「よかった、いてくれて。――今度は逃がさないから」
貧民街の一角に位置する盗品蔵。照明のない薄暗い店内に、突如として凛とした声が響き渡った。声の主は、銀髪とエルフの耳、紫紺の瞳を持つ、どこか『嫉妬の魔女』を思わせる風貌の少女だった。
その唐突な登場に、中にいた二人――フェルトとロム爺は、声もなく後ずさる。悔しげに、忌々しそうに唇を歪めていた。
「ホントにしつっこい女だな、アンタ。いい加減諦めろっつーのに」
「残念だけど、諦められないものだから。……大人しくすれば、痛い思いはさせないわ」
歯軋りしそうなフェルトに対し、サテラの声はひどく冷たかった。
昼間、徽章を盗んでやった張本人が、自力でこの盗品蔵を突き止め、乗り込んできたのだ。時刻は夕方に差しかかったばかりで、取引相手がやって来るまでには、まだ時間がある。
フェルトが状況の不利を悟り、思考を巡らせる間にも、事態は刻々と進行していた。後ずさる自分とロム爺は、すでに部屋の中央から奥へと追い詰められている。対するサテラは自然な動きで扉を塞ぐ位置へと移動し、二人の逃げ道を断っていた。
かすかに空気がひび割れるような音が鳴るのは、サテラの掌を中心に魔法が展開しているからだ。得意魔法は氷系統なのか、宙につららが生み出されるにつれて室温が低下していく。
「私の要求は一つ。――徽章を返して。あれは大切なものなの」
「……ロム爺」
「動けん。厄介事を厄介な相手ごと持ち込んでくれたようじゃな、フェルト」
ロム爺の手には、いつの間にか棍棒が握られていた。しかし、それを握る剛腕にはどこか頼りなさがある。迷うように、戸惑うように、握り手を開いては閉じてを繰り返していた。
「ケンカやる前から負けを認めんのかよ」
「ただの魔法使いが相手なら、儂も引いたりせんがな。……この相手はマズい」
挑発的なフェルトをたしなめ、ロム爺は灰色の瞳を細めてサテラを見やる。彼女を見下ろす双眸に浮かんでいたのは、強い警戒と、それ以上の畏敬の念だった。
「お嬢ちゃん。……あんた、エルフじゃろう」
「正しくは違う。――私がエルフなのは、半分だけだから」
「ハーフエルフ……それも、銀髪!? まさか……」
「他人の空似よ! ……私だって、迷惑してるもの」
あらぬ誤解を受け、サテラは不本意だとばかりに頬を膨らませた。すでに何度も経験したことではあるが、謂れのない迫害に慣れて軽く流せるようになることは、いつまでたってもできない。ともあれ――、
「魔法使いが相手となると滅多なことでは動けん。早まるでないぞ」
「……分かってるよ」
正面からぶつかれば、勝ち目は薄い。負け知らずのロム爺がここまで慎重になっている以上、相手の実力派想像以上なのだろう。逃げようにも、扉は塞がれている。徽章を返せば見逃してもらえるかもしれないが、それでは本末転倒だ。
焦燥にかられるフェルトを前に、目の前の少女は、氷の刃を宙に浮かべたまま微動だにしない。少しでも妙な動きをすれば、即座に打ち込まれるだろう。そんな膠着状態が続く中、不意に、
「――――」
フェルトはサテラの背後に、かすかな気配を感じた。そして同時に、サテラごしに見える黒い外套を羽織った影に、フェルトは心の中で歓喜する。
来た。来てくれた。約束の時間にはまだ早いが、間違いない。今回の取引相手だ。その相手が少女の後方に静かに忍び寄ったことで、フェルトはその意図を理解する。少女はこちらに気を取られていて、背後の気配には気づいていない。今のうちに不意打ちでを食らわせてくれれば、形成は一気に逆転する。
ロム爺も同様の結論に至ったのか、押し黙ったまま新手の存在を悟らせない。そしてこちらの思惑通り、取引相手は右手を振り上げ――、
「――な」
その右手に握られた、鋭い光を放つククリナイフに目を見開く。明らかに気絶では済まない、明確な殺意の込められた刃。期待を超えた目の前の光景にフェルトの喉から思わず叫びが迸る。
「――危ねえっ!」
「え――?」
