Re:ゼロから始める宿儺の器の異世界生活   作:カノンだよ

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第一章2『似た者同士』

異世界で初めての友好的な交流――そんな心温まるやり取りを経て、約一時間。

 

「――ちょっと、どういうことなの」

 

捜索は順調に、滞っていた。

 

少女の冷たい視線を浴びながら、虎杖は気まずさを誤魔化すように頭を掻く。

 

「まさかこの“西中の虎”の目をも欺くとは……とんだ難事件じゃまいか」

 

「すごーく自分の評価が高いみたいだけど、虎と捜索は関係ないと思うの」

 

痛い所を突きつつ鋭くなる少女の視線を背後に感じ、虎杖はさらに体を小さくした。

小一時間の捜索を経たにもかかわらず、何故か変わらず虎杖たちは路地裏の中。もちろん深い理由がある。発覚したいくつかの問題点が事態を難航させているのだ。

 

まず、土地勘がない。

 

これに関しては、異世界召喚されたばかりなので許してほしいとしか言えない。どうやら少女もこのあたりの地理には疎いらしく、揃って相手は詳しいに違いないと信じて十分ほど時間を無駄にしたのは笑い話だ。虎杖を見る少女の目は笑ってないけど。

 

加えて、改めて周囲を見るとそこかしこに手書きの象形文字のようなものが存在している。会話が通じて油断していたが、この世界において恐らく標準文字であろう数々の記号――これが全く読めないのだ。

 

当然、案内版なども読めず、虎杖は唯の無能と化す。

 

「……というか」

 

ふと、虎杖は背後の少女へと目を向け、口を開いた。

 

「なあ、それ。ちょくちょく一人で喋ってるけど……そこに誰かいんの?」

 

気になっていたのは、少女がさっきから時々見せる不可解な仕草。

――申し訳程度にこちらに隠すよう、両の掌で何かをそっと覆いながら、ぼそぼそと小声で話しかけているのだ。

 

疑問を口にした途端、少女は何故か、異様に手を振り、あたふたと慌て始める。

 

「えっ!? い、いないわよ! 全然ちっとも喋ってません!」

 

「そんな食い気味に否定されると余計に気になるんだよなぁ」

 

「ちょ、ちょっと待って! 見ないで!」

 

じりじりとにじり寄る虎杖に背を向け、掌を庇うようにしゃがみ込む少女。その肩越しに首を傾げながら、虎杖はそっと彼女の手元を覗き込んだ。――だが、

 

「……石?」

 

――少女が持っていたのは翡翠色の結晶。まごうことなき無機物だった。

 

想像の斜め上を行く光景に、加えて“石に話しかける少女”という新情報。

虎杖は数秒ほど顎に手を当て、真剣な面持ちで考え込んだあと――ゆっくりと口を開く。

 

「……あー、そういう。なんかごめん」

 

「なんで謝られたの!?」

 

「いいっていいって、俺もオカ研の先輩とこっくりさんやるの好きだったし」

 

「こっこりさんなんて知らない! これは石と喋ってたんじゃなくて、えっと、その!」

 

虎杖の推測に、少女は顔を真っ赤にして両手をぶんぶん振りながら否定する。

その必死さに照れ以上の何かを感じた虎杖は「悪いことしたな」と頭を掻き、どうにか話題を変えるべく思考し始めていた――が、

 

『――別に、この子には隠す必要ないんじゃないかな。さっきも出ようとしたし』

 

突如、二人の間に響く中性的な声。少女の掌にあった石が淡い光を放ったと思うと、虎杖の眼前に何かが飛び出してくる。

ぽふっ。そんな効果音が似合う柔らかな感触。思わず目を細めた虎杖が顔を上げると、そこにいたのは、

 

「……猫」

 

「猫じゃなくて精霊だよ、少年」

 

「猫さんが喋った!」

 

灰色の毛並みに垂れた耳、日本でいうアメリカンショートヘアのような小さな猫が、宙にぷかぷかと浮かびながら言葉を発していた。

亜人ともまた違う異質さを放つ存在に、虎杖はここにきて何度目かという衝撃を受ける。

 

