魔法科高校の帰還者   作:テトマト

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ちなみに作者は魔法科高校の劣等生が原作未読のにわかです。


第8話

放課後。

藤丸は教室の机を整えながら、帰り支度をしていた。

 

(マシュと晩ご飯の買い出しに行く予定だったな)

 

ふと思い出す。けれど今日は生徒会の用事がある。マシュは遅くなるだろう。

なら買い出しは自分ひとりで済ませればいい——そう決めて、藤丸は生徒会室へ向かった。

せめて「先に行ってる」とだけ伝えておきたかった。

 

生徒会室は校舎の奥まった場所にある。

廊下の人通りが薄くなり、扉の前に立つと、昼とは違う空気がまとわりつく。

 

——中から声が漏れていた。

 

「……だから、二科生なんだ」

 

抑えた声なのに、刺がある。

藤丸は扉に手をかけたまま、一瞬だけ固まった。

 

「……二科生であることが、能力の有無と関係ありますか?」

 

深雪の声が返る。丁寧なのに、はっきりと怒っている。

次の瞬間、真由美先輩の声が間に割って入った。

 

「まあまあ、二人とも落ち着いて——」

 

マシュが小さく息を吸うのが聞こえた。

藤丸は「今さら引けないな」と思い、ノックしてから扉を開ける。

 

「失礼します」

 

室内は昼より人数が多い。

真由美先輩、摩利先輩、市原先輩、中条先輩。

達也と深雪、マシュもいる。

 

それに、見覚えのない男子生徒がひとり——姿勢が良く、若いのに言葉の端が妙に硬い。

そしてもうひとり、壁際に三年生の男子が立っていた。制服の上着を肩にかけた姿だけで、“強い”と分かる圧がある。

 

(十文字会頭……)

 

名前だけは耳にしていた。第一高校の“顔”みたいな人だ、と。

 

「藤丸くん? どうしたの?」

 

真由美先輩が笑顔を向ける。けれど、その奥に困りが混じっていた。

 

「いえ、マシュに伝言を——」

 

そう言いかけたところで、マシュがすぐ近くまで来る。

 

——その瞬間。

 

「無関係の者を入れていいのか」

 

硬い声を出したのは、さっきの男子生徒だった。

 

真由美先輩が言いかけるより早く、深雪が一歩前へ出る。

 

「藤丸さんは関係者です。昨日も今朝も——私たちと行動を共にしました」

 

「それは“同級生”としての話だろう」

 

男子生徒が眉をひそめる。

 

「ここは生徒会室だ。遊び場ではない。まして規律を扱う場に、二科生を出入りさせる必要はない」

 

空気が少しだけ冷える。

藤丸は「またか」と思った。……正直、嫌だなとも思う。

それでも表情には出さない。この学校の“いつもの延長”だ。

 

けれど深雪は違った。

 

「……二科生を見下すような言い方は、おやめください」

 

「見下してはいない。事実を言っているだけだ」

 

男子生徒は視線を達也へ向けた。

 

「司波達也。君も二科生だ。君は理解しているはずだろう。君が風紀委員に選ばれるのは不適切だ」

 

達也は表情を動かさない。

 

「理由は」

 

「実力だ」

 

男子生徒が言い切る。

 

「君は“魔法式が見える”と言った。だが、見えることと運用できることは別だ。

風紀委員は現場で判断と制圧が必要になる。事故が起きたら、誰が責任を負う?」

 

深雪の目が鋭くなる。

 

「お兄様を侮辱しないでください」

 

「侮辱ではない。評価だ」

 

男子生徒は譲らない。

 

「七草会長、渡辺先輩。私は副会長の服部刑部少丞範蔵です。責任ある立場として、看過できません」

 

(服部……昼休みに会長が言ってた名前だ)

想像より“真面目”というより、“堅い”。

 

真由美先輩が困ったように笑う。

 

「服部くん、それ以上は——生徒会長として許しませんよ」

 

摩利先輩が言葉を切る。

 

「服部。私が決めた」

 

「だからこそです、渡辺先輩」

 

服部が強く言う。

 

「風紀委員は“力”の組織です。力がない者に権限を与えるのは——」

 

「力がない、と決めつける根拠は?」

 

深雪が静かに問う。

服部は一瞬だけ詰まって、言い方を変えた。

 

「見たことがない。二科生が一科生より優れている例を」

 

そして達也を真正面から見た。

 

「なら証明してもらう。君が風紀委員にふさわしい実力を持つと」

 

室内の空気が張る。

真由美先輩が「えっ」と目を丸くする。

摩利先輩は表情を変えない。変えないまま、目だけが少し鋭くなる。

 

「……決闘を申し込む、ということか」

 

摩利先輩が確認するように言った。

服部は迷いなく頷く。

 

「はい。形式は訓練場で。立会人がいれば問題ありません」

 

深雪が言いかける。

 

「お兄様、そんな——」

 

「深雪」

 

達也が短く止めた。

それから服部を見る。

 

「いい。受ける」

 

真由美先輩が慌てて声を上げる。

 

「達也くん、待って——!」

 

けれど十文字先輩が静かに前へ出た。

 

「……なら、俺が立会いをする」

 

声は大きくないのに、室内がすっと静まる。

“十文字会頭”という肩書きが、音もなく場を制圧した。

 

「訓練場へ行こう。これ以上ここでやっても話が進まない」

 

摩利先輩も頷く。

 

「私も同行する。会長、問題ないな」

 

「……うん。安全管理は最優先。絶対にやり過ぎないこと。いい?」

 

真由美先輩が念を押す。

 

達也は短く。

 

「了解しました」

 

服部も同じように。

 

「了解しました」

 

流れが決まってしまう。

 

藤丸は「買い出しどころじゃないな」と思いながら、マシュを見る。

 

「先輩……」

 

マシュの声は小さい。けれど不安が混じっている。

藤丸は肩をすくめた。

 

「成り行きで来ちゃったし、ここまで来たら最後まで見るしかないだろ」

 

それから達也へ声をかける。

 

「達也。大丈夫?」

 

「問題ない」

 

達也は淡々と返した。いつも通りの声だ。

 

一同が生徒会室を出て、訓練場へ向かって歩き出す。

廊下の窓から入る夕日が、長い影を床に落としていく。

 

今日は“日常”のはずだった。

なのに、こういう形で“実力”が試される場に立ち会うことになる。

 

——まあ。

学校って、案外こういうものなのかもしれない。

 

そう思い込むようにして、藤丸はみんなの後ろについていった。




服部刑部少丞範蔵先輩が嫌なやつになってしまった。
ごめんなさい服部刑部少丞範蔵先輩
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