P.ZZZ 虚満ちる、壊れた世界。   作:悠問追

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すみません、更新です。昨日は忙しく……


アウトロ

 リンとイアスの接続が切れる。ハッとしたようにあたりを見まわした後で僕に抱っこを強請るイアス。この光景も随分と久々に見たモノだから微笑ましく、思わず頰を緩めてしまった。空気がヒリついていたから、気を使わせてしまったのかもしれない。

 イアスを抱えて、何となく展望台の外へと目を向ける。すぐ真下にはホロウの膜の外側が見える。少し先には、十二分街の景色も。

「で、まあ。ここに何もなかったら、ただの草臥儲けになるワケやけども」

 そうだった。色々あって失念していたけど、空裂閣(ここ)には探索で来ていたんだった。

 空裂閣にひと際強いエーテル反応。ここに、ケセドと呼ばれていたホロウの何かしら────讃頌会の連中がしでかしていた、何かしらがあるはずだ、と。

 巴くんと輝夜ちゃんが、展望台を見て回るために歩みを進めていく。床に座り込んだ猫宮が置いてけぼりを喰らう形だ。何となく、ソレに後ろ髪を引かれる感じがして。思わず猫宮に視線を向ける。

「・・・・・・あたしは大丈夫。もう襲い掛かったり、逃げたりしないから。行って来なって」

 自暴自棄、とも取れる声音。僕が心配しているのはそうではない。

 一番避けたいのは、探索を終えてこの場に帰って来た時────猫宮が自ら、その命を絶ってしまっているのではないか、なんて最悪の未来。

 

 もし、逆の立場なら。僕が同じ立場に立たされてしまったら、と。夢想する。

 

 何かでリンを失って、ソレを取り戻せるかもしれないと甘言に踊らされて。

 リンと先生と過ごす甘い夢に浸り、ソレを奪われ。

 

 その中で無自覚に誰かを傷つけ、讃頌会(奴ら)に手を貸していたと知ったら、僕は。

「大丈夫だよ、自殺したりなんてしないって」

「・・・・・・そんなに顔に出ていたかな」

「出てなくってもわかるぞ〜。アンタみたいなヤツは、そういうこと考えるタイプだ」

 言いながら、疲れたように笑う猫宮。瞳は泣き腫らし、放つ声にも覇気が無い。それでも僕に心配をかけまいと、必死に笑みを取り繕っているのがわかる。

「・・・・・・キミは強いな。解った、少し行ってくるよ」

「はいはい、行ってらっしゃい」

 巴くん達を追いかける。丁度僕のことを待っていてくれたらしく、何も言わず、立ち止まっていた二人と目が合った。

「・・・・・・平気そうか?」

「うん、きっと大丈夫だよ」

「ならええわ」

 短い確認と会話。それだけで、歩みは再開された。

 空裂閣の大きな柱を中心に、ぐるりと一周する形の展望台。丁度僕らが居た場所と柱を挟んで向かい側のスペースに、

 

「────なんだ、これ」

 

 それは、在った。

 床に埋め込まれた球体の何か。紫色の淡く発光するその塊は、血管や肉のようなものに縫い付けられていて。今こうして僕らが呆然と眺めている間も、定期的に脈動を繰り返している。

 物体というよりは、生命体。恐怖すら抱く未知の物体に、誰かが息を呑む音がした。

「・・・・・・ゆーチャン、これが何かわかるか?」

『いや。完璧にこれ、と言う風には・・・・・・憶測で話すしか無いかな』

「いや、憶測でもええよ」

『・・・・・・じゃあ。僕らがさっき倒したサクリファイスの、口の中にあった〝コア〟によく似てる。あとこの球体から、ケセドホロウのあちこちに向かって────エーテルが供給されてるのが見えるね』

「っちゅーことは・・・・・・『ケセド』のコア、とかか?」

『あくまで憶測、だけどね。そうだと思う。Fairyの方ならもっと分析できたかもしれないけど・・・・・・』

 ほんの少しの間。僕とGhostの視線が巴くんに向き、言葉を待つ。

 小さな呼吸音。それに混じって聞こえてくる、コアが脈動する音。

「どのみち、か。ゆーチャン、おねーちゃん。壊してくれ」

 短く告げた巴くんの言葉を聞いて、輝夜ちゃんの掌の銃口がコアに向けられた。

 

 ────発砲。

 

