夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~   作:サッドライプ

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 厨二くさいルビが振ってある箇所がありますがふわふわ理解で大丈夫です。ただの雰囲気作りです。




ストレプト湖底封印遺跡Ⅱ

 

 不便で不満も多くて、でもそれを帳消しにする天使ちゃんのおかげでそこそこマシな生活だったけど。

 限界が近いのは薄々感じてた。

 

 ここに来たばかりの頃と比べて、最近明らかにモンスターが強くなってる。見た目もグロくて凶悪になり、○カ様のご加護に目覚めた頃は一撃確殺(イッカク)作業だったのも多かったのに、数十秒から数分、ヤバい奴は数十分爪だの牙だの毒液だの触手だのを避けながら電撃叩き込み続けないと沈まないのが出始めた。

 ドロップアイテムの強化値っていう目に見える数字で相手のレベルアップは嫌でも実感させられるし。そのくせ敵の数は減るどころか増える一方で、全滅させるのに手間取ってる間に戦闘音で新手が来るなんてこともしょっちゅうになってきた。

 ソロ狩りで乱入敵とか本気で勘弁して欲しいんだけど、そんな愚痴を聞いてくれるような奴はいやしない。あの子に情けない泣き言なんか聞かせたくもないし。

 

 でもなによりマズいのは―――彼女が居る遺跡迷宮の一番奥、封印の間。はじめはその三層上でもたまにしかうろついてなかった化物達なのに、最近はずっと一層上でドンパチし続けてる。

 

 削られていく安全地帯。明らかな侵攻の気配。この後どうなっていくかなんて、どんなアニメやゲームでもパターン的に一つしかない。ある日一斉に魔物が退却していくなんて都合のいい夢を見られるわけもなく、たった一人で戦い続けても逆に総攻撃で押しつぶされる未来像がはっきりイメージできてしまってた。

 

………自分が頭がいいなんて言うつもりはないけど、この状況で何が賢い選択かが分からないなんてほどでもない。これまでで一番手こずったボスクラスのモンスターでも俺の『こうそくいどう』には追いつけなかったんだから、もうそこら中うようよし始めたやつらなんて避けてかわして迷宮の出口を探しに行けばいい。『隠蔽』(ハイディング)効果のある装備だっていくつもドロップしてるし、もし見つかっても電撃と電光で麻痺とスタンさせれば倒す必要すらなく逃走できる。食べ物も水もこれまでの戦いでくさるほど(魔法のカバンに入れてると腐らないけど)貯めこんでいる。

 

 俺一人なら身軽なんだ。けど、ジリ貧と分かってるのに俺は遺跡の奥に留まり続けた。

 遂に封印の間の一つ外の部屋にまでモンスター達の群れがなだれ込むその日まで。

 

 我ながら頭おかしい。イカれてる。だってこの期に及んで思い浮かぶのは――――『ああ、この美少女を拝めるのも今日が最後なんだ』だぜ?

 

 

「でもさあ。………無理だったんだ」

 

 

 よく「君を守りたい」なんて歌詞あるよな、誰が共感してるんだよってフレーズ。何と戦うつもりなんだよって。

 俺もそう思ってた。そして今、あの子に対して。

 

 

「かすり傷一つつけさせるのさえ、本当無理」

 

 

 ただ眠り続けてる、俺のことを認識さえしてない女の子。それどころかもし起きて俺のことを知ったらドン引きしてキモがられるに違いない。

 そんなこと百も承知で、それでも魔物達の侵攻の狙いが多分この子を害することだと思うと―――。

 

 

「―――死んでも守るしかないだろ……っっ!!」

 

 

 痛いのは嫌だ。死ぬのは怖い。なのにこれしか選べない。選ぶつもりもない。

 

 扉の外から化物共のうなりとうめきが響いてくる。這いずり、踏み砕くクリーチャー達が気色悪い声で吠えている。お約束的に結界でもあるのかすぐに封印の間には入れないようだけど、それもいつまで頼れるのか。

 だから俺は背を向ける。透明な結晶の中、何度見ても心ひかれる守りたい女の子の姿を目に焼き付けてから。

 

 

 

「俺、この戦いが終わったら……彼女に告白するんだぁぁぁっっ―――!!」

 

 

 

 もう逆に生還フラグじゃね的なセリフを念仏代わりにして、外の怪物達の前に立ち塞がった。

 

 そして―――。

 

 

∵∴∵∴∵∴∵∴

 ∵∴∵∴∵∴∵∴

 

―――私は英雄だった

 

【最初の一年は、ただ嘆いた】

 

―――誰よりも先頭に立って民を脅かす蝕魔(インフェクター)を駆逐した

 

【次の十年は、諦観に身を委ねようとした】

 

―――王族に生まれた抗魔士(イムニティ)としての使命を全うした

 

【そして百年は、抑えきれない怒りに心を焼かれた】

 

―――堕ちた戦友(とも)を介錯し、血を分けた妹さえも手にかけて

 

