夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~ 作:サッドライプ
作者がもっと一人称書きやすくするためにも、ミュートくんちょっとお勉強しよっか(酷
あの怪しいばーさんの古本屋から出たあと、まともっぽい本屋にも一応寄った。
というか買いたかったのは文字を勉強するための子供向けの簡単な本なわけで、結局あの店でそういうのを買う空気じゃなくなってたし。
表通りに看板を出してた本屋に寄ってみたら、そこの店員はきっちりした服装のおじさんで、話しかけやすいにこにこ営業スマイル……まあ、普通こうだよなあ。
それでも用を言ったらバカにするような視線を向けられるかなーって、ちょっとゆーうつだったけど、そのおじさんはスマイルのまま何冊か持ってきてどういう中身か分かりやすく紹介しながら案内してくれた。
それが気に入ってつい候補のやつ全部買っちゃった。一週間分のご飯代くらい払った気がするけど、ドロップアイテムと引き換えであのギルド長からもらった大量の金貨は全然減ってる気配がないしちょっと派手に買い物してもおこづかいの心配は多分ない。
「というわけで、お願いしますプリナせんせー!」
「分からないところがあったらなんでも聞いてくださいね、“ミュートくん”っ!」
家に帰って早速プリナちゃんとお勉強の時間。アイテムぶくろから取り出したメガネ(アナライズ機能つき)掛けて家庭教師のプリナちゃん風に切り替えてくれたの助かるしあいかわらず可愛い。
勉強は正直苦手だけど、こうなるとせめて文字を読めるくらいにもならないで投げ出すのはカッコ悪すぎる。言って小学校一年生レベルのお勉強な訳だし。
とか言いながら。
「こうしてふしぎな冒険はおしまい。おじいさんの家でおいしいパンを食べてまんぞくでしたとさ」
「ぱちぱちぱちぱち」
「ふふっ。いかがでしたか、このお話は」
「プリナちゃん声も良くて目だけじゃなくて耳も幸せにしてくれるのすごくない?聞いてるだけで心にヒーリングかけられてる気分になるのに、俺のためだけにろーどく会?してくれるのサービス良すぎ。完ぺき美少女かな?」
「あの、ミュート。お褒めいただけるのは嬉しいのですが、お話の感想は?」
「はい!プリナちゃんのお声が心地よ過ぎて全然頭に入りませんでした!」
「………もう。読み聞かせならいくらでもして差し上げますから、今はお勉強に集中です!ね?」
「集中!」
ひとまず文字を追いながら最初の一冊をすらすら読み上げてくれたプリナちゃん。事前に内容を知ってたわけでもないしもちろん練習なんてしてないはずなのに、全然つっかえたり発音が変になったりしないの地味にすごい。上品な言葉づかいもそうだけど、こういうのしっかり訓練しながら育ったのかな。
俺の方はというと、プリナちゃんのやわらかくて優しい声に聞きほれながらそんな関係ないことまで考えてたせいで全然内容を覚えてない劣等生だったけど。
てれてれしながらウィンクしつつ「めっ」してくれるメガネっ子プリナちゃん先生が可愛くて言うことなんでも聞いちゃいそう。……普段のプリナちゃん相手でも同じだろって?それはそう。
そんな調子だったけどテンションが下がることはないし、もともと半年以上文明を忘れて遺跡の中でモンスター相手に大乱闘スタイリッシュぼっちし続けてたんだ、勉強そのものにだって新鮮な気持ちで向かえて本当に楽しい時間になってた。
溜まりに溜まったドロップアイテムを売れば生活に困らないって分かった以上、今の俺がやるべきことなんてプリナちゃんといちゃつくこと以外ないんだ。これもその一つと思うと、ご飯の時間に気付かないくらいには毎日集中してた。
「そういえば、あのばーさんからもらった本はどういう話だったの?」
一週間くらい経って、ある程度は何も見なくても文字を読み上げられるようになってひと段落ついたころ、ふと気になってプリナちゃんに聞いてみた。そういえば『運命』だとかなんとか言ってたっけ。
「………あまり面白い内容ではなかったですよ。文体や表現も完全に叙事詩で学術家向けなので、字を覚えるのには不向きでしたし」
ちょっと言いづらそうに、それ以前にすごく珍しくうっすら不機嫌に、そう前置きしてあらすじを語るプリナちゃん。
ただそんなに面白い話じゃないってのは実際そうだった。
―――
話の盛り上がりなんて全然なくて「英雄様すごい!えらい!」ばっかだったし、バトルシーンも苦戦しないでひたすらワンパターンだからなろう小説よりひどいし、しかもオチは英雄様がこれまで倒してきた魔物達の呪いで弱って眠りにつきました、なんて無理やり終わらせにかかった感じだし。
しかも千年後に
「―――という話でした。どう思いましたか?」
「うーん……」
WEB小説で読まされたら多分☆3か4くらいの評価だよなあ、☆0から☆10までで。お話としては読めちゃうけど、面白いかどうかでいえば時間のムダだった、ってなる感じの。
それでも無理やりコメントするなら。
「英雄様休ませてあげようよ、くらいかな。俺が思うのは」
「――――、え?」
「今まで散々助けてもらったんでしょ?やばいのが来るって千年も前から分かってるんでしょ?
