夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~   作:サッドライプ

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 この作品の登場人物のフルネームをネット検索したらダメだぞ☆………普通にグロ画像が出るケースもあるから。
 ちなみに主人公とメインヒロインはちょっともじってるけど、元ネタとしてはある意味一番ひどかったりする。次にひどいのは受付嬢のアクティちゃん。今回のエルザちゃんもなかなか。

………横文字の固有名詞考えるのめんどくさかったし考えても覚えてられる自信がなかったとはいえ、もーちょっと引用文献なんとかならなかったんだろうかこの作者。




聖教徒エルギノーザⅢ

 

 そもそもの話として。

 

 ミュート以外のあらゆる存在に価値を見出していないプリナが、姿を隠蔽する手間があるからと彼一人外出している間に“家でおとなしくおるすばん”しているようなことがあるか、という話である。

 

 余人に白と虹の髪を見せるのを(はばか)るのは、ミュートの語る『幸せな恋人生活』を営むにあたって無用なトラブルを避けるためではあるが。彼が異世界の街の生活や住人との交流を楽しんでいるからそれに付き合っているだけで、彼女自身は愛する人以外との関わりに一切興味を持っていないからこそミュート以外の誰にも姿さえ見せていなかったのだ。

 

 社会的動物(ホモソサエティ)であるニンゲンの真似事なんて一分一秒だってする手間が惜しい。もしミュートが世捨て人思考で『プリナちゃんと二人っきりのスローライフ』を願ってくれていたのなら、彼女は喜々として人類生存圏外の遥か果ての未発見蝕巣(フォーカス)に連れて行き、制圧・乗っ取り・改造を行った上で世界の終わりのその先まで永遠の檻籠を築いて閉じこもっていたことだろう。

 

 だが残念なことに、ミュートはまだニンゲンだから、あの遺跡から解放されてからはこの世界の住人達との交流を含めた『異世界ファンタジー』を体感したい欲求を持っていた。

 いずれは捨ててもらいたい欲求であるにせよ、今の時点でそれをすげなく却下して彼を悲しませるのは本意ではないし、万が一『面倒な女』『自己中心的な女』などとネガティブな感情を持たれたらそれこそ『理想のおよめさん』からかけ離れてしまう。

 

 

 突き詰めると『大好きな彼に嫌われるのが怖い』という可愛らしい乙女の思考ではあるが。

 『大好きな彼とは一分一秒だって離れたくない』という乙女らしい可愛い思考を実現する手段を、千年肉体を封印されていた災凶姫は持ち合わせている。

 

 

―――魂の分割。愛する人が買い出しで出かけている間家で『およめさん』として掃除や洗濯などの家事を行うプリナが居る一方で、ミュートを恋い慕う欲望や衝動といった部分は片時も剥がれることなくべったりと彼に纏わりついている。

 

 

 生きながらにして、死に際の強い未練が生み出す残留思念と同様の現象を生み出すそれを形容するなら、やはり『生霊』という言葉以外ないだろう。

 

 

 

 まさかそれを知覚できてかつ自分から魂を触れ合わせてきた挙句、呑み込まれるような馬鹿が出るなどとは考えてもいなかったが。

 

 

 

「用件の説明は不要です、シュードモナス・エルギノーザ。

―――貴女は彼の傍に侍る悦楽の代償に、何を差し出せますか?」

 

「わたしの全部、捧げます」

 

 とはいえ好都合だと思った。あの忌まわしい『千年紀』がそうだったように、(いにしえ)の神話の存在であるプリナと異世界人であるミュートの二人では現代のこの世界に関する知識があまりに足りない。生活に必要な知識もまた同様。

 かと言って『白い髪の抗魔士(イムニティ)』の存在を明かせるほど他人と信頼関係を構築するなど、プリナの精神構造からいって不可能と同義。つまり、二人の事情をきちんと把握した上で“常識”を教授してくれる相手を確保することもまた、不可能である筈だったのだ。

 