 重たい音と共に、肉の膜が破裂して。

 

 ────発砲。

 

 銃弾が、硬い何かにぶつかる音がする。

 

 ────発砲、発砲。

 

 コアの内殻と思われる部位にヒビが入る音がして、

 

 ────発砲。

 

 砕けたコアと纏わりついた肉の群れは、粒子となって霧散した。

 

 その瞬間、展望台の外の光景が一変する。

 急速に縮まっていく『ケセド』と呼ばれたホロウが。地響きも、何かの音すらも立てることなく。縮小して跡形もなく消え去った。

 残されたのは、エレベーターから視認したもうひとつのホロウ。この場に本来あったソレ。

「・・・・・・信じがたい話ではあるけれど。ケセドは人工ホロウ、というヤツだったのかな」

「安定してた共生ホロウからこの規模のホロウが生まれるとはあんま思えへんし。それに、あからさまに怪しいコア・・・・・・ソレ壊した途端に消えたあたりを見ると、な。ま、そういう難しいこと考えるのは後にしようや。ボクもおねーちゃんもゆーチャンも、だいぶ疲れたわ。アキラクンもそうやろ?」

「そうだね。今日は色々なことがあったから」

 

 窓の外。遠い彼方の地平線に、夕焼けが沈んでいく。

 それを、ただ眺めるだけの間があった。

 

「なあ。ここからはただの独り言────別に、何の反応も無くて()えんやけども」

 

 視線をくれることはなく。ただ、夕焼けに目を向けながら。巴くんは静かに口を開く。

 

「赤牙組の連中に────讃頌会の連中に誰かが攫われたってわかった時。街の連中は、ボクが思うよりも怒ってなかった。怯えてすらもなかった」

「・・・・・・うん」

「隣人が連れ去られた。殺された。もう会えへんかもしれん。まだ『世界の裏側にいる誰か』がそうなったんならまだしも、隣に住んでて・・・・・・ある程度会話をしたことがあって。普通に、仲の良かった相手ですらそう(・・)だった」

 

 他人事、と割り切っているにしては行き過ぎている。この街で出会った人々を思うと、薄情な人たちだとも思えない。

 

「猫宮みたく、感情を露わにして泣いたり、怒ることもなかった。みんな決まって浮かべる感情には、諦めみたいなモンが見てとれた。こんな世界、こんな時代。せやからしゃあない────そう、言うとるみたいに」

 

 仕方ない、とは言いたくない。誰しも、誰かの命が奪われるのは悲しいことだ。誰かを失うのは悲しいことだ。

 明日は自分かもしれない。他ならぬ隣人なのだとすれば、尚のこと。

 

「・・・・・・ケセドホロウに広がる光景は、甘い幻想だったかもしれん。ソレに縋り付くのは間違いだったかもしれん。けど、何もかんも諦めてまう世界────現実なんかより、あのホロウが完全にこの街に広がる方が、良かったんじゃないかって」

「それは────、」

「壊す選択肢をとったボクは、間違いだったんかな」

 

 答えは、出せない。

 今この場で回答するには難しすぎる問題だった。

 

 何が間違いで、何が正解なのか。

 常に僕らはソレを取捨選択して歩いていくしかない。先の見えない世界だからこそ、尚のこと恐怖を伴う行為だ。

 

 各地に広がるホロウ。全てを奪っていく場所。全てを奪って行った場所。

 

 一歩足を踏み外せば奈落が待っている、この世界。

 

「・・・・・・僕に答えは出せないな。誰しも、この問いには答えを出せないと思う。けれど、答えや正解、不正解は────後からついてくるモノだよ」

「今は進み続けるしかない、と?」

「そうだね。僕らは間違っていなかったと信じて、歩みを進めるしかないよ」

 

 自分が取った選択。自分が選んだモノ。ソレを自分すら信じられないようなことになってしまっては、それこそ先に待ち受けるのは破滅だ。

 自分だけは、信じていないといけない。

 

 ◇◆◇

 

 夜。Random Play。

 ほんの少し────いや、だいぶ長い一日だった。程よいとは到底言えない疲労感で身体は酷く重たくて、私は思わずソファに身体を埋める。

「や〜、世話かけたな。パエトーン」

「ホントだよ〜・・・・・・軽率に依頼受けたこと、少し後悔してたんだからね」

 まあ、流石に冗談だけど。当初想像していたモノに比べて、リハビリとするにはかなりハードな依頼だったように思える。ヘラヘラしてる巴さんにグーパンしてやりたいもんな。やらないけど。

