シャーレの先生 五条悟!!   作:dokogumi_3054

2 / 2
対策委員会編1 「出会い」

砂漠に浸食されかけた校舎は、今日も辛うじて立っていた。

 アビドス高等学校。かつて学生たちの笑い声で満ちていた場所は、今や暴力団に追い詰められ、弾薬も物資も風前の灯火だった。

 奥空アヤネは、震える指で手紙を握りしめる。

 新しく来るという“先生”へ送った救援要請。返事は来た。だが当人の姿はいまだない。

「……早くどうにかしなくちゃ。このままじゃ学校が……」

 落ちる視線を、対面のノノミが柔らかく支えるように声をかけた。

「そんなに下を向かなくてもいいですよ、アヤネちゃん。返事が来たなら、きっともうすぐです。信じましょう?」

 その言葉に、アヤネは小さく息を吸った。

「ありがとうございます、ノノミ先輩……」

 わずかに希望が胸に灯った、その瞬間——。

 ガチャリ。

 扉の開く音に三人が振り返る。砂埃を肩に受けたまま、シロコが立っていた。

「ただいま」

「おかえりなさい、シロコ先輩。……え、なんか笑ってません? 良いことでもありました?」

 セリカの問いに、シロコは僅かに口角を上げる。微かな得意の色が混ざっていた。

 

「……ん。連れてきた」

 

「つ、連れてきた? な、何をですか?」

 

 シロコは答えず、部屋の隅に置かれた大きな箱へ無言で歩み寄る。

 まるで「拾ってきた」と言わんばかりの無造作な置き方。ノノミが期待に満ちた声を上げる。

 

「わぁ、もしかして補給物資ですか!? シロコちゃん、助かります!」

 

 しかしセリカは目を細め、箱に疑念を向ける。

「シロコ先輩。これ……どこで? それに連れてきた ってどういう意味で——」

 その時だった。

 

 ドンッ!!

 箱の上蓋と天井が同時に吹き飛び、砂塵が舞い上がる。

 その中心——白髪、長身。場違いなほど存在感のある“男”が現れた。

「ハイッ! オッパッピー!! GT五条悟でぇーーす!!」

 片足を掲げ、派手なピース。理解が追いつかないほど軽い挨拶が炸裂する。

「ひゃああああああ!?!?」

 セリカの悲鳴が教室に反響した。

「シロコちゃんが大人を拾ってきましたー!」

 ノノミは呑気に拍手すらしそうな勢いだったが

 アヤネは混乱に言葉を失い、それでも絞り出すように問う。

「シ、シロコ先輩……っ! この人っなんで箱の中に……?」

 シロコは一拍置いてから、静かに答えた。

「道で迷ってたから。入れた」

「いや冷静に言うところそこ!?」

セリカの絶叫を横目に、五条と名乗った大人は肩の力が抜けたように笑った。

「いやー 僕も流石に焦ったよ。まさかこんな広いとは思わなくてさ。シロコが通りかからなかったらここまで辿り着かなかったかも」

場違いなほど飄々とした口調。砂埃と銃痕が残る校舎には似つかわしくない軽さだ。

しかし、疑問は何一つ解決していない。

セリカは先ほどの衝撃で口を開けたまま固まり、声にならない声をパクパクと繰り返している。

その代わりに、アヤネが息を整え、冷静さを取り戻そうとするようにシロコへ問いかけた。

「えっと、シロコ先輩。そちらの大人の方は?……お知り合いなんですか?」

「知らない」

「え?」

あまりにも想定外の回答に、アヤネの声が勝手に漏れた。

五条はその言葉を聞きながら、目に掛けた謎の目隠しをくい、と指先で整える。

「あれ? おっかしいな。ちゃんと手紙書いたはずなんだけど。まあいっか」

軽く流しながら、しかしはっきりと名乗る。

「僕は今日から君たちの先生になる。GRG五条悟だよ」

 

