魔法科高校の帰還者   作:テトマト

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第11話

十文字会頭と真由美が生徒会室に戻ると、扉の閉まる音で外の気配が切れた。

真由美が小さく息を吐く。

「あの魔法……どう思う?」

「藤丸だな」

十文字会頭が言葉を継いだ。

真由美の表情が、会長の顔に戻りきらないまま揺れる。

「ええ。発動の瞬間、何かが“飛んだ”のは分かった。でも、何かまでは見えなかった」

言葉の端に、さっきの動揺が残っている。

「発動も早すぎたし……あの威力で飛んでくるものがあるって思うと、正直ぞっとするわ」

十文字会頭は少しだけ視線を落とし、言い切った。

「俺の目には——小柄な“人影”が見えた」

「……人影?」

真由美が目を丸くする。

「ああ。剣のようなものを持っていた」

十文字会頭は淡々と続ける。

「その一撃で障壁を裂かれた。あの感触なら……ファランクスでも抜かれる可能性はある」

「ファランクスでも……!?」

真由美の声が思わず跳ねた。

十文字家のファランクス——“障壁”の代名詞みたいに語られるそれが、破られるかもしれない。

十文字会頭は表情を変えないまま、言葉を落ち着かせる。

「ただし、藤丸は“待機状態”だと言っていた。準備が必要な類だろう。即応や連発ができるタイプには見えない」

真由美がゆっくり頷く。

「……なるほど。古式は現代魔法の体系に乗らない分、変な“条件”が付くことも多いものね」

「結論としては——」

十文字会頭が言葉を区切る。

「あれは脅威ではある。だが“最初の一撃”さえ防げれば、後はどうにでもなる」

一拍置いて、続ける。

「魔法に関してはこちらから詮索して揉める必要はない。条件が分からない以上、触れば余計にこじれる」

真由美は少し考えてから、会長の口調に戻した。

「じゃあ、しばらくは様子見。必要なら……摩利にだけ共有しておく」

「それでいい」

十文字会頭が頷く。

真由美は椅子を引き、扉へ向かった。

けれど手をかける直前に立ち止まり——振り返る。

「十文字くん」

十文字会頭が目だけで応じる。

真由美は少しだけ笑って言った。

「……ありがとう。さっき止めてくれて。私、ちょっと取り乱してた」

「いい。気にするな」

十文字会頭は短く返した。

真由美は小さく頷いて、今度こそ扉を開けた。

 

玄関の鍵が静かに回り、司波兄妹は家に戻った。

リビングのソファに腰を下ろすと、二人きりの空間になる。

「……お兄様。あの魔法、どう思われますか」

深雪が少し不安そうに尋ねる。言葉を選びながら続けた。

「十文字会頭の障壁が……切られました。会長も、渡辺先輩も驚いていました。お兄様は……何か見えたのでしょう?」

「……俺の目には、“そこに何かがいた”」

達也は淡々と言った。

「輪郭は曖昧だ。視認できたのは……現象の中心に“剣を持った人影”が見えた、それだけだ」

深雪が小さく眉を寄せる。

「人影……」

「だが、発動した魔法式と、結果が噛み合わない」

 

「それは……古式魔法だからでしょうか?」

深雪が慎重に問う。

「可能性は高い」

達也は即答せず、言葉を整えてから頷いた。

「古式は現代魔法の理論に当てはまらない現象を引き起こせる。……何かを“呼び出す”類だと推測できるが、断言はできない」

深雪は悩みながらも、希望を口にする。

「……でも、藤丸さんは危険な人ではないと思います。今日も、最初は乗り気ではありませんでしたし」

「同感だ」

達也は短く肯定した。

だが、そこで言葉を止めずに続ける。

「ただ——入学初日を覚えているか」

「入学初日……」

深雪が一瞬考えて、はっと顔を上げる。

「……あっ。藤丸さんがCADを向けられた時、今日と同じように空気が重くなりました」

「それだ。だがあの時、藤丸はCADを操作していなかった」

達也は静かに頷く。

「本人が制御できていないのか。あるいは——」

達也はそこで言葉を切り、深雪を見る。

「深雪。先に言っておく。俺は藤丸を敵だとは見ていない」

「……はい」

深雪は頷くが、続きが気になって仕方ない。

「ただ、情報が少ない」

達也は淡々と、結論だけを置いた。

「対策はしておきたい。深雪も藤丸について気になったことがあれば話してくれ」

深雪の頬が、少しだけ緩む。

「……お兄様らしいです」

達也は返事の代わりに、グラスを机に置いた。

「明日も普通に接する。変な探りは入れない。日常の範囲で観察する」

深雪は小さく笑って言う。

「はい。私もマシュさんと、もっとお話ししたいです。ですから藤丸さんとも、できれば良い関係でいられたらと思います」

達也は一拍置いてから、小さく微笑んで静かに頷いた。

「それでいい」

夜の静けさが戻る。

けれど達也の中には、さっきの“裂けた境界”の感触が、まだ残っていた。

 

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