P.ZZZ 虚満ちる、壊れた世界。   作:悠問追

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なんか今月色んな反応貰えて嬉しいので、今週は三話投稿にしちゃいます。ナハハ。


Chapter5 『誰かの為に、』

 

「皆さん落ち着いて! テープの向こうに入らないでください!!」

 カメラを構え、押し寄せる人々の波。日付が変わると同時に突如現れたホロウは、今や街の人々の興味の的でしか無いらしい。

 私の声を聞くことすらしない人々の目には恐怖の色はなく。世界が滅びるというのなら、どう滅びるか見てやろう────口にせずとも、そんな感情が見てとれる。

 現状に思わず頭痛を覚える私。堪らず額に掌を添えた所で、ポケットの中に入れたスマートフォンが着信を知らせて震えた。

 画面を確認することすらなく。耳のイヤホンマイクを操作して電話に出る。

『もしもし、朱鳶さん?』

「リンちゃん・・・・・・? どうしてこんな時に────」

 いや、こんな時だからこそ私にかけてきたのだろう。

 彼女の正体。そして、先日聞いた十二分街のホロウの話。今背後にあるソレが、ケセドと呼ばれていたソレに近しいものなのだろうという思考は私の中にも僅かにあった。

「・・・・・・何か、私に頼み事でも?」

『あ、あはは・・・・・・話が早くて助かるよ。頼みたいことと、確認したいことがあって・・・・・・』

 言い終えて、スピーカーの向こうで数回の会話が交わされるのが聞こえてくる。周りの声にかき消されて内容までは聞き取れない。

『えっ、と────カンザキさん、ってホロウから避難できてるかどうか、わかったりする?』

「────、────」

 カンザキ。リンちゃんの口から飛び出たその苗字に、私は思わず息を呑む。だって、

「・・・・・・いえ。むしろ、そのカンザキさん・・・・・・その一家だけが、このホロウの内部に取り残されている状況です。その他の近隣住民の方々は、全て避難を終了しているのですが・・・・・・」

 偶然、とは片付けられない。またこの子は、何やら厄介ごとの中心にいる。

 咎めたい気持ちが顔を出し、ソレを言葉にしようとした所で。リンちゃんは再び、電話越しに口を開いた。

『そっか、そっか。じゃあ頼み事の方なんだけどさ。これから私たち、その〜・・・・・・ホロウの中に、入りたくてェ・・・・・・』

「・・・・・・だから見逃せ、と言いたいんですね?」

『ゔ、はい・・・・・・』

 頭痛が増す気配がある。自然と漏れ出したため息は深く、長く。私のため息に息を呑む音がスピーカーの向こうから聞こえてきて、気まずそうな彼女の顔を思わず幻視した。

「・・・・・・何か悪いことを企んでいる、犯罪行為に及ぶ、というわけではないんですよね?」

『ハイ。それは誓って。何に誓っても良いよ』

 まあ、そもそも一般人がホロウに入ること自体褒められたことでは無いのだが。

「・・・・・・、・・・・・・・・・・・・わかりました。ホロウ南西の監視の者を動かしておきます。そこから入ってください」

『・・・・・・! ありがとう!!』

 そもそも、このホロウの出現が突然のこと。周辺警備と野次馬の対応に追われ、まだホロウ内部の調査に人員を回せていないし。人が足りて居ないのもまた事実。正直な所、リンちゃんの申し出がありがたいと思っているところはある。・・・・・・のだが、

「・・・・・・リンちゃん、意外と良い性格してますよね」

『え、ええ!?』

 あの日の借り。あの時の言葉に助けられたという事実が、彼女の頼みを『ダメだ』と一蹴する自分を邪魔していた。本当に、良い性格をしている。

「・・・・・・決して危険なことはしないこと。それから、危険だと判断したら、可能であればすぐに私に連絡してください。良いですね?」

 

 ◇◆◇

 

