魔法科高校の帰還者   作:テトマト

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第26話

「ああ」

 

藤丸は、もう結果を疑っていなかった。

 

「――マシュの勝ちだ」

 

だが。

 

マシュが先頭のままコーナーに差し掛かった、その瞬間。

 

――閃光が、弾けた。

 

マシュはコーナーでは遮光障壁を解除している。

真正面から光を受け、思わずバランスを崩した。

 

幸い、ボードから落ちることはなかった。

だが、速度は大きく削がれる。

 

その一瞬の隙を突いて、ほのかが前へ躍り出た。

 

「うわっ……ここで閃光!?」

 

エリカが思わず声を上げる。

 

「……なるほど」

 

幹比古が、感心したように呟いた。

 

「ここまでコーナーで影を使っていたのは、この瞬間のためのブラフでもあったんだ」

 

「でも、まだ直線がある!」

 

藤丸は思わず拳を握る。

 

「直進なら……マシュが有利だ!」

 

マシュは閃光を受けた直後、すぐに体勢を立て直した。

前を走るほのかを捉え、必死に距離を詰めていく。

 

「いけ……マシュ!」

 

藤丸は、声を抑えきれなかった。

 

だが――

 

ゴールラインを、わずかに早く切ったのは、ほのかだった。

 

 

試合が終わり、藤丸たちは選手控えエリアでマシュたちと合流した。

「お疲れ様。二人とも」

藤丸が声をかけると、まずほのかに向き直る。

「ほのかさん、優勝おめでとう」

「ありがとうございます」

少し照れたように、ほのかが頭を下げた。

「マシュも……最後は惜しかったけど、準優勝おめでとう」

「ありがとうございます、先輩」

マシュは一度頷いてから、少しだけ視線を落とす。

「でも……一緒に作戦を考えてくださったのに、勝てなくてすみません」

「謝らなくていいよ」

藤丸はすぐに首を振った。

「今回は、ほのかさんたちの作戦が一枚上手だったからね。」

そう言ってほのかを見ると、彼女は少し申し訳なさそうに目を伏せる。

「私も……ほとんど達也さんの考えた通りに走っただけですし……」

「それでもです」

マシュはまっすぐに言った。

「とても素晴らしい走りでした。最後の作戦も……達也さんとの信頼関係がなければ出来なかったと思います。

それだけ、達也さんのことを信頼されているんですね」

ほのかは一気に顔を赤くして、俯きながら小さくぶつぶつ言い始める。

「そ、そんな……信頼だなんて……」

「……ほのかさん?」

マシュに呼ばれて、ほのかははっと顔を上げた。

「い、いえ! ありがとうございます!」

慌てて姿勢を正し、改めてマシュを見る。

「マシュさんも、本当にすごい走りでした。最後なんて……抜かれるんじゃないかと、ずっとヒヤヒヤしていました」

「ありがとうございます」

マシュは一度受け止めてから、少しだけ力のこもった声で続ける。

「ですが……悔しいです。ですから、またいつか。必ずリベンジさせてください」

一瞬の間。

それから、ほのかが柔らかく笑った。

「私で良ければ、ぜひ。次は一緒に、全力で走りましょう」

マシュの表情が、ぱっと明るくなる。

「はい!」

二人は、しっかりと手を取り合った。

 

 

その後のアイスピラーズ・ブレイクでは、深雪が優勝し、雫が準優勝した。

九校戦は終盤へ向かい、会場の熱気もさらに高まっていく。

――そして、九校戦六日目。

モノリスコードの競技中、事件が起きた。

第一高校の選手が滞在していた廃ビルが、魔法によって倒壊。

選手は負傷し、競技は一時中断となった。

ざわつく会場を離れ、藤丸は人目のない場所へ向かう。

そこで、静かにモルガンへ声をかけた。

「モルガン……誰の仕業なの?」

モルガンは一度、霊体化を解除し、いつものように平然と答える。

「あれは、ただの事故です」

「モルガン……お願い。教えて」

藤丸は一歩踏み出し、声を荒らげる。

「知ってるんでしょ?」

「言っているでしょう。事故です、と」

とぼけた態度を崩さないモルガンに、藤丸は一度、深く息を吐いた。

そして、無理に押すのをやめ、問いを変える。

「……知ってるんだよね。

 それでも、なんで隠すの?」

しばしの沈黙。

モルガンは視線を伏せ、やがて静かに口を開いた。

「……我が夫」

その声は、いつもより少しだけ柔らかい。

「今のあなたは、観戦に来た一般人です。

 今回の件に、あなたが首を突っ込む必要はありません」

淡々とした口調のまま、言葉を重ねる。

「あなたが罪悪感を抱く必要もない。

 これは――関係者が解決すべき問題です」

藤丸は、その言葉の奥にあるものを感じ取った。

「……ありがとう、モルガン」

藤丸は素直に礼を言う。

「俺のために黙ってるのは、分かったよ」

だが、視線を逸らさず続けた。

「でもさ……みんな、真剣に勝負してるんだ。

 もし誰かの仕業なら、許せないし、見て見ぬふりもしたくない」

まっすぐな眼差しで、モルガンを見つめる。

「……我が夫」

モルガンは、はっきりと言い切った。

「あなたには教えません」

「モルガン……!」

なおも食い下がろうとした藤丸を制するように、モルガンは続ける。

「ですが」

一拍置いて。

「“事故”が、これ以上起きないようにはしておきましょう」

「……え?」

「後のことには、私は手を出しません」

あまりにも不器用で、遠回しな言い方。

藤丸は一瞬呆気に取られ――それから、思わず小さく笑った。

「……うん。ありがとう、モルガン」

藤丸がそう言って目を見つめると、

モルガンは何も答えず、そっと視線を逸らした。

 

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