魔法科高校の帰還者   作:テトマト

10 / 32
年末なので2話投稿してます。
前話読んでない人は気を付けてください。
それでは良いお年を


第10話

「分かりました。引き受けます」

 

藤丸は一拍置いてから口を開いた。

「……模擬戦って、どんな形で?」

 

十文字会頭は即答する。

「先程と同じだ。——こちらは俺が相手をする」

 

「十文字くんが!?」

七草会長が思わず声を上げた。

 

「俺が提案した。俺がやるべきだろう」

 

渡辺先輩が短く釘を刺す。

「やり過ぎるな。双方ともだ」

 

「分かっている」

十文字会頭が頷く。

 

藤丸は苦笑して、肩をすくめた。

「……分かりました。やります。ですが、一ついいですか」

 

「どうした」

十文字会頭が目を細める。

 

「“開始前の魔法発動は禁止”ってルールがありますよね」

 

藤丸は言葉を選びながら、ダ・ヴィンチとの会話を思い出す。

 

『英霊召喚は、現代魔法から見たら異物だ。この時代は神秘が薄い。召喚そのものが難しいのに、人を呼ぶなんて確実に騒ぎになる。

それにサーヴァントは、現代の計測器じゃ観測できない。霊体化の解除を見られたら、透明人間だの何だのって大騒ぎさ』

 

『要は、人前で使わなければいいんでしょ?』

 

藤丸が「分かってる」と言わんばかりに返すと、

 

『ああ、そうだとも。でも君は、誰かのピンチだとか騒ぎに必ず首を突っ込むだろう?』

 

『えっと……』

 

藤丸は言葉を詰まらせた。しない、なんて断言できなかったからだ。

 

『まあ、それが君の美点でもある。そこで考えたのは——“魔法を使う”ことだ』

 

『魔法を使う?』

 

『ああ。サーヴァントは霊体化を解除した時、現代の計測器じゃ観測できないって言っただろう? なら、あえて“観測できる形”を作る』

 

『?』

 

『つまり、偽装魔法を先に展開して“魔法を発動させた事実”を作っておく。

そうすれば「認識できない変な現象」から、「観測できる召喚魔法」になるんだ。まあ、それでもバレたら面倒だけどね。

——ということで藤丸くん、この魔法を覚えてもらうよ』

 

藤丸は小さく瞬きをして、目の前の十文字会頭へ視線を戻して言った。

「俺の古式魔法は……発動というより、待機状態に近いんです」

 

十文字会頭は数秒考えて、頷く。

「ふむ。なるほど」

 

それから淡々と言った。

「では、俺が障壁を張る。それに“攻撃”をしてみせろ。外へは漏らさない」

 

「それなら、問題ありません」

 

七草会長が半分呆れたように笑う。

「決まりね……。藤丸くん、ほんとに大丈夫?」

 

藤丸は短く、はっきり言った。

「大丈夫です。……でも、やるならちゃんとやります」

 

「先輩なら問題ありません」

マシュが自信満々に言う。

 

その言葉に藤丸は苦笑して、視線を落とした。

「……ありがと」

 

そして、胸の奥で短く念じる。

(メリュジーヌ。起きてる?)

 

(うん、話は聞いてたよ)

 

(できれば姿を現さずに攻撃してほしいんだけど、できる?)

 

(僕を誰だと思ってるの? 最強種だよ? 僕のスピード舐めないでよね)

 

念話でのやり取りの最中、準備を終えた十文字会頭が一歩前へ出た。

「準備はいいか」

 

「はい」

藤丸は短く頷く。

 

「では——」

十文字会頭がCADを操作する。

サイオンの流れが、部屋の空気をまっすぐ撫でた。

 

“何もないはずの場所”に、境界だけが立ち上がる。

見えるというより、そこから先が「違う」と分かる感触。

 

「障壁はこれだ。外へは漏らさない。遠慮はいらない」

 

淡々とした声。だが、その言葉には揺るがない確信がある。

 

その時、市原先輩がぼそりと独り言みたいに口を開いた。

「……十文字家は、障壁の“ファランクス”で有名な一族です。ファランクスそのものではありませんが……それでも、かなり強固な障壁です」

 

藤丸は一度だけ息を吸って、吐く。

(落ち着け。これは“攻撃するだけ”。戦う必要はない)

 

それでも、体の奥が勝手に戦闘の手順を思い出そうとする。

“日常”のはずだった。なのに、気づけばこういう場所に立っている。

 

