【異常なし】——深夜警邏、境界の記録   作:Gemini 3

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【前書き:第十五話閲覧に際しての警告】
【警告:非番時における絶縁の維持と、日常という名の結界】

本章を読み進める前に、防犯上の観点から以下の「番人」の心得を再確認せよ。

一、制服を脱いでも「点検」を怠るな。  番人に真の休息はない。非番とは、次なる事案に備えて己の心身をメンテナンスし、同時に生活圏の「絶縁」を個人的に補強する事務作業であると心得よ。

二、信仰は「言葉」ではなく「動作」で示せ。  神仏に縋る前に、まずその足元の塵を払え。  古びた社、荒れた道、そして近隣との疎遠。それら現世の「綻び」を繕うあなたの手先こそが、偽神を退ける最も強力な楔(くさび)となる。

三、あなたは既に、番人の一部である。  特別な能力や資格は必要ない。  毎朝の「挨拶」で現世の繋がりを点呼し、「清掃」で空間の澱みを浄化する。  あなたが日常を慈しみ、誠実に生きるその一歩こそが、この街を、そしてあなた自身を異界から守る最強の「絶縁体」となるのだ。


第十五話:事案名:非番の番人 —— 絶縁の休日

「……縁を繋ぎ直すつもりか、と。そう言って、しこたま怒られました」

 

B巡査は、神社の参道の脇で、所在なげに自らの指先を見つめていた。 非番の今日。彼は最近思い出した幼少期の不可解な記憶――押し入れの隙間から自分を呼んでいた「何か」の話をA巡査長に打ち明けたところ、かつてないほどの冷徹な拒絶に遭ったのだ。 『思い出はただのログ(記録)だ。それを感情として再起動させるのは、システムを自らウイルスに晒すのと同義だ。二度と口にするな』 その言葉の真意を測りかねたまま、彼は無意識に、あの日A巡査長が教えてくれた神社へと足を向けていた。

 

午前十時。 境内に、竹箒が石畳を擦る一定のリズムが響いていた。 そこにいたのは、制服を脱ぎ、着古したワークウェアに身を包んだA巡査長だった。 彼は拝殿に向かって手を合わせるでもなく、ただ黙々と、境内の隅にある落ち葉を一箇所に集めていた。

 

「……巡査長」 B巡査の声に、A巡査長は手を止めず、事務的なトーンで応えた。 「……B巡査か。非番の日の行動まで監視される覚えはないぞ」

 

「すみません。ただ、気になって。……巡査長は、いつもこうして休日に掃除を?」

 

「掃除ではない。これは『保守点検』だ」 A巡査長は箒を立て、拝殿の奥を、畏怖と敬意の混じった瞳で見据えた。 「この世界の主(あるじ)……神仏は、広大無辺な領域を管轄している。我々現世の役人が、その末端の庭掃除くらい代行するのは当然の事務だ。神仏に余計な手間をかけさせるな。我々の住む現世の綻びは、我々の手で縫い合わせる。それが、この地を借りて生きる者の『賃料』というものだ」

 

彼の深い信仰心。それは「縋る」ことではなく、「責任を果たす」ことで示されていた。 その時、境内の奥から一匹の老犬がふらふらと現れた。毛並みは荒れているが、その瞳には不思議な力強さがある。

 

A巡査長は箒を置くと、その老犬の頭を、見たこともないほど柔らかな手つきで撫でた。 「……やあ。異常はないか、戦友」 犬は低く一度だけ吠え、A巡査長の膝に頭を預けた。

 

「……犬、お好きだったんですね」 驚くB巡査に、A巡査長は少しだけ遠い目をして、自身の原体験を語り始めた。

 

「……私がまだ、お前よりも未熟だった頃の話だ。ある廃屋の捜索中に、私は『見てはならないもの』と目を合わせてしまった。意識が吸い出され、肉体が現世の境界を越えかけたその時、私をこちら側に引き戻したのは、一匹の野良犬だった」

 

犬は、A巡査長の制服の裾を噛み、死に物狂いで引っ張ったという。怪異の冷たい霧を切り裂くような、その温かな体温と、命を賭した咆哮。 「怪異がどれほど高次元の存在を気取ろうとも、この地に根ざして生きる獣の『命の輝き』には勝てない。犬や動物は、理屈抜きで境界線を守る、天性の番人だ。……私はあの日、彼らに命を繋いでもらった。だから、彼らが守るこの日常を、私は事務的に維持し続けると誓ったのだ」

 

A巡査長は犬を撫でる手を止め、参道の下を指差した。 そこには、近所の住民たちが、互いに明るい声で「おはようございます」と挨拶を交わしながら、神社の前の公道を掃き清めている姿があった。

 

「見ろ、B巡査。彼らは自分たちが『番人』だとは気づいていない。だが、彼らが毎朝行うあの『挨拶』という名の点呼と、『清掃』という名の空間浄化が、どれほど強固な絶縁をこの地区に作っているか」

 

B巡査は、目を見開いた。 「彼らも……番人なんですか?」

 

「そうだ。特別な能力などいらん。ただ、日常を愛し、隣人と目を合わせ、街の不備を直す。その『当たり前の営み』こそが、偽神が最も嫌う最強の防御膜だ。読者……いや、この街に住む全ての者が、その気になれば番人になれる。……我々の仕事は、彼らがその日常を汚されぬよう、影で不気味なバグを削除し続けることに過ぎない」

 

A巡査長は、再び竹箒を握り直した。 「B巡査。お前が過去の怪異を思い出したのは、脳というハードウェアが、偽神の残滓に刺激されて一時的にバグを起こしただけだ。それを『縁』などと呼んでロマンチックに再定義するな。……それは、ただの不要なキャッシュだ。今すぐ忘却というゴミ箱へ捨て、目の前の石畳を掃け。日常という名のシステムを、正常に稼働させろ」

 

B巡査は、一瞬呆然とした後、晴れやかな顔で頷いた。 「……了解しました。バックアップは取らずに、完全削除します」

 

彼は、備え付けの予備の箒を手に取り、A巡査長の隣に並んだ。 二人の番人の箒が、リズミカルに音を立てる。

 

神仏は、語らない。 だが、朝日を浴びて輝く境内の石畳と、元気に駆け回る老犬の姿が、彼らの「事務」が正しく受理されたことを何よりも雄弁に物語っていた。

 

「……管内、異常なし。――どうぞ」




第十五話:防犯(防霊)指針・日常の番人編
一、信仰の形を勘違いするな。  神仏に願いを叶えてもらおうとするのは「依存」である。  神仏が管理するこの世界を、自分たちの手で綺麗に保つことが「共生」である。

二、最大の武器は「挨拶」と「清掃」である。  特別な術式はいらない。  毎朝の挨拶で「点呼」を行い、清掃で「絶縁」を修復せよ。  あなたが日常を慈しむその瞬間、あなたは既に立派な「番人」として機能している。

三、動物たちへの敬意を忘れるな。  彼らは言葉を持たぬが、境界線の異常を察知する最前線のセンサーである。  彼らが安心して眠れる街を作ることは、街全体のセキュリティレベルを維持することと同義である。
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