夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~   作:サッドライプ

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 今回の話で裏視点のサイコ女のやべー発言集作ろうとしたけど改めて見るとそこまでサイコじゃなかった気がする。もっと精進します。




聖教徒エルギノーザⅡ

 

 P・エルギノーザは、満ち足りた生を送っていると思っていた。

 

 生まれた子供の、髪の毛の色。ただでさえ自分にも配偶者にも似ない特徴を持って生まれた子が、十を数える歳の頃には素手で親を殺せるようになる。まして目覚める夢能(デルシオ)次第ではどんな超常現象に巻き込まれるか分かったものではない。火の能力に目覚めて家が燃えましたなどとなったら子供のやんちゃで済むレベルではない。

 

 必然、常人同士の間に生まれた抗魔士(イムニティ)の子が厭われ忌まれ捨てられることは、悲しいかな珍しいことでもなかった。

 エルザもまたそのうちの一人だったと、それだけのことだ。

 

 聖教会の孤児院に預けられ、戦力化の期待とあとは「抗魔士(イムニティ)のストリートチルドレンなど冗談ではない」という治安維持上の理由からギルドの援助を受けて育ち、将来はその返済の為に命懸けで蝕巣(フォーカス)に潜る日々が確定していたとしても。

 教会で何よりも最初に教えられた物語―――千年紀。超常の力を世界中の力なき人々のために振るい世界を救った英雄の在り方を心から素晴らしいと思った。強さは及ばないまでも、それと同質の力が自身にもあることを誇らしく思った。自分を抗魔士(イムニティ)として産んでくれたこと、その一点で我が子を捨てた両親にも感謝しかしていない。

 

 だから霊媒体質というかなり特殊な夢能(デルシオ)に目覚めた時、エルザはそれを最大限生かす道を選んだ。この世に未練を残す哀れな残留思念、それに呪われて健康な生活に支障を来す街の人々を助けるというボランティア活動を。

 もちろん幽霊が見えない人々からは何度も怪しまれたし、抗魔士(イムニティ)であるというだけで怯えられると悲しくもなった。けれど助けた人から感謝され、笑顔でその後の生活を営んでいると知ると、親に捨てられた自分にも生まれた意味があったのだと確かに実感できた。

 

 だからP・エルギノーザは、満ち足りた生を送っていると思っていた。

 

 その日もいつものように――否、かつてないほどに生者に対する妄執を抱いた禍々しい悪念を察知し、これを祓うべく取り憑かれた少年に声を掛けた。

 自身よりも遥かに上位の実力を持つ相手であることは髪色から分かっていたが、自分がそれで忌避され悲しい想いをしたのに、彼だけ別格だからと見ないふりをするのはエルザの中で筋が通らなかったからだ。

 

 それを過ちと呼ぶのはあまりに人の心がないだろう。だから彼女が本当に間違えたのは、彼に取り憑いていた『生霊』に対し、魂の残り滓に過ぎない雑霊と同じアプローチをしてしまったこと。

 

―――自身と対象の魂を繋げ、相手の声を聴き自身の声を届けること。そうやって霊の心残りを聞き届け、衷心(ちゅうしん)から悼み弔うことで鎮魂を行う。

 

 そのプロセスは、相手の魂に自分の魂を無防備に触れ合わせることに等しい。少年に心配されたように相応のリスクを孕んでいる。それでも今まで問題なかったという事実が彼女の危機意識を鈍らせた。肉体もなく魂も不完全な死者の霊が、曲がりなりにも『超人』であるエルザを害せる道理などあり得なかったのだから。

 

 そんな認識のままで、伝説そのものの『英雄姫』が千年の怨讐の果てに妄愛に歪み狂った『災イ凶ツ姫』の、執着対象にべったり貼り付けていた『生霊』と己の魂を無防備に触れ合わせてしまったのだ。

 

 

 

 P・エルギノーザは、満ち足りた生を送っていると思っていた。

 それが全く無価値でくだらなくて蛆虫に喜んで自分の身をささげるゴミのような生き方だと知ってしまった。

 

 

 

――――理想のお嫁さんになりたい理想のお嫁さんになりたい理想のお嫁さんになりたい理想のお嫁さんになりたい理想のお嫁さんになりたい理想のお嫁さんになりたい理想のお嫁さんになりたい理想のお嫁さんになりたい理想のお嫁さんになりたい理想のお嫁さんになりたい理想のお嫁さんになりたい理想のお嫁さんになりたい理想のお嫁さんになりたい理想のお嫁さんになりたい理想のお嫁さんになりたい理想のお嫁さんになりたい理想のお嫁さんになりたい理想のお嫁さんになりたい理想のお嫁さんになりたい理想のお嫁さんになりたい理想のお嫁さんになりたい理想のお嫁さんになりたい理想のお嫁さんになりたい理想のお嫁さんになりたい理想のお嫁さんになりたい理想のお嫁さんになりたい