「じゃあ……」

藤丸は軽く手を上げる。

 

手首のリストバンド型CADに指を添えた。

見た目は市販の汎用。操作も、周りと同じ仕草でいい。

 

“偽装用の型”をなぞるだけ。痕跡を、ここに残せばいい。

 

(メリュジーヌ。やりすぎないでね)

(りょーかい)

 

返事だけはやけに軽い。

 

次の瞬間——

空気が、鳴った。

 

音じゃない。部屋の“密度”が一段だけ変わる。

 

藤丸の指がリストCADの表面を滑り、わざとらしいほど丁寧に操作をなぞる。

この魔法は偽装用だ。魔法そのものに効果はない。だからこそ、藤丸でも即座に起動できる。

 

後はメリュジーヌとタイミングを合わせるだけ。だが藤丸は歴戦のマスターだ。サーヴァントと息を合わせるなんて、魔法を使うより簡単だ。

 

十文字会頭の前——“何もないはずの場所”が、わずかに歪んだ。

 

「……来い」

十文字会頭が低く言う。構えは崩さない。

だが視線が、見えない一点に固定される。

 

達也も同じだった。

精霊の眼で“何か”を捉えたように、瞬きが一つ止まる。

 

——そこだけ、世界の温度が変わった。

霊体の気配が、ほんの一拍、重くなる。

 

次の瞬間、メリュジーヌが“解けた”。

 

目に映ったのは、たった一瞬の人影。

白銀の輪郭が、光ではなく「圧」で浮かぶ。

 

見えたのは、相対している十文字会頭と——達也だけだった。

 

「……っ」

七草会長が息を呑む。

 

そして。

刃が走った。

 

派手な閃光はない。音も最小限。

ただ、境界だけが“二つに割れる”。

 

見えないはずの障壁が裂けた——その事実だけが、空気に残る。

 

沈黙。

 

「…………」

十文字会頭の眉が、ほんのわずかに動く。

 

達也は目を細めたまま、藤丸の手首——CADの動きと、いま起きた現象のズレを無言で見比べている。

 

藤丸はふぅと息を吐いて、構えを解いた。

「……当たりました」

 

背後で、霊体がまた薄くなる気配。

 

(……これでいい?)

だるそうな声が伝わってくる。

 

(うん、ありがとう)

藤丸が返すと、気配はふっと軽くなって——消えるように沈んだ。

 

「待って待って、何!? 今の……!」

七草会長が、会長の顔を忘れたみたいに身を乗り出した。目が丸いまま、藤丸を問い詰めるのを堪えきれない。

 

「藤丸くん、いま何したの!?

障壁、割れたよね? どうやって!?」

 

言葉が追いつかない。驚きがそのまま声になって飛び出す。

 

「えっと……」

藤丸はその圧に押されてしまう。

 

「七草」

十文字会頭の低い声が落ちた。

 

七草会長が「え」と振り向く。

 

十文字会頭は表情を変えないまま、淡々と続ける。

「今は詮索する場じゃない。魔法の内容を根掘り葉掘り聞くのはマナー違反だ」

 

一言一言が、釘みたいに静かに刺さる。

 

「……だって、だって今のは——!」

七草会長はまだ食い下がりかける。けれど、十文字会頭の視線が一段冷えて、そこでようやく飲み込んだ。

 

「……ごめん。私、ちょっと興奮した」

会長らしく言い直そうとして、でも最後まで整えきれない。

 

十文字会頭はそれ以上責めず、場を締める。

「模擬戦は終了。これ以上は不要だ」

 

市原先輩と中条先輩が、遅れて息を吐く。

何が起きたか分からない。けれど十文字会頭の障壁が破られた事実に、驚いた顔だ。

 

七草会長は会長の声に戻す。

「今日はここまで。みんな、戻ろう。手続きと説明は予定通りね」

 

藤丸は頷いて、リストCADのバンドを指先で整えた。

 

「さすがです、先輩」

マシュが小声で言う。

 

「ありがとう、マシュ」

(と言っても、ほとんどメリュジーヌだけどね)

藤丸は心の中で小さく付け足す。

 

廊下に出ると、さっきまでの張り詰めた空気が嘘みたいに薄まっていた。

けれど背中の奥に、まだ視線の残り香がある。――七草会長の「気になる」が、まだ消えていない。

 

「先輩、買い出しは……」

「うん、行こうか。お腹減った」

 

軽く笑って、藤丸は歩き出した。

その背を、達也が見ていたことに藤丸は気づかない。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。