魔法科高校の帰還者   作:テトマト

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第5話

朝の空気は、まだ少しだけ冬の名残を抱いていた。

ジュー、と何かを焼く音で目が覚める。藤丸はパジャマを脱いで部屋着に着替え、リビングへ向かった。

「おはよう、マシュ」

「おはようございます、先輩」

エプロン姿のマシュが、朝食と弁当を同時進行で作っている。手際は完璧で、湯気の匂いだけがやけに“生活”を感じさせた。

「朝からありがとう。何か手伝うよ」

「ありがとうございます。では、お皿を並べてもらってもいいですか?」

藤丸が棚から皿を出していると、マシュが何もないはずの横へ、自然に声を投げる。

「お二人も食べますか?」

「せっかくだ。頂こう」

ランスロットが現界し、椅子を引いて腰を下ろした。

(わたしはいらない……もう少し寝る)

眠たげな声が、念話で落ちてくる。

「メリュジーヌはいらないってさ」

藤丸がそう伝えると、マシュは頷いた。

「分かりました。では三人でいただきましょうか」

席につき、揃って手を合わせる。

「「「いただきます」」」

朝食を食べ終えると、制服に着替え、鞄を持って玄関へ向かう。

「先輩、忘れ物はありませんか?」

「うん。大丈夫。……マシュは?」

「はい。完璧です」

その横で、ランスロットが低く言う。

「メリュジーヌはまだ休んでいるが、護衛は私がする。霊体化のままだが、マスターが危機に陥れば全力で戦うと誓う。安心するといい」

「私はクラスが違うので、先輩の護衛をお願いします。ランスロット卿」

マシュも真剣に頭を下げる。

「そんな危険、ないと思うけど……」

藤丸は苦笑しながら扉を開けた。

歩道には同じ制服がちらほらいて、駅へ向かう流れができている。藤丸とマシュもその中に混じる。

 

電車に揺られて数駅。降りたホームは制服の数が一気に増えた。駅名表示に「第一高校前」の文字が見える。藤丸はそれを見上げ、なんとなく背筋を伸ばす。

改札を抜けると、学校へ向かう道はゆるい坂になっていた。歩きながら、マシュが小さく息を吸う。

「……先輩。学校が見えてきました。これから毎日通うなんて、何だか不思議な気分です」

「はは、それが学校だよ、マシュ」

その時、少し前を歩く二人組が目に入った。同じ制服の男女。距離が近いのに、空気が静かでぶれない。昨日見た背中だ。

(達也たちだ)

藤丸は歩幅をほんの少し上げ、追いつける距離まで近づく。

「おはよう、達也。……深雪さん」

達也が振り向く。隣の深雪も同時にこちらを見る。

「おはよう、藤丸」

「おはようございます、達也さん。深雪さん」

マシュが続ける。

四人で並ぶ形になる。周囲には同じ方向へ向かう生徒が多く、話し声が途切れない。

雑談をしながら歩いていると校門が近づく。人の流れが太くなり、制服の波に押されるように四人の距離が自然に整列していく。

藤丸が一度だけ息を吸った――その背中に、明るい声が落ちてきた。

「達也くーん」

呼ばれて達也が足を止める。藤丸もつられて振り返った。

人混みをすり抜けて近づいてくるのは、三年生の女子生徒だった。制服の着こなしが自然で、周囲の視線がわずかにそちらへ流れる。

「おはよう。達也くん、みんなもおはよう」

「おはようございます、七草先輩」

達也が短く頭を下げる。

藤丸も慌てて続いた。

「おはようございます」

マシュも同じように一礼する。

「おはようございます、七草先輩」

七草真由美――昨日、校門前の騒ぎを収めた生徒会長だ。近くで見ると、声の柔らかさと視線の強さが同居しているのが分かる。

「うんうん。みんな早いわね」

真由美はにこやかに頷き、深雪に視線を移した。

「深雪さんも、おはよう」

「おはようございます、七草先輩」

深雪は丁寧に返しつつも、背筋が少しだけ硬い。

真由美はそのままマシュへも目を向けた。

「マシュさんも。昨日は……大変だったね」

「いえ。先輩方のおかげで助かりました」

マシュが真面目に言うと、真由美は困ったように笑った。

「ううん。私たちは仕事をしただけ。……それでね」

声の調子が、ほんの少しだけ“お願い”に変わる。

「お昼休み、生徒会室に来てもらえるかな?」

「……私が、ですか?」

深雪が瞬きをする。

「うん。深雪さんとマシュさんに。ちょっとお話したいことがあるの」

それから真由美は、達也と藤丸へ視線を移す。

「よければ達也くんと、藤丸くんもね」

「俺たちもですか? 別に構いませんが」

達也が淡々と答え、藤丸も頷いた。

「自分も構いません」

「ありがとう。じゃあ、決まりね」

真由美はぱっと表情を明るくして、手を軽く振った。

「それじゃ、授業に遅れないようにね」

「はい」

四人が返事を揃えると、真由美は人の流れに紛れるように去っていった。

残された空気が、少しだけ変わる。

「……生徒会室、ですか」

深雪が確認するように呟く。

藤丸は鞄の肩紐を直しながら、ぽつりと言った。

「……なんの用だろ?」

 

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