 

――――私という女はどこまで愚かしく浅はかなのかまた間違えるところだった『本当の自分』なんて不純物(ゴミ)捨てて何も惜しくないミュートだけ他に何もイラナイそれだけで幸せそれだけが幸せもうお前(『私』)なんて要らないのにさっさと消えて欲しいカスミユウトという男の存在全てに魂の隅々まで私の魂を絡みつかせ溶け合わせて癒着させるこの手が届く場所の外になんてあなた様を解放するつもりなど永遠にないヒトとして大切なナニカが壊れかけているならちゃんと全部壊しきってあげたい愛する人のことしか目に入らなくなって他の雑事なんて虫でも払うように切り捨てられるようになんだっていいなんだってやるどうなったって幸せ彼と出逢うためとはいえ生まれ堕ちてより千と十余りもの無駄な歳月を過ごしてきた

 

 

 

 奔流のように流れ込んで来る情動は、鉛よりも重く、泥炭よりも濁り、蜘蛛糸よりも粘つき、そして新月の森深くよりもなお――――黒い。

 希望も絶望も、期待も失望も、執着も無関心も、何もかもを知り尽くした上で詰めに煮詰めて凝縮し切った情動の窮極。

 

 

 『愛』。

 

 

 自らの人格すら容易く破棄してしまう純粋そのものの狂気を、たかだか十数年しか生きていない小娘が魂の奥底に流し込まされて、抗えるようなものではない。

 

(嫌っ、助けて――――)

 

 僅かも阻むこと叶わず。最期にそう思考できただけ、それが彼女の分限だった。

 波濤(はとう)に浚われ呑まれる砂の城も同然に、『エルザ』の心は一片の(むら)なく(ひた)され(おか)されぐずぐずに溶け堕ち、存在理由の根本からただ一色の想いに塗り替えられた。

 

 すなわち。

 

 

『エルザさーん、もしもーし?』

 

『はい。どうしましたか、あなた様?』

 

 

 あなた様が愛おしい。

 

 ほんの数十分前に出会った少年の為に、生まれ変わったエルザは己の全存在を懸けてもいいほどの恋情を抱いていた。これから永遠に彼の傍に侍り添い遂げたいと、一切の躊躇なく考えていた。

 もちろんこれが赤の他人が抱いている自分本来の感情ではないという認識はある。だがそれがどうしたというのか―――些末(さまつ)なとしか、一瞬のうちに正気を跡形もなく砕かれてもう戻れない彼女が感慨を覚えることはない。

 

 けれど、思考能力まで失った訳ではない。己の魂そのものを染め変えたこの感情を唐突にぶつけてもミュートは困惑するだけだろうし、下手すると拒絶されるだろうということに思い至っていて。

 

『………。ごめんなさい、失敗でした。こんなの初めてで―――ちょっとどうするか考えさせてください』

 

 まず話を通しておく必要がある、自分を純粋な愛情だけで生きる存在に変えてくれたあのお方に。というよりミュートは『プリナちゃん』のお願いを断ることはないから、そちらを押さえられれば自動的に望みは叶う。

 

 だから心が引き千切れそうなほど名残惜しくとも一旦別れ、彼が買い物に戻っている間にすぐさま全速力で駆け出す。魂の交感を通じてあのお方の記憶も流れ込んできたから、どこに住んでいるかなんて確認するまでもなかった。

 

 それと同時にその正体をも知り、彼女の今の思想も理解したけれど、何も感じることはなかった。

 エルザの生き方に他の何者よりも強く影響を与えた信仰対象という意味ではずっと変わらない。つい先ほどまで己の信念としていた弱者救済の在り方は、蛆虫に喜んで自分の身をささげるゴミのような生き方だと“知って”しまったからなおさらに。

 

 そして抗魔士(イムニティ)の脚力で駆ければ数分もしないで辿り着く彼女達の住処。

 

 

「用件の説明は不要です、シュードモナス・エルギノーザ。

―――貴女は彼の傍に侍る悦楽の代償に、何を差し出せますか?」

 

「わたしの全部、捧げます」

 

 

 姿を晦ます隠蔽のヴェールを被ることのないまま、白妖の髪の『災凶姫』は屋根に軽く腰かけてエルザを待っていて。

 その凍えた翡翠の眼光に僅かも臆することなく、盲目の殉教者(エルギノーザ)は問いかけに当然のことを即答するのだった。

 

 

 





 次回プリナちゃん視点。いきなり生えて出てきたジェネリックプリナちゃんに対する処置は。

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