「もう、パックのバカ! あとちょっとで誤魔化せたのに!」

 

「誤魔化せちゃった場合、彼の君に対する認識はあと百年、石と喋る子だったけどね」

 

二人の微笑ましいやりとりに虎杖もつい吹きだしそうになりながら、パックへと視線を向ける。

 

「えーっと、それで君は……」

 

視線があって少し言葉に詰まるパック。その態度の意を理解した虎杖は、最初にすべき項目を忘れていたことに気が付いた。

 

「……ああ、そういえばまだ名乗ってもなかったな。ここらで自己紹介、しとく?」

 

よく考えればここまで時間を無駄にしたのも、お互いのことを何も知らなかったから。いい機会だと思い、虎杖は二人の顔を正面から見据えて声高らかに宣言した。

 

「俺は虎杖悠仁です! 気が付いたら一文無しでここにいました、土地勘がないのはそのせいです、ごめんなさい!」

 

「自己紹介かと思ったら謝罪になってるし、それだけ聞くともう絶体絶命だよね。うん、そして僕はパック。よろしく!」

 

友好的に差し出した手にパックが体ごと飛び込んでダイナミック握手。

さっき見た時から触りたいとは思っていたが、やはり最高の毛並みをしている。俺とパックがわちゃわちゃしていると、少女は目を瞬かせた。

 

「精霊とこんなに気軽に接する人なんてホントに珍しい……」

 

「そうなの? 普通に可愛いなーくらいしか感想でてこねんだけど」

 

「僕って実は、結構すごい存在だからね。君を二秒で氷漬けにできるくらいには」

 

「精霊こわ」

 

もし本当にそんな芸当が可能なら、こんな無遠慮に触るのは恐れ多い。パックが自分で出てくるまで少女がその存在を秘匿した理由も、そういうところにあるのだろう。

胸に手を当てて得意げなパック。だがその毛並みを撫でると、すぐにゴロゴロと喉を鳴らす。やっぱり猫じゃないか。

 

「そういえば、猫さんの名前は聞いたけど、お姉さんの名前はなんていうの?」

 

流れるように少女の方へと目を向けそう尋ねると、何故かかすかに驚いたように目を見開かれた。それから少女は瞑目し、ほんの数秒の沈黙の後で、

 

「――サテラ」

 

「お?」

 

沈黙に発言の迂闊さを呪っていた虎杖は、その小さな呟きへの反応が遅れる。それを受け、少女は虎杖から顔を背けるように、

 

「家名はないの。サテラと、そう呼ぶといいわ」

 

無感情な声音。名乗っておきながら、そう呼ばれるのを拒絶するような態度だった。

サテラ――そう名乗った少女の、これまでに見せたことのない距離を感じさせる態度。

 

「サテラ、か……うん。すげーいい名前だと思う!」

 

「――え?」

 

飛び切りの笑顔と共に返ってきた称賛。それがサテラにとって予想外のものだったのか。彼女は酷く狼狽した様子で数秒固まる。

虎杖としては思った事を言っただけなのだが、当人はあんまり良く思って無さそうだ。暫くの間はお姉さん呼びで固定しておこう。

 

そんな二人のやり取りを眺めながら、虎杖の手を離れ銀髪に潜り込むパックがふと一言、

 

「――趣味が悪いよ」

 

とだけ呟いたのは、虎杖はおろか少女にすら届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

土地勘のない奴らが無策でうろうろしたって、一生盗品にはたどり着けない。

 

自己紹介というイベントを経てようやくその結論に至った二名は、聞き込み調査という形をとることにした。

記憶に焼き付いた盗人の少女――彼女の姿を頭から足先まで分析して、人相に心当たりはないか、もしくは盗人が集まる盗品街のような場所がないかを調べることにしたのだ。

 

喧騒を頼りに人気のない路地を抜け、二人が表通りに抜けたのは十分後のこと。きょろきょろと視線を彷徨わせ、まずは誰に声をかけるべきかと虎杖は逡巡する。と、虎杖の袖をふいに隣に立つサテラが引いた。

