テロが収束に向かい、生徒たちの混乱もようやく落ち着き始めた頃。
達也から連絡が入り、藤丸とマシュは保健室へ向かった。
中には剣道部の壬生沙耶香がいた。顔色は青く、目元も赤い。
達也が声をかけると、沙耶香はぽつぽつと語り出した。
差別撤廃を掲げる“有志”を名乗る連中が、いつから彼女に近づき、どんな言葉で怒りを煽っていったのか。
入学直後から浴びた侮蔑や、摩利との些細なすれ違いが、いつの間にか「敵意」にすり替えられていったこと。
「……私、何してたんだろう」
沙耶香は笑おうとして、失敗した。
達也は急かさず、落ち着くまで待った。
やがて達也が静かに、要点を切り替える。
「連中の所在は?」
その瞬間、空気が変わった。
「ここから先は警察の仕事だ」
十文字会頭が言う。
達也は淡々と返した。
「主導が逃げれば、責任は実行役に残ります。壬生先輩は“犯人”として処理される可能性が高い」
沙耶香が身を乗り出した。
「やめて……私のせいで危ないこと、しないで……!」
達也は首を振る。
「先輩のため“だけ”じゃありません。俺と深雪の生活圏の問題です」
深雪が小さく問う。
「ですが、お兄様……どうやって?」
「分からないことは、分かる人に聞く」
達也が扉へ向かう。
開けた先の廊下に立っていたのは、小野先生だった。
「……気づいてたのね」
「場所を」
小野先生は溜息まじりに端末の地図を覗き込み、指先で一点を示した。
「ここ。放棄された工場」
「近いな……」
藤丸が思わず呟く。
十文字会頭が前へ出る。
「俺が車を出そう」
達也が確認する。
「探知される可能性が」
「相手も想定している。なら正面から踏み込む方がいい」
「十文字くんも!?」
七草会長が反射で言うと、十文字会頭は視線を動かさず、短く返した。
「下級生だけに任せるわけにはいかん」
「じゃあ私も——」
真由美が続けようとした瞬間、十文字会頭が遮る。
「七草は残れ。まだ校内が落ち着き切っていない。会長が必要だ」
真由美が唇を噛む。
十文字会頭は話題を切り替えるように、沙耶香へ向き直った。
「壬生沙耶香。校内で動いていた武装した連中が、刀を持った男に無力化されていた。心当たりはあるか?」
藤丸は胸の奥がビクッと跳ねるのを感じた。
だが、顔には出さない。
「……いえ、ありません」
「そうか」
十文字会頭は、最初から期待していなかったように、あっさり引き下がった。
そのタイミングで、藤丸が一歩前に出る。
「あの。俺も行きます」
「私も同行します」
マシュも迷いなく続けた。
「危険だぞ」
十文字会頭の声は低い。
「分かってます。でも、友達が行くのに、自分だけ安全圏にいるわけにはいかない」
藤丸は少しだけ声を落として、続ける。
「それに――この件、俺も結構怒ってます。俺は俺の日常のために動きます」
マシュが頷く。
「私も同じです。それに私は、先輩の盾です。先輩が行くなら、私も行きます」
短い沈黙。
十文字会頭は、結論だけを落とした。
「……分かった」
それから全員を見渡し、淡々と告げる。
「車を準備する。ついて来い」
十文字会頭が先に歩き出し、達也がそれに続く。
藤丸とマシュも保健室を後にした。