姉の命令で作った偽彼女が可愛いが、デート後は姉に上書きされる 作:紫糸ケイト
「よ、寝坊男!」
姉さんと漣さんが他の女友達グループの所に行った後で、俺の席にニヤニヤと笑いながら中学からの友達がやってきた。
「寝坊したんじゃない、俺よりも朝の方が早く起きただけだ」
「なるほどなるほど、それは納得……いやできねーよ?」
むかつく顔を見ないように視線を逸らしていたが、目の前にやってきてそれを封じられて……コイツ、許せねぇ。
何が許せないって……そりゃ……。
「つーか遊も朝弱かっただろうが、何で遅刻同盟裏切ってんだよ」
「ふっふっふ、俺は成長してるって事だ! お前と違ってな!」
高校デビューしてやるから見ていろと大見得を切り、似合っていない茶色に染めた髪を揺らし、それを手で掻き分けている姿はとてもじゃないが見ていられない。
中学時代の坊主姿に慣れている俺にはどうしても、コイツがカツラをかぶっているんじゃないかと思えて仕方ないんだよ。
「今日もしっかりひっついてんな、それ」
「だからカツラじゃないって言ってるでしょうが!」
「モテたいならそこじゃないだろ、何で野球を捨てて高校でいきなり映画研究会に入ったりしてんだよ、高校こそ野球だろ? 一年の頃からずっと映画研究会だけど、お前って映画好きだったっけ?」
「……正論はコミュニケーションには必要ないって、俺は信じてるんだけど、お前はどう? あと俺は映画好きだからな?」
そんな訳のわからない事考えないっての。
いや確かに正論だけじゃ会話は成り立たないかもしれないけどさ、仮にもこの学校じゃ誰よりも友人としての歴が長いんだから、俺が言ってやるべきだろ?
俺が悪いみたいに言うな、むしろ感謝しろ。
「この場合は必要だな、何回言ってもその間違った方向で突っ走ってるから無駄かもしれないけど」
「間違ったって……はぁ、何でお前は帰宅部のくせに彼女がいるんだよ」
「少なくとも部活は関係ないだろ、何部に入っていても変わらん」
「さっきと言ってる事違くないか!?」
俺はコイツ、秋元(あきもと)遊(ゆう)が友達として大好きだ。
ノリもいいし、お互いに触れてはいけない事も分かっている。
適度にふざけあって、くだらない話をして、一緒に遊ぶ。
そんな理想の友達であるコイツの事は、絶対に口では言わないけれど親友だと思っている。
「てか、何で漣さんにしたんだ? 人の彼女にケチをつけるつもりはないけど……地味っていうか、あんまり目立たない人だし、接点ないだろ?」
「地味……かぁ」
本当の理由を知ったら、コイツはどんなリアクションをするだろうか。
あと確かに漣さんは地味かもしれないけど、普通に可愛いだろうが!
ったく、目の付け所が悪すぎるんだよなぁ……。
「映画研究会の漣さんは確かに細かい所まで映画を見ててすげえなって思うけどよ、あの人ただ映画を解析してるだけっていうか……楽しんでないような気がすんだよ」
コイツ何も分かってないじゃん。
漣さんは……ハァ、言っても無駄だろうし、いいや。
しかし理由か、どう答えるのがいいんだろうか。
元々俺を良く思ってくれていたらしいが、選んだのは姉さんであり、俺の意思として漣さんに告白したけれどそれは姉さんが決めた人だったからだし……。
「……そうだな、可愛いし面白いから」
「面白い? え、あの人が?」
そういや学校じゃ秘密にするって約束してたっけ。
流石に全部話す事は出来ないけれど……うーん。
「人は見た目じゃないって事だよ、だからそのカツラを外して坊主で戦え」
「あれ、この会話無限ループしない?」
姉さんは漣さんを可愛いと言っているし、俺もそう思っている。
だが...…何故他の人は漣さんを可愛いと言わないのだろうか。
コイツが頭悪いだけ、いや見る目が無いだけだろうか?
「漣さんはな、特別なんだよ」
「特別……ねぇ、俺にはわかんねぇや、あ、もう喋らなくていいからな、お腹いっぱいだから」
神様、今だけはコイツを一発ぶん殴っても許されますよね?
自分から話をふっておいて……世が世なら打首になっててもおかしくないんだぞ。
「そういや次の現代文の漢字テストの範囲ってどのページだったっけ」
「……ハァ、四十二ページから五十二ページだよ」
「え、ちょ範囲広くね!? お前俺に範囲広いよって教えた?」
「そこまで面倒見られるかボケ! さっさと詰め込めるだけ詰め込め!」
早速天罰を下してくれたんですね、神様ありがとう!
慌てて自席に戻ってノートとテキストを開いているバカを見ながら飲むお茶は……たまらなく旨いな。
さてと、俺も一応復習しておくか。
姉さんにいいところ、見せてやる!
小テストも無事に終わり、つまらない授業が流れている。
この間にやる事は決まっている。
しっかりと話を聞く、なんて無駄な事はしなくていいぞ?
ここでしか見られない姉さんがいるんだ。
ペンを持って、黒板に書かれた物を綺麗にノートに書いていく姉さん。
先生に当てられて、読み上げる姉さん。
真面目に授業を受ける姉さん。
はぁ、可愛い。
あの横顔を眺める為に俺は毎日学校に来ていると言っても過言じゃ……あ。
姉さんと目が合った。
クスッと笑って、ウインクをしながらペンで黒板を指している。
可愛い、最高に可愛い!
やっぱり姉さんが一番……。
「夢山の弟! 次お前だぞ、読み上げて」
「え、俺ですか?」
「聞いてなかったのか?」
「あ、いや……えーっと」
っべぇ、聞いてないっての。
お前の話より姉さんの横顔の方が大切に決まってるだろうが!
と、言いたい所だがそれは置いておこう。
マジでわからん、どこだ、多分このページの……えーっと。
「み、湊君……ここだよ」
後ろから肩を叩かれて、漣さんが教科書の一文を指差して教えてくれた。
ナイスです、漣さん!
絶対に俺が聞いていないだろうと思って俺を指した先生は少し不服そうな顔をして、俺が読み上げるのを聞いてから鼻を鳴らして黒板に続きを書き始めて……ふぅ、なんとか危機が去った。
「ありがとな、漣さん」
「眠くてもボーッとしてたらダメですよ、ぷんすか……なんちゃって、えへへ」
少しだけ頬を膨らませて笑う彼女は、とても可愛かったけれど……うーん、この人普通に可愛いよな。
姉さんの言う通りだし、俺もそれは確信してる。
何でアイツは地味とか……ハァ、考えすぎか?
って、ヤバ……さっき姉さんと目があってたから……さっきのも見られて……。
でも嫉妬した姉さんの顔が見られるなら、後で謝る価値はある!
そう思ってもう一度姉さんを見ると、そこにはまるで気にしていないと言わんばかりの笑顔を見せる彼女がいた。
そして俺の視線に気付いてから、舌を出していたずらっぽく笑って……彼女が黒板に視線を戻す時には冷たい表情になってしまっていた。