 通話が終了する。スマートフォンを机の上に戻し、思わず脱力した私を見つめる視線があった。

「・・・・・・? ハリン、どうかした?」

 私もハリンの見た目、雰囲気にはだいぶ慣れてきたみたい。ちゃんと目を見て声をかけられるようになったことに内心ホッとする。嫌われてる、とか誤解させるのは嫌だったし。

 ハリンは私の問いを受けて、数度小さい瞬きを繰り返した後で、

「貴女、プロキシなのに治安官とパイプがあるのね・・・・・・?」

「え? ああうん。ちょっと色々あってね」

 まあ、まあ。本来対面すらも避けなければいけない相手だという自覚はあるし、ハリンが驚くのも気持ちはわかる。多分だけど、これは私だけの力ではなくて、向こう側の私の行動もあってこそだとは思うけども。

「そう。戦場に於いて、時に情報は何にも勝る武器になるわ。ソレを提供してくれる友人関係は大事。例え偽りの友好関係だとしても、ね」

「待って、待って待って。私なんか誤解されてない? 別に朱鳶さんのこと騙したりしてないからね。普通に友好的な関係だからね!?」

「・・・・・・違うの?」

「違うから!!」

 そんなに私、悪いことするような人に見えるかなあ!?

「そうだね。リンには、知らぬうちに誰かの懐に潜り込み、相手を誑かすようなところがある。その可愛らしい顔立ちも相待って、お兄ちゃんは心配だ」

「ちょっと、そっち側に加勢しないでよお兄ちゃん! もー!!」

 何故か異様に居心地が悪い。肩身が狭い。自分の家なのに。

 思いもよらない方向に転がっていく会話。ソレをどうにかするために、私はバンバン、と強く机を叩いた。視界の隅でキーボードがその度に浮いている・・・・・・。

「やめ、やめです! はい、とりあえずホロウには問題なく入れることになったから行くよ。ほらみんな早く準備して。私はイアスに接続して入るから!!」

 頭から湯気を出すほどの私の語気に、各々は短く返事を返すと身支度を始める。

 そんな中で、ヒカリくんがおずおずと口を開くのが見えた。

「・・・・・・あの」

「どうかした?」

 沈黙がある。誰もが身支度の手を止めて、ヒカリくんの言葉の続きを待つ。

「皆さん、ホロウに関わることが多い・・・・・・んですよね?」

「まあ、せやな。全員がプロキシやし、エージェントやし。それなりにホロウに関わることが多い」

「・・・・・・なら、その────」

 口籠る。視線が泳ぐ。彼の中で、言葉を整理するような。選ぶような間。はたまた、『本当に言っても良いのか』と悩むような間にも感じた。

「────その。何で皆さんは、そんなに前向きに生きられるんですか?」

 そしてその沈黙の後で。挙句に投げかけられた問いに、ここに居る全員が口を噤む。

「今回の滅びの予言は関係なしに、いつ終わってもおかしくないと思うような世界じゃないですか。あの子は────シオリは良く、この世界を『終わっていないだけ』と表現してて。おれも、心の何処かで『そうだな』って思うんです」

 掠れる声で紡がれる言葉。俯き、地面を見つめる弱気な視線。

 

 まあ、私としてもその言葉には同意だった。

 

 ホロウの中を見るたびに思う。人々が変化した怪物、エーテリアス。

 それらが闊歩するホロウの中には、かつて人々が平和に暮らしていた痕跡があって。いつか、遠いかも近いかもわからない先の未来で。私たちもこうなるのではないか、という恐怖があって。

「だから頑張っても無駄なんじゃないかっておれも思うんです。いくら努力しても、いくら何かを重ねても。明日には無駄になってしまうんじゃないかって。いつだって自分の周りのことで手一杯で、周りなんて見てる余裕もない。そんな世界で、何で・・・・・・そんなに誰かの為に、って・・・・・・頑張れるんですか?」

