魔法科高校の帰還者   作:テトマト

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第15話

「公開討論会?」

 

放送室占拠があった翌日。

リビングで寛いでいると、マシュが切り出した。

 

「はい。先日の“差別撤廃”を求める有志の方々とお話ししたのですが……要求はあるのに、具体的な方策がなくて押し問答になりまして。明日の放課後に、公開討論会を行うことになりました」

 

「……公開討論会か」

 

マシュは少しだけ言い淀んでから、真面目な顔で問いかける。

 

「先輩は、差別についてどう思われますか?」

 

「うーん……不満が出るのは分かるし、声を上げるのも必要だと思う」

 

藤丸は少し考えてから続けた。

 

「でも俺、魔法師になる気がないからさ。教師が足りないとか、魔法教育の格差とか……正直、当事者としては実感が薄いかな。結局、魔法師が足りないって現実も絡むでしょ?」

 

「それより気になるのは、その人たちの“考え方”かな」

 

「考え方……ですか?」

 

「実は俺も声をかけられたことがあるんだ。話を聞いてみたけど……差別撤廃っていうより、一科生が悪い、生徒会が悪い、って怒ってるだけに聞こえた」

 

「……確かに」

 

マシュが小さく頷く。けれど、その表情が少しだけ曇った。

 

「そう考えると、違和感が出てきます」

 

「違和感?」

 

「はい。放送室を占拠した人たちも、こう言い方は悪いですが……あまり後先を考えて行動したようには見えませんでした。そんな人たちが、生徒とはいえ放送室を簡単に占拠できるとは考えにくいです」

 

マシュは指先を組み直す。

 

「それに、占拠から討論会が決まるまでが異様に早かった。まるで、ここまで決まっていたみたいで……討論会そのものが目的ではなく、“人が集まる状況”を作るのが目的のように」

 

藤丸は短く息を吐いた。

 

「……誰かが焚き付けて、計画した可能性があるってこと?」

 

「はい。可能性はあると思います」

 

「明日、何か起こりそうだね」

 

「……そうですね」

 

マシュは不安そうに返事をした。

 

 

討論会当日。

腕に青・白・赤の三色リストバンドを巻いた生徒たちが、廊下や階段の要所で参加を呼びかけていた。

藤丸はその光景を横目に、会場へ向かう。

 

会場に着くと、生徒会と風紀委員がすでに配置につき、準備をしていた。

邪魔をしないように、藤丸は静かに後方の席へ腰を下ろす。

 

会場は予想以上に埋まっている。

熱気というより、落ち着かないざわめき。誰もが“何か”を待っているみたいだった。

 

しばらくして壇上に、七草会長と“有志”の代表が上がる。

 

「では、ただいまから公開討論会を始めます」

 

始まった討論会は――討論というより、七草会長の独壇場だった。

有志側の主張は感情的で、根拠が薄い。真由美は声を荒げず、一つずつ丁寧に潰していく。

会場の空気が、少しずつ“納得”の方へ傾いていった。

 

会長の締めの言葉に、拍手が起きる。

大きな拍手が会場に残って――その直後だった。

 

爆発音が弾けた。

 

会場がざわつく。

同時に、三色のバンドを付けた生徒が一斉に立ち上がる。

 

――その動きに、風紀委員が即座に被せる。まるで最初から“誰が動くか”分かっていたみたいに。

 

「動くな! 大人しくしろ!」

 

取り押さえられ、腕を捻られ、次々に通路へ引き剥がされていく。

 

藤丸も近くの一人に踏み込んだ。

ケイローンに叩き込まれた体術が、迷いなく働く。肘を制し、重心を崩し、首筋へ――。

 

「……寝てて」

 

生徒は崩れ落ちた。藤丸はその場に寝かせ、拘束を手伝う。

 

さらに外側から、武装した侵入者がなだれ込もうとするが――

渡辺先輩が即座に魔法を発動させた。

次の瞬間、侵入者の動きが止まり、膝から崩れ、気絶した。

 

藤丸は息を飲み込みながら、“内側”へ意識を落とす。

 

(はじめちゃん、状況わかる?)

 

(あいよ、マスターちゃん。……ちょっと見てきたけど、まずいね)

 

(学校全体に武装した連中が散ってる。もうこれは“抗議”じゃなくてテロだよ)

 

藤丸はすぐ決める。

 

(はじめちゃん、ここはいい。危ない人の救助を優先して)

 

(俺、マスターの護衛だからこの状況で離れるの嫌なんですけど?)

 

(お願い)

 

一瞬、渋る気配。

だが藤丸がこうなったら止まらないのを知っているのだろう。深いため息が“内側”に落ちた。

 

(……分かったよ)

 

(彦斎)

 

(なに?)

 

(俺、ちょっと離れる。マスターのこと頼む)

 

(言われなくても分かってる。敵が来たら斬る)

 

(……頼もしいね)

 

気配が、すっと遠のいた。

 

藤丸は自分に言い聞かせる。

 

(……俺は、俺にできることをしよう)

 

藤丸は指示を飛ばしている七草会長の元へ駆け寄った。

 

「七草会長!」

 

「藤丸くん……!」

 

真由美の表情は、さっきまでの余裕の笑顔じゃない。

けれど声はぶれていない。

 

「俺も避難誘導、手伝います」

 

短く言い切ると、真由美は一瞬だけ迷って――すぐに頷いた。

 

「ありがとう。じゃあ――マシュさんが流れ弾が行かないように、障壁魔法でみんなを守ってくれてる。そこに生徒たちを集めて。無茶はしないこと。いいわね?」

 

「分かりました」

 

藤丸はすぐマシュのところへ向かい、小声で状況を伝える。

 

「学校全体に敵がいるみたいだ。はじめちゃんには外で動いてる連中の無力化に回ってもらってる。俺はここで避難誘導を手伝う」

 

「いえ、先輩もここにいてください。私が守りますから」

 

そう言うマシュの目は、不安そうで――無茶をしてほしくないと言っている。

 

「大丈夫だよ。彦斎もいるし、無茶はしない」

 

「……分かりました。お気を付けて」

 

納得しきれていない返事。

 

藤丸は通路に立ち、声を張りすぎない程度の音量で誘導する。

 

「大丈夫。走らないで。――こっち、壁沿いに」

 

泣きそうな顔の生徒を前に押し出し、動けない子の肩に手を添えて歩かせる。

 

 

 

「真由美、ここを頼む。私は外の制圧に行ってくる」

 

摩利が会場の安全を確認すると、真由美に言った。

 

「分かったわ、ここは任せてちょうだい。摩利も気をつけて」

 

短いやり取りをして、摩利は外に出た。

 

——だが、そこには先程会場に入ってきた敵と同じ格好をした武装集団が、すでに気絶して転がっていた。

 

「……なんだ? これは」

 

一瞬、先に出た達也たちかと思った。

だが達也たちはここではない。実技棟の方へ向かったはずだ。

 

辺りを見渡すと、壁際で怯えている生徒がいる。

 

「もう大丈夫だ。何があった?」

 

摩利は落ち着いた声で訊ねた。

 

「は、はい……えっと……車からあの人たちが降りてきて、銃を向けてきて……」

 

生徒は震えながら続ける。

 

「でも、刀を持ったスーツ姿の男の人が……あっという間に気絶させて、どこかへ……」

 

「刀を……?」

 

摩利は警戒を強めるように、小さく呟いた。

 

「何者だ……」

 

 

そうして日が傾き始めたころ――校内の騒ぎは、あらかた制圧されつつあった。

ざわめきが薄れ、泣き声も減る。

生徒たちがようやく呼吸を取り戻し始めた。

 

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