都市伝説少女   作:龍田乃々介

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第36話 ハッピーエンドの夢

「ごめんなさいっ! 途中で生徒に授業のことで質問されて、遅れちゃったっ!」

「お、来た来た。試してみましょうよ」

「せやな」

「大丈夫でしょうか……」

「……へっ、えっ!?」

 

 昼休みが始まって二十分ほどが経った頃。

 深衣(みい)、カルテ、小路(こみち)は遅参した加洲(かしま)を取り囲む。

 困惑する教師に、オカルトオタクの少女がスマートフォンで打ったメモの画面を見せてきた。

 

「先生、この文章を読み上げてください」

「えっ、な、なに?」

「おまじないの言葉なのです。困っているという気持ちを強くして読んでみてください」

「ど、どういうこと? なにかの罰ゲーム?」

「言うてもらった方がたぶんスムーズなんで、先生、お願いします」

 

 三人に乞われ、教師は渋々その文章を読み上げた。

 

「た、『助けてください、クロユリさん!』……で、いいの、かな?」

「うん 承ったよ 優しい先生」

「きゃあぁっ!!」

 

 直後、怯える教師の背後から現れたのは、長く艶やかな黒髪の少女。

 楽し気なステップで前に躍り出た彼女は黒いセーラー服を着ていて、明らかにこの学校の生徒ではない。

 それどころか、現実離れした美貌や声と所作から溢れ出る神秘性は、人間のようには見えなかった。

 

「えっと、あなたは……」

「初めまして わたしは都市伝説の…… こみちゃんの言うところの 伝承怪異 クロユリさん よろしくね」

「よ、よろしくお願いします……?」

「ほら、やっぱ知らんもんなんやって。これで四人中三人が知らんかったってことんなったで」

「えー! 先生なら時期的に知ってておかしくないと思ったんだけどなぁ……。先生って2015年は中高生でしたよね? クロユリさんの全盛期なのになぁ……」

「カルテちゃん。その界隈で有名だからといって、誰もがその人を知るわけではないのです」

「わかってますけどー!?」

「あの、わからないので説明してもらえますか……?」

 

 すっかり談笑モードの三人に加洲は説明を求めた。

 買って出たのは本人より詳しいまであるオカルトオタクの少女カルテ。

 クロユリさんが怪異を狩る都市伝説から生まれた怪異であること、つまり今回の禁七退治を手伝ってくれる味方であることを伝え。

 流れるように代表的なクロユリさん怪談の語りに導入しようとしたところを小路が止める。

 

「【開かずの教室】を掴んだ今なら、霊感なしでこいつを見る条件の『自分じゃどうにもできひん助けが必要な状況』を満たすんやないかと思って、試してもろたんです」

「クロユリさんとお話できた方が作戦会議もスムーズなのです」

「なるほどね。えっと、クロユリさん。改めまして、鈴山学園高校一年四組の担任教師をしております、加洲姫綱(きづな)です。よろしくお願いします」

「よろしく きづなちゃん 怪異退治は任せてね」

「あの、そのことなんだけど……みんな、怪異退治ってどういうことをするの? その、開かずの教室のことも、月曜の夜の時みたいにこう……なんかすごい霊能力で燃やしちゃうつもりなの……?」

「お、じゃあちゃんと話し合っていきますか。【S高の禁じられた七不思議】を、どうやって攻略していくか」

 

 

 ◇

 

 

 時刻は十七時。クロユリさんと加洲が学校に残り、深衣とカルテは再び小路のアパートへとやってきた。

 今夜は七不思議の怪異が待つ学校へと赴く。もちろん親からは外泊の許可を再度取り付けている。

 ちなみに加洲は今夜の作戦のために他の先生の担当だった夜当番を代わることにしたので、モニタールームで仮眠を取るのだそうだ。

 

 夕食を食べ終え、順番に入浴を済ませ、今度ばかりは真面目にやっていた中間テストの勉強も時間どおりに切り上げて、二十時には床に就く。零時半には起床して出発する予定だった。

 

「上手くいくといいですね。こみ先輩」

 

 灯りを落とした暗い部屋。こそりと深衣が呟いた。

 

「だらだらやることでもなし。今夜でスッパリ終わらせたいな」

「アタシはもう少し楽しみたかった気持ちもありますけどね。本物の七不思議の怪談」

「こらこら。人が消えてるんやで。不謹慎なこと言うたらアカン」

「でも、取り返せるんですよね。作戦通りなら」

「……作戦通りいけば……な」

 

 安らかな寝息が小さく聞こえてくる。

 元々小路はこの一週間、睡眠時間を削って毎夜学校に怪異退治に出ていた。疲れが蓄積していたのだろう。

 アタシももう寝よ、と目を閉じたカルテ。その隣の布団から、深衣がこんなことを訊く。

 

「カルテちゃん。カルテちゃんなら、どうしますか?」

「なに?」

「小灯芽さん……先生が償いたいその人は、きっと……」

「……わかんないわよ。アタシはアタシだし、ミーコはミーコ。小灯芽って人ときづなちゃんとは、違うんだから」

「…………ごめんなさい」

 

 ──謝られても、嬉しくない。

 

 聞こえてしまうだろうけど、声には出さず心にとどめた。

 こんな気持ちが伝わってしまうこと、共感の呪いが深衣にあることを、カルテは恨めしく思った。

 

 加害者として罪を贖い続けること。被害者としてその償いを受け止め続けること。

 それはどちらもひどく不健康。重たくて苦しくて、まったくもって、快くない。

 

 だから二人が同じくして思うのは、たった一つの祈り。

 

 

 どうか彼女たちが、あたし(アタシ)たちのようにはなりませんように。

 仲直りをして、幸せな友達に戻れますように。

 

 

 一つの光もない静かで真っ暗な一室。

 眠りに落ちる呪われた少女たち。

 

 

 ハッピーエンドは、誰の夢にも現れなかった。

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