 懐かしい、という気持ちがある。私もかつてはそうだった。

 お兄ちゃんを失ってから、また戻ってくるまでの間もそうだったのだろう。

 だけど、

「んー・・・・・・それでも『頑張らない理由』にはならないから、かな」

「頑張らない理由、ですか?」

「そう。少なくとも、私とお兄ちゃんはね。世界が明日には終わるかもしれない。シャットダウンされたパソコンみたいに、ブツっと全部が不意に終わるかもしれない。でも、だからこそ────最後の瞬間にああしておけば良かった、こうしておけば良かった、って後悔はしたくない」

 私は再び歩き出す理由を(リン)に貰った。だから余計に諦めたくない、というのもあるけれど。

 それに、

「それにね。パエトーン(私たち)にはやりたいことがあるんだ。やらなきゃいけないこと、と言ってもいい。それでいて、私は・・・・・・この世界ではみんな同じだと、そう思ってるから。ヒカリくんが今回シオリちゃんを助けに行きたいって思うのと同じように」

「おれと、同じように────」

「そうだよ。こんな世界だからこそ、ちゃんと明日を迎える勇気や気力を持った人たちには、何かしらの目的があるはず。成したいことがあるはず。それに向かって歩いていく大変さを私は知ってるし、嫌というほど自覚してる。だからその手伝いをしたいなって、そう思う気持ちがあるからかな」

 

 プロキシの仕事は、ゴールに向かって道筋を示すこと。

 誰かの向かいたい場所に連れて行くこと。

 

『くっさい映画みたいな言い回しだけどさ。アンタを連れてくよ、文句ないハッピーエンド(目的地)まで』

 

 ああ、私と(リン)は本当に似たもの同士なんだなって、思わず苦笑が漏れる。まあ同じ存在なんだから、それはそれで当然なんだけど。

「それに、ね。前向きな思考じゃないと行きたい場所に辿り着けないもん。時には遠回りも必要かもしれない。だけど、目的地はきっと後ろには無い。だから、かなあ・・・・・・」

 言い終えて、何となくハリンに視線を投げかける。私の何か言いたげな視線を受け取ったハリンは、小さくため息を吐き出した。

「・・・・・・私に意見を求めたところで貴女のような立派な話は出てこない。巴や輝夜の方が、それらしい話が聞けると思うわ」

「え、そう? そっか」

 誰かを支えるプロキシとは違って、武器を持ち、戦場に立つ人間だからこその意見とか聞けると思ったんだけど。

 不意に名前を呼ばれた巴さんは、気怠げに特徴的な丸眼鏡を掛け直す。いつもは細められている瞳が開かれて、その視線は少し冷たく。ヒカリくんに、真っ直ぐに向けられている。

「まあ。ボクとしては、たかだか十ウン年生きただけの高校生がなァに全部悟った気になっとるんや、とは思わんでもないけど」

「ち、ちょっと巴さん・・・・・・」

「だってそうやろ? 別に他にもっと辛い思いしてる奴が居る、とか言うつもりはない。誰しも自分が背負ってる荷物が一番重たいモンやし、キミらのことを詳しく知っとるワケと(ちゃ)う。けどな、キミらはまだ『これから』なんよ」

「これから・・・・・・」

「そう、これから。先のことなんて誰にもわからん。未来でもっと辛い目に遭うかもしれん。未来でもっと楽しい思いが出来るかもしれん。蓋を開けて見ないとわからんやろ、そんなのは。別にこの先の未来全部見てきたワケじゃないのに、明日のための苦労を辞めるとか馬鹿らしいわ。明日の幸福をより良くするために、明日の不幸をより軽減するために、今日を頑張るモンと(ちゃ)うんか?」

 心底呆れたように。私とは違って、巴さんの声音にはヒカリくんとシオリちゃんの思考を咎めるような色が乗っていた。

 息継ぎをするような間。吸った息を長く、長く吐いて。巴さんは言葉を続ける。

「それにな、ボクは誰かのためになんて頑張ったコト無いわ。最初から最後まで。頭の先からケツまで、全部ボク自身の為。誰かにした行いは最後の最後に自分に返ってくる。さっきハリンが言った通り、人脈や情報はこの社会で何より大事なモンやし、媚びと恩を売って困った時に助けてもらおうって気ィしかあらへん」

