夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~   作:サッドライプ

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 そろそろ世界観の説明というか雰囲気はなんとなくふわっと伝わったと思うので一旦進行ストップ。
 頭スカスカで進行する純愛ほのぼのいちゃラブの時間です。

 純愛ほのぼのなんです(強調)




一級居住区画レストアⅠ

 

「(ミュー……、……きて、おきてくださーい。朝ですよー)」

 

 こしょこしょと耳をくすぐるようなか細い声が聞こえる。

 たぶん優しく起こそうとして声のトーンを抑えてくれてるんだけど、優しくし過ぎて絶対目が覚めない感じの、ふにゃふにゃした甘さマシマシのささやき声。

 

 間違えるわけもない、ここ数日で耳に刻み込んだプリナちゃんの声だ……しかもただでさえ何時間でも聴いてられる可愛い声が更に超可愛い感じになってる(おバカの表現)。

 しかもその内容が「起きて」だって!眠った恋人さんを起こすすばらしいシチュですよこれは。

 

 プリナちゃんのお願いなんだから本当なら返事はもちろん「はい!」以外ないんだけど、眠気を払うどころかすーっとしみ込んでくるような優しい声に俺の意識もふにゃふにゃし続けちゃうのは仕方ないと思います。

 

 しかもさ、俺こういう朝の寝起きシチュの妄想も当然プリナちゃんに(一方的に、と思ってたけど)語ったことがある。

 

―――朝だから起こさないといけないけど、もうちょっと彼氏さんの寝顔を見てたいからそうっと触ったりささやいたりしかできないプリナちゃんとかいいよね。でもそれじゃ起きないからってもっと別のことをしないとなー、ってなるから、そうしたらもうそこはお約束のアレでしょ。はい321どーん。

 

 

「(うふふ。起きないと、ちゅー、しちゃいますよ?)」

 

 

「………~~~ッッ!!」

 

 

 やっばい。

 破壊力がやばすぎる。ふにゃふにゃになってた寝起きの意識が一発でクリアになった。

 そしてその衝撃でついびくって体が震えて、たぶん完全に目が覚めたのが表情に出ちゃってる。俺の心を読んでるんじゃないかってくらいこっちのことを察してくれるプリナちゃんにバレないわけがない。

 

 しまった。起きちゃったから、ちゅーはおあずけ……?

 

 内心がっくししながら未練がましくしばらく目をつぶったままでいると、ふと気配がすぐ近くにまで寄ってきて。

 

 

「(ちゅっ)」

 

 

「…ぇぁ、プリナちゃんっ!?」

「おはようございます、ミュート。くすっ、少しはしたないことをしてしまいましたが、起きてくださらないのが悪いんですからね?――――んっ」

「ぅ、わぁ……っ」

 

 

 一瞬口先に感じた幸せな柔らかさに目を開けると、いたずらっ子な笑い方をしたプリナちゃんがそうからかってきて―――今俺とキスをした唇をぺろりと舌で湿らせた。エロかった。

 そして小悪魔ちっくなプリナちゃんもやっぱり可愛い!!

 

 

 と、そこまで今回も俺の妄想シチュを叶えてくれた最高の彼女さんの今の姿、ベッドでパジャマ姿を見て意識が追いついてくる。

 そう、俺たちはギルドのおねーさんに案内してもらったこの家で同棲生活を始めたんだ。俺と、プリナちゃんで、同棲!!することになったんだ。

 

 私物なんかダンジョンのドロップアイテムしかないから日用品を買い出しに行ったり。お互い家事のやり方なんて知らないから、一緒に覚えていこうねって笑い合ったり。彼女さんがお風呂に入ってる間、どきどきそわそわあたふたしっぱなしだったり。

 最初はふわふわした気持ちだったけど、こうやって一つ一つ確認するたびに実感がわいてくる。好きな人と一緒の家―――しかも寝る場所は同じベッド!―――で暮らすようになったんだなって。

 

 

「俺、こんな幸せでいいのかな…?」

 

 

 あの暗くて、化物どもがうようよしてて、命がけで戦い続けたダンジョン生活がつい一週間前までの日常で。そのギャップはどうしても埋まり切らなくて。

 そうやってふと暗くなってしまう俺を、プリナちゃんは仕方ないなあみたいな笑顔で抱きしめてくれた。

 