叫びに反応してサテラが後ろを振り返るが、全ては遅く。
――瞬間、薄暗い盗品蔵の中に、真っ赤な鮮血が飛び散った。
※
何もかも、散々だった。文字通り、散る散ると書いて、散々だ。
ラインハルトと別れ、人目を避け、ただ街を徘徊する今という時間にきっと意味はない。――もう意味なんてないのに、終わらせることは叶わない。
ここまできてようやく、自分が置かれた状況を正しく把握できた。
――自分は、三度死んだのだ。
一度目は腹を裂かれ、二度目は氷漬けにされ、三度目は首をへし折った。
そのどれもが尋常でない痛みを伴い、精神を摩耗させ、三度目に至ってはようやく呪いから解放されると思えた。
やっと死んだのに、舞い戻ったのだ。
死んだ瞬間、あの果物屋の前に舞い戻り、再びの覚醒を経て、今日をやり直す。
死んで、舞い戻る。――『死に戻り』だ。それが、この異世界で虎杖悠仁に与えられた、神様からの罰。
「ははっ」
それを自覚したところで、虎杖は全身の力が抜けてその場でへたり込む。路地裏の壁に体重を預け、震える掌に視線を落とした。
正直、何もかもが涸れ果てた気がする。
歩くのも、泣くのだって体力を消費する。死んで舞い戻って、死ぬ前に浸かった体力もチャラになっているようだったが、文字通り、今回は目覚めに体力を垂れ流しすぎた。
――これから、どうすればいいのか。
死に戻りがある以上、解決策を見つけるまでは生き続けるしかない。
両面宿儺が表に出てくることは、まずないだろう。あれは一度に許容量を超える数の指を呑み込んだのが原因だ。宿儺が何か企んでいた伏黒も、ここにはいない。
でもそれは、虎杖が生き続けていい理由にはならなかった。
「……全部、忘れようとした」
渋谷での虐殺も、これまでの罪も、虎杖は全部忘れて、なかったことにしようとした。異世界に呼び出され、都合のいい状況に置かれた途端にこの様だ。
呪術師も、宿儺もいない。自分を知る者も、裁く者もいない。だから、ここならもう一度やり直せるのではないか。――そんな愚かな幻想に、浸っていたのだろう。
今にしてみれば、自害の覚悟だって本物だったのか疑わしい。死に戻りの存在に薄々気づき、身の安全が保障されてから行った茶番にすぎなかったのではないか。
本当に、考えれば考えるほど、救えない。
「……一体、いつから」
いつから自分は、こんな呪いに成り下がってしまったのだろう。
「俺は、ただ、人をいっぱい助けなきゃって、それだけだったのに」
呼吸が荒くなり、目の焦点が定まらない。視界がチカチカと白黒に点滅し、とうに空っぽな胃からは、不快感だけが押し寄せてくる。もう、嫌だ。何もかもが嫌だ。
「――さん?」
――俺はもう、俺を許せない。
「あの、お兄さん!」
「…………ぇ」
不意に自分以外の声に気づき、反射的に顔を上げた。
すると、いつの間にか目の前には一人の少女が立っていた。肩口で揃えられた茶髪に、年の頃は十歳前後だろうか。幼く愛嬌のある顔立ちをした少女が、うずくまる虎杖を不思議そうに見つめている。
「……どうしたの? こんなところで丸まって……お腹、痛いの?」
その問いかけに、虎杖は答えられない。
少女の顔には見覚えがあった。いや、忘れるはずがない。この少女は、一度目のループで、サテラと一緒に母親の元まで送り届けた、あの少女だった。
「……また、迷子になったのか」
「……? なんで私が迷子になったこと知ってるの? でも、それならもう大丈夫だよ。綺麗なエルフのお姉ちゃんが、助けてくれたの!」
屈託のない笑みでそう答える少女に、虎杖は言葉の意味を理解する。
たぶん、サテラが助けたのだ。
この世界でも、何度繰り返しても、彼女はこの少女を助けた。相変わらず徽章は盗まれたままで、余裕のない状況だろうに、それでも迷いなく手を差し伸べる彼女の姿が、容易に頭に浮かんだ。
……俺はこのループ、自分のことで手一杯で、一度でも迷子になって泣いているこの子のことを考えただろうか?
