投稿頻度ですが入学編はある程度書いているので1日1話を投稿していきます。九校戦編からは週一ペースになると思います。
真由美先輩の声が、ほんの少しだけ真面目になる。
「深雪さん。それからマシュさん」
二人を順番に見て、柔らかい声で言った。
「生徒会、入ってみない? 会長権限で役員を推薦できるの。――私は、あなたたち二人を推薦したい」
深雪が一度だけ瞬きをして、背筋を正す。
「……私が、ですか」
マシュも小さく息を呑んだ。視線が揺れて――それから、藤丸をちらっと見る。
藤丸は言葉にしないまま、軽く頷いた。
“やりたいなら、いいと思う”。背中を押すには、それで十分だった。
マシュは真由美先輩へ向き直り、丁寧に頭を下げる。
「……はい。私でよければ、お受けします」
「ありがとう、マシュさん」
真由美先輩が嬉しそうに笑って、次に深雪へ向き直る。
「深雪さんはどう?」
深雪は一拍だけ置いてから、静かに首を振った。
「私は……私より相応しい方がいます」
視線は迷いなく、達也へ向く。
「お兄様の方が、ずっと優秀です。私ではなく、お兄様を推薦します」
真由美先輩が目を丸くして、それから困ったように笑った。
「達也くんを?」
「はい。お兄様は知識も技術も、判断力もあります。生徒会向きです」
そのやり取りを見たマシュが、ぱっと顔を上げる。
「それは、良い案です!」
声が少し大きくて、全員の視線がマシュに集まった。
マシュは気づいて、少しだけ頬を赤くする。けれど勢いは止まらない。
「先輩は、とても周囲を見て行動できます。困っている人を放っておけませんし、判断力も高いです。ですから——」
一息。
「私より、先輩の方が相応しいと思います」
「マシュ、落ち着いて」
藤丸が小声で止める。
「す、すみません……」
マシュが肩をすくめて黙ると、今度は深雪の方が申し訳なさそうに視線を落とした。
真由美先輩は苦笑して、両手を軽く振った。
「うん、二人とも言ってくれてありがとう。でもね——悪いけど、それはできないの」
「……?」
藤丸が瞬きをする。
「生徒会役員は、一科生から選出することが規約で定められています」
市原先輩が淡々と告げる。
「だから、二科生の藤丸くんと達也くんは、生徒会役員にできないの」
空気が、少しだけ落ちた。
「そ、そうですか……」
深雪が悔しそうに呟く。
マシュも唇を結んだまま、こくりと頷いた。
藤丸と達也は揃って、ほっと息をついた。
真由美先輩は二人の反応を見て、ふっと笑う。
「ごめんなさい。でもね、二科生がどうこうって話じゃないの。単純に“決まり”だから」
それから、深雪とマシュへ向き直った。
「……それで。深雪さんも、マシュさんも。生徒会、受けてくれる?」
深雪は一度だけ達也を見てから、真由美先輩に視線を戻す。
「はい。私でよければ」
マシュも迷いなく頷く。
「私も構いません」
「ありがとう!」
真由美先輩の声がぱっと明るくなる。
「じゃあ、正式にお願いするね。細かい役職はあとで相談として——」
そこで、渡辺先輩が静かに口を開いた。会長へ向けて、いつもの低い声。
「会長。もう一件、話がある」
「うん、どうしたの?」
真由美先輩が視線を向けると、渡辺先輩は達也へ目を移した。
「司波達也」
「はい」
達也が短く返す。
「昨日、君は“発動前の魔法式”を見たと言ったな」
渡辺先輩の声は落ち着いている。だが、引かない圧があった。
「それが事実なら、風紀委員に必要な資質だ」
藤丸は魔法に詳しくない。けれど、魔法式が“見える”という話は聞いたことがない。少なくとも、普通にある能力じゃないことくらいは分かる。
渡辺先輩は続けた。
「風紀委員に入れ。——君の能力が必要だ」
達也は一拍置いて、首を横に振った。
「……俺は二科生です。俺が風紀委員になれば、反発が出ます」
淡々と言い切る。断る理由は合理的だ。
渡辺先輩は、すぐに返した。
「二科生かどうかは関係ない」
言い切ってから、少しだけ声を落とす。
「必要なのは“見える”ことだ。魔法式が見えるなら、それで十分だ」
達也の眉がほんの少しだけ動いた。
押し切られた、というより、論点がずらせないと悟った顔。
「ですが——」
なお言いかけた達也の言葉に、深雪が小さく割り込む。
「お兄様」
深雪の声は柔らかい。けれど、芯がある。
「……私は、お兄様が正当に評価されるのが嬉しいです。だから……どうか、受けてください」
達也は深雪を見て、短く息を吐いた。
その息は、諦めに近い。
真由美先輩が申し訳なさそうに笑う。
「達也くん、生徒会会長である私からもお願い」
渡辺先輩も視線を逸らさず言った。
「渋る理由は分かる。だが、“見える”なら未遂で終わっていた事件も検挙できる可能性も増える。君の力を貸してほしい」
数秒の沈黙。
達也は最後に、渡辺先輩へ視線を戻す。
「……分かりました。引き受けます」
言葉は短い。納得というより、必要に押されて受け入れた声だった。
深雪の肩が、ほんの少しだけほどけた。
「ありがとうございます、お兄様」
達也は小さく頷くだけで、表情を変えない。
真由美先輩がぱっと空気を明るくする。
「じゃあ決まりね! 生徒会は深雪さんとマシュちゃん。風紀委員は達也くん!」
それから藤丸へ視線を向けて、困ったように笑う。
「藤丸くんは……ごめんね。役員にはできないけど、昨日みたいに変なことに巻き込まれないでね?」
藤丸は、さっきの仕返しとばかりに達也を見る。
「その時は、風紀委員の達也に助けてもらいますよ」
達也が、ほんの少しだけ苦い顔をして藤丸を見た。
「……巻き込まれる前提で話すな」
「だって昨日もう巻き込まれたし」
藤丸が笑うと、真由美先輩もつられて笑った。
真由美先輩が笑いながら、軽く手を叩く。
「じゃあ放課後、手続きと説明ね。——みんな、遅れないで来てね」
予鈴がもう一度鳴って、昼休みの終わりを急かすみたいに廊下が騒がしくなる。
藤丸たちはそれぞれ教室へ戻り、午後の授業はあっという間に過ぎていった。