夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~ 作:サッドライプ
この作品にホラー要素はあんまりありません。ない、はず。
ぽ~~っ。
「ねえ、プリナちゃん」
「なんでしょうかミュート」
ぽ~~~~っ。
「ひま」
「あらまあ、たいへんですね」
ぽ~~~~~~っっ。
「くっついていい?」
「むしろ私がくっつきます!」
ぎゅううぅぅ~~~~~~っっっ。
「「しあわせ……」」
「ミュートさん、ごはんできましたよぉっ!!」
なんだろう、ここ最近頭が本当にぽわぽわしてる。
ただでさえ低いかしこさの数値がどんどん下がっていってるというか。
いや、なんとなく理由は分かってるんだ。
「ふーっ、ふーっ。はい、あーん♪」
「ぱくっ。んまんま」
隣のプリナちゃんにあーんしてもらって食べる最高においしいごはん。
今日は野菜と肉を炒めた……ジャーマンポテト?っぽい料理。味がいいのは彼女にあーんしてもらえる幸せからだけじゃなくて、普通に料理自体がおいしいし、できたてあつあつなのもある。
「うふふっ」
「なあ、食べないでこっち見てて楽しいかエルザ。あと恥ずかしいんだけど」
「ミュートさんが幸せそうだと、エルザも嬉しいですから!だからすみません、ずーっと見てたいですっ!」
「……っ、ほどほどにな」
「はいですっ」
料理人は、ダイニングテーブルの向かい側でにこにここっちをずっと見ているイヌミミシスター。今は薄い黄色の肩出しワンピースを着てるけど、ミニスカの下からわっさわっさとしっぽがゴキゲンに揺れていた。
街角で出くわした瞬間『あなた憑かれているから除霊します』と言い出し、失敗したから『居なくなるまでずっとそばで見届けます!』と家に上がり込んできた宗教家。うん、どう考えてもまずいニオイしかしないよね。
ただこの子、そんなトンデモ突撃ガールの割に生活能力がむちゃくちゃ高かった。なんでも孤児院育ちで小さい頃から身の回りのことは全部自分達でやる生活だったかららしい。
リアルに孤児って見たことなかったからどう触れたらいいか分かんなかったけど、エルザに関しては全然心配いらなかったというか。こいつめちゃくちゃ人なつっこいの。
「ごちそうさま。うまかった」
「やた。じゃあじゃあ、ミュートさんっ」
「まったく、うりうりー」
「わふわふ~~♪」
こっちが昼ごはんを食べ終わった瞬間、隣にシュバってきてなでなでしてください!と差し出して来る頭をなでくり回すと、ものすごい勢いでふさふさのイヌミミがぴこぴこ動いてその感触が気持ちいい。
幸せそうに鳴き声まで犬っ娘感を出すし、そこまで喜んでもらえたらこっちの気分もすごくいいよね。
「………クスっ。よかったですね、エルザ」
最初は他の女の子に親しく触るのはプリナちゃんに悪いかなーと思ったんだけど、特に気にしてる気配もないし。いやまー、
『やきもち焼いてスネるプリナちゃんがふーんだってそっぽ向いてさ。本当は全然怒ってないけど、ごきげん取ろうと必死にわたわたしてる俺のこと見てたくてしばらく怒ったフリ続けるの。でも嬉しくてついつい一瞬笑顔になっちゃったりしたら可愛いよね』
って話をしたことがあったから一回やってくれたけど(ごろごろ)、そっちをやってくれるくらいには本当に全然怒ってない感じ。
そんなもんなのかなぁと思わなくはないけど、ちょっと分かる気もする。
「わぅ~~~♪」
ただでさえプリナちゃんより小柄で下手するとロリ一歩手前―――いや、正しく言うとロリを一歩過ぎたところくらいの見た目。お胸のサイズはプリナちゃん2人分の名誉の為に触れないでおくとして、一番特徴的な耳としっぽの動きがエルザのその時の気分とかに完全にリンクしてて、女の子相手っていうより小動物相手にしてる気分になってくる。
しかもこれで性格はお世話好き、ほめられたがり、スキンシップ大好き。万能な家事スキルで今まで手の届かなかった料理とか掃除とか全部お世話してくれて、その間俺とプリナちゃんがいちゃいちゃしてても嫌な顔しないどころか自分も幸せそうに笑ってるし(いちゃついてるのをじっと見て来るのはメチャクチャ恥ずかしいけど)。
もちろんタダでこき使うのは悪いと思ってお金渡してるけど、それよりもなでなでしてもらう方が大事です!とか口に出して言っちゃう子。
亡霊相手に『かわいそう』なんて考える優しい性格もあるし、敵意とか持ちようがないから、プリナちゃんも気に入ったってことなんだと思う。