 それを解決できる存在が転がり込んできたのであれば、利用することも考慮に値する―――プリナがそう考えることを、魂の交感を通じて記憶と感情を追体験したエルザは把握している。エルザが己の恋慕の為にその事情を利用しようと考えることもまた、追体験によりエルザの正気が砕け散るさまを魂の交感を通じて把握していたプリナは読み通していた。

 

 互いに互いのことを文字通り魂の奥底まで理解している。だから『用件の説明は不要』なのだ。

 必要なのは、瞳の奥に微かな狂気の光を宿したまま全てを捧げると宣言したエルザの利用価値が、彼女を処分しないリスクとコストを上回るかの確認作業。

 

「そう、なら―――、」

「っ!!!?」

 

 屋根からふわりと不自然に軽い挙動で飛び降りたプリナが、エルザの眼前に人差し指を突き付ける。次いで発生したのは、常人であれば鼓膜が裂けていたであろう気圧の波。

 至近距離で浴びたエルザは顔を歪めることしかできなかったが、もしミュートであれば辛うじて目で追えただろう――――音の数十倍の速度で(はし)った水流がプリナの指を切り、一滴の紅血を滲ませたのが。

 

 わざわざ屋外で待機していた理由だ。人の背丈の何倍もある金属岩を(なめ)らかに切断できるレベルの攻撃でやっとのこと、『災凶姫』の肌を傷つけることが可能になる。自分が制御を誤るとは思っていないが、屋内それもミュートと暮らす家の中でそんな威力を振り回したくはなかった。

 その傷も数秒もしないうちに跡形もなく自動治癒する。それがLEVEL4の■■であるプリナの肉体だ。―――という彼女のバケモノ具合はさておき、そうまでして体外に排出した鮮血を。

 

 

「飲みなさい」

「はい。………れろっ、んくっ」

 

 

 命じられたエルザは躊躇いなく舐め取り唾液と共に喉の奥に押し込む。

 果たしてその行為の結果は甚大で、不可逆で、そして致命的だった。

 

 

「――――んぎっ!!?あ、あああ゛あああ゛あ゛あああ゛っっっ!!?」

 

 

 喉を両手で押さえながらその場に(うずくま)り悶絶する栗毛のシスター。目を限界まで見開き、脂汗を滴らせ、全身の至るところを痙攣させ、……そして生存本能からくる強烈な吐き気を全力で耐えている。

 

 当たり前だ。それだけの劇毒だ。

 

 『バケモノの血肉を啜るなんておぞましい行為をする存在、バケモノ以外のなんだと言うのか』―――人々がそう認識する以上、そしてその認識(呪い)を受ける側がそれを積極的に受け入れている以上、『■■化』はいとも容易く取り返しのつかない段階まで進行する。

 清く正しい抗魔士(イムニティ)だったエルザの肉体が全く正反対のものに置き換わりつつある。襲い来る苦痛は尋常のものではないというか、仮にエルザにまっとうな精神が残っていればそれも止めを刺されていたことだろう。

 

「おおっ、おお゛おお゛おぉぁぅ―――」

 

「………初めに人類という総体を害する魔物達に名を与えた者は、つくづく性根が歪んでいたのだと実感しますね」

 

 己のせいでそれまでの人生を破滅させられ、肉体すら(おぞ)ましい改変を受けて苦悶する乙女を見ながら、しかしプリナが考えていたのはただの雑念のような感慨だった。

 

 

「『感染するもの(インフェクター)』などと。そう名付けられたから“こう”なのか、元々“こう”だから皮肉を込めたのか。

 おそらくは、前者なのでしょうね」

 

 

 とりたてて語るに及ばない、どうでもいい思索。

 

「ぐるるるるっ、がぅ……っ!」

 

 それで暇を潰している間に、“変態”(メタモルフォーゼ)は終わっていた。

 シスター帽を押し出して頭頂に生えた三角形の獣耳。唇からわずかにはみ出る鋭い犬歯。スカートの下の臀部で窮屈そうに膨らむ、もさりぱたぱた動く尾てい骨。

 

