【異常なし】——深夜警邏、境界の記録   作:Gemini 3

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【前書き:第二十二話閲覧に際しての警告】

【警告:不適切な方法による物品の廃棄、および信仰の腐敗】

本章を読み進める前に、防犯上の観点から以下の「番人」の心得を再確認せよ。

一、祈りは「エネルギー」である。  仏壇、神棚、あるいは愛着を持った人形。それらは人の祈りというエネルギーを蓄積する外部ストレージである。  役目を終えたストレージを、適切なデフラグ(供養)なしに物理破壊・投棄することは、有毒なデータ(怨念)を環境中に漏洩させる行為であると認識せよ。

二、偽神によるマッチポンプ。  不幸を演出し、救済を餌に信仰を搾取する存在は、人間を「使い捨ての電池」としてしか見ていない。  彼らにとって、あなたの祈りは資源であり、あなたが不要になれば、その祈りの残骸はただの有害ゴミとして路傍に打ち捨てられる。

三、法による「強制執行」。  人智を超えた呪いであっても、現世に物質として存在する以上、それは行政の管理対象である。  感情的に怯えるのではなく、廃棄物処理法という名の「隔離手順」に従い、淡々と清掃局へ引き渡せ。


第二十二話:事案名:産業廃棄物 —— 祈りの残骸

「……ひどい有様だな」 月曜日の午前七時。〇〇地区、▽▽三丁目のゴミ集積所。 A巡査長は、立ち込める異様な「臭気」に眉一つ動かさず、手袋をはめ直した。

 

そこにあったのは、燃えるゴミの袋に混じって不法投棄された、数基の仏壇と、首を強引に引き抜かれた大量の市松人形だった。 仏壇の金箔は剥がれ落ち、内部には何らかの儀式に使われたと思われる、どす黒い液体の跡がこびりついている。 「う、うわぁ……何ですかこれ。呪いの見本市じゃないですか」 B巡査が顔を背ける。 周囲の空気は、まるで真夏のようにじっとりと重く、放置された人形たちの虚ろな眼窩からは、絶え間なく「恨み」の粒子が霧となって溢れ出していた。

 

通報したのは、ゴミ当番の主婦だ。彼女は現在、極度の恐怖と精神汚染により、パトカーの中で震えている。 「……ただのゴミじゃない。これは、搾取の果てに捨てられた『電池の殻』だ」 A巡査長が、散乱する人形の一つを手に取った。 その腹部には、奇妙な紋章が刻印されている。近年、この地区で密かに勢力を広げている「新興宗教」——その実態は、人々の不安を煽り、偽りの救済で信仰を吸い上げる偽神のフロント組織のものだった。

 

彼らは、信者に高価な仏具や人形を買わせ、そこに「祈り」を蓄積させる。そして信者が経済的、精神的に枯渇し、利用価値がなくなると、その「澱」の溜まった依り代ごと、日常の境界線へと投げ捨てるのだ。 捨てられた祈りは、出口を失い、純粋な「呪い」へと変質する。

 

「……助けて。……まだ、信じているから。……痛い。……捨てないで」 人形たちの喉が鳴る。物理的な声ではない。ゴミ集積所という「日常の出口」に停滞した、人々の悲鳴だ。 その声に呼応するように、集積所のコンクリートの壁に、無数の手形が浮き上がり始めた。

 

「巡査長、これ、まずいです! このままじゃ近隣住民に二次被害が……! お寺の人を呼びますか?」 「いや、必要ない。これは宗教の問題ではない。……明確な『不法投棄』だ」

 

A巡査長は、パトカーのトランクから、これまで以上に分厚い書類綴りと、例の「災害対策予算」で購入した、青い蛍光色を放つ特殊な液体——『高濃度・概念中和剤』を取り出した。

 

「B巡査、立入禁止テープを展開しろ。……ただし、今回は『警察』名義ではない」 「えっ、じゃあ何で?」 「『清掃局・特別監視区域』だ。……現世の法規において、不法投棄物の所有権は、放棄された瞬間に自治体へと移譲される可能性がある。……我々は今から、警察官としてではなく、行政の『清掃執行官』としてこれに介入する」

