魔法科高校の帰還者   作:テトマト

7 / 32
本日2話目の投稿です。

投稿頻度ですが入学編はある程度書いているので1日1話を投稿していきます。九校戦編からは週一ペースになると思います。


第7話

真由美先輩の声が、ほんの少しだけ真面目になる。

「深雪さん。それからマシュさん」

二人を順番に見て、柔らかい声で言った。

「生徒会、入ってみない? 会長権限で役員を推薦できるの。――私は、あなたたち二人を推薦したい」

深雪が一度だけ瞬きをして、背筋を正す。

「……私が、ですか」

マシュも小さく息を呑んだ。視線が揺れて――それから、藤丸をちらっと見る。

藤丸は言葉にしないまま、軽く頷いた。

“やりたいなら、いいと思う”。背中を押すには、それで十分だった。

マシュは真由美先輩へ向き直り、丁寧に頭を下げる。

「……はい。私でよければ、お受けします」

「ありがとう、マシュさん」

真由美先輩が嬉しそうに笑って、次に深雪へ向き直る。

「深雪さんはどう?」

深雪は一拍だけ置いてから、静かに首を振った。

「私は……私より相応しい方がいます」

視線は迷いなく、達也へ向く。

「お兄様の方が、ずっと優秀です。私ではなく、お兄様を推薦します」

真由美先輩が目を丸くして、それから困ったように笑った。

「達也くんを?」

「はい。お兄様は知識も技術も、判断力もあります。生徒会向きです」

そのやり取りを見たマシュが、ぱっと顔を上げる。

「それは、良い案です!」

声が少し大きくて、全員の視線がマシュに集まった。

マシュは気づいて、少しだけ頬を赤くする。けれど勢いは止まらない。

「先輩は、とても周囲を見て行動できます。困っている人を放っておけませんし、判断力も高いです。ですから——」

一息。

「私より、先輩の方が相応しいと思います」

「マシュ、落ち着いて」

藤丸が小声で止める。

「す、すみません……」

マシュが肩をすくめて黙ると、今度は深雪の方が申し訳なさそうに視線を落とした。

真由美先輩は苦笑して、両手を軽く振った。

「うん、二人とも言ってくれてありがとう。でもね——悪いけど、それはできないの」

「……?」

藤丸が瞬きをする。

「生徒会役員は、一科生から選出することが規約で定められています」

市原先輩が淡々と告げる。

「だから、二科生の藤丸くんと達也くんは、生徒会役員にできないの」

空気が、少しだけ落ちた。

「そ、そうですか……」

深雪が悔しそうに呟く。

マシュも唇を結んだまま、こくりと頷いた。

藤丸と達也は揃って、ほっと息をついた。

真由美先輩は二人の反応を見て、ふっと笑う。

「ごめんなさい。でもね、二科生がどうこうって話じゃないの。単純に“決まり”だから」

それから、深雪とマシュへ向き直った。

「……それで。深雪さんも、マシュさんも。生徒会、受けてくれる?」

深雪は一度だけ達也を見てから、真由美先輩に視線を戻す。

「はい。私でよければ」

マシュも迷いなく頷く。

「私も構いません」

「ありがとう!」

真由美先輩の声がぱっと明るくなる。

「じゃあ、正式にお願いするね。細かい役職はあとで相談として——」

そこで、渡辺先輩が静かに口を開いた。会長へ向けて、いつもの低い声。

「会長。もう一件、話がある」

「うん、どうしたの?」

真由美先輩が視線を向けると、渡辺先輩は達也へ目を移した。

「司波達也」

「はい」

達也が短く返す。

「昨日、君は“発動前の魔法式”を見たと言ったな」

渡辺先輩の声は落ち着いている。だが、引かない圧があった。

「それが事実なら、風紀委員に必要な資質だ」

藤丸は魔法に詳しくない。けれど、魔法式が“見える”という話は聞いたことがない。少なくとも、普通にある能力じゃないことくらいは分かる。

渡辺先輩は続けた。

「風紀委員に入れ。——君の能力が必要だ」

達也は一拍置いて、首を横に振った。

「……俺は二科生です。俺が風紀委員になれば、反発が出ます」

淡々と言い切る。断る理由は合理的だ。

渡辺先輩は、すぐに返した。

「二科生かどうかは関係ない」

言い切ってから、少しだけ声を落とす。

「必要なのは“見える”ことだ。魔法式が見えるなら、それで十分だ」

達也の眉がほんの少しだけ動いた。

押し切られた、というより、論点がずらせないと悟った顔。

「ですが——」

なお言いかけた達也の言葉に、深雪が小さく割り込む。

「お兄様」

深雪の声は柔らかい。けれど、芯がある。

「……私は、お兄様が正当に評価されるのが嬉しいです。だから……どうか、受けてください」

達也は深雪を見て、短く息を吐いた。

その息は、諦めに近い。

真由美先輩が申し訳なさそうに笑う。

「達也くん、生徒会会長である私からもお願い」

渡辺先輩も視線を逸らさず言った。

「渋る理由は分かる。だが、“見える”なら未遂で終わっていた事件も検挙できる可能性も増える。君の力を貸してほしい」

数秒の沈黙。

達也は最後に、渡辺先輩へ視線を戻す。

「……分かりました。引き受けます」

言葉は短い。納得というより、必要に押されて受け入れた声だった。

深雪の肩が、ほんの少しだけほどけた。

「ありがとうございます、お兄様」

達也は小さく頷くだけで、表情を変えない。

真由美先輩がぱっと空気を明るくする。

「じゃあ決まりね! 生徒会は深雪さんとマシュちゃん。風紀委員は達也くん!」

それから藤丸へ視線を向けて、困ったように笑う。

「藤丸くんは……ごめんね。役員にはできないけど、昨日みたいに変なことに巻き込まれないでね?」

藤丸は、さっきの仕返しとばかりに達也を見る。

「その時は、風紀委員の達也に助けてもらいますよ」

達也が、ほんの少しだけ苦い顔をして藤丸を見た。

「……巻き込まれる前提で話すな」

「だって昨日もう巻き込まれたし」

藤丸が笑うと、真由美先輩もつられて笑った。

真由美先輩が笑いながら、軽く手を叩く。

「じゃあ放課後、手続きと説明ね。——みんな、遅れないで来てね」

予鈴がもう一度鳴って、昼休みの終わりを急かすみたいに廊下が騒がしくなる。

藤丸たちはそれぞれ教室へ戻り、午後の授業はあっという間に過ぎていった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。