P.ZZZ 虚満ちる、壊れた世界。   作:悠問追

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Chapter8『双頭の豹』

 

『もー! キリがないよぉ!!』

 Ghostの弱音が聞こえてくる。冗談めかして叫んでいるけど、私としても歯痒い気持ちはあった。

 城の内部、城壁の外を問わず、無限に湧き出るエーテリアス。滅びの未来、世界滅亡も成程と頷いてしまうほどの数が次々押し寄せて来てキリがない。

 ヒカリくんが居る場所はわかっている。けれど、そのエーテリアスの迎撃に追われていてなかなか前に進めずにいた。

 タチが悪いのが、その一体一体の強さはどうってことない。特に苦もなくGhostと輝夜ちゃんは撃退出来ているのに、一向に噴水広場から前に進めない。

『う、う〜・・・・・・私も何かできればいいのに・・・・・・』

「リンの仕事は道案内だ。目的地に最短距離で辿り着くには、キミの存在が必要だから────ね、ッ!」

「せやで。リンチャンはそこで大人しくステイしてシエスタでもしててや」

昼寝(シエスタ)は困らない!? 私そんな図太くないよ!!』

 そんな軽口を叩きながらもお兄ちゃんは例の義手の能力を使って小型のエーテリアスを引っ掴み、壁や別の個体に叩きつけて撃退しているし。巴さんは巴さんで、前回に比べてグレードアップしたよくわからない銃────確かアサルトライフルとかそういう種類?────で周囲のエーテリアスを撃ち殺している。

 何もできてないのは私だけ。流石にイアスの短くて可愛い足でポテポテと地団駄を踏むのも辞さない。というかお兄ちゃんのソレはそんなに連続で使用して大丈夫なモノなの? もー、歯痒い。歯痒いぞ〜!!

 

『────待って、そんなこと言ってる場合じゃないかも!』

「あん?」

『強いエーテル反応────多分、』

 

 こういう時の最悪の想像は大体当たる。嫌な予感というのは大概現実になってしまうもので。

 

『────サクリファイス!』

 

 城の一階部分、そのあちこちから聞こえてくる激突音。ヒビ割れたガラスが更に飛び散り、あちこちから砂煙が噴き出して。正面玄関の扉を破って、ソレは現れた。

 

『ハリン!!』

 

 砂煙の向こうから現れる巨大な影。それと同時にハリンが噴水広場へと地面を転がり飛び出して、私は思わず駆け寄る。

「・・・・・・大丈夫よ。戦闘継続に問題はないわ」

『よ、良かった・・・・・・目立った傷は無いみたい』

「それよりも、問題はアレね」

 

 重い足音。ずしり、ずしりと内臓にまで響く様なソレと共に、私たちの目の前に現れたのは────、

 

『な、何アレ────豹?』

 

 白と黒を基調とした、二つの頭を持った豹。

 おそらくエーテリアス────サクリファイスと思われる何かだった。

 

 ◇◆◇

 

 飛ん、とん────飛んでる。今、おれ。

 正直何が起こってるかはわからない。けど、普段とは段違いに体の内側から力が湧き上がって来て。内臓の何処かが、何かが、常に熱い。

「けど不快じゃ無いな────全能感、みたいな感じ」

 

 今のおれなら何でもできる気がする。普段の弱気な自分とは大違いだ。

 

 身体の中の熱を持ち上げ、喉に溜め込み、一気に口から吐き出す。どういうわけか『こうすることができる』という知識だけはあって。迫り上がった熱は炎という形で口から飛び出し、無数にシオリを囲むエーテリアスを焼き尽くしていく。

「────、────ッ!」

 喉が熱い。焼かれる。焼かれていく。それでも喉の焼かれた感覚が、火傷に似た痛みが一瞬で治癒されていく感覚があるから、結果としておれの中には痛みだけが残る。

 

 正直、これが続けば気が狂ってしまいそうだった。この状態もあまり長くは・・・・・・。

 

「いや、弱音吐くな・・・・・・胸張れ、前向け。弱気になるな」

 

 気持ちだけでも強く持て。身を任せるなら、この場をどうにかできるなら根拠のない全能感でも良い。

 好きな子が信じてくれてる。好きな子が見てる。それ以上の理由なんて要らないだろう────!