「ミュート。私はあなた様と結ばれ、語ってくれた素敵な恋のお話を二人で実現して、一緒に幸せになるために封印を破ったのですよ?」

「『一緒に幸せに』……?」

「“そうして二人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ”―――そう締めくくるべき物語です。ミュートが幸せでないなら、その結末にはたどり着けないではないですか」

 

 すごいなあ、プリナちゃん。こんなことを言ってくれる子が彼女さんになってくれたなんて、それだけで一生分の幸運を使い切ってる気がするけど。

 

「ありがとう、プリナちゃん。そうだよな、『一緒に幸せ』がいいな」

 

「―――いいんです。幸せになる権利が、私たちには……絶対に。ぜったいにあります」

 

 弱気になった俺に気合を入れるためなのか、強めにぎゅうっと、ちょっと痛いくらいに抱きしめる力を強めて言い聞かせる『お姫様』。

 

 

「誰にも文句は言わせませんから、安心してくださいね?」

 

 

 その芯の入った断言は、俺の中にあった違和感を強く強く押し流してくれた―――。

 

 

 

…………。

 

 その数分前、あるいは数十分前、そして数時間前も。

 眠る恋人の寝顔を彼女はずっと見つめていた。まんじりともせず、瞬きもせず、静かに、ずっと、ずぅっと。

 

 そうすることが幸せだから。愛する人の顔はいつまでも見続けていたい、それは当たり前のことだから。

 

 今『プリナ』と名乗っているその女の本質はLEVEL4の■■だ。ただのニンゲンのように睡眠だの食事だのといった補給が必須になるような生態はもはやしていない。

 まして彼女はこの千年という年月を仄暗い水底の遺跡に封印されて過ごしてきた。世界を呪うことにすら飽くほどに続いた無為なる悠久を。その中で魂を幽体として分離し肉体に関わらない意識活動の術を覚えた以上、覚醒と睡眠の境界などあってないようなもの。

 

 だから二つあるベッドのうち一つしか使わずに同衾した添い寝状態で、そわそわしたミュートが寝入るのを微笑みながら見届けて―――彼女はその表情を保ったまま見つめ続ける。

 ずっと封印されたままの自分の姿を見続け、何の返答もないのにそれでも愛を語り続けてくれた人。それは見返りを求めない、誰かを愛するということのもっとも美しい姿だと彼女は認識し、故に自らもそうありたい(理想のおよめさん)として同じことをやり返している。

 

 明かりを落とした室内の暗闇の中、同じベッドのすぐ横で眠る恋人をずっと何時間も眺め続ける。それも今日だけでない、これまでの旅の中でもそうだったしこれからも毎日同じことをするつもりだが―――たった独り封印遺跡に閉じ込められ続けた彼女にとって、それはただただ幸せなことだった。

 

 

 ただ一つ、気がかりがあるとすれば。

 

 

「……ぅ、っ、~~っ!」

 

 

 彼が眠りの中で悪夢に(うな)される姿、それをも見届けなければならないことで。

 

 断片的な寝言を聞き取るまでもなく、何の夢であるかなど容易に推し量れる。二度と会えない家族や友人を儚み、帰れない家と平凡な暮らしを(こいねが)い、強敵相手に死線を潜り抜けた時の恐怖をリフレインしている。

 そういう時はそっと優しく頭を撫でてあげるとすこしは安らいだ顔をするのだが、それでもプリナにとって痛ましくてたまらない気持ちになっていた。

 

 ただ、今夜はそれが頻度も症状も目に見えて改善しているように見える。

 やはり家があってベッドで眠れている、という認識があるだけでも心持ちが違うものなのだろう。これからこの家でたくさん愛し合って、温かい思い出を数えきれないほど作れば、もう戻らない過去などに(わずら)わされることもなくなるだろうか。

 

 そうなればいい。

 

 

 自分みたいに、愛する人のことしか目に入らなくなって、他の雑事なんて虫でも払うように切り捨てられるようになったら、こうして苦しむことはあり得ないから。

 

 

 早くそうしてあげたいと―――ただただ“いたわり”の想いを込めて恋人の頬を撫でさすりながら、プリナはその為の方法に思考を巡らせていた。毎夜毎夜、これからもずっと。

 

 ずぅっと。

 

 





 おはようからおはようまで暮らし見つめるプリナちゃん。

「純愛ほのぼのいちゃらぶです!」
「純愛ヨシ!いちゃらぶヨシ!よし通れ!」

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