めざせ踏み台マスター   作:d_chan

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第2話 カラシニコフとドラグノフ(2)

問. 机の引き出しを開けたらアサルトライフル・カラシニコフが鎮座していたときの感想を正直に述べよ。

 

答え. わけがわからないよ

 

 

 お腹を空かせたまま自宅のマンション(おそらく一人暮らし)に帰った。転生したての興奮で外をぐるぐるしていたからか。殺風景な部屋に一つだけぽつねんとある勉強机の探索がまだだったのだ。

 

 帰ってきた部屋の電気をつける。

 相変わらず何もない。ベッドと机とクローゼット。

 それでも朝より少しだけ「自分の部屋」らしく見えた。帰ってきた場所がある、というのはそれだけで違うものだ。

 

 机の前に立った。

 引き出しに手をかける。

 朝、後回しにしたやつだ。

 

 開けた。

 

 

「……」

 

 

 AK-47カラシニコフが鎮座していた。

 

 

「……………………」

 

 

 閉めた。

 深呼吸をした。

 もう一度開けた。

 

 いた。まだいた。

 

 思わず現実逃避をしつつ、財布とパスポートらしきものを見る。財布の中には見た目百万円はありそうなゴンぶとの札束。それに加えてキャッシュカード。奥にはそのカードの通帳もある。開いてみると見たこともないほどの金額が並んでいた。具体的には十桁を数えたところで怖くなってやめた。

 今朝と全く同じ行動だ。成長しない。

 

「とりあえずこれでご飯の心配はなくなったか」

 

 そこで気が付く。財布があるなら今日も飯が食えたのでは。

 今日の空腹は完全に自業自得だった。シュークリームどころかコンビニにも寄れた。

 深く考えないことにする。

 

 次いで意味深なパスポートを開いてみると――。

 

「誰???」

 

 名前には「ミハエル・カラシニコフ」と書かれている。なんと日本国籍でほっとする。もちろん、僕はこんな名前ではないもっと純ジャパな名前だった。

 

 だが、名前以上にびっくりしたのが。

 

「銀髪オッドアイ(ヘテロクロミア)。左右の目が緑と赤(サファイアとルビー)なのか」

 

 写真の顔を眺める。

 容姿が整いすぎていて、人形めいている。中性的だから美少女にも見える。男の子なのか女の子なのかパッと見ではわからない。

 

 でも確かに「自分」だ。

 この小さくなった体の顔が、ここに写っている。

 

 鏡を探したが部屋にはなかった。不便すぎる。

 仕方がないのでパスポートの写真を穴が開くほど眺めた。

 

 転生すると外見が変わるのか。当たり前かもしれないが、実際に起きると驚く。

 というか銀髪オッドアイってなんだ。どういう素性なんだ僕は。

 そもそも「ミハエル・カラシニコフ」という名前が不穏すぎる。

 

 カラシニコフ。

 

 それで気が付いた。

 机の中のアサルトライフル、AK-47カラシニコフ。

 自分の名前、ミハエル・カラシニコフ。

 つながりがあるとしか思えない。

 

 思い切ってもう一度引き出しを開けた。

 銃は相変わらずそこにあった。

 恐る恐る手を伸ばして、持ち上げてみる。

 

 重かった。

 当たり前だ。

 本物のアサルトライフルがこんなところにある時点でいろいろとおかしい。

 

 よく見ると、質感が微妙に違う。

 銃口の形状、引き金の感触。

 本物の銃とは何かが違う気がした。

 前世でFPSをやりこんでいたおかげで、AK-47の見た目くらいは知っている。でも、これは少し違う。

 

「……デバイス、とか?」

 

 つぶやいた瞬間だった。

 

 

 

 

Доброе утро, товарищ.(おはようございます、同志)

 

 

「うわっ!?」

 

 持っていた銃から声がした。

 落としそうになって、慌てて両手で抱きとめた。床に落としたら何が起きるかわからない。

 

 声は女性のものだった。

 機械的な、無機質な声だ。

 でもそこに、確かな芯がある。静かで、落ち着いていて、それでいてどこか若い。感情のない声のはずなのに、なぜか「いる」という感じがした。

 

 心臓がまだどきどきしている。

 転生して以来、驚いてばかりだ。

 

「は、はろーまいねーむいず……からしにこふ? おー、カラシニコフつながりか! で、君は誰なの?」

 