 

 長く伸びた爪で切り裂き、炎で焼き、強くなった握力でコアを握りつぶして。次々湧き出るエーテリアスを撃退していく。それでも次から次へと湧き出るそれらに辟易したところで、

「ぅ、お。何────!?」

 大きな揺れ。エーテリアスたちまでもが小さな悲鳴をあげて辺りを見回し、思わずおれはシオリを抱え込んで再び飛ぶ。

「し、城・・・・・・崩れるかも」

「ホントに!?」

 シオリのその言葉に嘘はなく。確かに何か支えを失った様に床は倒壊していき、ピシリ、ピシリと天井がひび割れる音がする。

 元々ボロボロな城だ。崩れてしまうのも仕方ないのかもしれない。

 シオリを抱えたまま、テラスから城の外に飛び出る。背後では城が崩れていく音がして────けれど、それ以上に。

「な、何アレ────豹? エーテリアス?」

 おれたちは、リンさんたちが向き合った巨大な影に。巨大な何かに、困惑の声を漏らした。

 

 ◇◆◇

 

 城の上空を何かが飛んでいる。サクリファイスを見るなりあげた困惑の声のおかげで、ソレが何なのか理解できた。

『ひ、ヒカリくん────!? だいぶ見た目が・・・・・・』

「迎えにいく手間省けたな。良かったわ」

 場違いなほどに呑気な巴さんの声と同時に、ヒカリくんは私たちの目の前に着地する。多分、彼が抱えてる女の子が件のシオリちゃんだろう。良かった、会えたんだ。そっちはどうにかなったみたいで、本当に安心。

 

 ・・・・・・いや、まるっきり安心ってわけにもいかないんだけども。

 

 崩れ去った城を背に、私たちを見つめる二つの頭を持った豹。

 不気味なソレは、出方を伺うみたいにジッと、私たちを見つめている。周囲で蠢く、無数のエーテリアスまでも。

 ・・・・・・いや、多分。ヒカリくんの存在がそうさせているんだろう。私が見てもわかるくらいに、今の彼はとても強い。

「ま、ええわ。着いて早速本題なんやけど・・・・・・シオリちゃん。キミがこのホロウの主、ってことで間違い無いか?」

「え? ────ああ、はい。自分でも原理はよくわからないんです、けど。間違いないと思います」

 猫宮の時とはまた違う。誰かに命じられたわけではなく、気づいたらそうなっていた、という言い草だった。

「そしたらキミの意思ひとつでこのホロウを閉じれたり出来ひん? それで全部解決するんやけど。あるかもわからんコアを探す手間も省けるし」

「・・・・・・それは確かに、そうだね」

 未だに底を知らず、増え続けるエーテリアス。そこに追加で現れたサクリファイス。

 確かに巴さんが言うことも頷ける。この広がったホロウを閉じられれば────エーテリアスは、ホロウの外では生きられない。サクリファイスの方はどうなるかわからないけども。前回も今回も、明らかに特殊なエーテリアスという風貌だし。例外であってもおかしくない。

 最悪サクリファイス一体だけであれば、どうにかできるかも。・・・・・・いやでも、

『待って、ホロウを閉じたら住宅街のど真ん中ってことにならない? 前回のケセドの時みたいに。そうなったら、万一サクリファイスがホロウ外でも消えなかった場合、あの野次馬たちを巻き込むことになっちゃうよ』

「・・・・・・そもそも、無理そうです。今試してみましたけど、私の意思ではこのホロウは閉じられない。多分────」

 シオリちゃんの視線がサクリファイスに向く。強い殺気と敵意が混じった吐息が双頭からそれぞれ漏れ出て、各々が小さく息を呑むのがわかった。

「あの怪物が邪魔してます。詳しくはわからない、んですけど────アレが、私の意識を邪魔している、というか。栓とか、蓋になってる感じというか」

 感覚としてはよくわからない。けれど、他ならぬこのホロウの主(シオリちゃん)がそう言うなら、そうなんだろう。私たちとしてはその言葉を信じる他ない。

「・・・・・・ほな、やることは変わらんな」

「そうね。ならヒカリがあの豹────サクリファイスを。私たちが周りのエーテリアスを担当するわ。流石に横槍が入るとやりづらいでしょうし」

「え、ええ?! 今この中なら、ハリンさんが一番強いでしょう。それに、おれの炎であれば、エーテリアスなら簡単に・・・・・・」

「────? 私が、一番?」

『待ってハリン。私も何となく気持ちはわかるけど話の腰を折ることになるからやめよう。いつまでもサクリファイスが様子見しててくれるとは限らないからね!』

 皮肉? みたいな目をしてヒカリくんを見るのはやめよう。なんかすごい、頼もしい感じになってるのにちょっと怯えてるから!