「え ええ!まさか?!」

アヤネの顔に、信じたい希望と信じられない現実が同時に浮かぶ。

セリカもようやく現実に意識が追いつき、目を見開いた。

「連邦捜査部、シャーレの先生!?」

「わあ、支援要請が受理されたのですね! 良かったですね、アヤネちゃん!」

ノノミがぱあっと表情を明るくし、アヤネは胸に手を当てて息をつく。

「はい! これで弾薬や補給品の援助が受けられます」

先生が来たということは、援助が通ったということ。

ここに立つだけで、この人は“状況を変える存在”なのだと、誰もが思い始める。

——ただ一人、セリカを除いて。

「……でもなんで箱の中から?」

小声で呟いたその疑問は、教室の緊張をほんの少しだけ現実に引き戻した。

アヤネも気にはなったが、それを深追いしてしまえば安心すら崩れてしまいそうで、喉奥で飲み込む。

そんな生徒たちのざわつきを横目に、五条はパンッと手を叩いた。

ただそれだけで空気が締まり、視線が一点に集まる。

「それで呼ばれたから来たけど、その暴力団とやらは?」

軽い問いかけと共に視線を巡らせた、その時だった。

後ろから、眠たげな声が落ちてくる。

「むにゃ……もー騒々しくて寝れないよー」

五条が振り返ると、その表情がわずかに真剣みを帯びる。

桃色の髪の少女——ホシノが欠伸を噛み殺しながら立っていた。

「あれ、ホシノ先輩。いつのまに起きたんですか? セリカちゃんが起こしに行ったのに」

「ありゃー、入れ違えちゃったねー。外がちょっと騒がしくて起きちゃったよー」

「外がうるさい?」

アヤネが聞き返した、その瞬間——。

 __ガシャァン!!

銃声と破砕音が同時に炸裂し、窓ガラスが弾け飛ぶ。

弾丸が室内を掠め、机と壁に火花を散らした。

「わわっ! もしかしてカタカタヘルメット団!?」

「……あいつら、性懲りも無く」

アヤネとシロコの反応から、状況は一瞬で理解できた。

例の暴力団が、まさに“今この瞬間”攻めてきたのだ。

「ホシノ先輩! ヘルメット団が再び襲撃を——って、しっかりして! 出動だよ! 装備持って!」

教室は一気に戦闘準備の慌ただしさに包まれた。

椅子が引き倒され、靴音が床を叩く。少女たちの視線が戦場へ向いていく。

——そんな喧騒の中で、五条は静かに立っていた。

ここへ来るまでの道中で、この学園全体が無法地帯同然だと身をもって知った。

治安の悪さは、自身のいた日本など比べ物にならない。

だが——それでも学校として成立している理由。

それは彼女らの頭上に輝く輪、ヘイローと呼ばれる力だ。

アロナの説明は正直よく分からなかった。

だが、実際に見て感じたことなら言える。

反転術式の正のエネルギーと、呪力の負のエネルギー。

その両方に近い波を持つ“何か”が、彼女たちの身体を巡っている。

常時、強化された肉体。

全員が一級術師に近いポテンシャルを持っているような状態——。

「学長が見たらさすがに腰抜かすだろ、これ」

五条は独り言のように笑い、教室の全員のヘイローを順に見渡す。

そこに確かな力量差が存在することにも気づいた。

(皆そこまで大差ないくらいだけど……あの桃色の子。あの子だけ桁が違うね)

ホシノのヘイローだけが異質だった。

場数、経験、そして鍛えられた循環効率。頭一つ抜けている。

五条は、ニヤリと愉快そうに笑った。

「教え甲斐がありそうだ」

 

 

 

 

 

 

 