「ままま、その分報酬は割増して払っとくから。なんかあったら、仕事を二人にも回すようにしたるし・・・・・・それに、超優秀なAI────妖精チャンまで手に入れたってなれば、それなりの報酬にはなるやろ?」

「んー、まあ。そうかもしれないけど」

 ホロウ内部のリアルタイムの観測と、私たちでは追いつけそうにない計算速度。

 それから監視カメラのハッキングと、病院のアポイント情報の改変。

 きっと、私が今日味わったFairyの能力はその性能の一端に過ぎない。確かに命をかけて、この子を手に入れたと考えれば良い仕事だったのかもしれないけど。それでも割に合わない、とぷんすこする私も居るのだった。

「まあまあ、リンもそんなに怒らないで。二人は今夜、どうするんだい? 泊まっていく?」

「んァー、お言葉に甘えたいところやけど・・・・・・帰るわ。ボクらもやることがあるし。ホロウが消えた地帯の復興やら何やら」

 まあ、そうか。確かにこれから巴さんたちはきっと忙しくなる。

 ケセドに飲み込まれていた範囲の街。空裂閣の周辺は十二分街の観光資源になっているだろうし。これからあの街には、沢山の人が訪れるんだろう。

「せやから・・・・・・また、な。まあ依頼で近いうちに会う気もするけど」

「うん、またね。輝夜ちゃんも、また!」

 二人が手を振り、工房を出ていく。

 私たち兄妹二人の時間が始まって────お兄ちゃんを諸々問い詰める、お兄ちゃんの居心地が悪くなるような時間が夜遅くまで続いたのは、一旦横に置いておく。

 

 ホント。なんで何も共有せずに、勝手なことするかなあ・・・・・・。

 

 ◇◆◇

 

「・・・・・・以上を以て、ケセドホロウと呼ばれていた────暫定、人工ホロウの報告を終わります」

 勤務時間外だというのに、呼び出しに応じてくれたローウェル監察官の背中へと、私は言葉を投げかける。

 彼の視線は窓の外。空に浮かぶ月を見上げ、静かに私の言葉を聞いていた。

「・・・・・・そうか。ご苦労だったな」

「いえ、私は────」

 言葉に迷う。私個人への通報だったとはいえ、特に報告もなく独断で動いた案件だ。

 進む道は決めた。そのままの勢いで行動してしまったところはあって。何より、誰かにこの案件を横取りされるのは嫌だった。

 

 自分の決めた道。自分の決めた行先。その一歩を、誰にも取られたくない。

 

 そんな、自分勝手な行動だったから。

 

 口籠もり、視線が泳ぐ。そんな私に、肩越しにローウェル監察官の視線が向いた。

「まだ、何か?」

「いえ、その」

 威圧。高身長、ガタイの良い身体。そして、鋭い瞳から放たれる視線は、今の私にはとても痛く、重圧を感じる。

 息を大きく吸って、吐く。言葉を舌の上で転がすほんの少しの間があって。

「現場に復帰をさせては頂けないでしょうか。私も現場で仕事をさせて欲しいんです」

 視線が再び、窓の外に向く。言葉を待っているほんの少しの沈黙ですら、苦しく、痛い。

「────星見雅の殺人を黙認している身であると、忘れたか?」

 ・・・・・・突かれると思っていた。絶対に、そこは指摘される、と。

 

 確かにそれは、私の罪。けれど、

 

『・・・・・・私はおまえに私の罪まで背負えとは頼んでいない。私の罪は、私の罪だ。勝手に背負って進もうとするな』

 

 けれど、

 

『必要以上の罪を背負い、行先を見失うくらいなら投げ捨て()けば良い。おまえは、私が信じられないか?』

 

 あの時の言葉が、雅がくれた言葉が。私の背中を押す。

 

「────当の本人は意識のない状態だった。故意の殺害ではなかった以上、罪に問うことは出来ません。それに・・・・・・アレは、彼女自身の罪であると。私の罪ではないと、あの子は言ってくれましたから」

 

 息を吸う。吐き出す。心に燻った消えかけの炎に、風を送るように。

 