なのに言うことが『次は俺たちみんなが戦う番だ!』じゃなくて『英雄様復活してまた戦ってください!』はちょっとダサ過ぎじゃね、って、ぇ、プリナちゃん!?」
「……、~~~っ」
うつむいたプリナちゃんの目元から、透明なしずくがぽたぽたと膝に落ちていってた。
泣いてる!?なんで!?この本そんな感情移入するとこあった!?もしかして実は超気に入ってたけどダメ出しされてショックだった!?
「おわわわっ、俺なんかダメなこと言っちゃった!?」
「い、いえ。ごめんなさい、違うんです。悲しくて泣いてるなんてありませんから!」
「気つかわなくていいよ!君を傷つけちゃったなら、絶対直すから!」
「~~~~っっ!!」
なんかもっと泣き始めたんですけど!??
さすがに泣いてるプリナちゃんも可愛いなんて言ってる場合じゃなくて―――いや実際超可愛いけど!―――女の子をなぐさめるやり方なんて全然知らないからわたわたするしかない。
意味のつながらない言葉をかけながら近くでアワアワしまくる情けない彼氏。……それこそダサ過ぎてしょうがないのに、彼女さんはぎゅっとこちらの服をすがりつくようににぎってくる。おそるおそる手を背中に回してゆっくりとんとん叩くと、「……んっ」って気持ちよさそうに息を吐いたからずっとそうしてた。
勉強なんかする雰囲気じゃなくなって、「もう大丈夫です」ってプリナちゃんが言うまで背中ぽんぽんした後は一旦解散したけど、結局涙の理由は聞けなかった。
…………本当に大丈夫かな、プリナちゃん。
ありきたりなラブソングの歌詞じゃないけど、好きな子はずっと笑ってるのが一番いいのに。
…………。
書を抱えたまま一人テラスに出て、藍に染まり始めた夕空を見上げながら姫は
「好き――――ああ、あなた様。ミュート。本当に大好き。愛しています」
涙が出るくらいに。震えるほどに。
悲しませたと勘違いして心配させたのは本当に申し訳なかったのだけど、背中を優しく叩かれるのが心地好過ぎて何も言えなくなるくらいに。
好きだと。恋情が溢れて止まらなかった。
『救世主たれ』と願われて生まれ、そう在ることしか出来なかった
休ませてあげたい、って。
助けてもらったならその次は自分が頑張るんだ、って。それが人間の矜持なんだ、って。
救った筈の
―――『千年紀』と銘打たれたこの本の中身を彼に教える時、意図的に伝えていなかった。『英雄様』が水を操る
ついでに言えば、自分があの遺跡に封印されていた正確な年数も、『プリナ』はミュートに伝えていない。
だから彼は何も知らない。
老婆は言っていた。この書の内容は、概要だけならほぼ全ての人間が知っている伝説だと。封印から目覚めた世界で、思っていた以上に面倒な立場にされていたことに呪わしさを覚えるが、彼にはなるべく長く何も知らないままでいて欲しいと思った。
あの
ただ、忌々しいのは。
『千年紀』の記述の中で虹色が神秘的で『英雄様』の奇跡を示す色のように扱われていたこと。大方『英雄派』を名乗る蛆虫達が記録を
そのくせ書の中で“虹”にうすら寒い賞賛を記述していること自体、ミュートが「きれいだ」と言ってくれた大切な記憶を
「とはいえ、そこは反省点。こんな三文小説に、ミュートと私が
『運命』などと言って押し付けられた書物だが、冗談ではない。自分の命すら他人任せの愚物共が幾万刻まれ貪られ苦痛のうちに悶え死のうが、露ほども
彼と私の間にそんな不純物は邪魔なだけ。
そう結論付けて空に掲げた古ぼけた書物は、ひとりでに炭の焦げる臭いを発し始める。
―――本人は勉強が苦手と言っていたが、間違いなく高等な教育を受けてきたであろうミュート。特にその先生の一人は、話のタネにと様々な知識を披露するのが趣味だったらしい。
―――たとえば、箱の中の食品だけを加熱する調理器具。その原理は、特殊な電気の波を浴びせることで食品の中の極小の水が高速で振動することで熱を発すると。
―――それを聞いて、『ああ、自分なら出来るな』と彼女は認識した。どんなに度の強いレンズでも見分けられないミクロ以下の世界に念を及ぼすことを、いとも
「………慰み程度の手品ですが」
本が灰となって黄昏の空に舞い上がる。ミュートの世界で言えば摂氏数百度、それは紙を燃やすくらいにはなるだろうが、
自分がどれだけ繊細なことをやっているか。裏を返せば下級以下、あるいは常人を念ずるだけで発火させられることも。万が一の時に自分の
普通の人間相手にやると全身の水分が沸騰して「ぼんっ☆」である。
プリナちゃん的には「みずでっぽう」で轢殺した方が圧倒的に効率がいいけど絵面はこっちのがひどい。
>『次は俺たちみんなが戦う番だ!』
遥か遠い過去、誰かたった一人でもその言葉を言ってくれたのなら、もう少し違う気持ちで眠りにつくことができただろう。
それくらいには、彼女は本当に“英雄”だったのだ。