《Я интеллектуальное устройство AK-47, посланное богом-творцом, чтобы поддерживать товарища. (私は同志をサポートするべく創造神から遣わされたインテリジェントデバイスのAK-47です)》

 

 インテリジェントデバイス。

 創造神。

 

 その二単語が、頭の中でゆっくりとほどけていくのを感じた。

 

「……デバイスって、魔法のデバイスってこと?」

 

Да(はい)

 

 短い返答だった。無駄がなかった。

 でも確認は取れた。

 魔法のデバイス。銃型の。AK-47。自分の名前と同じ「カラシニコフ」の名を持つ。

 

「創造神って、転生神のこと?」

 

《Подробности о боге-творце неизвестны.(創造神の詳細は不明です. В систему загружены все необходимые функции для поддержки товарищей.(同志をサポートするために必要なあらゆる機能がインプットされています)》

 

「あらゆる機能って、どのくらい?」

 

《По имеющимся у меня данным, это превосходит даже эпоху расцвета Аль-Хазреда.(私の知識では、かのアルハザード全盛期を凌ぐとなっています)》

 

「……桁がよくわからないけど、すごそう」

 

Да(はい)

 

 淡々としている。

 本当に感情というものがない。でも嘘もない。事実だけを、過不足なく返してくる。

 そういう存在なんだ、と思った。

 

 しばらく黙って銃を眺めた。

 アサルトライフル型のインテリジェントデバイス。

 なんとなく自分が転生した世界に推測がつく。

 魔法のデバイスといえば、前世のアニメや漫画で散々見てきた。でも、だいたい杖だったり宝石だったり、もっと可愛らしい外見のものが多かった。

 よりによってAK-47。

 

「AK-47は君の名前じゃないんだよね? 型番みたいなものって言ってたよね」

 

《Да. Это обозначение модели изделия, а не индивидуальное имя.(はい。製品型番であり個体名称ではありません)》

 

「じゃあ、名前をつけてあげる」

 

 少しだけ間があった。

 デバイスに間があった気がした、というのは気のせいだろうか。

 

Принято.(……承ります)

 

 承ります、か。

 随分と素直だ。嫌がりもしない。でも喜んでいる様子もない。

 

 考えた。

 どんな名前がいいだろう。

 この声に合う名前。

 静かで、でも芯のある、この声に。

 

 ふと思い出したことがある。

 前世で見たアニメに、こういう一節があった。

 名前を呼んだら友達になれる。

 それが本当かどうかはわからない。でも、前世で友達がいなかった僕には、なんだか忘れられない言葉だった。

 

 だったら、呼びたくなる名前がいい。

 何度でも呼びたくなるような。

 

「エイナ。君の名前は今日からエイナだ」

 

Эйна(エイナ)

 

 デバイスが、自分の名前を繰り返した。

 確かめるように。あるいは、慣れるように。

 

Благодарю за прекрасное имя.(素敵な名前を感謝します)

 

 感情のない声だった。

 でも、なぜかこちらが嬉しかった。

 

「よろしく、エイナ」

 

Прошу о сотрудничестве, товарищ.(よろしくお願いします、同志)

 

 こうして、僕の転生後で初めての「友達」は、銃型のインテリジェントデバイスになった。

 変な話だが、悪くない話だとも思った。

 

 エイナについて、もう少し教えてもらった。

 待機モードはドッグタグ型。表にBCVS CCCPとMikhail Kalashnikovという名前が。裏には星と交差する鎌と槌。どこかソビエト連邦めいたデザインだ。

 変身? させてみると、カーキ色の軍服が出現した。ソ連の将校服らしい。なんでそうなる。

 額の赤星は月桂樹に包まれている。どう見てもソ連邦元帥です。本当にありがとうございました。

 でも着てみると馴染んだ。人形みたいな外見の自分が着ると、コスプレというより本当に着こなしている感じになる。

 イケメンはずるい、と他人事のように思った。

 

 エイナとのやりとりを楽しんでいると。

 どこからか、聞き覚えのある音がした。

 

 

 

 

 からから。

 からから。

 

 車輪が回る音だ。

 

 僕は静止した。

 

 この音を聞き間違えるはずがない。

 生まれてから死ぬまで、十年以上聞いてきた音だ。

 病室のあの音と、全く同じだった。

 

