魔法科高校の帰還者   作:テトマト

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第14話

 

数日後。

藤丸は魔法実技の授業で、苦戦を強いられていた。

 

「うーん……?」

 

少し険しい顔で、もう一度だけ起動式をなぞる。

だが、狙ったところで術が安定しない。

 

「藤丸。二つ目の工程を、もう少し“ゆっくり”やってみろ」

 

横から達也が、淡々と助言を送った。

 

「分かった。試してみる」

 

藤丸は素直に従う。

起動式の二段目を焦らず押さえると――さっきまで引っかかっていた箇所が、あっさり噛み合った。

 

「……お。できた」

 

「すごいな。ありがとう、達也。……見ただけで分かるのか?」

 

「ああ。実技は得意じゃないが、解析は得意だ」

 

達也は言いながら、藤丸の手元を一度だけ見て続ける。

 

「藤丸は二工程以上の魔法が苦手なのか? 十文字会頭との模擬戦では発動が速かった。あれは、もう少し複雑な魔法式に見えたが」

 

「あー……あれは、ズルしてるみたいな魔法だから……」

 

藤丸はバツが悪そうに視線を逸らし、頭の後ろを掻いた。

 

「魔法に関しては“二工程以上”っていうより、全般苦手かな。理論が難しくて、理解できてないとこも多いし。そもそも……素の適性が低いんだよね」

 

そこで藤丸は、逆に聞き返した。

 

「そういう達也は、なんで二科生なんだ? 模擬戦でも服部先輩に使ってた魔法、速かったよな」

 

「あれは単一工程を繰り返して発動する、ループキャストだ」

 

達也は淡々と答える。

 

「一工程の処理が速くても、学校が重視するのは“多工程の安定性”や“汎用性”の方だ。そこが評価に直結しにくい」

 

「そうなのか……実力があっても、評価されるかは別ってことか」

 

藤丸は少し言い淀んでから、気遣うように続けた。

 

「達也は……二科生ってこと、気にしてないのか?」

 

「気にしてないと言うと嘘になる」

 

達也は即答せず、言葉を選ぶ。

 

「だが俺は魔工技師志望だ。魔法の実力を評価されなくても、問題ない」

 

そして達也は、藤丸へ視線を移した。

 

「お前こそ。実力はあるのに評価されてないだろ。どう思ってる」

 

「俺も気にしてないな。そもそも魔法師になる気も、魔法関連の仕事に就く気もないから」

 

「……なら、何で魔法科高校に来たんだ?」

 

魔法師になる気がないのに――という含みを、達也は隠さずに問う。

 

「えっと……魔法が気になってたのと、将来の選択肢が増えるから、かな」

 

本当は“今の時代を学ぶため”という理由もあった。

だが、それを言えば余計な詮索を招きそうで、藤丸は言葉を濁した。

 

「将来の選択肢、か……」

 

達也の表情が、ほんの少しだけ陰る。

 

「達也?」

 

藤丸が眉をひそめると、達也はすぐに首を振った。

 

「……いや、何でもない。俺の番が回ってきた。行ってくる」

 

実技の順番が来たらしい。達也は短く言って、その場を離れた。

 

「頑張ってね」

 

藤丸はそう言って見送り、胸の奥に残った引っかかりだけを、ひとまず飲み込んだ。

 

 

放課後。

藤丸とレオは山岳部の部室に来ていた。

 

体育館倉庫の片隅を間借りしたような狭い部屋で、壁には地形図、棚には古いザックとロープが並んでいる。

 

「おっ、来たな!」

 

部室に入ると、部長が雑誌を読んでいた顔を上げて、片手を上げた。

部室の中には先輩が二人、そして新入生がもう一人。思ったより人は少ない。

相変わらずゆるい。

しかし、足元の登山靴だけはやけにきちんと揃っている。

 

「今日は何するんですか?」

 

藤丸が聞くと、部長は雑誌を畳んで言った。

 