 ・・・・・・素直じゃ無いなあ、巴さんは。

 十二分街のあの時。ケセドホロウを探索して、あのホロウをどうにかしたのは。完全に私の目には、世話をしてくれた街の人の為に────と、必死に頑張っているように見えた。

 見返りや媚びなんかじゃ無い。恩を売る為じゃ無い。困っている人が居て、その人達を助けたいから。私にはそう見えたのに。

「ま、それも私の想像でしか無いか。どう、ヒカリくん? 私たちの回答で満足できた?」

 問いを受けて、ヒカリくんの視線が私に向く。目が合えばまだ泳いでしまうけれど。

「・・・・・・正直、まだ答えは出せないと思います。でも────ありがとう、ございました」

 きっと、彼にとっては必要な問いだったのだろう。私たちの答えが、先のある子達の道標になりますように。

「ん、よし! じゃあ件のホロウの探索、はじめよっか!」

 

 ◇◆◇

 

 胸の中から闇が、モヤモヤとした感情が抜け落ちて行くような感覚があった。

 蹲り、抱えていた頭を持ち上げて。辺りを見回せば、私は城の中に居た。

「────?」

 いや、冷静に状況を飲み込んで居るけど意味がわからない。私の記憶が確かであれば、私は自分の部屋で音楽を聴きながら小説を書こうとしていて・・・・・・。

 書けない自分に苛立って、真っ黒い思考に塗りつぶされて行く気がして。気がつけば、城の中。

「何かに影響されたかな。異世界転生とか、そういうの」

 わからないことだらけ。理解できないことだらけ。けれど、この場所は────この世界は、私の味方だという自覚が何故かあった。

 

 とりあえず、と。現状を理解する為に、そこら辺を歩き回る。

 中央に噴水が鎮座した広場。だだっ広い食堂。弓や剣を保管した倉庫。訓練場。馬小屋。

 知らない光景。けれど、私のよく知っている光景だった。

 

「これ、私の────」

 

 私が何度も書こうと筆を取り、無力感に打ちのめされた小説。その中に出てくる城と、想像していた城と瓜二つだった。私が想像していたソレに比べて、だいぶ朽ち果てているけれど。

 草が生えた、ひび割れた石畳に横になって空を見上げる。貼り付けられたレイヤーのような青空の向こうに、ホロウの膜があって。そのまた向こうに、星が瞬く夜空が薄く見える。

 どういう原理なんだろうか、これは。よくわからないけど、ここはホロウの中。それもまた、暫く歩き回ってわかったことだった。

 

 でもって、私の思い浮かべていた城と同じ作りなら────。

 

 再び立ち上がり、歩みを進める。城壁沿いに、西へ。ゆっくり、ゆっくり。

 手入れのされていない、木々の生い茂る小さな森。その中に、ぽつねんと寂しく佇む一軒の建物。

「ここは、私の想像通りなんだね」

 鎖が錠で繋がれた扉。けれどその錠と鎖は、私が触れただけで地面に金属音を立てて滑り落ちる。

 重たい扉の向こうには、点々と松明に照らされた地下へと続く階段。歩みを進めていけば、私の想像通りであるのなら────、

「やっぱり、あった」

 薄暗い部屋。鉄でできた格子。

 所謂、敵を捉えるための牢屋というやつである。

「シオリ────」

 私の名前を呼ぶ声がする。鉄格子の向こうから、憎たらしい声がする。

 腕を鎖に拘束され、地面に座り込んだ憎たらしいやつ。私の両親だった。

「何を、しているんだ?」

「んー・・・・・・それは、私もわかんない。気づいたらこうなってた。けどね、やりたいこと・・・・・・やるべきことは、なんとなくわかった気がしたんだ」

 

 誰もが求める世界の台本(行末)

 誰もが求める、書いて欲しい話。

 