「だからこそ、なんです。あの日に罪を犯してしまったからこそ、私は現場に出なければいけない。自身の治安官としての立場を証明しなければいけない。それに、副長官の犯した罪や治安官の信頼、信用────そんなことを言ってられないほど、人員は足らなくなって来ている。そうじゃないんですか?」

 

 立ち止まっているわけにはいかない。私は、治安官なのだから。

 

 私の言葉を最後まで聞いたローウェル監察官の肩が揺れる。小さく笑みこぼして、その後で。

「ああ、その言葉が聞きたいだけだった。別に私としてもキミに罪を背負わせるつもりはない・・・・・・彼女にもまた、な。過去に囚われ蹲る者を現場に送るわけにはいかない、と思っていただけだ。人員が足りていないのもまた事実。明日からは、キミ達にも防衛軍から回って来た現場の仕事を回すようにしよう」

「────え?」

「引き続き、励むように」

 

 私の罪の告白。そんな一世一代のイベントは、思いの外呆気なく終わってしまう。

 現実なんてものは、こういうものなのだ、と。ローウェル監察官の元を去った私は、背中を壁に預けて項垂れるのだった。

 

 ◇◆◇

 

「そっちも何かと忙しいだろうし、別に無理して見舞いに来なくて良かったんだぞ?」

 スプーンに盛った果肉入りゼリーを口元に運んだところで、猫宮のため息混じりの言葉が飛んできた。

 一旦スプーンをカップに戻して視線をやれば、何やら呆れ気味の視線とかちあった。ゼリー、ひと口も食べてないし。何なら封すら開けてないし。

「別に無理なんてしてないし。私は来たくて来てるだけだし。っていうかちゃんとゼリー食べてよね、せっかく買って来たんだから!」

「お、押し付けがましいなあ・・・・・・わかったよ、開ける開ける。食べるから身を乗り出さないで自分でやるから!」

 全く、わかれば良いんだよ、わかれば。

 

 十二分街の一件があってから二日。私は、あの日も来た総合病院へと訪れていた。

 

 あれからと言えば、私たちパエトーンの生活に特に変わりはなく。強いてあげるとすれば、ほんの少し────ほんの少し?────自我が強い、サポートAIが生活に加わったことくらいだろう。

 十二分街の復興は順調。定期的に巴さんから送られてくる写真を見た感じ、かつての活気を取り戻しつつある。輝夜ちゃんから送られて来た『今度は観光に来てね』なんてメッセージに思わず頰を緩めたのは内緒だ。

 そして、あの件の加害者であり被害者でもある猫宮は、一旦この総合病院に検査入院となった。

 

 未知の集合体であるケセドホロウ。認知の影響で姿を変える事と、ホロウの付近・・・・・・内外問わず、何処かしらにその核となる球体が存在する事以外わからない事だらけなそこに、長期滞在していたわけだし。本人は何の影響も無いと語っているが、一応診てみないとわからないこともあるだろう。

 本人の証言を信じるとすれば半年以上だ。それだけ一度も外に出ずホロウの中に居たと考えると、何かしらの影響が出ていてもおかしくは無い。

 それに、私としては────いや。私とお兄ちゃんとしては、この子のメンタルも心配だった。

「・・・・・・ん、ぐ。あんだよ」

「いや、別に?」

 私の心配の色を乗せた視線を受けるなり、猫宮が眉を顰める。まあこういうタイプは素直に言葉を投げかけても否定するだろう。こういう時は、素直に静観するに限る。

「ま、私としては元気そうだし良かったよ。朱鳶さんにもよろしく言っといてね」

「それは直接言いなよ・・・・・・あたしから言ったって仕方ないだろ」

「あとあの猫のお兄さんと、ツインテールの女の子にも」

「話聞け」

 こういう軽口の応酬にも乗ってくれるあたり、十二分街の時に比べてだいぶ元気になったように見える。良かった良かった。

 カップに残ったゼリーをかき込み、私はパイプ椅子を立つ。何せ今日の私は病室をハシゴしなければならないのだ。

「じゃ、もう行くね。ちゃんと色々診てもらうんだよ」

「わかってるって。心配性だな・・・・・・」

 呆れ気味に、掌で私をシッ、シッ、と払う猫宮。ま、私はその口元に笑みが浮かんでいることは見逃さないけど。

「また来るね」

 短く告げて、引き戸を閉める。

 ・・・・・・彼女にとっては、ここからが本番だろう。退院したら、その後は治安局。

 私には法律はわからない。だからその辺は、朱鳶さんに任せる他ないのだ。

 私が今向き合わなければいけないのは、再び虚狩り────星見雅の病室へ、足を踏み入らなければいけないということである。

 猫宮の病室と階層が違くて良かった。こうして、移動の合間に心の準備ができる。

 あの時は一心不乱だったから何ともなかったけど、こうして改めて来ることになると緊張もする。だって住む世界が違う人だし。普通の市民である私からすれば天の人なわけだから。