だからプリナちゃんに『ナンパしてひっかけたんじゃ』とか浮気を疑われるまずい展開にはならなそうで安心ではあるんだけど、問題はそっちじゃなくて。話が最初に戻るわけで。
「―――このままだとすごくダメな気がする」
「?何か足りないお買い物とかありましたか?言ってください、なんでも買ってきますよっ!」
「や、そーじゃなく。ていうかそれだ」
この街で生まれ育った家事万能のエルザがお世話を焼きまくってくれるようになって。この世界の人々の生活とか常識とか、そういうのが分からない問題も含めてまるっと解決しちゃったのが問題というか。
なんならこうやって買い物までやってくれるようになって、家の外に一歩も出ない日すらあるというか。
やらないといけないことがなくなって、プリナちゃんといちゃつく以外にやることがなくて、ガチで暇になった。
もちろんそれ自体に不満なんてない。素敵な彼女さんと、可愛い実質メイドさんが居て、穏やかで幸せな日々が続いている。
でも、それに浸りきってかしこさだけじゃなくてどんどんレベルとかステータスも下がっていくとしたら、それはとても怖いことだと思う。
日本にいた頃も、よくよく考えたら似たようなもんだった。今日は何をやって遊ぼうかしか頭になくて、家のことは母さんに全部やってもらって。学校の勉強だって苦手意識で全然身に付かなくて、父さんはじめ生活の為にお金を稼ぐ大人達とじゃ真剣さは比べるのも失礼なくらいだった。
そして、そんな暮らしは呆気なく消え失せた。突然何もかも取り上げられて、生きるか死ぬかのダンジョンサバイバル生活が始まって。
――――また同じことの繰り返しになるんじゃないか、って。
こんなモンスターがうようよしてる世界で、ぐーたらしてて本当にいいのかな。
戦って戦って戦って。プリナちゃんが目覚めて、そんな俺を好きになってくれて、今のこの生活がある。戦いの先に勝ち取ったモノが、戦わないで守れるのかな。何もしないでも失われないでずっとそこにあってくれるようなものなのかな。
「今のままで本当にいいのかな」
「「………」」
説明べたで、うまく不安を言葉で伝えられないけど二人は真剣な顔で聞いてくれた。そして何か視線でやり取りした後。
「はい、ミュートさん。提案があります!」
「どんなですかエルザさん」
「
「………え?」
またダンジョンに?
あの暗くて寂しくて、プリナちゃんと出会えたこと以外何一ついい思い出がない場所に?
エルザは信用できると思ったから、プリナちゃんにも確認して俺たちのこれまでをちゃんと話している。それでこんな提案するとは思ってなくて、まず疑ったのは聞き間違いだった。
でもエルザはにぱーっとした笑顔のまま、続きを軽い口調で話してくれる。
「きっと今のミュートさんは、戦うことより戦わないことの方が怖いんです。いきなり何もない平穏な生活に心が慣れてないから。
じゃあまずは真ん中の、怖くない戦いをやってみるとかどうでしょう」
「怖くない戦い?」
「Cランク以下の
「なるほど」
戦うより戦わない方が怖い、っていうのは言われてみて確かにと思った。ずーっと命がけの戦いを繰り返して、いきなり「それは必要なくなった」ってなっても心が追いついてない。
そう考えるとエルザの提案もありに思える。
「もちろんエルザもお供しますっ。一緒にお出かけしましょう!」
なんか犬の散歩みたいな発言になってるけど。
そして、プリナちゃんも穏やかに乗っかってきた。
「私も一緒です。あの頃と違って、あなた様は一人ではないのですよ、ミュート」
「プリナちゃん………」
「それに“冒険”は好きなのでしょう?色々なところに行って、色々なものを見て―――、」
「―――色々な
「そう、なのかも」
確かに極限バトルはお腹いっぱいだけど、せっかくダンジョンもモンスターもある異世界ファンタジー。じっと家に閉じこもりっきりはもったいない気がしてきた。
プリナちゃんとエルザを連れて、ゆるいダンジョンアタック。アリかナシかで言えば断然『アリ』だと思う。
「うん。ちょっと行ってみようかな」
「「…………はいっ」」
少なくともお試しもしないで避けることじゃない。軽い気持ちでエルザの提案を受けることを決めると、二人は左右両側からふわりと笑って手を握ってきた。
女の子の手の柔らかい感触。それ以上に柔らかい笑顔。そういえばふとした時の笑い方がプリナちゃんとエルザでそっくりなんだよなあ。
やっぱ気が合うところがあるんだろうなー。
最後のシーン、映像化すると二人とも目元に陰が差してて眼に光がなさそう。なんでかなあ。
>「
自分で言いづらいことはまずエルザちゃんに言わせる調教師プリナさん。