 それでもまだ不服そうなハリンは、やたらとジトりとした目を向けたままで、

「・・・・・・いいえ。ここは、貴方がアレと戦うべきよ」

「え・・・・・・?」

「彼女を守ると決めた。彼女を助けると決めた。今なら、今の貴方なら。それができるでしょう」

 応える暇を与えない。有無は言わせない強さが、ハリンの語気には込められていた。

 背を向け、腰の得物の柄に手を添え、その刃が鞘に擦れる音がする。

「決まったな。ほな────」

『え、えぇ? うん、じゃあよし────』

 

 ハリンの抜刀を、輝夜ちゃんが改めて地面を踏み締める音を、不安気にヒカリくんが羽ばたいた音を合図に────、

 

「作戦、開始」

『作戦開始!』

 

 双頭の豹の遠吠えを合図に。このホロウでの最後の────最後だと願いたい掃討作戦が、始まる。

 

 ◇◆◇

 

 羽ばたく。宙を舞う。

 未だに慣れない感覚と視点。多くのものを見下ろす高さで、エーテリアスの軍勢目掛けて炎を────、

『僕たちのことは良いから早くアレをどうにかして!』

「オマエはオマエの仕事しろやアホんだらァ!!」

「は、はいぃ!!」

 輝夜さん────輝夜さん・・・・・・?────と巴さんの怒声が下から飛んできて、思わず喉元まで迫り上がった炎を飲み下す。

 おれは、おれの仕事を。

 

 正直、荷が勝ちすぎると思う。それでも、だとしても。これはおれの仕事だ。おれのやることだ。

 

 まだ弱気な心がある。弱気な気持ちがある。

 守ると決めた。助けると決めた。なら覚悟を決めろ、おれ。

 上空から豹を目掛けて炎を吐き出す。その熱さに暴れているのを見遣りながら、急降下。長く伸びた爪を立て、片首の喉仏を目掛けて、手刀を振るう────!

 

「▃▄▄▟▞▟▜▞▂▇█!!」

 

 爪の先が肉を切り裂く感覚がある。血液のような何かが喉仏から噴き出している。

 痛みに耐えかねたもう片方の首が口を大きく開き、視界の外から噛みつこうと接近してくるのがわかる。

「────ッ!」

 しばらくの戦闘でだいぶ口から炎を出すコツを掴んだ。喉元で迫り上がった炎を圧縮し、溜めて放つ火炎弾。ソレが大きく開いた口の中に直撃し、肉の焼ける匂いが鼻腔を通り抜け不快感に思わず顔を顰めて、

「攻撃の手は、緩めちゃいけない────倒すことだけを考えろ」

 おれの邪魔をしないように、外野を堰き止めてくれてる人達がいる。背中を守ってくれてる人達がいる。

 

 完全に倒すまでは油断するな。気を抜くな。コイツはまだ、立っている。

 

 羽ばたき、勢いを乗せた飛び蹴り。腹部を思いっきり蹴飛ばせば、勢いに負けて巨体がよろめくのが見える。

 このままもう一度火炎を────、

 

「────ぁ、」

 

 喉に上がる熱を意識して。口から炎を吐き出そうとした瞬間。

 ぐらり、と。大きく視界が揺らいだ。

 

 まだ戦える。まだ時間はある、そう思っていたのに。案外限界は早くに来てしまったらしい。

 意識と視界を持ち直す一瞬の間。ソレを相手は見逃すはずもなくて。

「づ────、ッ!」

 大振りに振るわれた尻尾が身体に直撃する。大きな衝撃と共におれの視界は過ぎ去って行って。

 城の残骸。瓦礫の山目掛けて吹き飛んだ。

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