 胸の奥で何かが動いた。

 心臓ではなく、もっと深いところで。

 

「……どこから」

 

 エイナが「クローゼットです」と言った。

 振り返る。クローゼットを見る。

 扉の向こうから、確かにからからという音がしている。

 

 足が動いた。

 気が付いたら歩いていた。

 

 クローゼットの扉に手をかける。

 一瞬、止まった。

 違ったらどうしよう、という気持ちがあった。

 この音に似た何かだったら。もし違ったら。

 

 開けた。

 

 

「――ドラグノフ!」

 

 

 そこにいた。

 

 ケージの中で回し車を回す、ゴールデンハムスターの姿が。

 

 まだ元気だったころの姿だ。

 丸くて、ふかふかで、小さな黒い目が光っている。

 この毛並みも、この大きさも、この体の丸みも。

 

 全部、知っている。

 

 ケージに抱きついた。震える手でラッチを外して扉を開ける。手のひらを差し入れると、すぐに乗ってきた。

 

 この重さだ。

 この温かさだ。

 この、手のひらに収まる小さな命の感触が。

 

「ドラグノフ……」

 

 声が掠れた。

 泣くつもりはなかった。でも、目の奥が熱くなるのがわかった。

 

 前世の最後のころ、ドラグノフはもうほとんど動かなくなっていた。

 十年は生きすぎだ、とお医者さんに言われていた。

 でもドラグノフは生きていた。毎朝、僕が目を覚ますたびに、ケージの中で小さく動いていた。

 

 それがどれだけ嬉しかったか。

 あの子がいたから、僕は毎朝目を覚ます理由があった。

 転生後初めての友達がエイナなら、前世で唯一無二の友達がドラグノフだった。

 

 そのドラグノフが、今この手のひらの上にいる。

 若くて、元気な姿で。

 

 こちらを見上げるつぶらな瞳も、何もかもが懐かしくて、いとおしい。

 

 そのとき。

 頭の中に声が響いた。

 

 

 

 

「お久しぶりです飼い主(モイ・ホジヤイン)! また会えて光栄であります!」

 

 

 声だった。

 ドスの効いた、年配の女性のような声だった。

 でも口調は妙に元気で、語尾に「あります」がついている。

 

 キョロキョロとあたりを見渡す。

 部屋には僕とエイナとドラグノフしかいない。

 

「こっちですこっちです! 吾輩、ドラグノフです!」

 

 

「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!」

 

 

 叫んでしまった。

 手のひらの上のドラグノフが「にゃにゃっ!?」とびっくりしてケージに逃げ込んだ。ごめん。

 

Товарищ, успокойтесь.(同志、落ち着いてください)

 

 エイナの声は相変わらず無機質で落ち着いていた。

 ありがたい。今この瞬間、この冷静さがありがたい。

 

「え、えーと。今、ドラグノフが喋った?」

 

「喋りましたであります!」

 

 頭の中に直接響く声。念話というやつか。

 ということはドラグノフは、使い魔?

 

「使い魔……?」

 

「左様であります! 吾輩は飼い主の使い魔になっているのであります!」

 

 頭の中のドスの効いた声と、ケージの中でぷりぷりしている小さなハムスターが、全く一致しない。

 でも確かに同じ存在だ。

 

「ちょ、ちょっと待って。情報が多すぎて追いつかない。使い魔ってどういうこと?」

 

「吾輩も詳しくはわからないのでありますが、死んだあと暗闇の中で声を聞いたのであります。願いはあるか、と」

 

「願い?」

 

「はい。飼い主を治して欲しいと願いました」

 

 でも叶えてくれませんでした。インチキ野郎であります。としょげた姿を見せる。

 

「だから、吾輩は飼い主に会いたいと願ったのであります。そうしたら気が付いたらケージの中にいたのであります」

 

 暗闇の中の声。

 転生神、だろうか。

 僕は会った記憶がない。気が付いたらこの部屋のベッドにいた。

 でも、ドラグノフは会えたらしい。

 

「……ドラグノフが願ってくれたから、僕もここにいるのかもしれない」

 

「そんなことはないであります! 飼い主は飼い主の力でここにいるのであります!」

 

「でも」

 

「でも、でも! ないであります! 吾輩は飼い主と一緒にいたかっただけであります。来世でも飼い主のそばにいたかっただけなのであります」

 

