ったが、以来怪異らしきものには一度も遭遇していない。

 

 七不思議の怪異、その七つ目が見つからなかった。

 特別棟四階の階段を下りながら三人は思案を重ねる。

 

「最後の一つは校舎じゃないのかもしれませんね」

「ていうと、校庭に二宮金次郎がおったり?」

「中学の頃プールで泳いでいる人が足を掴まれる話を聞いたことがあるのです!」

「あとは無人の体育館で跳ねるバスケットボールとか、鈴園(うち)には講義棟や食堂もあるからそこでローカルな怪談があるのかも」

「校内の霊もあらかた片したし、ほなそっち行ってみよっか。えーっと、なんかあちこちシャッター下りてたよな。どっから行こか」

 

 特別棟三階の廊下へ出て体育館の方を見ながら話す小路とカルテ。

 深衣はこの通路を西へ進んだときのこと、そして電子錠でロックされていた教室のことを思い出して、こんなことを言った。

 

「そういえばあっちのシャッター、来たときは締まっていましたが、さっき通ったときは開いてたのです」

「え? ……そういえばそうかも」

「あー。ここはもう七不思議の怪異が住まう『夜の学校』っていう異界、怪談の世界やから……やと思ってたけど」

「あたしが電子錠を開けようとしたら()()()()()()のもそうなのでしょうか?」

「えっ、ミーコがミラクル起こしてたんじゃなかったの?」

「最初はあたしもそうかと思ったのですが、音楽室の扉は番号を入れる前に開いていたのです」

「……一応、怪異は電子機器と相性がええから、あいつらの方から開けてくれよった可能性もある。……ただ」

 

 教師を調べている間に、設備のこぼれ話を聞いたことがあったのを小路は思い出していた。

 二年の学年主任いわくあの電子錠は……遠隔操作で扉のロックを操作できる。

 

 

 扉は()()()()()()()()()()()開けていたのかもしれない。

 

 

 ピンポンパンポーン。

 

 突然校内放送を知らせる合図が校舎に鳴り響いた。

 スピーカーからは荒い吐息のノイズが細々と聞こえる。

 震えるようなその息遣いが数秒の沈黙に躊躇ったのち、聞き覚えのある優し気な高音の声が三人を呼んだ。

 

 

『一年四組、冷杯(れいばい)深衣さん。一年四組、大宅(おおやけ)カルテさん。二年……五組、蘆屋小路さん。至急、特別棟一階廊下に来てください』

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