魔法科高校の帰還者   作:テトマト

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2話の投稿が抜けてました。すみません。
話数もずれていたので修正しました。


第3話

五人で校内見学をしていると、あっという間に放課後になった。

藤丸はマシュと待ち合わせしていたため、いったん皆と別れて合流する。

「お疲れ様、マシュ。どうだった?」

「はい、楽しかったです。話には聞いていましたが、学校を実際に見るのは初めてだったので……つい、興奮してしまいました」

今日あった出来事を交換しながら歩いていると、校門付近で言い争っている声が耳に入った。

目を向けると、達也が女子生徒を庇うように立っている。

藤丸は足を止め、声をかけた。

「達也、どうしたんだ?」

「皆で帰ろうとしたところを、そこの生徒達に難癖をつけられてな」

「難癖じゃない!」

達也の会話が聞こえたのか、男子生徒がさらに声を荒らげる。

「僕たちは彼女に相談があるんだ!」

「深雪さんはお兄さんと一緒に帰ると言っているんです。何の権利があって二人の間に割り込むんですか!」

美月が珍しく、はっきりと声を上げて抗議した。

(お兄さん? 達也の妹か)

藤丸は“深雪”という名前を、そこで初めて結びつける。

「君、キリエライトさんだよね? キリエライトさんも僕たちと一緒に帰ろうよ」

美月の抗議を無視するみたいに、今度はマシュに矛先が向く。

マシュは迷いなく首を振った。

「すみません。私は先輩と帰ります。ですので、あなたたちとは帰りません」

「なっ……そいつは――ウィードだぞ」

男が苛立ちを隠せず、差別用語を口にした。

マシュの目が細くなる。少し怒っている雰囲気だ。けれど、言葉を返す前に、美月がさらに声を上げる。

「まだ同じ新入生じゃないですか。私たちとあなたたちで、一体どれだけ差があるというんですか!」

「……そうか。だったら教えてやるよ」

空気が一段、ささくれ立つ。

「おもしれぇ。是非とも教えてもらいたいもんだ」

レオが挑発すると、男がCADに手をかけた。指先が滑るように操作を走らせ、狙いをレオへ定める。

レオも前へ出る。――止める気だ。

(まずい、間に合わない)