 声が少しだけ拗ねたようになった。

 ドスの効いた声が拗ねる、という奇妙な現象が発生していた。

 

 でも嬉しかった。

 素直に、嬉しかった。

 

「ありがとう、ドラグノフ」

 

 ケージの扉を開けて、もう一度手を差し入れた。

 今度はおそるおそる乗ってきた。

 

 この重さが、やっぱり嬉しかった。

 

「ところで」

 

「なんでありますか」

 

「使い魔なら人間モードって、あるの?」

 

 一拍の間があった。

 

「ありますであります!!」

 

 すごく嬉しそうな声だった。

 

 

 

 

 ドラグノフが光った。

 小さなハムスターが光って、光が膨らんで、人の形になった。

 

 現れたのは。

 

 三十代くらいに見える女性だった。

 豊かな金髪が背後で波打っている。

 目つきが鋭い。

 顔の右半分に火傷の跡がある。

 

 でも何より目を引いたのは、その「存在感」だった。

 部屋に入ってきたというよりも、部屋を占有したというか。

 威圧感、という言葉では少し違う。圧倒的な実在感、とでも言うべきか。

 

 前世でテレビ越しに見たのと違う。

 三次元で見るのとでは、全然違う。

 

 バラライカだ。

 ブラックラグーンの、ホテル・モスクワの頭領の姿だ。

 

「じゃーん、であります。使い魔だから人間モードも備えております! こうして飼い主に会うのが夢だったのでありますよ!」

 

 ドスの効いた声で、語尾に「あります」がついた。

 完璧なバラライカの風貌で、完璧なおかしな喋り方だった。

 

「……ドラグノフ」

 

「なんでありますか!」

 

「バラライカの狙撃兵時代の愛銃がドラグノフだったはず。だからかあ。ドラグノフ繋がりなのかもね」

 

 僕もカラシニコフ繋がりだしお揃いだ。そういえばロシア生まれのゴールデンハムスターだったんだ。ドラグノフも当時はまっていたFPSでロシア軍の装備だったのがネーミングの理由である。

 てっきりオスだと思い込んでいたのは内緒だ。

 

 でもさ。

 

「その見た目で、その喋り方は、脳が混乱する」

 

「改善します! 頑張りますであります!」

 

 全く改善する気配がない返答だった。

 

Товарищ, для справки.(同志、参考までに)

 

 エイナが静かに割り込んできた。

 

《Человеческий облик фамильяра, как правило, принимает внешность, которая вызывает чувство близости как у контрактёра, так и у его истинной формы.(使い魔の人間モードは一般的に、契約者と本体が親しみを感じる外見をとる傾向があります)》

 

「つまり僕とドラグノフが選んだ姿、ということ?」

 

Похоже на то.(そのようです)

 

「吾輩、強くてかっこいい存在になりたかったのであります。飼い主(モイ・ホジヤイン)を守れるような。そうしたらこの姿になったのでありますよ」

 

 自分の意志で選んだ姿か。

 

 ドラグノフは、僕を守るためにこの姿を選んだのだ。

 バラライカ。タイ王国のロアナプラ支部を支配するロシアン・マフィアの支部長。ホテル・モスクワきっての武闘派。

 BLACK LAGOON(ブラックラグーン)はアニメも漫画も好きだった。病室で何回も繰り返し視聴していたから、当然ドラグノフもいた。

 

 前世で一緒に見ていたアニメのキャラクターを、強さの象徴として選んだ。

 僕の推しでもある。

 

 ちなみに、男性キャラだとHELLSING(ヘルシング)のアレクサンド・アンデルセン神父が好きである。

 

「その火傷は大丈夫なの?」

 

 真っ先に口から出たのはそれだった。

 ドラグノフが目をぱちくりとさせた。

 

「大丈夫でありますか、と聞いてくれるのでありますか」

 

「痛くないかと思って」

 

「……ただのペイントでありますよ。痛くないであります」

 

 そう言いながら、なぜかドラグノフは少しだけ目を細めた。

 ドスの効いた顔が、わずかだけやわらかくなった気がした。

 

飼い主(モイ・ホジヤイン)は変わらないでありますね」

 

「そうかな」

 

「そうでありますよ。見た目が全然違っても、飼い主は飼い主でありますよ」

 

Товарищ.(同志)

