P.ZZZ 虚満ちる、壊れた世界。   作:悠問追

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更新です。前の話に書いてあった輝夜ちゃんの瞳の色を深い青色から空色に変更しました。深い青色だとFairyと被るじゃんね、と今になって気づくなど。


Chapter7 『アルテミス』

 暴風が頬を撫でる。膨大な量のエーテル粒子が宙を舞っている。地響きが足裏から伝わり、内臓をこれでもかと揺らしているのがわかった。

 

【▃▄▄▟▞▟▜▞▂▇█】

 

 真横から絶望が、ホロウという形を成して迫ってくる。膨れ上がる。広がる。広がっていく。

 

【▃ン、▄▟▞▟▜▞▂▇█】

 

 知らない光景。知らない場所。知らない記憶。ノイズがかった知っている声。

 

【▃▄った▟▞▟▜▞▂▇か】

 

 その全てに包まれて。その全てを押し付けられて。私は浮遊感に吐き気を覚えながら、ソレを第三者視点で見つめていた。

 向き合う私とお兄ちゃん。両者が口を開き、会話していること自体は理解ができるのに。その会話が聞き取れない。聞き取らない。想像できない。知らない。知らないから、わからない。

 

【▃▄▄▟▞▟▜▞▂▇を】

【▃ブン▟▞▟▜▞▂▇ター?】

 

 何を見せられているんだろう。何を見ているんだろう。何を聞いているんだろう。

 今ただわかることは頭がどうしようもなく痛いことと、目の奥がどうしようもなく熱いことだけ。

 その全てから解放されたいのに、

「▇▇ら落ち着い▇▇らって言▇たんや」

「▇ンは一体▇▇なっ▇────」

【利用規約及び、条件・・・・・・他人への授権を禁止】

 知ってる声が、知らない声が、

【・・・・・・移譲または他のいかなる形での譲渡も禁止】

 私の熱を、痛みを、煽る。

【貴女様は、ご自分と該当存在の共同利益を保護するために、必要に際して充分な授権を行うことに同意する────】

「あー▇、イア▇も痙攣し▇▇▇もうとる」

『だか▇言っ▇▇ゃないか。僕▇▇で▇▇夫だって』

「▇もゆー▇ャン、▇▇チャン()ら▇かったら▇▇こまで辿り▇けんかっ▇やろ?」

 

 ────な、何。一体何のこと・・・・・・?

 

【上記の利用規約に同意しますか?】

 

 ────同意、同意する。だからもう、やめて・・・・・・。

 

【授権規約へのサイン完了。これより貴女様のサポートを開始します】

 

 ────目を覚ます。強い光が瞼を焼く。重たい身体に意識が戻ってきて、グラグラとフラつく頭を起こす。同時に駆け寄ってくる足音がいくつか聞こえてきて、瞼を開けば視界は未だにボヤけて仕方がなかった。

「リン、リン! 大丈夫かい?! 何処か身体に問題は・・・・・・」

「ん、んー・・・・・・少し体が怠いけど、大丈夫」

 呼吸が浅い。思考がおぼつかない。ええ、と。私は十二分街のホロウに入って、よくわからない場所で・・・・・・そこで手に入れたメモリーカードをイアスに挿れて、それで。

 ようやく視界がハッキリしてくる。真っ先に私の目に飛び込んだのは、不安げな表情を浮かべるお兄ちゃん。その後ろで、小さくため息を吐き出す巴さんと、何やら腰に手を当て私を見つめる輝夜ちゃん。

『はあ・・・・・・ま、軽率な行動を取ったツケでしょ。本当に大丈夫なの?』

「問題ないって〜・・・・・・もー、輝夜ちゃんも心配性だな────」

 ・・・・・・待って?

