九校戦編は1週間に1話と言ったな、あれは嘘だ。
モチベが湧いてきたので1日1話投稿頑張っていきたいと思います。
第19話
昼休み
生徒会室には、弁当を食べ終えた机の上に、淹れてくれたお茶と資料の束、端末が整然と並んでいた。
七草真由美は椅子に深く座り直し、書類の角を揃えながら小さく息を吐く。
摩利は端末で連絡網を確認し、市原と中条はチェック項目を手分けして読み合わせている。
マシュも資料の仕分けをしていた。
そして藤丸は――マシュの隣の椅子に座っていた。
「……どうしようかしら」
真由美の独り言みたいな声に、藤丸が顔を上げる。
「どうしたんですか?」
生徒会メンバーでもないのに、なぜか自然に馴染んでしまっている生徒会室で、藤丸は聞き返した。
「九校戦の……整備スタッフが足りないのよ」
「九校戦?」
藤丸は聞き覚えのない単語に首を傾げる。
「え!? 藤丸くん、知らないの?」
「はい」
藤丸が素直に返すと、市原先輩が「では説明します」と口を開いた。
「九校戦というのは――九つの魔法科高校が集まって競技を行う対抗戦です。
競技は魔法を使うスポーツのようなもので、選手団を組んで戦います。学校の名誉もかかっていますし、外部の注目も大きいです」
「なるほど……」
「規模も大きいので、準備が本当に大変なんです。特に機材まわりは……」
市原先輩の説明が終わるタイミングで、真由美が補足する。
「で、その選手団には“技術スタッフ”が必要なの。競技用のCADは調整が繊細だからね。
プロを呼べるほど余裕もないし、基本は生徒と学校側で回すことになる」
「へぇ……」
藤丸が頷いてから、ふと思い出したように言った。
「じゃあ、達也はどうなんですか? 確か深雪さんのCAD、達也が整備してるんですよね?」
その瞬間、達也がじっと藤丸を見た。
「余計なこと言うな」と顔に書いてある。
真由美の目が、きらっと光る。
「それだわ!」
椅子を引く勢いで立ち上がって、達也に詰め寄る。
「達也くん、技術スタッフやってくれない?」
「俺は二科生です」
達也は即答した。
「周りが認めないでしょう」
「CADの調整に一科も二科も関係ないわよ」
真由美は引かない。
「ですが――」
なおも断ろうとする達也へ、追撃が入った。
深雪が背筋を伸ばしたまま、静かに言う。
「私は……お兄様に調整していただきたいです」
妹に頼まれると達也は弱い。
達也は小さく息を吐いて、観念したように頷いた。
「……分かりました。引き受けます。
ただし、他の人たちの説得は任せますよ」
「任せて! ありがとう、達也くん」
真由美が満面の笑みで言い切り、生徒会室の空気が少しだけ明るくなった。
⸻
お茶を飲み終えた生徒会メンバーは、すぐに仕事へ戻った。
真由美が端末を開いて連絡文の草案を並べ、摩利は別端末で承認ルートを整理している。鈴音とあずさは資料を広げ、参加申請の抜けを確認していた。
マシュも腕章を付けたまま、机の端でチェックリストを一行ずつ潰していく。几帳面で、迷いがない。
藤丸だけが“生徒会メンバーではない”から、手伝えることは限られている。
だからといって、ぼーっと座っているのも落ち着かない。
(……何か、できることないかな)
そんなタイミングで、机の隅にいた達也が小さく工具ケースを開けた。
手元にあるのはCAD――ではなく、ベルト型のホルスター。留め具や角度を微調整している。
藤丸は椅子を引いて近づいた。
「何やってるんだ?」
「ホルスターを新調してな。その調整だ」
達也は話しながら、手慣れた様子で調整を続けていく。
「へー……」
藤丸が視線を落とすと、達也の傍らには細長いケースが置かれていた。銃身のような形状で、“それ”だと分かる。
――次の瞬間。
「今日はシルバーホーン持ってきてるんですね!?」
横から弾む声が飛び込んできた。
中条あずさ先輩が、ほとんど滑り込む勢いで覗き込んでくる。
「え、見てもいいですか!? 近くで!」
「……構いませんよ」
達也があっさり渡すと、あずさ先輩は両手で受け取って、宝物みたいに目を輝かせた。
「うわ……本物だ……。本物のシルバーホーンだ!」
藤丸が首を傾げる。
「シルバーホーンって有名なの?」
「もう有名ってレベルじゃないです!」
あずさ先輩は早口になって、指先で“銃身の位置”をなぞる。
「特化型CADって、起動を速くして狙った系統の魔法を安定させるために“余計なものを削る”じゃないですか。
その代わり照準補助とか入力補助とか、そういう実戦向けの機構が盛られてるのが多いんです。
で、シルバーホーンはその代表格っていうか……“実戦用に詰め切った銀シリーズ”って感じで……!」
「へぇ……すごいCADなんだな」
藤丸が素直に感心すると、達也が横から静かに言った。
「……いや。お前のCADも、かなりすごいと思うぞ」
「え? そうなの?」
藤丸は本気で分からない顔をした。