 

「ねえ、ユージ」

 

発音が難しいのかJOYと間違えられる某タレントっぽくなってるのはご愛敬。自然と下の名前を口にしてくれたサテラに対して少し嬉しさを覚えながら横を向く。

彼女は通りの向こうへと視線を送っており、虎杖もつられて視線を辿って、見ているものに気が付いた。

――嫌な予感がする。

 

そんな虎杖の予感を裏付けるように、サテラが真剣な顔で言った。

 

「――あの子、迷子になってる気がしない」

 

「……あー」

 

発覚したいくつかの問題点の一つが、ひょっこりと顔を出す。

 

ここに至るまでの道のりで分かっていた事ではあるが、虎杖の隣に立つ銀髪の少女は、それはもうどうしようもないほどのお人よしなのだ。

困っている人が横目に留まろうものなら、自身の状況を忘れて飛び出していく破天荒ぶり。

 

「お姉さん。そうやって道行く人全部助けていく気? さっきからこれで何度目よ」

 

「……そ、それは」

 

そして、加えて言えば――、

 

「それはユージが全部付き合ってくれるからでしょ! 助ける度にうれしそうな顔して、時間使ってるのはそっちも同じじゃない!」

 

「ぐっ、こっちは一端見逃そうと努力してるでしょーが! 受けちゃったらそりゃ見捨てるわけにいかないんだから、次から次に仕事持ってこないで!」

 

――虎杖も同じくらいお人よしなせいで、抑止力不在の状態で時間を浪費し続けていた。

 

虎杖悠仁。不良のカツアゲ現場を見捨てられず、一々首を突っ込んでいくような性分。

そんな彼と、レーダーの如く次々に困っている人を見つける鋭い嗅覚のサテラの組み合わせは、一刻を争う今の状況において最悪と言っていい。

 

通りに響く大声に、昼間っから痴話げんかでも繰り広げているのかと、通りを抜けていく人たちがこちらを一瞥。それに気づいた二人は、声を潜めて傍に寄ってから会話を再開する。

 

「俺は別にいいんだけどさ。今盗品探してるの覚えてる? 時間をかければ、それだけ見つかる可能性も下がるわけでして」

 

「……うん、そうよね。時間は大事。だから――あの子を助けたら、ちゃんと探しましょう!」

 

「分かってねえなこれ。パチンコでずっとラスイチって叫んでた爺ちゃんと同じ匂いがする」

 

人助け中毒――もしそんな言葉があるなら、サテラは確実に該当するだろう。

 

虎杖は呆れ半分に深く息を吐いた。

 

だが、いざ話が終わってみると、「これで本当に最後な」と口にした彼は、サテラよりも早く、迷子少女の元へと駆け寄っていく。

その背中を見送りながら、サテラはどこか釈然としない顔をしていた。彼女の髪から、ひょこりとパックが顔を覗かせる。

 

「……やっぱり、私だけ聞き分けが悪いみたいにされるのは違うと思うの」

 

「そうだね。僕もここまでリアについてこられる子を見るのは初めてだよ」

 

「パック、私は情報が聞けたらいいなと思ってやってるだけ。そこは勘違いしちゃダメよ」

 

「……昔はここまで強情じゃなかったのになあ、うちの娘」

 

パックは肩をすくめ、サテラは苦笑しながら前方へと視線を戻す。

 

機嫌をとらんとしているのか、彼は童女に向かって「おっぱっぴー」と言いながら奇妙なポーズを決めていた。彼の地元の風習なのだろうか。

どこか不可思議な光景にサテラがつい笑みをこぼしていたが、ふと――、

 

「……パック?」

 

「僕ってば薄ぼんやり人の心が読めるから分かるんだけどさ」

 

自分と同じ光景を見ているとは思えないほど、苦しそうな目をしていることに気が付いた。そして、

 

「……もしかしたらあの子の優しさは、リアとは違うものかもしれないね」

 

