都市伝説少女   作:龍田乃々介

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第18話 チンピラリターンズ

「大丈夫? ミーコ」

「カルテちゃん……。はい、大丈夫です。えっと、とりあえず歩きましょう」

「わかった」

 

 ヤク教狂シスターとその信者の活動により、商店街は荒んでいた。

 人通りは多いもののその内訳は様々。怪しげな恰好の者や挙動不審な者、座り込んだり寝転んだりしている者、彼らに声を掛けていく警官たち、その間隙を縫うように見物をする若者、噂話に沸く常連利用者、辟易した様子の商店街店員たち……と、混沌としていた。

 

 深衣《みい》は共感の呪いの矛先をカルテに集中させることで、脳にしばしの休息を与える。自分を心配する気持ちが痛烈に伝わってきて不安になってきたところで、【目的を果たさなければいけない】いい子の呪いが叱咤激励の頭痛を走らせ。

 頭を切り替えた深衣は通行人たちの感情へ意識を向ける。その中に商店街の裏の支配者「事情通の桃園」なる人物に繋がるものがないかを探っていった。

 

 

 全長1.2kmと言われる商店街を端から端まで歩いた二人。入ってきた商店街一丁目のアーチに比べるとかなり素朴な六丁目のアーチの前、身長の高いカルテに疲弊した深衣が背中を預ける形で休憩する。

 成果は芳しくない。道中深衣は数人の店員や客に声を掛けたが、桃園の情報は得られなかった。

 

「商店街の全員と顔見知り。相談事も引き受ける信頼された人間。っていうから、聞けば案外すぐわかるものかと思ってたけど……」

「それどころではない、という感じだったのです……」

 

 共感の呪いは相手の感情を写し取る際、心の声を算出する。桃園という人を知っているか、と声を掛ければ相手がその人を知っているかどうかは簡単に判断できる。

 だが、「桃園に会いたい。居場所はどこか」という質問となると話が変わってくる。なぜならそこから先は、相手に会話に応じる姿勢が必要になるからだ。端から話す気がない人は桃園のことを思い浮かべるまでもなく話を打ち切ってしまう。

 そして今この状況においては、全員がそんな態度を取るのも自然なことだった。

 

「警戒されてまともに取り合ってもらえませんでした。警察ごっこのイタズラだとか、ヤク教のスパイと疑う人まで……」

「こうも治安が荒れてなきゃ聞いてくれる人たちだったのかもしんないけど」

 

 通りを抜ける間、聞き込みをする深衣たちに逆に話しかけてくる者が三人いた。

 

 一人目は大学生らしき若い男性。親指と人差し指をクロスさせて「指ハート」を作りながら近づいてきて、「どう?」とだけ訊く。それが売人の符牒であることを深衣が呪いで見抜くのとほぼ同時に、尋常ではない目つきで睨みを利かせたカルテに気づいて男は逃げて行った。

 二人目はどこかの店の制服を着た若い女性。腕に提げたプラスチックのカゴからデパートコスメの試供品を取り出し、「サンプルどうぞー」と渡しに来た。肌色の包装は一見すると有名ブランドのファンデーション。だが女性の心の声の胡乱さから深衣はヤク教の人間だと気づき、影響を避けて足早に逃走した。

 そして最後に、鼠色の服を着た四十代程度と目される女性。ベンチに座っていた彼女は柔和な表情で「親御さんのおつかい? その歳でまだお手伝いしてくれるなんて偉い子やなあ」と声を掛けてきて、通り過ぎようとしていた二人を呼び止め、「ご褒美に飴ちゃんあげるわ」と金色の包装紙に包まれたものをバッグから取り出した。

 二人は初めて自分の目で「コイン」を、エミを薬物の道へ堕としたシスタードラッグを見ることとなった。女性はニタニタと笑っていたが、カルテが大声でキレかかると一瞬で無表情になり、一目散に狭い路地へ消えていった。

 

