魔法科高校の帰還者   作:テトマト

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第12話

朝、目が覚めていつものようにリビングへ向かう。

——そこにいたのは、昨日までとは違う“気配”だった。

 

テーブルの端に、スーツ姿の男が行儀よく座っている。新品みたいに整ったネクタイが妙に様になるのに、本人は猫みたいに気だるげな笑みで手を振った。

 

「今日からの護衛、はじめちゃんと彦斎。よろしくね」

 

「了解〜。……マスターちゃん、朝から真面目だねぇ」

「……任せて。敵がいたら斬るから」

 

「敵はいないと思うし、できれば峰打ちでね」

 

少女は一拍置いて、こくりと頷いた。

「……分かった」

 

藤丸は肩を落とす。

 

「ねぇマスターちゃん。この人斬り一緒に連れてって大丈夫?」

はじめが、彦斎に聞こえないくらいの声量で囁いてくる。

 

「大丈夫だよ。彦斎は良い子だから」

そんな藤丸にはじめは怪訝な顔をしていた。

午前中は授業が流れるように過ぎて、放課後。

校内の空気がほどけ、廊下が一気に騒がしくなる。

「そういえば、今日から部活勧誘会が始まるんだっけ?」

「マシュは部活、入るの?」

「いえ。興味はありますが、生徒会の仕事に専念しようと思います」

マシュは少しだけ申し訳なさそうに笑う。

「先輩は決まってますか?」

「まだ決まってない。いろいろ見てからでいいかな」

「そうですか先輩、私は生徒会で……少し遅くなります」

「うん。じゃあ俺は勧誘会、ちょっと見てくる」

藤丸が笑って頷くと、マシュは少し寂しそうな顔で頷いた。

「はい。楽しんできてください、先輩」

マシュが人波に紛れていく。

藤丸はひとり、喧騒へ向かった。

校舎内は熱気で、声が飛び交っている。

展示、実演、勧誘の掛け声。

“学校”のイベントらしい、まっすぐな賑やかさ。

藤丸はゆっくり歩きながら、いくつかのブースを流していく。

軽音部はアンプの前で呼吸を合わせ、化学部は色の違う液体を振って小さな歓声を取っていた。

(賑やかだねぇ)

はじめちゃんが念話で話しかけてくる。

(うん。思ったより部活の数が多いね)

(マスターちゃんは、どの部活に入るか決まった?)

(まだ迷ってる。文化系も楽しそうだけど、やっぱり体を動かしたいから運動部かな)

(じゃあ、グラウンドの方にでも行く?)

(そうだね。校舎内もある程度見たし、外も見てみようかな)

グラウンドに出ると、陸上部の格好をした先輩と、体験だろうか制服のまま走っている新入生が並走していた。

息が白むほどではないのに、胸の奥がすっと熱くなる。

(なんか、こういうの……良いね)

(……これが、マスターが守ったものだよ)

その言葉に、思わず足が止まる。

(俺が守ったもの?)

(あらら、自覚なかったの?)

(マスターが必死に走り続けて世界を救ったから、この景色も残ったんだよ。マスターがいなきゃ、ここに“今”はない)

そう言われて、改めて周りを見渡す。

先輩たちが必死に呼び込みの声を上げ、新入生もそれに乗っかって笑いが起きている。

カルデアや旅の最中とは違う。

誰かの暮らしの中にある、ごく小さな日常が、ここにはあった。

その時。

チャイムが鳴り、放送が流れる。

「本日の部活勧誘会は終了です」

同じ案内が繰り返される中、藤丸の端末が震えた。

画面にはマシュからのメッセージ。

『今日は遅くなります。家で待っていてください』

(了解)と短く返して、端末をポケットへしまう。

最近通い慣れた通学路を、ゆっくり歩く。

笑いながら帰る学生たちの声。

まだ帰りたくないと駄々をこねる子どもの声。

それを叱りつつ、どこか笑っている母親の声。

見える建物や車は、藤丸が知っていたものとは随分違う。

けれど――そこにいる人たちが過ごしているのは、藤丸が知っている“生活”そのものだった。

家の前に着き、鍵を回して扉を開ける。

リビングの明かりをつけ、辺りを見渡す。

高校に通うため、ダ・ヴィンチちゃんたちが用意してくれた家。

まだ机も椅子も新しくて、なのに――ここ数日で積み重なった匂いや痕跡が確かにある。

そんな感慨に耽っていると、扉の開く音がした。

玄関に向かうと、マシュが立っていた。

「先輩、ただいま帰りました」

マシュは笑顔でそう言った。

藤丸は「おかえり」と日常を返そうとして――言葉に詰まる。

「……先輩?」

首を傾げるマシュを見た瞬間、藤丸は思わず抱きしめていた。

1番大切なものを守れたことを感じるように

「せ、せ、先輩!? ど、どうされたんですか!」

突然の行動に、マシュは顔を赤くして慌てる。

藤丸は小さく息を吐いて言った。

「ごめん。少しだけ……このままで」

「……はい」

マシュはそう答えて、そっと藤丸を抱きしめ返す。

しばらくして、藤丸が腕の力を緩めると――

「先輩、どうされたんですか?」

マシュが心配そうに顔を覗き込んでくる。

藤丸は照れくさくて、少しだけ視線を逸らしながら口を開いた。

「……えっと。ちょっと傲慢な言い方かもしれないけどさ」

「俺たちが世界を救ったって、今さら実感して……」

マシュは少し驚いた顔をして、くすりと笑った。

「先輩、本当に今さらですよ」

「それに傲慢なんかじゃありません」

そう言って、マシュは藤丸の手を優しく握る。

「私も先輩に命を救ってもらったんです。私だけではありません。先輩はたくさん走り続けて、たくさんの命を救ってきました。」

「だから先輩は、もっと自分を誇ってください」

「“自分は世界を救ったんだぞ”って――胸を張って、自慢してください。先輩は私の自慢の先輩ですから。」

藤丸は手を握り返し、マシュの顔を見る。胸から込み上げてくるものが来るが、この後輩の前では出したくないと我慢する。

「ありがとう、マシュ」

短く言って二人で手を繋いでリビングに入る。

――そこには、はじめちゃんと、メイド姿の彦斎が、当たり前みたいにお茶を飲んでいた。

 

「お、お、おおお二人とも!いつからそこに!」

「いつからって僕たちはマスターちゃんの護衛だからね。それにしても熱々だったねー」

「ふん、今の私はできるメイド、だから今回のことは見なかったことにしてあげる」

「そんなこと言って抱きしめ合ったところで入ろうとしたくせに・・止めるの大変だったんだからね」

「あ、あーーーー」

はじめが抱きしめ合ったと言ったところでマシュが大声をあげて誤魔化そうとする。そんなマシュを無視して彦斎ははじめに鋭い目を向ける。

「そう、斬られたいなら早く言って、私そういうの得意だから」

 

 

その賑やかなやり取りを見て、藤丸は小さく笑った。

 

前とは違う日常。

だけど世界を救った後の“新しい日常”だった。

 

 




感想は返してませんが全部読んでます。

本当は剣道部騒動に巻き込まれて壬生先輩と縁を持つ話にしてたんですが、感想で原作なぞってるだけと言う言葉にハッとしてほとんど書き直しました。ぐだマシュは書いてて楽しかったです。

壬生先輩と縁が無くなっちゃったから次回どうしよう
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