続けざまに放たれた言葉の意味が、サテラにはよく分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幸い、目立つ風体の二人のおかげか、迷子の女の子の保護者はすぐに見つかった。この場合、目立つのは虎杖ばかりではなく、銀髪に人並み外れた美貌のサテラも同様だ。

 

「本当にありがとうございました」

 

我が子と無事に合流した母親はひとしきり再開を喜んだあと、大したことはしていないと笑う虎杖たちに何度もそうお礼を言っていた。

別れ際、見えなくなるまでこちらに手を振っていた童女に手を振り返してやりながら、虎杖は隣に立つサテラを見る。親子を見送るその表情は、また時間をロスしたとは思えないほどに晴れ晴れしいものだった。

 

「うし、そんじゃ徽章探し再開しますか。早くしねえと暗くなっちまいそうだし」

 

「……うん。ユージも、私の無駄なわがままにずっと付き合ってくれてありがとう」

 

サテラは礼を言いながらも、どこか申し訳なさそうに眉を下げた。

早くしないと暗くなる――そんな言葉を聞いて、自分が遠まわしに責められていると勘違いさせてしまったのかもしれない。

 

「いいっていいって。さっきも言ったけど、お姉さんがそれでいいなら俺は気にしないし……それに、まるっきり無駄ってわけでもないかもよ?」

 

「……どういうこと?」

 

首を傾げるサテラに、虎杖はまっすぐな笑みを向けて言った。

 

「――だって、これで俺たちは気持ちよく、探し物の続きができるじゃん」

 

「…………え」

 

「あの子見捨てて徽章取り戻しても、お姉さんはきっと後悔してた。じゃああの子を助けて、徽章も取り戻す。――それが一番いい終わり方だと思う。生き様で後悔は、したくねえもんな」

 

サテラは一瞬、言葉を失った。

まるで、自分の胸の内をそのまま口にされたようだったからだ。彼の声には押しつけがましさがなく、ただ「そうありたい」と願う人間の、真っすぐな強さがあった。

 

「……それが、私を手伝ってくれる理由?」

 

「そこは真面目によく分かんないんだよね。あの時はほんと、咄嗟に手が伸びたっていうか」

 

「ふふっ、やっぱり変な人」

 

片手を口に当てて笑うサテラに、虎杖も付き合った甲斐あったとつられて笑う。

けれど、微笑ましい空気の裏で――肝心の問題は、何一つ進展していなかった。

 

理由は人助けばかりしてたから、だけではない。

盗賊少女の手がかりを探すついでに、この街の情報を集めてみた結果、分かったことがひとつ。

 

この町、思ってたよりずっと広い。

 

ルグニカ王国――それが、今二人が歩いている街の名前だ。

人口は三十万。中世の街並みにしては異様なほどの規模で、その中から一人の少女を闇雲に探し出すなど、もはや奇跡を期待するような話だ。聞き込みをしても、それらしい情報はまるで得られず、希望は霞のように遠のいていく。

 

「お姉さん、徽章を盗まれた場所とか覚えてない? そっちの方がもうちょいマシな情報ゲットできる気がする。スリを見てた人とかいるかもしれないし」

 

「……あ、見てた人……いた、かもしれない」

 

何か思い出したのか、サテラが口に手を当てて呟いた。

彼女の話によると、スリに遭ったのは白昼堂々の大通りの真ん中だったという。大胆不敵な犯行ではあるが、今の混雑ぶりを見れば納得もできる。

人が多いということは、それだけ紛れられる場所も多いということ。

 

「えっと……たぶん、こっちの方……だったと思う」

 

サテラの案内に従って通りを抜けていく。

多種多様な人々が行き交う大通りは、猥雑という言葉がぴったりで、雑踏の熱気と喧騒が、まるで空気ごと方向感覚を溶かしていくようだった。

知らないはずの場所なのに、どこか見覚えがあるような錯覚がまとわりついて離れず――。

 

「……あれ? ここ、ほんとに一回見たことあるくねぇ?」

 

サテラに案内された先を見て、虎杖は頬を掻きながら苦笑した。

 

そこはまさしく、彼がこの世界に来て最初に立っていた表通りの一角だった。日本のことを聞きまわっては門前払いを食らい、最後には途方に暮れて路地裏へ入り、不良に絡まれた。あの、因縁の場所。

