​姉の命令で作った偽彼女が可愛いが、デート後は姉に上書きされる   作:紫糸ケイト

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君のヒーロー

 

 

 俺の住む場所はそこまで田舎という訳じゃないが、ハッキリ言って確実に都会ではない。

だいたいの物はあるけれど、無いものを探せばいくらでも出てくるしネットで流行りの物は確実に手に入らない。

まあ今のご時世ネット通販とかもあるし、地元は生活するのに困る程過ごしにくい訳じゃないから、俺はこの町が気に入っている。

 

「相変わらずすごい人の量ですね、やはり田舎ですから、こういう大きなショッピングモールぐらいしか行く所がないのでしょうか」

 

「まあこの町で行ける所は殆どないもんな、海はあるけどまだ時期じゃないし……後は神社ぐらいか?」

 

「ゴールデンウィークに神社は行かないでしょうし、きっとこの町の人口の半分はここに来ていると思います!」

 

 半分て、それは言い過ぎだろう。

気持ちはわからなくないけれどね。

混んでいるけれど、歩いていて肩がぶつかるような混みかたじゃないし、きっとこれでも都会よりはマシなんだろう。

渋谷とかの映像をテレビで見た事はあるが、アレと比べたら全然マシだ。

 

「見てください、あれ!」

 

 漣さんが目をキラキラさせて指差す先に視線を向けると、三階建てのこのショッピングモールの一番高い吹き抜けの天井からは様々な広告が吊るされている中のどれを見ているのかが一目で分かった。

 

「マスクドライバー"プラネット"の広告があります!」

 

 全身が宇宙をイメージした黒色とそこに輝く星々をかたどった大小無数のデザインのスーツを着た、少し前から放送がスタートした新しいヒーローがでかでかと中央を陣取っている。

奇抜なデザインだけど、俺が一番気にしてるのはあのヒーローの車だ。

黒塗りの外車て……絶対にあれからヒーローが出てくるとは思えないんだけど。

 

「ニチアサのヒーローも好きなんだっけ?」

 

「むむむ……湊君、さては今日曜朝の子供向け番組だと思いましたね?」

 

 隣にいる彼女は俺をじとーっと見てから、スマホに色々な写真や情報を送ってくる。

一話目の感想に必殺技のポーズ………どれだけ保存されてるんだ!?

 

「いいですか湊君、最近のニチアサはすごいんですよ! まずヒーローの設定はとても凝っていますし、大人から子供まで楽しめるのに、考えさせられる内容の話とかも……」

 

 まずい、漣さんのスイッチが映画を見る前なのに完全に入ってしまった。

彼女の唯一の欠点、いや誰しも熱中する物はあるだろうし、それに夢中になるのは仕方ない事だとは思うけれど……ヒーローについて語り出すと止まらない事だ。

普段学校では大人しい女子としか思われていない彼女だが、もし他のクラスメイトが今の漣さんを見たら確実に驚いて飛び出した目玉が帰ってこないだろう。

 

「そもそも今回のマスクドライバーはヴィランを絶対的な悪として捉えず、敵だからと言って全て倒そうとはしていなくて……」

 

 しかし、ヒーロー……正義の味方か。

俺と姉さんが漣さんにしている事がバレてしまったら、俺はきっと彼女に退治されるヴィラン側でしかない。

どんなに心が広い人でも、君にしている事は完全な悪でしかないんだから、ちょっぴりヒーローオタクな彼女には申し訳ないが、今はヒーローの気持ちは理解したくない。

 

「……ハッ! わ、私ってば、つい夢中になってしまいました」

 

「映画研究会でもそこまでテンション上がってる漣さんは見ないし、ヒーロー物がよっぽど好きなんだな」

 

「うぅ……見ないで下さい……」

 

 モールの中には四角のカラフルな椅子がいくつか置かれていて、そこには観葉植物も飾られているが、天井から降り注ぐ人工的な光をゆるやかに反射するそれの後ろに漣さんは隠れてしまった。

いやうん、いくら彼女が小柄だといえまったく隠れられてない。

特にこの細い幹と少量の葉っぱしかないこの植物の後ろじゃ……子供だとしても無理だろう。

 

「昨日の夜に妹から何度も注意されたのに……やっちゃった……」

 

「ヒーロー物が好きなのは知ってたから大丈夫、気にしてない」

 

「私が気にするんです!」

 

 うるうるとした瞳からは、いつ涙が流れ出てもおかしくないだろう。

しかしまぁ、よくここまで俺の予想を裏切り続けるな。

大人しい人だと姉さんから聞いていたが、プライベートじゃ違うみたいだし、ヒーローが好きと言うよりももはやオタクと言う表現の方が正しいかもしれない。

 

「これでフラれたら……妹になんて説明すれば……」

 

 だがこの裏切りは、別に嫌な物じゃない。

姉さんのように常に魅力を振り撒き、ドキドキさせられつつも隣にいたいと思えるような……魔性と呼ぶべき力は無いけれど、このギャップは姉さんには一歩及ばないがとても可愛いと感じてしまう。

このままもう少しいじめてもいいだろうかと一瞬だけ考えたが、俺の中に残っていた良心がそれを押さえ込む。

 

「フったりしないって、大丈夫」

 

「ほ、本当……ですか?」

 

 もし俺が普通の彼氏なら、涙を流す女の子に酷い事をするなんてヴィランのやる事だ、と軽口を叩いていたかもしれない。

だが、完全なヴィランでしかない俺にはそんな言葉は重すぎる。

 

