加筆修正したので終章のネタバレが少しあるかもしれません。
ネタバレ嫌いな人は終章をクリアしてから読んでください。
後書きも加筆しています。
第1話 プロローグ
藤丸が目を覚ますと、そこは見慣れた天井だった。
カルデアのマイルーム。
「先輩……! 目を覚ましたんですね」
声のした方を見ると、マシュがほっとした表情でこちらを見ている。
その顔を見た瞬間、胸の奥に溜まっていたものが、すっと抜けた。
藤丸はゆっくりと身を起こし、記憶を辿る。
「おはよう、マシュ。えっと……確か、南極に着いて……戦って……」
言葉が途切れ、藤丸は唸るように額に手を当てた。
「……あ」
最後に浮かんだのは、落ちていく所長に手を伸ばした光景。
「所長は……! オルガマリー所長は!?」
思わず声を上げる藤丸に、マシュが答えようとした、その時だった。
扉が開く。
「そんなに大声を出さなくても、ちゃんとここにいるわよ」
「所長!」
藤丸は、思わず笑顔でその名を呼んだ。
「起きたのね、藤丸。体に異常はない?」
「はい! 所長を持ち上げた右肩がちょっと痛いですけど、他はバッチリです!」
「そういう余計なことは言わなくていいの!」
ぴしっと言い返した後、所長は咳払いをして続ける。
「とにかく大丈夫なら、管制室に来なさい。カルデアの現状を説明するわ」
「分かりました。すぐ行きます」
「じゃあ、先に待ってるわね」
そう言って出て行こうとした所長は、扉の前でふと足を止めた。
背中を向けたまま、少し間を置いて――小さく言う。
「……藤丸。それに、マシュも」
一拍。
「その、助けてくれて、ありがとう」
それだけ告げて、扉は閉じられた。
藤丸とマシュは、顔を見合わせて、静かに笑った。
着替えて管制室へ向かうと、そこには見慣れた顔ぶれが揃っていた。
ダ・ヴィンチちゃん、ゴルドルフ司令官、シオン、ムニエルをはじめとするカルデア職員たち。
そして、オルガマリー所長。
「やぁやぁ、待っていたよ藤丸くん!」
ダ・ヴィンチちゃんが、いつもの調子で声をかけてくる。
「では早速、現在のカルデアの状況を説明します」
前に出たシオンが、真剣な表情で口を開いた。
「私たちノウム・カルデアは、南極での戦闘の末、カルデアスの制御奪還に成功しました。白紙化地球は元に戻っています。……ですが、問題が発生しました」
「問題?」
藤丸の問いに、今度はダ・ヴィンチちゃんが続ける。
「ああ。以前、シオンが言っていた白紙化地球と実際の地球の“時間のズレ”の話だよ」
藤丸が頷く。
「それが、現実になってしまった。今の地球は――西暦2094年だ」
「……2094年」
藤丸は、その数字をぼんやりと反芻した。
「申し訳ありません、藤丸さん」
シオンが深く頭を下げる。
「予測ができていたのに、防ぐことができませんでした。これは私の落ち度です」
「シオン、顔を上げて」
藤丸は、真っ直ぐシオンの目を見る。
「正直、今が2094年って言われても、あんまり実感はない」
一度、言葉を区切って。
「でも、こうして皆で集まれた。それが嬉しいから、それで十分だよ」
「……藤丸」
所長が、少しだけ表情を曇らせた。
「それで、カルデアはこれからどうするの?」
重くなりかけた空気を払うように、藤丸が尋ねる。
「現在は外部の状況確認を進めているよ。この世界では、魔術じゃなく“魔法”と呼ばれる別の法則が主流らしい。カルデアの方針としては――」
ダ・ヴィンチちゃんが言葉を切り、ゴルドルフ司令官を見る。
「あー……ゴホン!」
一拍置いて、司令官は声を張り上げた。
「とりあえずは休暇だ! 休暇! あれだけ働いたんだ、しばらくは休むべきだ!私もゆっくり休みたい!」
「藤丸もマシュも、しっかりと英気を養いたまえ」