 

「……なんだ、客かと思ったらまたお前かよ。一文無し」

 

「へ? ……って、あー!?」

 

二人の横から響く、客商売とは思えないほど冷え切った声。反射的にそちらへ顔を向けた虎杖は、目を見張って指を指し示す。

そこにあるのは、大通りに店を噛める一見の果物屋だ。商品棚に陳列された色とりどりの果物。そして、それらを取り扱う店主と言えば、

 

「俺を見捨てた果物屋のおじさん!!」

 

「ああ? お前がニホンとかヘルプミーとか意味不明なことばっか言うから追い払ったんだろが」

 

異世界で一人彷徨っていた虎杖の心に傷を負わせた、第一村人でもあるのだ。――だが、今度の虎杖は一味違う。

 

「まあ待ってよおじさん。さっきまでの俺とは一味違うかもしれねーじゃん」

 

「あぁん?」

 

勝ち誇って腕を組む虎杖に店主は困惑顔。その店主に見えるように横に一歩ズレると、虎杖は後ろに立っていたサテラを両手で示した。

 

「こっちにはこの美人お姉さんがいる! 俺は無一文でも、立派にお得意様候補を連れてきたと思えば――」

 

「……あの、ユージ。変に期待してるけど、私もお金持ってないわよ?」

 

「うぇ、マジ!?」

 

店主は二人を見て、深いため息をつく。

 

「で? 無一文が二人になっただけの状況で、何が言いたかったんだ、兄ちゃん?」

 

「…………キキタイコトガアルナーナンテ」

 

冷や汗を垂らす虎杖の横で、肩を小さくしたサテラも袖を引きながらの引き腰だ。

確かに品物を買わずに質問だけ、というのはいかにも身勝手なやり口だ。かといって、先立つものがない現実は変わらない。と、この場での情報収集を諦めかけた時だ。

 

「あら? お二人は……さっきの?」

 

ふいに横合いから声をかけられて、虎杖とサテラが振り返る。

視線の先に立っていたのは茶色の長い髪を揺らすご婦人で、それは二人にも見覚えのある人物だった。なにせ、その女性の手には小さな掌、二人を嬉しそうに見上げる童女が繋がれているのだから。

 

「さっきの奥さん! なんでこんなとこいんの?」

 

「ふふっ。主人のお店なので、ちょっと立ち寄ったんですよ」

 

「……シュジン?」

 

思わぬ返答に顔を見合わせる虎杖とサテラ。二人はゆっくりと店の方を振り返り、腕を組んでふんぞり返るスカーフェイスを確認する。

すると虎杖の横を母親の手から離れた童女が駆け抜け、店主に駆け寄って抱き上げられた。

 

――どうやら、ガチらしい。

 

「おー、よしよし元気だな……と、それよりもお前、この文無し二人と知り合いか?」

 

「あなた。文無しだなんて、そんな失礼なこと言わないでください」

 

棘のある店主の物言いに、婦人が眉を吊り上げて苦言を申し立てる。それから婦人は虎杖と童女との関係を説明する。これまでの経緯を聞いた店主は娘を下ろした。

 

「それはすまねえ。恩人にずいぶんな口を聞いちまった。許してくれ」

 

「いえ、そんな。私たちがお金持ってないのは本当のことですから……」

 

「娘の恩人だ、礼がしたい。ニホンていうのは分からんが、それ以外の事なら何でも聞いてくれ」

 

「――!!」

 

力強く頷いて、強面の店主が精一杯の友好的な笑顔でそう言ってくれた。

それを聞いたサテラは驚いた後、今度は虎杖を見る。そんな彼女に虎杖は、先ほどの真っすぐな笑顔とも違う、まるで勝ち誇るような笑みを浮かべ――、

 

「ほら! お姉さんの善意、ちゃんと廻り廻って、俺たちの助けになっただろ!」

 

「――うん、本当ね!」

 

そう、数奇な偶然を自分達の手柄のように自慢したのだった。

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