「・・・・・・・・、・・・・・・・?」

『何、人の顔ジロジロ見て。失礼だよ』

「え? や、やあ〜・・・・・・うん、え?」

 いや、いやいや。失礼だとは思うけど。ジロジロ見るのも仕方ないって。

 だって輝夜ちゃんの声は一度たりとも聞いたことはなかったし。毎回輝夜ちゃんの意思を聞くのは、巴さんの口からだった。

 それに、私が知っている輝夜ちゃんの印象とはだいぶ違う・・・・・・それこそ、百八十度違うというか────、

「・・・・・・無理もないよ。何せ、僕も彼女の豹変っぷりにはまだ驚いているし。そろそろ説明してくれても良いんじゃないかな、巴くん?」

「うん? あ〜・・・・・・リンチャンも無事起きたし、せやな。けど今いっちゃん最初に説明しないとアカンのは、そこのモニターの中に隠れとる子やろ」

 巴さんの言葉を受けて、反射的に工房の壁に視線が向く。

 鎮座してる、見慣れた無数のモニター。その中に、見慣れないモノが揺らぐのが見えた。

「・・・・・・えっ、と?」

 モニターの中の何か────ひとつの目玉、としか言いようがないソレと目が合う。その子はパチ、と数度瞬きをして、

「僕らがRandom Playに帰ってきた時、H.D.Dに表示されていたのは起動画面でね。パスワードを入力して立ち上げたと思ったら、彼女がモニターの中に現れたんだ」

『補足。それは、私をH.D.Dに組み込むための再起動・・・・・・謂わば、アップデートのようなモノです』

「H.D.Dが喋った・・・・・・」

 色々と起きすぎて状況に理解が追いつかない。私の口から漏れ出たのは、そんな素っ頓狂な言葉だった。

 けど、その声は聞いたことがある。というか、

「ついさっきまで、気を失った時に聞いてた声だ」

『肯定。私はⅢ型総順集成汎用人工知能。Fairyとお呼びください』

「・・・・・・随分と仰々しい肩書きだけど、アンタ────Fairyは、私の味方ってことで良いの?」

『はい。利用規約に則り〝その時〟が来るまで、マスターを全面的にサポートさせていただきます』

「その時とは何か、とか。利用規約って、だとか。突っ込みたいところはあることにはあるけれど・・・・・・次はこっちに突っ込む番かな。僕らは今、直面している問題が多すぎる」

 再び視線が向けられるのは巴さんと輝夜ちゃん。部屋の隅の壁に背中を預ける二人は、ゆっくりと顔を見合わせた。

「ま、次はボクらの番やろね。話して()え?」

『いーよ、僕も出てきちゃったし。〝彼女〟がリンちゃんを選んだ以上、聞く権利はある』

 輝夜ちゃんの瞳────空色に変色したそれが、私の目の奥を覗き込む。文字通り『目の色が変わった』視線は、ほんの少し居心地が悪かった。私の知ってる輝夜ちゃんの見た目なのに、雰囲気が違うからか少し威圧感があって。

 ああでも、可愛らしさは変わってない。威圧感はあるけど大人ぶりたい女の子、というか。

『ちょっと。失礼なこと考えてるでしょ』

「いえ何も」

 なんでバレたの・・・・・・そんなに私、顔に出てた?

「・・・・・・あー、本題に入らせてもらうな。まずは二人に謝らなアカンねん。隠してたこと、というか・・・・・・嘘ついてたことが幾つかあってな」

 ・・・・・・プロキシという仕事をしている以上、依頼主が私たちに話せない事がいくつかある、というのは別に珍しくはない。だから大して気にはしてないけど、何と無く『別に怒ってないよー』とか茶化せる雰囲気でもない。だから私は、黙って巴さんの話の続きを待つ。

「まずは、イアスにリンチャンが挿れたメモリーカード。アレの中身をボクは知らん、多分キャロットデータやろ、みたいな態度取ったけど。結論から言えばアレの中身は知っとった。んでもってキャロットデータや無い」

「うん、それは現状でなんとなく。Fairyだった、ってことでしょ」

「せやな。ボクらの本当の目的は『赤牙組の掃討』じゃなくて『妖精チャンが入ったメモリーカードの奪還』っちゅーことやった」

 うん、それはなんとなく理解できる。Fairyの需要性だとか、この子が彼らの手の中にあることでどういった被害を及ぼすのかはわからないけど。あのメモリーカードを機械から抜き取った瞬間に、無数の部屋を模していたホロウが元の形に戻ったことから何と無くの想像はできた。

「でもって、おねーちゃんが人間じゃなく機械人・・・・・・っちゅーのは別に隠すつもりは無かったんやけど。おねーちゃんはただの機械人と(ちゃ)う」

「というと?」

「・・・・・・おねーちゃんの中には、そこの妖精チャンの〝きょうだい〟が入っとるんよ」

 

 あの部屋の中で、あの歪な団欒の中で。突然巴さんの口から輝夜ちゃんに向かって放たれた、『ゆーチャン』という呼び名。

 そして、突然変わった輝夜ちゃんの態度。

 