「明確に目に見えた人外化。下級侵魔(インフラム)を飛び越えていきなり中級侵魔(エデマ)ですか。よかったですねエルザ、貴女バケモノの才能はあったみたいですよ」

 

 傍目には(あざけ)っているようにしか思えない賞賛。しかし先ほどまでの余韻で息を上気させながらも、■■と化したエルギノーザははにかんで笑っていた。

 

「そ、そうですかぁ……?えへへ、ありがとうございますプリナさまっ」

「そんな貴女に提案です。―――ミュートは“ぺっともんすたー”が欲しかったみたい。

 だから恋人の席は少しも譲ってあげられないけど、彼の家畜(ペット)としてなら傍に居ることを許してあげられるの。どうかしら化物(モンスター)、この提案、受けてみる?」

「………っ」

 

 ヒトとしての尊厳を完全に黙殺する、酷く侮蔑的な『提案』。

 だがエルザはそれを聞いて―――ぱあっと満面の喜色を浮かべる。

 

 

「いいんですか!?はい、もちろんお受けします。エルザは今日からミュートさんのペットです!!」

 

 

 提案を受け入れることは分かっていた。

 

 ミュートがプリナのことを可愛い女の子と、「こんな女の子とこんな幸せな日々を送りたい」と想ってそれを語ってくれたからプリナは彼のことを好きになった。だがエルザはまず「ミュートが好き」という感情で全てを塗りつぶされてそこが立脚点となっている。

 だから『理想のおよめさん』として在ることが望みであるプリナと違い、『愛らしいペット』が欲しいとミュートが望むならエルザは自身がそうなることを受け入れて喜んでそうあり続ける。プリナの領分と被らずに共棲可能。それが今のP・エルギノーザという女なのだ。

 

「そう、なら今日からよろしくお願いしますね、エルザ」

 

 自ら望んで畜生に堕ちた元シスターに、その原因たる姫は柔らかな笑顔を返す。

 思いがけず便利な拾い物があった以上の感情は、そこに籠っていなかったが。

 エルザもまた、プリナの思惑を理解しながらも、ご主人様(ミュート)の傍に居られるのであればそんなことはどうでもよかった。

 

 

 そして。

 

「おかえりなさい、ミュート」

「あ、おかえりなさいですミュートさんっ!!」

 

 買い物を終えて帰宅した愛しい人を二人で出迎える。

 

 当然ながらこの状況に至るまでの(おぞ)ましい経緯を馬鹿正直に伝えたりはしない。

 伝えたのは除霊に失敗したエルザがその責任感から、『ミュートさんに取り憑いた霊がその執着をなくすまで傍でお世話します』というでっち上げのストーリー。

 

 ミュートに取り憑いた思念がその執着をなくすまでというのは即ち、プリナのミュートに対する執着がなくなるまでということ。

 要は『永遠にあなたの傍に居ます』ということなのだが―――プリナの口添えもあり、疑われることもなくエルザは彼の承諾を勝ち取ったのだった。

 

 

 





 しれっと重要情報を独り言でお出しするプリナちゃん。
 ちなみにエルザちゃんをケモミミ化させたことについて、「ミュートがペットモンスター欲しいって言ってたからペットに出来そうなこの子をモンスターにしよう」なんてヒドい理由は7割くらいしかないです。あとは人外化すると例によって滅茶苦茶強くなるのでミュートの肉盾になるかなとか、精神だけじゃなく肉体的にも完全に後戻りできなくさせ、人間社会に居場所のない存在に変えてよりミュートに依存させようとか…………うん、なんにせよヒドいな()

>人の背丈の何倍もある金属岩を(なめ)らかに切断できるレベルの攻撃
 ガ○ダムエクシアが全力で斬りかかるのを無防備に受けて、「あ、血が出た」レベルである。しかも当然のように再生能力持ち。

>ミュートは“ぺっともんすたー”が欲しかったみたい
 第一話でそんな感じで語っていたことはある。当然、こんな状況を想定していた訳ではないでしょうが。

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