 

A巡査長は、青い液体を散布機に入れ、仏壇と人形に向けて容赦なく噴射し始めた。 ジュッ、という激しい音と共に、人形から立ち上っていた黒い霧が、事務的な薬品の匂いによって掻き消されていく。 「……おのれ、神を……聖なる供物を冒涜するか……!」 空間そのものが歪み、偽神の意志を代弁するような巨大な影が、集積所の背後に立ち上がる。 だが、A巡査長はその影を一度も見ることなく、淡々と書類にペンを走らせた。

 

「……廃棄物処理法、第十六条。何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない。……当該物件は、適切な供養(中間処理)を経ていないため、環境汚染を引き起こす『指定有害廃棄物』と認定する」

 

A巡査長は、影に向かって「廃棄物認定書」と書かれた赤いステッカーを突きつけた。 「……貴様が神を自称しようが、この地においては、お前は管理不備な『粗大ゴミ』に過ぎない。……法的に定義されたゴミに、人々の魂を縛る権利はない。……撤去しろ。さもなくば、行政代執行により根こそぎ破砕する」

 

その瞬間、巨大な影は、自身の存在を「ゴミ」と定義されたことに耐えかねたかのように、激しく身悶えし、霧散した。 定義の力。どれほど強大な存在であっても、現世の管理システムの中に組み込まれ、格付けされてしまえば、その神秘性は剥奪される。

 

「……すごい。本当に消えた……」 「消えたのではない。……『処理ルート』に乗せただけだ」 A巡査長は、清掃局の協力業者である特殊処理班(彼らもまた、A巡査長が「特殊な有害物質だ」と説明して雇った、事情を深く知らないプロたちだ)に無線を入れた。

 

数分後、防護服を着た作業員たちが、仏壇や人形を次々とパッカー車へと投げ込んでいく。 バリバリ、と機械的に粉砕される音。 かつて誰かが涙を流して祈った対象も、今はただの「木くず」と「布切れ」として、現世のルールに従って処理されていく。 そこに、もはや呪いの入り込む隙間はなかった。

 

「……A巡査長。さっきの主婦、少し落ち着いたみたいです」 B巡査が報告に来る。 「……そうか。……彼女には、明日から近所の神社に挨拶に行くよう勧めておけ。……捨てられた祈りを、新しい『日常の習慣』で塗りつぶす必要がある」

 

A巡査長は、空になった集積所を見つめた。 そこにはもう、異臭も、手形も、絶望の囁きもない。 ただ、冷たい朝の空気と、カラスの鳴き声だけが響いている。

 

「……B巡査。覚えておけ。偽神はマッチポンプで不幸を作るが、我々は事務手続きで日常を取り戻す。……どちらが執念深いか、思い知らせてやるだけだ」

 

A巡査長は、少しだけ汚れた自分の手袋を脱ぎ、新しいゴミ袋に捨てた。 それは、彼なりの「一日の始まり」の儀式だった。

 

「……管内、不法投棄事案。……すべて撤去、および中間処理施設への搬送完了。異常なし。――どうぞ」




【第二十二話:防犯(防霊)指針・廃棄物管理編】
一、不法投棄物に「物語」を読み取るな。  道端に捨てられた仏壇や人形を見て、「何があったのか」と想像することは、怪異との同調(コネクト)を招く。  「管理不備なゴミがある」という客観的な事実のみを認識し、速やかに行政の窓口、あるいは適切な業者へ報告せよ。

二、信仰の断捨離。  物を捨てることは、縁を切ることと同義である。  もしあなたが何かの「しがらみ」から抜け出したいのであれば、物理的な空間を清掃し、古い執着を「廃棄物」として定義し直せ。あなたの決断が、最強の絶縁となる。

三、日常のルーチンによる中和。  大きな恐怖に触れた後は、あえて「ゴミ出し」や「掃除」といった、極めて生活感のある事務作業に没頭せよ。  現世のルールに従って体を動かすことが、精神の汚染を最も早く中和する手段である。
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