「むしろ彼女の学校じゃ見せない姿が見られて嬉しいよ」

 

「ふぎゅっ!?」

 

 俺は姉さんの全てを知っているつもりだ。

逆を言えばこんなギャップに驚かされる事は無い訳で、姉さんと出かける時には劣るが……楽しいな。

さっきまで泣きそうになっていたのに、今じゃ顔を真っ赤にしてあたふたしてるし……フフッ。

 

「学校では内緒で……お願いします」

 

「わかってるよ、漣さん」

 

「やっちゃったなぁ……」

 

 少し落ち込む彼女と共にモールの中の三階にあるシネマについた。

五分程度しか歩いていないが、隣を歩いていた彼女は少し後ろに下がって俺についてくるようになり、彼女を見ると顔を真っ赤にして視線をスマホに向け、チラチラと俺を見ているような状態で、会話はあまり弾まなかった。

 

「えーっと、上映スケジュールは……お、あと10分後だってさ」

 

 チケットを買う為にタッチパネルから座席表を見てみると、流石ゴールデンウィーク、殆どの席が埋まっている。

中央は埋まって……ん、なんだこれ。

二人並びの座席を探していると、シアター中央にある三つの席の空席を見つけた。

何故かここは他と違って隣の席と間隔にゆとりがあるけれど、値段も高い。

詳細を確認すると、この席の名前はカップルシート……ああ、成る程な。

 

「漣さん、座席なんだけど……結構混んでるんだよね」

 

「えっ……あ、本当ですね」

 

 正直……このデートは何も起こってなさすぎると思う。

今晩姉さんにデートで何をしたかとか、姉さんとする為に漣さんとこんな事をしたんだと、俺が姉さんを"諦めずに愛している"事をこのままじゃ証明できない。

けれど、漣さんは俺から距離を詰めると逆に距離を感じる反応をする訳で、破局する事だけは絶対に避けなければならない事情があることを考えたとしても……ここは少しでも攻めないと!

 

「ここのカップルシートなら空いてま」

 

「ここ空いてますね!」

 

 俺の言葉は目をキラキラさせた漣さんによって遮られ、俺が確認出来ていなかった端側の二つならびの席に、彼女の指がのびていた。

タッチした画面はこの座席で大丈夫かどうかの確認に進んでいる。

一刻も早く入りたいと目で語る彼女にとてもじゃないがカップルシートがあるから戻ってくれと言う事は……出来るだろうけど、やりにくい。

 

 いやしかし、しかしだ。

ここでこのカップルシートを使って映画が見られれば……姉さんと使えるんだぞ。

 

「漣さん、せっかくだしカップルシート使わないか?」

 

「カップルシート? カップル、シート……かっ、かかカップルシートですか!?」

 

 理解するの遅っ!

 

「ほら、俺達の初デートを記念して」

 

「あぅ……湊君がそう言うなら……あ、待って下さい」

 

 彼女は料金表をじっと見ている。

上に書かれたカップルシートの料金を見て、一般席の料金を見て、「うーん……」となんとも分かりやすく悩んでいる。

カップルシートの相場は知らないが五千円という値段は高校生には少し高いかもしれない。

彼女はもしかしたら……あんまりお金持ってきてないとか?

 

「一般席なら千五百円ですし、そっちにしませんか?」

 

 やはりそうだ、間違いない。

俺にとっても痛い出費だが、五千円で姉さんとの暗闇でイチャイチャ映画デートができるなら安いもんだ、お釣りがくる。

 

「俺から誘ったんだし、俺が出すからどうかな?」

 

「……わかりました」

 

 よーっし!

姉さんとの映画デート券を手に入れ……。

 

「ならそのお金は残しておいて下さい」

 

「はぇ?」

 

「ここでカップルシートを使うのはとても素敵な提案ですし、思い出に残るかもしれませんが、こんな事を続けていては湊君のお財布がもたないと思うんです」

 

 手入れられてない!

やばい、めちゃくちゃ正論で返されてるんですけど。

どうすんのこれ、漣さんが言うとおりバイトが禁止の高校に通う俺達からすればお金はとても大切……!

これをひっくり返す方法は……。

 

「私は湊君と一緒にいられるだけで幸せですから、特別な物はいりません、そのお金はまた……その、次のデートの時に回して下さい」

 

 真っ直ぐに、俺の不純な動機からくる提案は拒否された。

だがそれには悪意は一切無くて、言い終わった後すぐに真っ赤になってキョロキョロしたり、落ち着かない様子を見せている。

きっとさっきの真剣な顔は、俺の心配をしつつ気を遣ってくれたのだろう。

 

「ああ……そうだな、次のデートの時に電車代も無いじゃカッコつかないもんな」

 

「私は湊君と……その、いろんな思い出が作りたいです」

 

 とても素敵で、真っ直ぐで、汚れ一つない想いだ。

だけど……だけど……!

俺と姉さんのカップルシートに座ってイチャイチャ映画鑑賞デートの未来が……ああ、無くなってしまった。

文句の一つでも言ってやりたいが……うん、楽しそうにしてる彼女に言う事じゃないだろう。

 

「楽しみ……だな」

 

「はい! あ、私マスクドライバーグッズのついたコラボポップコーン買ってきますね」

 

 はぁ……姉さんなら、言わずともカップルシートを選んでくれたんだろうなぁ……。

お金はまぁ、俺持ちだったろうけどね。

 

 

 

 

 

 

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