「「はい! 分かりました!」」
「うんうん。それじゃ今日は解散。また分かったことがあれば声をかけるよ」
そうして会議は終わり、藤丸はマイルームへ戻る。
廊下の途中、壁に背を預け腕を組んだ男がいた。
「どうしたんですか? ギルガメッシュ王」
「今日は別れを告げに来た」
「別れ……ですか?」
「そうだ。本来、我ら英霊は人理の危機に応じて呼び出される存在。修復された今、ここに留まる理由はない」
淡々と告げる。
「既に何人かは退去している」
「……」
藤丸は、少しだけ寂しそうに目を伏せた。
「そんな顔をするな、藤丸。本来、我らは長居するものではない」
一瞬だけ視線を逸らし、続ける。
「もっとも……一部の物好きは残るようだがな。時代も代わり不便だろう。そういう連中は、存分にこき使ってやれ」
「ではな。せいぜい平凡な生活を楽しめよ――“雑種”」
そう言い残し、キャスターのギルガメッシュは廊下の奥へ消えた。
「……今まで、ありがとうございました」
藤丸は深く頭を下げた。
マイルームに戻ると、ソファにくつろぐ影があった。
「……なんでいるの。オベロンは帰らないの?」
「開口一番それ? せっかく傷心中のマスターを慰めようと思ってたのに」
オベロンは楽しそうに笑う。
「俺の前くらい、強がりやめなよ?」
「オベロンの前で強がったことないけど?」
「うっわこいつ。――本当は分かってるんだろ?」
笑顔のまま、言葉が刺さる。
「もう、家族や友達には会えないって」
「……」
藤丸は黙ってオベロンを見つめた。
「世界は酷いよね。世界を救った英雄様を、こんな扱いだ」
一拍。
「で? その英雄様は、どう思う?」
「……それでも、所長もマシュも、皆でこの世界に帰れた」
藤丸は静かに答える。
「それで、俺は満足だよ」
「はっ。優等生な回答、ありがとう〜」
オベロンは鼻で笑い、扉を開けた。
「じゃあ、新しい世界でせいぜい頑張りなよ。“英雄様”」
扉が閉まり、部屋に静寂が戻る。
藤丸は一人、立ち尽くしていた。
それから数日後
藤丸とマシュはダ・ヴィンチちゃんに呼び出されていた。
「さて藤丸くん、マシュ。今回の要件はね――学校だ」
「……学校?」
藤丸が聞き返すと、ダ・ヴィンチちゃんは楽しそうに頷いた。
「人理修復で、ろくに学校に通えなかっただろう? それにマシュも、一度ちゃんと一般生活を送るべきだと思ってね」
「でも、俺もマシュもこの時代に戸籍とかないよね? 大丈夫なの?」
「はい、提案は嬉しいですが……色々と問題があるかと……」
マシュも慎重に頷く。
ダ・ヴィンチちゃんは胸を張って言った。
「その辺は任せなさい。ここに天才がいるんだ。……と言っても、私がやるわけじゃないんだけどね」
「え?」
そこへ、すっと一歩前に出た影があった。
「ここで私の出番です」
現れたのは――BBドバイだった。
「この時代は電子化が進んでますからね。いくらセキュリティが高くても、私のようなスーパーAIの前では無力です。ちょっこっとデータを改竄するだけで戸籍ゲットです☆」
「BBドバイ!? 残ってたんだ」
藤丸は思わず声を上げる。
「BBも岸波先輩も退去したから、君も退去したと思ってた」
「むぅ、ひどいですね。……まあいいでしょう」
BBドバイは頬を膨らませてから、わざとらしく咳払いをした。
「私も退去は考えてましたよ? ですがせっかく世界を救ったのに、変な時代に飛ばされて生きるのに大変! なんてひどい話ですから」
それから、少しだけ声を落とす。
「でも。私たちAIを“友”と呼んでくれたあなたが、不便なく生活を送れるようにするのが……サポートAI、いえ――友としての筋だと思いましたから」
「BBちゃん……ありがとう」