達也は少しだけ呆れたように言って、藤丸へ手を出す。
「前から気になってたんだ。少し見せてもらってもいいか」
「いいよ」
藤丸はあっさりと了承してリスト型のCADを外して、ぽん、と渡した。
外見は“どこにでもある”市販品っぽい。わざとそうしてある。
達也は受け取った瞬間、視線の温度が変わった。
表面じゃない。端子や継ぎ目でもない。“中”を見ている顔になる。
「……見た目は、市販品だが」
達也が指先で角度を変える。
光の反射を確かめるだけの動きなのに、見ているポイントが明らかに普通じゃない。
「……中条先輩」
達也が短く呼ぶ。
「は、はいっ」
シルバーホーンに熱中していたあずさ先輩が振り返る。
「このCAD、どう思いますか」
あずさ先輩が恐る恐る覗き込み、次の瞬間、目が丸くなる。
「え、なにこれ……。え、嘘……」
言葉が途切れて、息を呑んだ。
「外装は市販品みたいなのに、感応石の配列と起動式のチューニングが……これ、調整域が変です。というか、普通こんな密度で詰めません……!」
藤丸が目を瞬かせる。
「……そんなに?」
「はい。少なくとも、ここまでのものは見たことがありません」
藤丸のCADを覗き込みながら、あずさ先輩が呟いた。
目が完全に“CADオタクのそれ”になっている。
達也も同じように、短く聞く。
「このCAD、どこで手に入れた」
「買ってないよ。ダ・ヴィンチちゃんっていう仲間が作ってくれたんだ」
「ダ・ヴィンチか……天才の名を名乗るだけはあるな」
藤丸は悪びれずに言い、続けてさらっと爆弾を落とす。
「マシュのも作ってる」
「はい?」
呼ばれた気がしたのか、マシュが作業の手を止めてこちらへ近づいてくる。
「どうされましたか、先輩」
「CADの話してたんだ。俺のが“すごい”って」
それを聞いたあずさ先輩が、身を乗り出した。
「え、あの……マシュちゃんのも見せてもらっていいですか?」
声が少し上ずっている。完全に興奮している。
「はい。構いませんが……」
マシュは少し困惑しながらも、リスト型CADを外して差し出した。
達也が受け取り、あずさ先輩も覗き込む。二人の視線が同時に鋭くなる。
「……こっちも相当だな」
達也が低く言う。
「はい。藤丸くんほど“異常”じゃないですけど、安定した技術力が見えます……!」
あずさ先輩が早口で続けた。
藤丸は少し得意げに胸を張る。
「マシュのCAD、すごい機能が入ってるんだよ」
達也の食いつきが、いつもより一歩早い。
「どんな機能だ?」
「分かりました。お見せしますね」
マシュはCADを装着し、起動した。
次の瞬間――外装が滑るように展開し、銀色の装甲がマシュの手から肘までを覆っていく。
指先までぴたりと包む、武装一体型のガントレット。
「……!」
あずさ先輩が、息を止めたみたいに固まる。
達也も目を細め、構造を見極めようとしている。
「ね、ね、すごいでしょ?」
何度も見ているはずの藤丸が、なぜか一番興奮している。
だが、達也とあずさ先輩は“すごい”より先に困惑が来た顔だった。
達也が率直に言う。
「確かにすごいが……これをするぐらいなら最初から武装一体型を持てばいいんじゃないか?」
あずさ先輩も頷きながら口を挟む。
「はい。これだけの変形・展開ができるなら、単純にCADとしての性能ももっと上げられるはずです。わざわざ“ガントレット化”に寄せる意味って……」
「いえ。意味はあります」
マシュは迷いなく言った。妙に自信満々だ。
あずさ先輩が固唾を飲む。
「……どんな機能なんですか?」
マシュは胸を張る。
「かっこいいからです!」
断言。
「……か、かっこいい、から」
あずさ先輩は想定していた答えと違いすぎて、言葉を失った。
「はい。かっこいいからです」
マシュは笑顔のまま、さらに追撃する。
「ダ・ヴィンチちゃんも言っていました。デザインや“かっこよさ”は、妥協してはいけないと」
どや顔だ。完全に誇っている。
「……そ、そうか」
達也はその圧に少し押されながら、隣でうんうんと頷いている藤丸に視線を向けた。
「……とにかく。そのCAD、“売ってる”のか?」
「うーん、売ってないと思うよ」
藤丸は首を傾げる。
「趣味で作ったって言ってたし」
「これで……趣味なのか……」
達也が、珍しく素直に引いている。
そして、いつもより少し真剣な顔で言った。
「藤丸。今度、その人を紹介してくれ」
「わ、私も紹介してください!」
あずさ先輩も勢いよく手を挙げる。
「う、うん。今度会ったら言っておくよ」
今度は藤丸が、二人の圧に押されながら了承した。
カルデア裏話
所長「何?このCADは?」
ダ・ヴィンチ「作っている内に楽しくなっちゃってつい☆」
所長「ついじゃないでしょ!マシュはともかく一般人の藤丸がこんなの持ってたらおかしいでしょ!!」
作ったのに勿体無いとダ・ヴィンチが市販品に偽装してこっそり藤丸に持たせた。