「汎用人工知能。名前は────Ghost。ソレが今、おねーちゃんの身体を借りてくっ(ちゃ)べっとる子の正体やね」

 その全てに、合点が行った。

『そ。Ghost・・・・・・幽霊。だからゆーチャン、って呼び方は安直すぎる気がしないでも無いけどね。今まで隠れててごめん、あんまり人前に出るモノでも無いからさ』

「え、いやそれは全然気にして無いけど・・・・・・でも急に輝夜ちゃんが流暢に喋るから、びっくりしちゃって」

『気にして無いならじゃあこれ以上謝らなくていっか。気絶したキミの代わりに、戦いながら街に帰るルートを計算したのは僕だから。感謝し────ち、ちょっと輝夜。何? もっと言い方がある? でも全部事実だし、余計なことをしたのは────』

 ・・・・・・何やら見えないところで言い合いが繰り広げられているらしい。虚空に向かって口論を繰り広げる輝夜ちゃん・・・・・・Ghostはほんの少しだけシュールで。会話を重ねるたびにその熱量は上がっているらしく、地団駄まで踏み始めている。視界の隅で06号(れむ)ちゃんが怯えたように肩を跳ねさせているのが見えた。

「ほんでな」

「いや、待った待った」

「なん、アキラクン。話の腰折らんでもらって()え? こっからがこの話のサビやから」

「は、話のサビ・・・・・・? よくわからないけれど。Ghostと輝夜ちゃんは放置で良いのかい?」

「え、話のサビって言わん・・・・・・? ええよ、放置で。よくあることやから」

 とは言えど、激しさを増していく言い合いに巴さんも思ったところがあったらしく。『あの時は輝夜だって、』等と声をあげるGhostの頭を引っ掴み、

「・・・・・・そろそろ()え加減にせぇよ」

 酷く、いつもより低い声音でそう言った。

 一瞬の静寂。拗ねたように斜め下に逃げていくGhostの視線を最後に、二人の論争は終わりを告げたらしい。それを確認してから仕切り直すように短い咳払いを挟んだあとで、私たちに向けられた巴さんの笑顔はいつも通りのものだった。

 ・・・・・・その切り替えの早さは、街中で良く見かける子持ちのお母さんみたい。大変なんだな、巴さんも。

「ほんで、まあ。最後なんやけど」

 言いながら、Ghostの肩を抱く。その後で、勿体ぶるみたいな短い間。特徴的な巴さんの糸目が片方だけ開かれて、

「ボクらはキミらと同じ、二人と一体────んや、三人でひとりの、『アルテミス』って名前で活動してるプロキシなんよ」

「アルテミス────?」

 思わず反芻する。だって、聞き覚えのない名前だったから。

 一応、私たちもプロキシという立場上同業者のチェックはそこそこにしている。どういう人たちが居て、何をしているのか。どういう依頼を受けたのか、どういう技術を使っているのか。情報収集はプロキシ(私たち)の基本だ。

 巴さんと輝夜ちゃん、それからGhostが本当にプロキシだというのなら、受ける印象は『駆け出し』なんてモノからはかけ離れているように思える。休止期間を設けていたにしろ、私だって名前を聞いていたって不思議じゃない。

 何と無く横目に視線を向けたお兄ちゃんも、私と同じような表情を浮かべていた。

「こんな偉大で優秀そうな雰囲気放っとるのに名前を聞いたこと無いなんて、自分の無知さ加減が恥ずかしい・・・・・・みたいな顔しとるな」

「いや、そこまでは思ってないけど」

「いやいや、皆まで言うな皆まで言うな。ソレも仕方ない話なんよ」

「この人たまに人の話聞かないな・・・・・・」

 立てた人差し指をちっ、ちっ、ちっ、と横に振る動作が腹ただしい。何なんだこの人。

「ボクら『アルテミス』はな、『パエトーン』と違ってなるべく人目に触れないようにしてきたんよ。ゆーチャンのきょうだいの手がかり探るために、多方面(・・・)に接触してたからな。それこそ、真っ黒い連中にも」

「なるほど。僕ら以上に、足がついたり過度に治安官に目をつけられても困る、と言う話か」

「せやな。何を何処で誰として、どんな取引をしとるのかは解らん。けど、腕は立つ────良いも悪いも明確になっとらんヤツってのは、案外頼りやすかったらしくてな。いつでも尻尾切りできるやろうし。それなりに良い思いさせてもろたわ」