「ありがとうございます」
藤丸とマシュは揃って頭を下げた。
「はいはい、もっと感謝してくれても良いんですよ?」
BBドバイが胸を張って自信満々に言う。
ダ・ヴィンチちゃんが、話を元に戻す。
「まあそういうわけで、細かいことは君たちが心配しなくていい。それでどうだい? 学校、通ってみるかい?」
「うん! 通ってみたい」
「私も、ぜひお願いします」
二人の返事は、迷いがなかった。
「よし。じゃあ、学校へ行く前に注意事項を説明しておこうか」
ダ・ヴィンチちゃんの声が、少しだけ真面目になる。
「まず、サーヴァントの扱いについて。分かっていると思うけど、サーヴァントの存在は秘密にするんだよ」
「うん」
「現代の計測器ではサーヴァントを観測する技術はない。だから人前で霊体化したり解除したりしなければ、よほど大丈夫だろう。でも――」
指を一本立てる。
「人理漂白の影響で、現代の“神秘”はかなり薄くなっている。サーヴァントの長時間実体化は、マスターである藤丸くんの負担が大きくなるはずだ」
「護衛のサーヴァントは二人つけるけど、以前の感覚で使ったら倒れる。気をつけて」
「うん分かった。気をつける」
マシュも真剣に頷く。
「そして最後に――一番重要なことだ」
「「重要なこと?」」
二人が同時に首を傾げる。
ダ・ヴィンチちゃんは、にっこり笑って言い切った。
「――勉強だ。現代の“魔法”と呼ばれる技術について。あと現代史もね」
「ええ〜……」
藤丸が露骨に嫌そうな声を出す。
「はいそこ、文句言わない。学校に行くんだから勉強はしないと。学生の本文は勉強だよ」
「先輩、私も頑張りますから。一緒に頑張りましょう」
マシュが励ますと、藤丸は観念したように肩を落とす。
「……がんばります」
「よし。じゃあ最後に、所長から一言もらっておこうか」
そう言ってダ・ヴィンチちゃんが視線を向けると――扉が開いた。
現れたのは、オルガマリー・アニムスフィア所長だった。
「藤丸、マシュ。先に言うわ」
所長は一歩進み、深く頭を下げる。
「……ごめんなさい」
「えっと、あの……?」
藤丸とマシュは、理由が分からず困惑した。
所長は顔を上げないまま、続ける。
「私たちカルデアのせいで、あなたたちの人生はめちゃくちゃになってしまった。マシュにはまともな人生を送らせてあげられなかったし、藤丸には元の生活に返してあげることもできなかった」
沈黙が落ちる。
その沈黙を、マシュが静かに破った。
「顔を上げてください、所長」
マシュはまっすぐに言う。
「私は、そもそもカルデアがなければ生まれることすらなかったんです。それに先輩とも会えました。確かに“まともな生活”とは言えないかもしれません。でも――」
マシュは胸に手を当て、微笑んだ。
「私は、今の自分の人生が幸せだと。そう自信を持って言えます」
藤丸も頷く。
「俺もです、所長。帰る場所はなくなっちゃいましたけど……今は新しく帰る場所ができました」
藤丸は、少しだけ照れくさそうに笑う。
「ここ、ノウム・カルデアが――今、俺がいるべき場所です。それに、人理焼却も人理漂白も所長のせいじゃない。所長が気に病むことじゃないですよ」
所長は、顔を上げた。
「ありがとう、二人とも」
一度だけ目を閉じて、呼吸を整える。
そして目を開けると、真剣な表情で宣言した。
「藤丸! マシュ! 所長からの命令よ!」
力強い声で続ける。
「学校生活を、しっかり楽しむこと。……いいわね?」
「「はい!」」
二人は元気よく返事をした。
こうして、二人の新しい生活が幕を開けようとしていた。
作者はハピエン厨です。
悲しい別れとか大嫌いだ。意地でも死に別れなんかするもんか。
なので皆んなで生還しています。
オベロンのエミュ難しい