改札を抜けて、家までの道を歩く。
藤丸とマシュは二人でなんて事ない会話をしながら家に帰る。
「ただいま」
鍵を開けて玄関をくぐると、マシュが背筋を伸ばして続く。
「ただいまです、先輩」
二人分の靴が並ぶ。
「今日は……疲れた?」
藤丸が少し優しい声音で聞く。
「いえ、とても楽しかったですから」
マシュは迷いなく答えた。
「そっか。良かった」
その瞬間。
「マスター!」
霊体化を解いたメリュジーヌが現界し、勢いのまま藤丸に抱きついてくる。
「メリュジーヌ、さっきはありがとう」
「うん。でも……うざかったから、吹き飛ばしたかったなぁ」
「メリュジーヌにしては、よく我慢が出来ていた」
現界しながらランスロットが感心したように言う。
「それ、バカにしてる?」
「褒めている」
「嘘くさ……」
藤丸は二人の温度差に苦笑しつつ、リビングへ歩いた。
壁際のモニターが控えめに待機している。スイッチを入れると、画面が柔らかく灯った。
「おかえり、藤丸くん」
最初に映ったのはレオナルド・ダ・ヴィンチ。隣にオルガマリー所長がいて、何か言いたそうに口をパクパクと開いたり閉じたりしている。
――所長が言葉を探している間に、ダヴィンチが先に口を開いた。
「どうだった? 入学初日。楽しかった?」
「うん。楽しかったよ」
藤丸は即答してから、少し照れて付け足す。
「いろいろあったけど」
「そっか。……じゃあ、その“いろいろ”を聞かせてくれる?」
「もちろん」
藤丸は今日の出来事をざっくり話す。入学式の事、学校見学の事、揉め事が起きて、達也が割って入り、騒ぎが収まったこと。
帰りに少しだけ話せたこと。
「私もお友達ができました!」
マシュが嬉しそうに言う。
オルガマリー所長が、ようやく安心したように笑った。
「それは……良かったわね、マシュ。……藤丸も」
言い切ってから、照れ隠しみたいに咳払いする。
「所長として言っておくわ。無理はしないこと。ちゃんと休むこと。いいわね?」
「はい。分かりました、オルガマリー所長」
マシュがきちんと返事をする。
藤丸が横で小さく微笑んでいると、所長は少しだけむっとした顔をして、すぐに目を逸らした。
ダヴィンチが画面越しに手を振る。
「ランスロットもメリュジーヌも、お疲れ様」
「マスターと一緒にいられると思って護衛に入ったのに、全然触れ合えないし……学校、壊した方がいい?」
「ダメだからね」
藤丸が笑って止める。
メリュジーヌは頬を膨らませるだけで、いったん引き下がった。
その横でランスロットが――少しだけ間を置いて、また余計な一言を落とす。
「…………マシュの制服姿も」
「言わなくていいです」
マシュが即座に切って、藤丸は思わず吹きそうになる。
ダヴィンチが軽く手を叩いた。
「よし。今日は疲れてるだろうし、“報告会”はおしまい」
オルガマリー所長が続ける。
「夕飯、食べて。歯磨きをして、お風呂にも入りなさいよ。それから――」
「お母さんみたい」
藤丸が言うと、所長はムッとした顔をする。
「……うるさいわね」
マシュがエプロンを手に取る。
「先輩、夕食の準備をします。今日は――簡単なもので」
「ありがとう。手伝うよ」
「はい。では、野菜を洗ってください」
藤丸はキッチンへ向かいながら、画面の二人にもう一度だけ言った。
「……ありがと。見守ってくれて」
ダヴィンチは少しだけ目を細めて笑う。
「どういたしまして。明日も“ただいま”を待ってるよ」
モニターが消える。
部屋に残ったのは、鍋の音と、包丁がまな板を叩く音。
それと――少し離れて立ち、黙って見守る二騎の気配。
二人の新しい日常は、始まったばかりだった。