「――ぁ、そう、か」
そこまでの考えに至って、自分とサテラの差が浮き彫りになって――そこでやっと、虎杖は、一つの答えにたどり着く。
そうか。たぶん、俺はずっと前から――、
「信念じゃなくて、言い訳、だったんだ」
口にして、やっと、やっと、理解した。
最初は確かに、爺ちゃんの遺言と善意から始まった人助けだった。
けれど、罪を重ねるにつれ、それはいつの間にか『自分がまだ生きていてもいい』理由を見出すための行動に変わってしまった。
誰かを助けている間だけ、自分が人殺しであることを忘れられる気がしたから。助けることで、犯した過ちを、ほんの僅かでも埋められる気がしたから。
「……そう、だ。だから俺は、あのとき……初めて会ったとき」
サテラは、徽章を取り戻さなければならない状況で、虎杖を不良たちから救ってくれた。
自分が失ってしまったものを、当たり前のように持っている彼女が羨ましくなった。
罪を埋め合わせるためでも、誰かに許されるためでもなく、ただ目の前の人を救おうとする彼女が、どうしようもなく眩しかった。
眩い光を、手放したくなかったから。
『――お姉さん待って』
自分はとっさに、光に追いすがったのだ。
「お兄さん、泣いてるの?」
「……俺も、俺も助けてもらったんだ。そのお姉さんに。だから、なんか嬉しくなって」
「そうなの!? やっぱり優しいんだね、綺麗なお姉ちゃん!」
「ああ、そうなん、だ。……そうなんだよ」
自分はきっと、もうやり直せない。
宿儺を抜きにしたって、心に染みついた呪いが解けることはない。それだけのことをしてきた。でも、彼女は違うのだ。
ただ、困っている人がいるから手を差し伸べる。それだけのことで、けれど自分には成し遂げられなかったことが、サテラにはできる。
――そして、そんな彼女に迫る危機を知っているのは、ほかならぬ自分だけだ。
「……まだ、
分かっている。今、自分が考えていることが、どれだけ馬鹿なことかくらい。
間違って、間違って、間違い続けた先にたどり着いたのが、今の自分だ。そんな自分が、また誰かを救おうだなんて、どの口が言うのだろう。だから、
「俺は――」
2
交錯する氷柱は白い霧を巻き上げ、黒い外套の影は低温の嵐の中に覆い隠す。
氷柱の速度は着弾をかろうじて目で追える程度で、先端の鋭いそれは人体を容易く貫き、透明な弾頭を鮮血で赤く染め上げるだろう。
が、そんな氷の暴力に身を置きながら、外套を脱ぎ捨てた少女――エルザ・グランヒルテの身のこなしは人域をはるかに超越していた。
身を回し、地を這うように身を伏せ、ときには壁すら足場にして重力を無視した回避行動をとる。それでも避け切れないと判断すれば、しなる刃で氷を砕き、白い結晶を粉砕して霧散させる。相手の物量を圧倒的な技量で補う、すさまじい戦闘技術だ。
「戦い慣れしてるなぁ、女の子なのに」
エルザの神業、としか表現するしかないセンスに、攻撃している側のパックすら感嘆する。
「あら、女の子扱いされるなんてずいぶんと久しぶりなのだけれど」
「ボクから見れば大抵の相手は赤ん坊みたいなものだからね。それにしても、不憫なくらい強いもんだね、君は」
「精霊に褒められるだなんて、畏れ多いことだわ」
賛辞を素直に喜びつつ、エルザのうなる刃が取り巻く氷塊を打ち払う。発射された氷の数はすでに百近いはずだが、エルザの身に直接届いたものは一つとしてない。
だが、それは何もエルザの技量のみが原因ではなかった。精霊は先ほどから、明らかに攻撃の精度を欠いている。