「噂で知ってはいたけど、こうして体験してみるとヤバいわね、ヤク教」

「トラップのように薬を仕掛けるだけでなく、営業もかけて興味のある人間は積極的に取り込む。なんと悪辣なのでしょう。商店街の人たちの苦労は尋常ではないご様子だったのです」

 

 やはり、一刻も早く解決しなくてはならない。腕を胸に寄せて意気込む深衣。カルテの胸から頭を離して「一丁目まで戻りましょう! 今度は警戒されないよう会話を続けてみるのです!」と歩き出す。

 カルテは前へ進む深衣の背中を、ほんの少し目を細めて見つめ。

 すぐに我に返って後を追おうとした。

 

 そのとき、二人の背後から話しかける声があった。

 

「そこのお前! ちょっと止まりぃ!」

「ひゃっ!?」

 

 びくりとした深衣と共に、カルテは猛獣のように険しい目つきで振り返る。

 口調の荒々しさから声の主はおよそ友好的ではないだろうと考えていたが、その予想は当たったのか、そこにいたのは見るからにガラの悪い三人組だった。

 

 一人はピンク色のショートヘア。一人は茶髪のボブヘア。もう一人は金髪のロング。それぞれがジャケットやカーディガンなどの上着の下に、メタリックピンク、タイガーブラウン、シャンパンゴールドを基調としたチャイナドレスを着ている。

 珍妙な服装はともかく、その顔に深衣は見覚えがあった。

 

「……なんか喋ってみい」

「は、はいなのです! 何か御用でしょうか!」

「……な(・)の(・)で(・)す(・)ぅ……?!」

「はいなのです!」

「お前ぇ、やっぱり……!」

 

「おい」

 

 カルテが深衣の前に立つ。噛みつきそうな具合に顔を寄せていた金髪女が姿勢を戻すと、逆プリン頭の猛獣とはちょうど同じ高さで目線がかち合った。

 

「なに? アタシのツレになんか用?」

「あ? なんやその目。喧嘩売っとんか」

「は? 売ってきてんのはそっちでしょ。警察呼ぶわよ」

「あ゛ぁ? 喧嘩ん前からサツ頼る気マンマンかいな、腰抜け」

「チンピラのやっすい喧嘩なんか買わないって言ってんのよ間抜け」

「なんやァ!?」

「あぁん!?」

「あああのカルテちゃんそこまでにしてくださいなのです!!」

「そおやであかりちゃんケンカ禁止! 店長に怒られてまだ三日も経ってへんのに!」

「今度は一週間メシ抜きって言われてたやん! さすがに食費イタなってくるって!」

 

 一触即発の空気を深衣が遮り、同調するように相手方の取り巻き二人がリーダーらしき女を引きはがした。

 距離を置き見つめ合う両者。舌打ちをして先に眼を逸らしたのは金髪のチンピラだった。尚も臨戦状態のカルテに、深衣はつま先立ちで耳元に口を近づけ囁く。

 

「あの三人、さきほどお話した三人組なのです……!」

「さっき? なんだっけ」

「あたしとクロユリさんが出会うきっかけの……あたしが聞き込みで怒らせてしまって、人目に付かない場所で金品を要求し弱みを握ろうとしてきた方たちなのです!」

「つまり警察を呼ぶのは半殺しにしたあとってことね」

「全然違うのです!?」

 

 あたふたと弁解しようとする深衣。金髪女はその姿をまじまじと凝視し、呟く。

 

「……やっぱりな」

「っ!」

 

 足早に距離を詰め、耳元に注意を奪われていたカルテの隣へ瞬時に迫り。

 息を呑んで拳を構えるカルテには目もくれず、傍らの少女に抱き着いた。

 

「……は?」

「あの、わ、えっと……!」

「ぐ……っ! う、ううっ」

 

 呻くような涙声。力強くも敵意なき抱擁。

 深衣にはわかっていた感情だが、続くその言葉にカルテは驚愕を禁じえなかった。

 

 

「よか……よかった、よかったぁ! お前、よう生き延びたなぁ~~~~~!!」

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