​姉の命令で作った偽彼女が可愛いが、デート後は姉に上書きされる   作:紫糸ケイト

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君に不誠実な俺

 

 

 漣彩華さんは同じ学校の同級生だ。

別のクラスでそこまで接点があるわけじゃなかったけれど、姉さんの友達らしく、彼女が仲介として俺達を引き合わせた。

姉さんと俺の愛の証明の為に使われる可哀想な人だと思っていたけれど……。

 

「それでですね、ここでヒーローがやってきてヴィランを倒していくんです! タイミングといい登場シーンといい……完璧じゃないですか!?」

 

「漣さんは相変わらず映画好きだよね、恋愛映画とか他の映画は見ないの?」

 

「見たくない訳じゃありませんけど……私はヒーロー物が好きなので、恋愛物を見るぐらいならその時間でもっとヒーロー物の映画を見たいです」

 

 映画のシーンを語る時のキラキラとした瞳。

流されるだけでなく、しっかりと自分の"我"を持っている。

勉強も出来るし、部活である映画研究会の活躍は凄まじいらしい。

彼女は自分を地味でダメな人間だと言っているけれど、綺麗なショートカットはとても似合っているし、顔だって姉さんには負けるけれど可愛い方だと思う。

 

「それじゃ、今日はそのヒーロー物の新作でも見に行くか?」

 

「いいんですか!?」

 

「ああ、彼女を喜ばせるのが彼氏の役目だからね」

 

 姉さんの前で漣さんを好きだと言うのは辛いけれど、決して一緒にいるのが嫌な訳じゃない。

きっと、いや万が一。

あり得ない話だけど、俺に姉さんが居なければ……この人は。

 

「えへへ……相変わらず優しいですね、湊君っ!」

 

 もしかしたら、運命の人だったかもしれない。

 

 ファミレスで会計を済ませてから映画館に向かおうとすると、俺が支払うつもりだったのに漣さんはきちんと自分の分を支払っていた。

 

「俺が払うのに」

 

「恋人なんですから、対等な関係のはずですし……おごられるのは湊君を利用しているみたいで嫌なんです」

 

 言葉が胸に突き刺さる。

だけどここで表情に出すな、頑張れ俺!

 

「でも気持ちは嬉しいです、ありがとうございます」

 

 どうして姉さんはこの人を選んだのだろうか。

こんなにも純粋で……素敵な人を、俺達の隠れ蓑にする必要はなかったんじゃないか。

親の目、世間の目、俺達が双子だと知る全てを欺く為に用意された当て馬のような女性にはあまりにももったいない。

 

「それじゃあ、行こっか」

 

「はい! ヒーローが待ってますもんね!」

 

 歩いている途中、スマホにメッセージが送られてきた。

漣さんは映画の情報を調べるのに夢中だし今のうちに確認を……姉さんだ!

……何だろう、ちゃんと彼氏をやれているかどうかの確認だろうか。

それとも、やっぱりこんな事は止めるとか……!?

 

『姉弟ルールを忘れないで』

 

 メッセージの内容は俺の期待とは違った。

そこには、姉さんと決めた四つのルールが書かれている。

 

 姉弟ルールその一、俺と姉さんの関係はバレてはいけない。

その二、彼女と何をやったかは必ず報告する。

その三、彼女とした事だけ、弟は姉におねだりできる。

その四……俺と漣さんが破局したら、次は姉さんが彼氏を作ってゲーム再開。

 

 姉さんと俺で決めたルールだぞ、忘れる訳がない。

最初は二つだけだったが、いらない四つ目のルールがあるせいで俺は絶対に漣さんにフラれてはいけない。

むしろ三番目のご褒美ルールの為にも、彼女と仲良くならないといけないんだ。

  

「それにしても、心優ちゃんと湊君って本当に仲がいいですよね、私なんて妹と喧嘩ばっかりで……秘訣とかありますか?」

 

「秘訣って……姉さんと俺は本当に仲良くないんだよ、さっきは漣さんの前だから学校の時みたいな態度だったけど、家にいると寝てばっかりでズボラだし……弟をパシリとしか思ってないんだよ」

 

「そうなんですか? 心優ちゃんって優しくて可愛くて、そんな風には見えないですけど……」

 

 その通り!