 階段を上がり、廊下を進んで。『星見雅』と札が掛けられた個室の引き戸に手をかける。

 息を吸って、吐いて。そのままの勢いで、開いた。

「こ、こんにちは〜・・・・・・来たよ、雅さん」

「ああ、そろそろだと思っていた」

 あの日と変わらず。窓の外を眺めていた雅さんの視線が私に向く。柔らかい笑顔で出迎えてくれるあたり、何処ぞの猫ちゃんとは大違いだ。

「すまないな。礼を言う立場だと言うのに、わざわざ出向かせてしまって・・・・・・それは見舞いの品か?」

「ううん、良いんだよ。その辺は仕方ないでしょ? ・・・・・・これは、まあ。手ぶらで来るのもアレかな〜って、思って」

「・・・・・・気を使わずとも良かったんだが。何となく、おまえの性格ではそれも無理なんだろうな」

 メロンの果肉入りのゼリーが入った袋を、ベッドのサイドテーブルに置く。いつかのインタビュー記事でメロンが好きだ、と応えていたのを読んだ。好みに間違いは無い、はず。

 パイプ椅子を引っ張って来て展開し、腰掛ける。何と無く気まずい間があって、

「・・・・・・ありがとう。先日は、とても助かった」

「た、助かっただなんてそんな。私は────」

「貴女の言葉に救われた、その気持ちに嘘はない────だったか?」

「ゔ、」

 過去の自分の発言が首を絞めている。とても苦しい。

「私も同じだ。・・・・・・朱鳶は度々この病室に顔を出してくれていたのだが。笑みの隙間に、何かに思い悩むような色が見えていた。それに気づいていながら、かける言葉を見つけられなかったのはセス────治安官の彼と同じだ。おまえの言葉に背中を押された。故に、ありがとう」

 ・・・・・・そんなに大したことはしてないのに。私としては、無理やり感謝を伝えただけに過ぎなくて。

 あの時、あの瞬間。私はあの言葉に救われた。だからその気持ちまで否定されたくなかった。ただ、それだけの話だ。

「こうして、『病室で大人しくする修行』に明け暮れる身だ・・・・・・私に出来ることは少ないかもしれないが、困った時は言って欲しい。何かしらの形で力を貸そう」

「・・・・・・それって修行なの?」

「修行だ」

「ああそう・・・・・・」

 そんなにまっすぐな目で見つめられて、真っ直ぐに言われちゃったら頷くしか無いじゃんね。何か、こう。雅さんって印象よりなんか変な人だ。

 また、ほんの少しの沈黙がある。窓の外から吹き込む風が頰を撫でて、ほんの少しの肌寒さに身震いして。ため息を吐いたところで、胸から湧き上がった『興味』のような何かが、口を吐いて出る。

「あの、さ。言いたく無かったら、言わなくて良いんだけど」

「? 何だ」

「雅さんがこうして、入院することになったキッカケとか。聞いて良い?」

 あの日、朱鳶さんに雅さんが言い放ったあの言葉。

 

『・・・・・・私はおまえに私の罪まで背負えとは頼んでいない。私の罪は、私の罪だ。勝手に背負って進もうとするな』

 

 あの言葉が、あれから胸に引っかかって離れない。

 公にされている記事には、雅さんは『刀を振るえなくなった』としか書かれていない。

 ソレを『罪』と称するのは少し違う気がして。

「いや、嫌ならホント言わなくても────」

「・・・・・・名を、何と言う?」

「え、私? そっか、名乗ってなかったっけ。リンだよ」

「そうか。では、リン」

 ひと呼吸の間。雅さんの視線は、再び窓の外に向けられる。その表情は伺えないが、視線は何処か遠いところを見ている気がして。

 

「・・・・・・私も、誰かに話を聞いてもらいたいのかもしれないな。あの日のことを────私の、罪を」

 

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