 

 エイナが静かに言った。

 

Похоже, существует и малый режим.(小さいモードもあるようです)

 

「おっ、見せて」

 

 ドラグノフがまた光った。

 今度は小さくなった。

 

 金髪碧眼の少女の姿だった。

 十歳前後くらいに見える。穢れを知らない、透き通るような美少女だ。

 目つきもどこか柔らかい。

 

「吾輩、こっちの方が動きやすいのであります」

 

 声まで可愛い。これなら脳もバグらない。解釈一致である。

 

「美少女モードと命名しよう」

 

「なんとでも呼ぶでありますよ」

 

「大人の方はマフィアモードで」

 

「…………納得いかないでありますが、まあいいであります」

 

Товарищ.(同志)

 エイナがまた割り込んだ。

 

Вы не голодны?(お腹が空いていませんか)

 

 その一言で、ぐう、と音がした。

 音は僕の腹から出ていた。

 

「……財布のこと忘れてた」

 

「お腹が空いたでありますか!? ならなぜ今まで言わなかったのでありますか飼い主(モイ・ホジヤイン)!!」

 

「引き出しを開けたらカラシニコフがいたので。ビックリして忘れちゃった」

 

「……そうでありましたね」

 

 美少女モードのドラグノフが深くうなずいた。

 それは仕方ない、という顔だった。

 

В шаговой доступности есть(夜間でも営業している飲食店は) заведения общественного питания работающие даже ночью.(徒歩圏内にあります)

 

 エイナが地図を提示してきた。インテリジェントデバイスは便利だ。

 

「じゃあ行こうか」

 

「賛成であります! 吾輩、外の食事というものが気になっていたのであります!」

 

 ドラグノフが目をきらきらさせた。

 美少女の姿でほっこりした気持ちになる。  

 嬉しかった。

 

 エイナを待機モードに戻してドッグタグとして首にかける。

 ドラグノフは美少女モードで隣に立つ。

 

 二人で、夜の街へ出た。

 

 

 

 危うく補導されかけた。

 

 マフィアモードになったらなったで、職質を何度も受けた。誘拐かと思われたらしい。

 失礼するであります、とドラグノフはプンスカ怒っていた。見た目はバラライカなので迫力ありまくりである。

 

 お外って案外面倒なんだね。

 

 その夜、初めての外食を終えて部屋に戻ってきた。

 

 僕は机の前に立って、引き出しをもう一度開けた。

 AK-47カラシニコフ。エイナ。があった場所。

 他には何もない。ドラえもんが出てこないかと期待していたのだがダメだったようだ。

 

 今日一日で起きたことを頭の中で並べてみる。

 転生した。体が小さくなっていた。お金があった。エイナと出会った。ドラグノフと再会した。

 

 それだけでもう十分すぎるくらいだが、まだ何も始まっていない気がした。

 何かが、始まろうとしている気がした。

 

 何の世界に転生したのか。なんとなくもう分かっている。

 でも、銀髪オッドアイ。魔法のデバイス。使い魔。そして地名は海鳴市。

 これだけのヒントがあれば、わかるよね。

 

「エイナ」

 

Да(はい)

 

「ドラグノフ」

 

「なんでありますか」

 

「明日も、よろしく」

 

 エイナからの返事はなかった。

 でも、ドッグタグが少しだけ温かくなった気がした。

 

「もちろんでありますよ、飼い主」

 

 ドラグノフの声は相変わらずドスが効いていた。

 でも、確かにそこにいた。

 

 電気を消した。

 暗い部屋の中で、窓の外に街の明かりが見えた。

 

 転生した。

 よくわからない名前と外見と大金とチートデバイスと使い魔を手に入れた。

 

 何のための転生なのかは、まだわからない。

 でも。

 

 また明日、何かがわかる。

 またひとつ、知らないことが増える。

 

 それで十分だ、と思った。

 今はまだ、それで十分だった。

 

 明日になれば、もっとわかるだろう。

 この転生に、意味があるとしたら。

 

 眠気が来た。

 目を閉じた。

 

 今日も、転生神への感謝を忘れなかった。

 

 ちなみにエイナの言語設定は日本語にした。

 アイデンティティーがどうのこうのと騒いでいたが、僕の中の大和魂が日本語で話せよと囁いている……!

 ショギョウムッジョ!

 

 

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