 ・・・・・・とりあえず、巴さんが吐露した全ては飲み込めた。納得もできた。けれど、

「巴さん、ひとつ良い?」

 私の中にひとつだけ、疑問が残っている。

 巴さんの視線が私に向く。ついでに、未だに拗ねた様子のGhostの視線も。私は二人の視線を受けながら、しばらく舌の上で言葉を転がして。ゆっくりと、口を開く。

「私たちに、あの時────依頼を受けた時に言ってた、『正義の味方になりたい』っていうのも、嘘だったりするの?」

「────、────」

「Fairyのことが私たちに話せなかったっていうのは何と無くわかる。厄ネタの匂いがプンプンするしね。けど、あの時巴さんが言い放ったあの言葉は、ただの隠れ蓑?」

 正直私はあの時の巴さんの言葉に、感動に近しいモノを覚えた。

 私が思っていたよりも酷い世界の現状。治安官も防衛軍も頼れず、日々勢力を増していくホロウレイダーや讃頌会。その中で巴さんは────ただ、自分の街で好き勝手している連中をどうにかして、街に平和を取り戻したい、と。私たちの目をまっすぐに見ながら言ったのだから。

 滅びが目の前に横たわる世界。一切行先が見えない世界。その中で、ちゃんと前を向いて居るんだな、と。

 面食らったように瞬きを数回繰り返す巴さん。けれど驚愕に染まった表情はすぐに笑みに変わり、

「はははは。まあ、そう思われてもしゃあないわな。ボクだって逆の立場だったらそう思う。けど、アレも紛れもない本心やで。ま、赤牙組だけじゃなく、讃頌会まで絡んどるとは思わんかったし・・・・・・こう見えて内心ヒヤヒヤしとるけど」

 ・・・・・・少しだけ、安心した。私の判断と、人を見る目は間違いじゃなかったんだなって。

「で、まあ。そこで────なんやけど」

「うん? 何? とりあえず言うだけはタダだよ」

「タダより怖いもんは無い、って言葉もありますケドモ」

 別に話聞くだけで料金取ったりしないですけど。失敬な。これは巴さんの冗談の類なのか、それとも私たちをそういう目で見ているのか。

 再び沈黙がある。今度は勿体ぶるようなモノじゃなくて、慎重に言葉を選んでいるような。何だかここに来て、私たちと巴さんは対等な立場に並べた気がした。

 相手を値踏みする、利用する────みたいな関係じゃなく。その過程を終えて、パエトーン(私たち)を認めてくれたような。

「正義の味方でありたいっちゅーのは本当。この世の中に平和を戻したい。そん為なら手ェだっていくらでも汚すし、地べただって這いずったる。・・・・・・十二分街には、ボクらはだいぶ世話になってん。だから彼処が滅茶苦茶になるんは見過ごせん。讃頌会がコトに絡んでるなら尚のこと。絶対悪いコトにしかならへんからな」

「そうだね。そこは僕も概ね同意するよ。十二分街は良い場所だ。掛け替えのないような活気があった。あそこがアイツらに滅茶苦茶にされるっていうのは、僕も嫌だよ」

「・・・・・・せやから」

 息を吸って、吐き出す。巴さんが深々と頭を下げるのと同時、Ghostもソレに習うように背中を曲げた。そこには、二人の心からの誠意が込められているように見えて。

 

「改めて、キミらに頼みがある。十二分街がこれ以上酷いことにならんように、協力してくれ。キミら二人と、妖精チャンの力が必要や」

 

 私たちに戦闘能力は無い。対讃頌会においては、私たちが役に立てることは殆ど無いだろう。

 けれど、巴さんも、Ghostも────そしてきっと、輝夜ちゃんも。こうして私たちに誠心誠意頼み込んでいる。ということは、彼らの中には今回の一件に於いて、私たちの役割や私たちと一緒に『どうにかする』ビジョンが見えて居るんだろう。

 なら、

「・・・・・・わかったよ。新エリー都を好き勝手されたく無いのは私たちも一緒。だから、ちゃんと協力する。一緒に、十二分街を取り戻そっか」




大変私ごとですが、GA文庫新人賞の一次審査通りました。やった〜!二次審査の結果は3月末に出ます。そわそわします。
超絶今更だけど、前作を文字数も話数も超えたんですね。思えば遠くまで来たもんだ(?)この話もあと4〜5話くらいで終わるかと思われます。前作で言えば感覚的にはリンちゃんがラマニアンに入ったくらいの頃合いです。起承転結の転くらいまで来ました。最後までお付き合いくだされば幸い。
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