【五百年、憎悪と怨念を弄んだ】

 

―――果てにあったのは、誰よりも異形の返り血に汚染された醜いカラダ

 

【やがて幾百、復讐の念にすら飽いて虚無へと至った】

 

―――そしてそれを蔑み(いと)う者しか残っていなかった、腐り果てた祖国

 

【いつしか虚無は、魂の凍る恐怖に姿を変えた】

 

―――望まれたのは封印。眠りにつき、千年の時を超え復活を予言された“救世の光”になれと

 

【またあんな世界に蘇り、戻らなければならないの?】

 

―――救った者達が私に向けたのは、どこまでも浅ましく身勝手な祈り(呪い)

 

【その(とき)に怯え震える私の前に…あなた様は来てくれた】

 

―――けれど彼は、彼だけは愛してくれた。完全に■■となり果てた私を見て

 

【残りの時間を歓びと期待を胸に待つことができるなんて】

 

―――たった一人の女の子として、可愛いと言ってくれた

 

【九百と九十と九よりも、ずっと長いとさえ思えるあと一年間】

 

―――彼が語るどこまでも平凡で幸せに満ちた、好きな人同士が結ばれて過ごす素敵な未来絵図

 

【けれど、つくづく度し難い。私という女はどこまで愚かしく浅はかなのか】

 

―――私に願ってくれるというなら。あなた様が与えてくれるというならば

 

【また間違えるところだった】

 

―――千年の絶望すらも『報われた』と想える程の愛の為に

 

 

「俺、この戦いが終わったら……彼女に告白するんだぁぁぁっっ―――!!」

 

 

 

―――【たった一年早く目覚めればいいだけの話なのに、なんで今まで気付かなかったのかしら】

 

 

 

 そして彼女は。

 ギルド格付S(実質攻略不可能)蝕巣(フォーカス)『ストレプト湖底封印遺跡』全33層全域を自らの夢能(デルシオ)によって起こした津波で押し流し、上級獣魔(ヘマテミシス)97を含む総勢5029体の蝕魔(インフェクター)の一切を藻屑に変えながら。それでいて一滴の水飛沫も最愛の対象を濡らせることなく。

 

 

 千年目に再臨すべき使命ごと、アウレウスの呪戒を破却する。

 

 

 それはこの時奮闘虚しく命果てる定めにあった筈の異邦の抗魔士(イムニティ)、霞悠斗(かすみ・ゆうと)に対する『最強姫』(ディアエンプレス)の祝福であり。

 千年紀の中であとたった一年を待てずして救済の予言を覆されたこの夢現世界(パラソムニア)の全住人にとって、待ち焦がれていた救世主が『災イ凶ツ姫(ディザストレス)』と化したという惨禍なのだった―――。

 

 ∴∵∴∵∴∵∴∵

∴∵∴∵∴∵∴∵

 

 

 

「…………???」

 

【朗報?】死ぬ覚悟で魔物の群れに突撃したら次の瞬間水に押し流されて全滅してた件

 

 

 何もしてないのにこわれた。え、なにこれ。急に俺の後ろから大量の水があふれてきて全部押し流してったんだけど。もしかして“なみのり”覚えてた?でもピ○様があれ覚えるのって太古の昔の話だったような。

 

 小学校で見させられた津波の映像。まさにあれそのものな天災に、デカブツもすばしっこいのも堅いのもレーザー撃ってくるような奴もまとめて流れにのまれてどこか遠くに消えてった。

 きれいさっぱり洗い流したら一瞬でその激流も引いてしまい、残ったのは水浸しになった遺跡の床や壁だけ。………いや、ここ最下層のはずなんだけど、どこに引いたっていうんだよあの大量の水。

 

 何より不可解なのは、あんなどう考えても制御不可能な自然災害なのに『俺だけは』何一つ被害を受けてないこと。

 霧が舞い上がって涼しい感じはするけど、俺の服にも肌にも水しぶきすら飛んでない。幸運というにはあまりに“不自然”な都合の良さに、今起こってるのは現実逃避が見せた幻なんじゃないかとも思ってしまう。

 

 混乱。あぜん。ぼーぜん。放心。

 はてなマークを空中に大量発散しながらぼけっとするだけの俺だったけど、次に後ろで鳴った水音にはっとなった。

 

 

――――ぴちゃん。

 

 

(そうだ、あの娘は……ッ!?)