 ずっと迷っていた。ずっと悩みあぐねていた。どういう話が人々にウケて、どういう話をみんな求めているのか。

 いつだってハッピーエンドを求めている気がしていた。だって、お話の中でくらいは都合のいい事柄ばかり起こってほしいから。

 何処かの誰かが困っていて。悩んでいて。苦悩していて。ソレが救われ、はい、大団円。

 苦くて苦しい現実なんだから、自ら進んで摂取する話くらいは甘く、優しいものであってもいい。甘く、優しいものであってほしい。

「けどね、現実はそうじゃなかったみたい」

「やめろ、シオリ。まだ戻れる」

 このホロウが私の背中を押してくれる。私の思いに応えてくれる。

 ならさ、きっとこの選択肢は間違えてなかったんだよ。だって、世界が味方してくれるなんて────まるで、

 

「まるで、物語の主人公みたいじゃない?」

 

 最後に勝利を掴み取るヒーロー。それは、誰もに支持され、誰もに支えられて。行先は明るく、一度決まった道筋からは決して逸れない。

 私についた評価の形。私の書いた滅びの物語についた評価が、この世界の総意とその証だ。

「だからね、特等席で見せてあげる。私が書く物語を。アンタらが居たら、私の世界は平和にならない。私はハッピーエンドに辿り着けない。今更親みたいなツラしないで、指咥えて見てて」

「シオリ────!」

「最後くらいはさ。邪魔しないでよね」

 

 城の各地に揺らぎが現れる。

 エーテルという未知の揺らぎ。私の破滅願望、希死念慮の具現たるエーテリアス。

 

 誰もが背中を押すのなら。誰もが私を支持するのなら。

 

 私が、この世の終わりに向けて筆を走らせよう。

 

 ああ、でも。最後にアイツと会話くらいは────しておきたかったな。

 

 ◇◆◇

 

 お兄ちゃんに抱えられている影響で、いつもより高い視点。イアスに入っているおかげでいつもより広い視界。

 社用車で私たちがたどり着いた住宅街────そのホロウの南西側には、私たちが思っていた以上の地獄が広がっていた。

 無数の人だかり。カメラを向けて件のホロウを撮影する者や、何かに祈る者。有り様や表情は様々であれど、その場にいる全員が口を開き、感情を露わにして何かを叫ぶその様は、見ているだけで焦燥感や良くない感情に胸を焼かれる感覚があった。

『・・・・・・どうしよ、これ』

 不安が口を吐いて出る。人だかりに塞がれて、掻き分けて進むにもひと苦労。ホロウに入る前から、私たちの目の前には問題が横たわっていた。

 呆然と眺める私たち。その中で、

「大丈夫よ。任せて」

 ハリンだけが。二歩前に歩み出て、懐から何かを取り出し空へと向ける。瞬間────、

『っ、っ!? 何、なになに!? 銃せ────』

 凄まじい爆音。戸惑いのあまりお兄ちゃんにしがみつきながら叫んだ所で、私は状況を理解した。

 ハリンの掲げた手から・・・・・・握られたハンドガンから夜空に目掛けて立ち上る硝煙。銃身から弾き出された空薬莢が地面に落ちる金属音が聞こえるほど辺りは静まり返り、一斉に視線がこちらを向く。

「正式な依頼を受けて、私たちはホロウに入ることになった。道を塞ぐのは辞めてもらって良いかしら」

 怯えたように跳ねる肩。ハリンの寒気がするほど冷たい声音。それらに動かされる形で、あんなに騒いでいた野次馬たちが一斉に動き出した。

「気にすんなリンチャン。コイツ、そういうとこあんで」

『な、なんかもっとスタイリッシュというか・・・・・・他に方法がさ・・・・・・』

「何かに駆り立てられて狂った連中は新たな恐怖で上書きする。これ以上の方法はないわ」

 いやまあ、そうかもしれないけどさ。

 恐怖だとか、『なんなんだコイツ』みたいな無数の目で見られながら、人混みの中を歩いていくのは正直良い心地では無いし。

 

 ホロウに入る直前に、遠くの方から「誰だ、止まりなさい!」なんて声が聞こえてきたのは、とりあえず気にしないことにした。

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