原作同様達也が解説して藤丸も「へー」ぐらいしか言わないと思うので
九校戦一日目は、真由美先輩と摩利先輩が活躍し、全体として順調に進んだ。
そして、その夜。
深雪は達也の部屋を訪れていた。
「お兄様、少しよろしいでしょうか」
「ああ。俺も話をしたいと思っていた」
深雪は一拍置いて、昼間の光景を思い出すように言う。
「モルガンさん……あの方は、一体何者なのでしょうか」
「分からない。だが、おそらく師匠が言っていた“魔術師”だろうな」
「魔術師……。ですが今の時代では、魔術は発動できないものではないんですか?」
「師匠は“神秘があれば発動できる”と言っていた。実際、藤丸の召喚についても、魔術の可能性を否定していなかった」
深雪は眉をひそめる。
「ですが……神秘を集める儀式を行っている様子もありませんでした」
「ああ。魔法の兆候も、ほとんど見えなかった」
達也は淡々と続ける。
「ハベトロットが姿を現した時も、CADの操作すらしていなかった。それに、あれだけエリカたちが騒いでいたのに、他の観客は“気づいていない”ように見えた」
深雪は息を呑む。
「古式魔法には人払いの結界や、姿を眩ます術があるとは聞いたことがある。だが……あそこまで強力な術を発動している様子すらなかった。それに……」
達也が珍しく言葉に詰まる。
深雪が、恐る恐る尋ねた。
「お兄様は……精霊の眼をお使いになったんですよね?」
「ああ」
達也は小さく息を吐き、声を落とす。
「どうやってバレたのかも分からない。……はっきり言って、得体が知れない。どこまでこちらの情報が把握されているか……」
そして、達也は口の中でひとつの名を転がす。
「……カルデア、か」
九重寺での八雲の言葉が、脳裏をよぎる。
深雪は頷いた。
「先生が仰っていた、藤丸さんと繋がりのある組織ですね。モルガンさんも、その組織の人間なのでしょうか?」
「情報が師匠経由だけじゃ足りない。……師匠も、あの様子ではこれ以上教えてはくれないだろう」
達也は一度、思考を区切ってから続ける。
「分かったことといえば、モルガンの使った“召喚”は藤丸のものと同系統だろうということだ。藤丸が召喚を使う際の魔法式も、偽装魔法の可能性が高い……それくらいだ」
深雪は不安そうに、もう一歩踏み込む。
「お兄様は……まだ藤丸さんたちのことを調べるおつもりでしょうか?」
「……いや」
達也は少し迷って答える。
「不安は残る。だが、これ以上探れば相手の不興を買うだろう。現状、こちらには打つ手がない以上、下手に刺激しない方がいい。藤丸達には普段通り接しよう」
言い切って、達也は立ち上がる。
「もう夜も遅い。送っていこう」
その会話を“聞き終えた”モルガンは、ゆっくりと瞼を開いた。
向かいのベッド脇で支度をしている藤丸へ、静かに声をかける。
「我が夫。……もっと友達を選ぶべきですよ」
「え? いきなりどうしたの?」
藤丸は手を止め、呆れ混じりに続ける。
「というか、まさかこのまま寝るつもり?」
モルガンはホテル備え付けの浴衣を着て、ソファに当然のように腰を下ろしていた。
「無論です。夫婦は同じ部屋で眠るのが常識でしょう?」
「いや、夫婦じゃないから」
冷静にツッコミを入れた、その瞬間。
コンコン、とドアがノックされた。
「先輩、少しよろしいでしょうか?」
扉の前にいたのはマシュだった。断る理由もないため、藤丸はそのまま部屋に招き入れる。
マシュは中へ入るなり、真っ先にソファのモルガンを見つけた。
「……やはり、モルガン陛下は先輩のお部屋にいらしたんですね」
予想していた、と言わんばかりの声音だった。
「当然でしょう。私は我が夫の護衛です。ずっと一緒にいるのは当たり前です」
モルガンは涼しい顔で言い切る。
マシュは一歩も引かない。
「護衛なら、霊体化のままでも可能なはずです。こうして表に出ていれば、先輩のご負担にもなると思いますが」
「万が一の時にも、姿を現していれば即座に行動に移せます」
モルガンは平然と返す。
「それに、我が夫の負担になるようなヘマはしません。安心しなさい」
その言い方に、マシュの表情が僅かに強張った。
「でしたら――私も先輩の護衛です!」
マシュは勢いのまま、まっすぐ宣言する。
「先輩と同じ部屋で寝ます!」
「いや、それはダメでしょ」
藤丸が即座に止めると、
「えっ!?」
マシュが、予想外の方向から殴られたみたいに固まった。
藤丸は苦笑しながら、なるべく優しく言い聞かせる。
「マシュは九校戦メンバーとして泊まってるんだろ? 部屋にいなかったら、みんな心配するよ」
「それは……皆さんに事情を話せば……」
「それはダメ」
藤丸は即答した。
「モルガンのことを説明できないし、仮に説明したとしても、俺が最低な男になる気がするからやめてね」
「……分かりました」
マシュは渋々頷く。だが、引き下がる前に――部屋にいるハベトロットへ向き直った。
「ハベトロットさん。お二人のことを、特にモルガン陛下をしっかり見張っていてください」
「まっかせて!」
ハベトロットが元気よく胸を張る。
「モルガンのことは、しっかり見張っておくから!」
「待ちなさい、ハベトロット」
モルガンが低い声で止める。
「あなたは、どちらの味方なのです?」
「僕は僕の花嫁の味方だよ」
誇らしげに答える。
その横で、藤丸は咳払いして話を切り替える。
「……とりあえず、部屋まで送るよ」
「い、いえ。ひとりで戻れますので……」
「いいから。こんな時間に女の子を一人で歩かせられない」
「あ……ありがとうございます」
マシュは頬を赤くして小さく礼を言い、藤丸はマシュを部屋まで送り届けた。