藤丸は内心だけで息を呑む。この距離で魔法を撃たれたら、レオが怪我をする。

男の魔法が、わずかに早く発動しかけた、その瞬間――

「ぐっ……!」

乾いた音。男の手からCADが弾かれて地面を跳ねた。

「この距離でやる気? この距離なら、体を動かした方が早いのよ」

エリカが警棒のようなもの――折り畳み式の警棒を手に、平然と言い放つ。

「くそ……!」

CADを叩き落とされた男の後ろで、別の男子生徒が歯噛みする。その手が滑るようにCADを抜き――狙いを、藤丸へ向けた。

その瞬間。

藤丸が止めるより早く、空気が沈んだ。

まるで重石でも落ちたみたいに、校門周辺の温度が一段下がる。

「……ひっ」

狙いを定めていた生徒が、反射的に声を漏らした。周囲の誰もが息を止める。理由は分からない。けれど本能が「やばい」と告げていた。

「メリュジーヌ」

藤丸は、誰にも聞こえない小さい声で止める。

次の瞬間、重さがふっと消えた。ざわめきだけが遅れて戻ってくる。

「みんな、だめ!」

離れた位置にいた女子生徒が慌てて魔法を展開しようとする。だが式は形になる前に乱され、霧散した。

誰かが――強引に割り込んだのが分かる。

「そこまでです」

凛とした声が落ちた。

人垣を割って現れたのは、生徒会長の七草真由美と、風紀委員長の渡辺摩利だった。

「事情を聞きます。関係者は全員、ついてきなさい」

摩利の声は低く、拒否を許さない。

「すみません。悪ふざけが過ぎました」

達也が一歩前に出る。

「悪ふざけだと?」

摩利が疑う視線を達也に向けた。

「森崎のクイックドロウは有名です。少し見せてもらおうとしただけです」

摩利の視線が、先ほどCADを向けた生徒へ移る。

「そこの女子生徒は、攻撃性のある魔法を使用しようとしたように見えたのだが?」

「あれはただの閃光系の魔法ですよ」

「……君は、展開されかけた魔法式を読み取れるのか?」

達也が静かに頷く。

真由美が一歩前に出て、柔らかく笑った。

「達也くん。本当に“見せてもらう”つもりだったのよね?」

「はい」

「分かった。今回は不問とする」

摩利が踵を返しかけて、ふと思い出したように振り向いた。

「君の名前は?」

「司波達也です」

「……覚えておく」

摩利は短く言い、真由美と並んで歩き出した。

二人が校門前を離れると、張っていた空気がようやく緩んだ――はずだった。

森崎が一歩前へ出る。

「俺はお前を認めないぞ! 司波さんと……キリエライトさんは、僕たちといるべきなんだ!」

「お前に認めてもらうつもりはない」

達也は声も表情も変えずに返す。

「ぐっ……」

森崎は怒りで顔を歪めかけるが、先ほどの厳重注意が効いたのか、拳を握りしめて言葉を飲み込んだ。

結局、乱暴に視線を逸らし、そのまま背を向けて立ち去っていく。

「あの……」

達也が踵を返しかけたところで、控えめな声が飛んだ。

「先ほどは……すみませんでした。私光井ほのかって言います」

隣の少女も淡々と続ける。

「北山雫」

「司波達也だ」

「俺は藤丸立香。よろしく」

その後も短い自己紹介が二、三続き、空気が少しだけ和らいだ。

ほのかが遠慮がちに手を上げる。

「あの……よかったら、一緒に駅まで帰りませんか?」

提案に異論は出ない。自然な流れで“皆で帰る”ことが決まった。

歩き始めてしばらくして、ほのかがふと思い出したようにマシュへ視線を向ける。

「マシュさんって……外国の人、ですよね?」

「はい。国籍としては、イギリスになっています」

「今どき珍しいよねー。外国籍の生徒って」

エリカが軽く言う。

達也が淡々と補足した。

「優秀な魔法師は貴重だからな。国によっては、国外に出すこと自体を嫌がる」

「……そうですね。私の場合は、少し事情があって」

マシュはそれ以上を言わず、曖昧に笑った。

その横で、レオが肘で藤丸を小突いた。

「立香とマシュって、どんな関係なんだ? 付き合ってるのか?」

「付き合ってないよ。言葉にするなら……相棒かな」

「はい。私は先輩の相棒であり、サポート役です」

マシュがきっぱり補足する。

「へぇ~」

レオが面白がるように笑った。

「……それはそうとさ」

エリカがふっと思い出したみたいに藤丸を見る。

「さっきの、あれ。あの魔法? 何だったの」

少し離れて歩いていたほのかと雫も、首を傾げてこっちを見た。

藤丸は喉が軽く鳴るのを感じた。

「あ、あの魔法って? 俺、魔法使ってないよ」

「ほら、空気が一瞬重くなったっていうか……ちょっと息苦しくなったやつ」

「ええっと……」

言葉を探す。誤魔化すなら早い方がいい。なのに、うまい嘘が出てこない。

そのとき、達也が横から淡々と言った。

「エリカ。他人の魔法を詮索するのはマナー違反だ」

一拍おいて、続ける。

「――必要以上に触れない方がいい」

「えー……まあ、それもそうね」

エリカは意外なほどあっさり引く。

藤丸は胸の奥で、ほっと息を吐いた。

駅が見えてくると、人の流れが一段増えた。制服の群れに押されるようにして、藤丸たちは改札前まで歩く。

「じゃ、俺はこっちだ」

レオが手を上げる。

「明日な、立香」

「うん、また明日」

「私もこっち」

エリカが軽く言って、ほのかと雫の方を見る。

「じゃあね。また明日、学校で」

「うん、またね」

ほのかが笑って、雫は小さく頷いた。

人が流れて、距離ができる。最後に残ったのは、藤丸とマシュだけだった。

「……先輩」

マシュが少しだけ声を落とす。

「今日は、お疲れ様でした。無理は……していませんか?」

「大丈夫。疲れたけど、楽しかったから」

藤丸は笑って、改札の向こうを見た。

「なんか……変な表現だけど、ちゃんと“学校”って感じだった」

マシュは少しだけ目を細める。

「……私も、初めての学校で。まだ胸がドキドキしてます」

真面目な顔なのに、言葉の端がほんの少し弾んでいる。

藤丸はそれが嬉しくて、つい笑った。

「……帰ろうか」

「はい。ご一緒します」

藤丸は制服の袖を引いて、歩き出す。

春の夕方は、朝より少しだけ優しかった。

 

 

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