「今回は走ってもらう」

 

「えー。山は登らねーのかよ」

 

レオから露骨に不満の声が上がる。

 

「登るために走るんだよ」

 

部長はさらっと返す。

 

「山登りって、上で頑張ると思うだろ? 違う。最初から最後まで“余力”を残せるかが勝負なんだ」

 

藤丸が首を傾げる。

 

「余力……?」

 

「そう。ペース配分。呼吸。足の疲労。

体験のときは林を三十分歩いただけだろ? 本物の山は、同じ三十分でも“同じ三十分”じゃねぇ。傾斜も足場も違う。集中力も持ってかれる」

 

「なるほど」

 

「だから測るんだ。お前らの“今の持久力”と、“どれくらいで息が上がるか”。競争じゃない。登山の練習だ」

 

部長は指を折る。

 

「走るっつっても、全力ダッシュじゃねぇぞ。会話できるペースで校内外周を、まあ数周。

どれくらいのペースを保てるか――そこを見る」

 

藤丸は小さく頷いた。

 

「じゃ、靴紐確認。水持ったか。貧血っぽい奴は言え。――行くぞ」

 

部長が立ち上がり、部活の活動が始まろうとした。

――そのとき。

 

スピーカーが「ぷつ」と鳴った。

最初はただのノイズ。

けれど次の瞬間、校内放送に知らない声が響いた。

 

『――聞こえるか、第一高校の諸君』

 

部室の中の時間が、ほんの一拍だけ止まる。

 

『私たちは差別撤廃を求める有志同盟だ』

 

レオが眉をひそめた。

 

「……放送事故か?」

 

続いて、声は淡々と告げる。

 

『私たちは生徒会と部活連に対し、“対等な立場”を要求する——』

 

言葉の先を置き去りにして、放送は「ぷつ」と途切れた。

 

部長が「コホン」と咳払いをして、部室の視線を集める。

 

「……とりあえず、お前らはここにいろ。俺が様子を見てくる」

 

新入生に向けて、さらに言う。

 

「一年は座ってろ。少し様子を見てくるだけだ」

 

部長はそれだけ言って、足早に部室を出ていった。

 

藤丸は霊体化しているはじめに念話を飛ばす。

 

(はじめちゃん、ちょっとマシュの様子を見てきてもらっていい?)

 

(はいよ。人使い荒いねぇ)

 

軽口の返事をして、はじめの気配が薄くなっていく。

 

「……何があったんだろうな」

 

レオが小さく呟く。

 

「差別撤廃を求める有志同盟、って言ってた」

 

藤丸は思い出すように言った。

 

「そういえばこの前、“二科生の待遇に不満はないか”って声をかけてきた人がいた。あの時も、同じような名乗り方だったな」

 

「あぁ。俺も声かけられた。興味ねぇから断ったけど」

 

レオが肩をすくめる。そんな雑談をしていると、はじめの気配が戻ってきた。

 

(マスターちゃん。特に問題なかったよ。生徒が放送室を占拠して、すぐ風紀委員に捕まったみたい)

 

(分かった。ありがとう)

 

藤丸は表情を変えないまま、息を整えた。

 

それから少しして、部長が戻ってきた。

 

「とりあえず風紀委員が解決したみたいだ。人が多くて詳しくは分からなかったが、問題なさそうだ」

 

「今日は部活なし。このまま解散する。

風紀委員に目をつけられたくなかったら、放送室には近寄らないことだ。……じゃ、解散」

 

部室の空気が、少しだけ緩む。

 

「結局、何があったんだろうな?」

 

藤丸は“知っている”のを隠すように、わざとらしく首を傾げた。

 

「さぁ?」

 

レオは短く返す。

 

「まあ、今日は帰るか」

 

「うん。そうだね」

 

そうして二人は、雑談を続けながら部室を出た。




齋藤一の名前ですが一にすると小説的に見づらいのではじめと表記してます。
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