漣さんの良いところは、姉さんの魅力をわかっている事だ。

頷いて彼女に同意したいけれど、もちろんそんな事をしたりしない。

 

「人は見た目じゃないって事だよ」

 

「まあでも、心優ちゃんって男子から人気ですし、たとえ内面が湊君の言っていたとおりでも」

 

「待って、それ本当?」

 

 やはりそうか。

思い返せば心当たりがあるぞ。

同じクラスのアイツもコイツも……姉さんをいやらしい目で見ていた気がする。

優しい姉さんは気にしていなかったけれど、俺が許さないぞ。

 

「ふぇ……あ、あの湊君」

 

「……あ、ご、ごめん」

 

 姉さんの事で頭がいっぱいになって、俺は漣さんの肩を掴んでいた。

あと一歩近づけば、お互いの吐息が感じられる程の距離。

目の前の彼女は顔を真っ赤にして、キョロキョロと周囲を見たり俺の顔を見て視線をずらして……あ、また俺を見た。

 

「えっと……その……」

 

 ここで押せば、キスぐらいできるかもしれない。

姉さんとキスする為、ひいては姉弟ルールその三の為にもここで漣さんとキスする事に意味はある。

そうだ、やれ。

あと一歩距離を詰めて、キスぐらい……。

 

『湊! 心優! アンタら……姉弟で何してんの!?』

 

「み、湊君?」

 

 嫌な事を思い出してしまった。

中学時代に初めて姉さんとキスをしたあの時、幸せの最高潮だったあの瞬間を母親に見られたあの一瞬がフラッシュバックしやがる。

大丈夫、目の前にいるのは漣さんだ。

キスをしても誰にも文句は言われない。

言われないはずなのに……!

 

「……姉さんが人気なんて、驚いたな」

 

「……へ?」

 

 いくじなしと笑う奴もいるだろう。

だが、キスは俺にとって幸せの証でありながら、トラウマでもあるんだ。

あの化け物を見るような目と、姉さんと引き裂かれそうになった恐怖にまた襲われるんじゃないかって……思うだけでも耐えられない。

 

「弟だから悪いところばっかり見えてるんだろうな、あはは」

 

 けれど、漣さんに悟られてはいけない。

これは俺の問題であり、彼女には関係がない。

両手で掴んだ肩を離して、腕を組んで心にもない姉さんの批判をしながらいつもどおり笑って見せるんだ。

もう誰にも疑わせたりはしない。

 

「湊君」

 

「どうした?」

 

 俺が漣さんから離れると、彼女は恥ずかしそうに、それでいて嬉しそうに。

けれどどこか安心したような温かみのある笑顔を見せていた。

 

「大切にしてくれて、ありがとうございます」

 

「大切……?」

 

「まだ恋人になって日も浅いですし、その……順序を守ってくれて……私の事を大切にしてくれてるんだなと思えたので、えへへ、言葉にするのは恥ずかしいですね」

 

 キスできる距離までいきなり詰めた俺は、勇気がなくて実行には移せなかった。

けれど、漣さんは俺の事情を知らないから別の意味としてとらえたみたいだ。

そんな笑顔を見せないでくれ。

俺はそんなつもりじゃなかったんだ。

 

「またいつか、私から湊君にその……あわわ……わ、私ってば何を言っているのでしょうか! ちょっとお手洗いに行ってきます!」

 

「ちょ、漣さん!?」

 

 俺は目をグルグルにして走っていった彼女の背中を見ている事しか出来なかった。

この関係が始まる前の俺ならば、俺の悪意と欲望にまみれた動機をうまく勘違いしてくれて良かったと喜んだかもしれない。

もしかしたら、キス出来なかった事にイラついて舌打ちをしていたかもしれない。

だけど俺は今……そうは思えなかった。

 

「俺って……最低だな」

 

 姉さんにも漣さんにも不誠実なこの状況で、俺に見せてくれたポジティブなあの笑顔はあまりにも眩しすぎたんだ。

 

 

 

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