決勝戦のステージは、平原に決まった。
遮蔽物はほとんどない。――正面からの火力勝負、一高に不利なステージで三高に有利なステージだ。
藤丸たちは第一高校のテントで、最後の作戦を詰めていた。
「ねえ……これ、本当に着けないといけない? 恥ずかしいんだけど」
黒いマントを羽織った幹比古が、心底嫌そうな顔で言う。
「諦めろ。カーディナル・ジョージの“インビジブル・ブリッド”対策だ」
達也は淡々と言い切り、続けた。
「幹比古には、俺と藤丸が一条を落とすまでの間、吉祥寺の相手をしてもらう」
「やっぱり……例の作戦で行くの?」
藤丸が渋い顔をする。
「お前が提案した作戦だろ」
達也が呆れたように言い、幹比古が不安そうに続ける。
「でも……やっぱり無理なんじゃないか?
一条の爆裂を、正面から受け止めるなんて――」
「それは大丈夫」
藤丸は即答した。
「……ただ、めちゃくちゃ痛そうだし。
それに、一条がちゃんと俺を狙ってこないと、この作戦は成立しないし」
「大丈夫だ」
達也が断言する。
「これだけ暴れてきたんだ。お前を警戒しない相手はいない。
俺が敵でも、真っ先にお前を狙う」
横で、幹比古がうんうんと頷いている。
「安心しろ。骨は拾っておいてやる」
「いや、死なないから!」
即座にツッコミが入り、三人は試合会場へ向かった。
(術式解体……思ったより厄介だな)
一条将暉は内心で舌打ちしながら、魔法を連射しながら前進していた。
魔法が展開され、そのたびに達也が術式解体で無効化する。
その繰り返しが、試合開始からずっと続いている。
(それに――)
将暉は視線だけで藤丸を捉えた。
藤丸は自陣モノリスの陰にいる。
だが、そこから“魔法を発動している気配”がまだしている。
(武装の展開は、もう終えているはずだ……何を仕込んでいる?)
そう考えていると、藤丸がモノリスの陰から姿を現した。
(まあいい。何をしようと――正面から叩き潰す)
将暉は予定通り、優先目標を藤丸に切り替えた。
モノリスの裏。
準備を終えた藤丸は静かに息を吐き、両手に“借り物”の感触を確かめる。
(――力を借ります。レオニダス一世)
槍と盾を握り締めた瞬間、藤丸は飛び出し、スキルを発動する。
《殿の矜持》《三百の奮闘》
将暉がこちらを向いたのを確認し、槍と盾を掲げる。
(――来い)
「宝具展開――!」
「行くぞ友よ、命をここに!
炎門の守護者《テルモピュライ・エノモタイア》!!」
藤丸の左右に、半透明の赤い盾が幾重にも展開される。
――三百の“壁”。
十万の軍勢に、たった三百の軍勢で立ち向かったレオニダス一世の逸話の再現。
直後、爆裂が叩き込まれた。
爆風。熱。衝撃波。
最初は様子見だった将暉の攻撃が、藤丸が倒れないと知るにつれて苛烈さを増していく。
藤丸が攻撃を受けるたび盾が砕け、空気が鳴り、視界が揺れた。
(……重い)
膝が沈みそうになるのを、歯を食いしばって耐える。
やはり彼のようにはいかない。
だが――倒れるわけにはいかない。
彼の武装を借りている以上、無様は晒せない。
まだ、時間を稼がなければならない。
「――スパルタァ!!」
叫び、足を踏ん張る。
たった数秒。
だが体感は、永遠に引き伸ばされる。
百、二百と盾が削られ、最後の一枚にひびが入る。
次の爆裂で――砕け散った。
同時に、藤丸の手の槍と盾も、熱に溶けるように霧散する。
藤丸は、その場に膝をついた。
――だが、役目は果たした。
将暉は“倒した”と確信し、そして気づいた。
(しまった――誘導されていた!?)
視線が藤丸に固定されていた。
その隙に、達也が距離を詰めている。
将暉は慌てて照準を戻し、魔法を起動しようとするが――
間に合わない。
達也のサイオン波が、将暉の意識を直撃した。
視界が揺れ、膝が抜ける。
(しま――)
そこで、意識が途切れた。
「――将暉!」
真紅郎が叫び、視線が一瞬そちらに逸れる。
その“隙”を、幹比古は逃さなかった。
電撃が走る。
真紅郎は回避しきれず、体勢が崩れる。
移動魔法を起動し、体勢を立て直そうとした瞬間――
魔法式が霧散した。
(……術式解体!?)
背筋が凍る。
次の電撃が直撃し、真紅郎はそのまま意識を失った。
残る一人も、達也と幹比古の連携の前に数合も持たず沈む。
――試合終了のブザーが鳴った。
「大丈夫か?」
試合後。
達也が地面に倒れた藤丸を覗き込む。
藤丸は仰向けのまま、片手をひらひら振った。
「大丈夫じゃない……めっちゃ痛い……死にそう……」
「……軽口が叩けるなら大丈夫だな」
「一応、動けるけど……」
藤丸は少し考え、
「もう試合終わったし、いいかな? ハベにゃん、お願いしても良い?」
「もちろん」
ハベトロットが現れ、《幸運の糸紡ぎ》が発動する。
淡い光に包まれ、藤丸は立ち上がった。
「ありがとう。じゃあ、みんなの所に戻ろう」
歩き出しながら、達也はもう一度精霊の眼を使おうか一瞬だけ迷い――やめた。
「藤丸。お前の魔法について、知りたい」
真っ直ぐな“お願い”。
藤丸は少し考え、達也の目を見て頷く。
「うん、いいよ」
「僕も聞いていい?僕もかなり気になっていたんだ」
幹比古が続ける。
「うん、いいよ」
三人で歩いていると、二人の少女が待っていた。
「優勝おめでとうございます、先輩」
「優勝おめでとうございます、お兄様」
「ありがとう――マ……シュ?」
藤丸は顔を上げ、固まる。
右手に《先輩しか勝たん❤️》うちわ。
左手にペンライト。
頭には《先輩!ファイト!》のハチマキ。
完全装備のマシュが、胸を張っていた。
「……も、もしかして、ずっとその格好で?」
「はい! マシュ・キリエライト、全力で応援しました!」
満面の笑顔。
藤丸は叫びながらしゃがみ込み、
遠くでエリカの笑い声が響いていた。