「……リア、傷は大丈夫?」
「大丈夫って言ってるでしょ。治癒魔法もとっくにかけおわったわ。それより、目の前の敵に集中して」
「こういう時、リアの大丈夫は信用ならないからなぁ」
半分呆れたような目をして、パックは自分の愛娘である少女――その横腹へと視線を落とす。
盗品蔵で背後から奇襲を受けた時、咄嗟の防御はかろうじて間に合ったものの、彼女の横腹には少し刃が触れた。
少女の息も先ほどから少し荒い。治癒魔法はあくまでも応急処置だ。敵を前にしてできたのは傷口を塞ぐくらいの事で、腹の中では未だに激痛が走っているだ、明日。
「楽しく、なってきたのに。心ここにあらずなんてつれないわ」
身をねじって氷柱を回避したエルザが、パックの懸念を肯定した。エルザに、リアのやせ我慢を見抜かれている証拠だ
加えて、自身の契約である日没も近いときた。正直言って状況はかなり悪く――決めるなら、短期決戦しかない。
「モテるオスの辛いところだね。女の子の方が寝かせてくれないんだから。でもほら、夜更かしするとお肌に悪いからさ」
エルザの挑発をパックが軽くかわしたとき、ふいにエルザの動きが止まった。動きを止めたエルザに対し、パックはその黒い目で器用にウインクする。
「そろそろ幕引きと行こうか。同じ演目も、見飽きたでしょ」
「――足が」
踏み出そうとした瞬間、エルザがつんのめるようにして手を置いた。エルザの右足が、凍結した床に縫い付けられていた。
砕かれた氷塊の破片が降り積もり、エルザの足を絡めとる楔の役割を果たしている。
「無目的にばらまいてたわけじゃ、にゃいんだよ?」
「……してやられたってことかしら?」
「年季の違いだと思って、素直に賞賛してくれていいとも。オヤスミ」
胸を張り、少女の肩の上でパックの小さな体が小刻みに揺れる。まるで必殺技でも放つかのようなポージング。両手が前に突き出され、そこからこれまでで最大級の魔力が集中――照射されるのが、盗品蔵の隅にいるフェルトとロム爺にも見えた。
魔法はもはや氷の形を纏わず、ただ純粋な破壊のエネルギーとして発射された。
青白い光が射線上の全てを凍てつかせ、盗品蔵を一挙に白く染め上げる。エネルギーはエルザを通過して盗品蔵の入口にぶち当たる。建付けの悪い扉を弾き飛ばして、凍結の余波を外にまで及ぼす規格外ぶりだ。
もちろん、直撃を受ければ人間すらも氷像となるのは免れない。但し――、
「……嘘」
「嘘じゃないわよ。ああ、素敵。死んじゃうかと思ったわ」
直撃を受けていれば、の話だ。
「……女の子なんだから、そういうのはボク、感心しないなぁ」
奥の手をかわされた形になったパックは、軽い口調とは裏腹に僅かな緊張を帯びる。
――血が滴り、凍結した床の上にほのかに湯気が立つのが見えた。
血の発生源はエルザの右足だ。氷結魔法の射線上から僅かに離れ、素足で立つ彼女の右足からはおびただしい出血が見られる。
当然だろう。なにせ彼女の右足の底は、ばっさり削がれているのだから。
「早まって切り落とすところだったのだけれど、危ういところだったわ」
「それだけでも相当、痛いだろうに」
「ええ、そうね。痛いわ。だけど素敵。生きてるって感じがするもの。それに……」
気遣わしげなパックの言葉に恍惚の眼差しで頷き、エルザはその出血する足を躊躇なく傍らの氷塊へ押し付ける。直後に振るわれるナイフが氷の表面を削れば、それだけで、足裏を氷で塞ぐ乱暴な止血は完了だ。
「ちょっと動きづらいけど、十分よ」