補給された物資を掴んだ少女たちは、その体格では到底扱えないはずの重量を、何事もないように持ち上げていく。

窓縁に足をかけ、そのまま外へ飛び降りる。銃撃戦に向かうというのに、その背中はどこか日常的で、慣れきってしまった色さえあった。

銃火器が飛び交う戦場が「ちょっとした喧嘩」扱いされるなど、世も末にもほどがある。

しかし相手の暴力団もまた、この世界の異常性に染まっていた。五条の感覚で言えば——二級から準一級の術師相当。呪力こそないが、身体能力だけなら笑えないレベルだ。

「末恐ろしいね。……まあ、皆使い方をよく分かってないのが救いどころかな」

五条がそう呟いたとき、校庭では既に銃撃音が弾け始めていた。

「私がオペレーターを担当します! 先生はこちらでサポートをお願いします!」

アヤネが声を張る。緊張と使命感、その両方が滲む声だった。

ここで、五条とこの世界の認識のズレが浮き彫りになる。

彼女らにとってヘイローのない人間は珍しい。だが珍しいからこそ分かる——彼らは脆い。致命傷とは呼吸一つ分の差で訪れる。

つまり彼女たちから見た五条は、ただの無能力者だ。

後方支援が限界、戦闘は論外。守るべき対象。

だが——五条悟という存在には、それは当てはまらない。

「ちょ! 先生!? 何を?」

アヤネの制止が飛んだ時には、五条は既に窓際に足をかけていた。

眼下では銃火と砂煙。不釣り合いなほど軽い足取りで、五条はそこへ飛び込もうとしている。

「大丈夫大丈夫。サクッと行って終わらせてくるから」

「先生は私たちと違って銃弾が掠めるだけでも致命傷になるんですよ!? 待ってください!」

アヤネの焦りは正しい。この世界の常識では、彼女の言葉こそ正しい。

だが——。

「僕、人に守られるのなんかモヤモヤして性に合わないんだよね。なにより先生が生徒に守られてどうすんの」

五条は聞く耳を持たず、そのまま踏み切った。

風を裂く音だけを残し、視界から消える。

「ッ! 先生!」

アヤネが駆け寄る。窓の外を覗き込むが、姿はない。

瞬きを一つした後、視界の端でそれを見つけた。

校庭の真ん中。銃火の嵐の中心に、五条悟は立っていた。

「?! いつのまに! シロコ先輩! ホシノ先輩! 先生を守ってください!」

アヤネの叫びが校庭に響く。

その声に、シロコとホシノが振り返った瞬間——彼女たちは息を呑んだ。

そこに、本来いるはずのない人物が立っていたからだ。つい先ほどまで校舎の中にいたはずの男が。

「!? 先生」

シロコの声音が揺れる。

「先生ー、さすがにそれは危ないよ?」

ホシノが眉をひそめ、流れ弾からかばうように前へ躍り出る。

二人は自分たちこそ盾になるように五条の前へ立つ。その背に銃声が刺さり、砂埃が跳ねる。

だが五条は、彼女たちの肩に手を置き——優しく、しかし確かな力で押し返した。

ポン、と。

「ま、任せなさーい。生徒の前だし、カッコつけないとね」

一瞬前まで背後にいたはずの男が、気づけば前に立っている。

シロコとホシノは理解が追いつかず、一歩遅れた反応で見上げた。

そして。

「——ッ!」

銃声。

ホシノは反射的に飛び出した。届かないと理解していながら、五条を庇おうと手を伸ばす。

間に合わない。

そう思ったはずだった。

「うへぇ?」

妙な声が漏れる。

五条の前で、弾丸が——止まっていた。空中で。静止したまま。

衝撃で揺れる空気を置き去りに、五条はスッと前へ歩き出す。

流れ弾すら気に留める素振りもなく、腕を横へ広げる。

(相手の肉体強化は準一級レベルだし 手加減すれば——まあ、死なないでしょ)

無造作な思考。

だが、そこに流れ込むのは底なしの自信。

五条の掌から、見えない何かが地面を撫でるように走る。

砂が舞い、空気が震え、世界が引き寄せられるように歪んでいく。

地面、瓦礫、銃弾、遮蔽物。

すべてが吸い込まれるように収束し、蒼い螺旋めいたエネルギーが形を成し始める。

それが通った場所は肉を噛み砕くように削げ、空気ごとえぐられていく。

そして、敵。

ヘルメット団は抗うこともできず、ただ巻き込まれた。

 

――蒼い奔流が解き放たれる。

 

轟音。砂嵐。視界が白に染まる。

数百メートル先で着弾音が響いた頃には、もう全てが終わっていた。

大量の敵は倒れ伏し、呻き声ひとつまともに上げられないまま伸びている。

あまりに、一瞬。

その光景を見ていたセリカは、言葉を失い、ただ唇を震わせた。

「なに……今の……」

セリカの震える声を他所目に、五条は手をパンッと鳴らして笑った。

「とりあえず、一件落着!」

校庭にはまだ砂煙が残り、倒れたヘルメット団の呻き声が遠くでかすかに聞こえる。

それでも五条の声だけは妙に明るく、戦場の空気とは噛み合っていないほどに軽快だった。

呆然と立ち尽くすシロコ、複雑そうに眉を寄せるホシノ、まだ脳が追いついていないセリカ。

アヤネは胸に手を当て、震える息を整えながら五条の背を見つめていた。

 

——理解は追いつかない。

 

——でも、確かに感じた。

 

この人は、ただの大人じゃない

急展開で幕を開けてしまったが、これが——

 

彼女たちと、五条悟の出会いである。

 

 

 




キャラクターとの絡みをもっと書きたいけど 難しい 次はもっと絡み増やしたい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。