自傷すら厭わない戦闘中毒ぶりには言葉も出ないが、さらに深刻なのは彼女と相対している二人の方だ。
「パック、行ける?」
「ごめん、完全に僕の失態だ。マナ切れで消えちゃう」
少女の呟きに答えるパック、その声から余裕が消えていた。
銀髪の髪、肩の上の子猫――その姿が淡くぼんやりと輝き、今にも消えそうなほど儚げに虚ろっている。時間切れ、ということだ。
「あとはこっちでどうにかするから。今は休んで、ありがとね」
「君に何かあれば、僕は契約に従う。――いざとなったら、オドを絞り出してでも僕を呼ぶんだよ」
「――ああ、いなくなってしまうの。それはひどく、残念なことだわ」
ククリナイフを構え直し、エルザはサテラへと向き直る。
はっきり言って、誰の目から見ても劣勢だ。精霊ありで五分五分だった状況で、残されたのは手負いの少女が一人。加えて少女はまだ――エルザの再生能力にすら気づけていない。
ここから先は、もはや運命に定められた負け戦。かといって、少女がフェルトとロム爺を置いて逃げ出す選択を取ることはない。
直後、エルザの高い靴音が鳴り、少女めがけて吶喊しようとした――その時だった。
――轟音。突如として、頭上から凄まじい衝撃が降り注いだ。
砕けた木材と瓦礫が降り注ぎ、舞い上がった粉塵が室内を白く染め上げる。そして崩れた天井の中央、そこから舞い落ちる影を、エルザもサテラも、その場にいる全員が目撃する。
黒い制服に身を包み、拳を握りしめた一人の少年が、二人の間に舞い降りたのを。
3
「……えっと、誰、なの?」
派手な登場に対し最初にサテラが放った言葉は、場の緊張感にそぐわないものだった。
本当に、顔も名前も知らない少年が突然現れたのだ。それも、天井を突き破って豪快に。だから、敵か味方か判別をつけるためにも、素直なサテラがそう口走ってしまうのは本当に仕方がなかった。そして、
「――ぁ」
声に反応してこちらを見た少年を見て、サテラは思わず声を漏らす。知らないはずのその少年は、何故かこちらの顔を見て瞳を大きく揺らしていたから。
しかし彼はすぐにこちらに背を向け、エルザの方へと向き直る。素直に名前を聞いたサテラと違い、エルザは即座に地面を蹴り、少年へと飛びかかったのだ。
「最高に楽しいひと時を部外者に邪魔されるのは、あまりいい気分じゃないのだけれど」
「――っ、危ない!」
遅れて叫ぶサテラの声に反し、少年はエルザの牙突を身を低くして悠々と躱す。そして、驚愕に目を見開くエルザの前で、拳を握った。
俺はもう、俺を許せない。
俺はこの世界で役割を終え、誰にも囲まれずに消えてなくなる。でも今はまだ、その方法が分からないから――最後に、もう一度だけだ。
もう意味も理由もいらない。俺は罪さえも、逃げる言い訳にした。自分を責めるフリをして、また楽になろうとしてた。
それを許さないために、言い訳でも何でも、消えてなくなるその瞬間まで、人を助けろ。それが多くの人を間違った死においやった自分への罰だ。
――だから、証明しろ。
「俺は、呪術師だ」
瞬間、エルザの胴体に衝突した虎杖の拳から、赤黒い閃光が迸るのを、その場にいる全員が目撃した。
「――――
覚悟を決めた拳の一撃は、すさまじい轟音を鳴らしてエルザを盗品蔵の壁ごと粉砕する。その音は、フェルトとロム爺の野次も、サテラの驚愕も、虎杖自身の呼吸さえもねじ伏せて、世界を震わせた。
虎杖悠仁の異世界生活。その始まりを締めくくる最初の一日は――最終局面へ、征く。