 

 勢いよく振り返った視線の先、封印の水晶があった場所に。

 

 

「――――嗚呼、(ようや)くあなた様と言の葉を交わせるのですね…!」

 

 

 天使ちゃんが居た。

 

「伝えたい想い、語らうべき願い。星の数ほど積もれども、まずは浅ましいこの情念をどうか許してください。はしたないとは重々承知ですが、あなた様が告げてくれるという言葉、すぐにでも欲しくて欲しくてどうにかなってしまいそうなのです……!」

 

 

 彼女が目覚めて、こちらを見ていた。しかも熱のこもった視線と声を俺に向けてくれていた。

 

 なにこれ今まで想像していたのより数千倍かわいい。

 封印を砕かれた淡く光る結晶の破片がきらきらと舞うのを背景に、白と虹色の髪や薄水色のドレスがさらさらふわふわ踊ってて。

 ほんのり桃がかったほっぺの上、ぱっちり開いてでも潤んだ瞳の色はヒスイ色。色が似てるっていうだけで、石ころなんかとは比べるのも失礼なくらい輝いててきれいだけど。

 何より声。今の熱情にあふれた感じも当然として、張り上げても弾んでても気が抜けてもささやかれても、どんな言葉を話しても絶対可愛いって感想しか出てこないだろっていう奇跡の音色。

 

「俺が告げる言葉?」

 

 見とれて聞きほれるあまり再度放心ぎみになった俺が回らない頭で問いを返すと、彼女は恥ずかしそうに、少しいじけたように両手の指を合わせながらうつむくもんだから更に可愛くて。

 

 

「言ってくれたではないですか。

―――この戦いが終わったら、私に告白してくれると」

 

「好きです俺と付き合ってください!!!!」

 

 

 条件反射だった。今まで散々ひとりでピンク電波を垂れ流した俺に自制するという発想すらなかった。

 そんな情緒ゼロ工夫皆無のどストレート告白で、彼女はぱっと華やかな笑顔になって。こちらへ水音を散らしながら走り寄って/っていうか飛びついてきて/あっすき/おかおちかい/このままだと当たる/なにが/くちびる/ぴ、……ちゅー?

 

 初めてのキスは柔らかくて、幸せで、最高で。

 

 

「ん……はふっ、ちゅっ。はい!よろこんで、幾久しくっ♡」

 

「………、~~~~っ!?まじで??」

 

 

 しばらく唇をくっつけた後、名残惜しそうにもう一回だけキスして告白の返事をくれるお姫様。ああ、これ俺が彼女に(一方的に)話したこともある理想の告白成立シチュじゃん。やっぱり夢見てるのかな……。

 

(――――一方的に?)

 

「ふふ、うふふ……っ!これでよいのですよね。『告白の返事はキスで、その後満面の笑顔でおっけーの返事』、でしたよね?

 わたしちゃんとできましたよね?」

 

 嬉しそうにはしゃぐ姿がやっぱり可愛い満載の至福に押し潰されそうになる一方で、心の奥底から何か焦りのようなものがちりちり沸き上がってくる。

 

―――この戦いが終わったら告白するって逆死亡フラグ、言った時あの娘まだ封印されてたよな?

―――以前この理想の告白シチュを語った時はどうだったかなんて言うまでもないよな?

―――そもそも目覚めてすぐ俺のこと知ってる時点でおかしいよな?

 

 つまり……。

 

「あの……」

「??あっ、ごめんなさい、ミュート。私のことは『プリナ』と呼んでくださいね」

 

 プリナちゃんかー。うん、名前も可愛い。じゃなくて。

 というか当たり前のように『彼女の意識がない間に語った』はずの俺のあだ名まで知られてるし。

 

「もしかして、もしかしてなんだけど……君に色々話しかけてたの、聞こえてた?」

「はいっ!お返事ができないこと、ずっともどかしくて―――でも、それでも語り掛けてくれるあなた様が愛おしくて」

「ミぐっ!?」

 

 今の万感の想いがこもった感じの一言、胸がバグンッ!!ってすごい音立てて破裂しそうなくらい破壊力高かった。自分の心臓の鼓動に殺されそうになることってあるんだな。これで幸せ死ねたらそれはそれでよかったんだけど、これすらかき消すような焦りと不安も一緒に暴走してる訳で。

 

「その、いつから?どこまで??」

「もちろん、あなた様が私の前に現れた二百と十一日前から。その言葉一字一句全て、この魂と記憶に刻んでまいりました」

 

 

「………ぜんぶ?」

 

「はい♪あなた様が言っていた恋人同士の(むつ)み合い、全部ぜーんぶやりましょうね!!」

「え゛」

 

 

 

―――はいけー、お父さん、お母さん。

 

 半年以上前に行方不明になってたらしいあなた達の息子に、彼女が出来ました。

 この世の誰よりもきれいで可愛くて、しかも俺のリクエストに満点スマイルで応えてくれる最高にけなげな理想の恋人さんです。

 

 心配をかけさせてるのはとても申し訳ないけど、それすら含めて『異世界に来て良かった』って思えるくらい嬉しいはずなんですが。なぜか同時に全身がむずがゆくて今すぐ地面を転げ回りながら息を引き取りたいのです。

 

(に゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ~~~~ぁっっっ!!????)

 

 人間って幸福と羞恥の両方の絶頂を同時に感じられるものなんですね……。

 とりあえず「?」ってにこにこしたまま首をかしげるお姫様が可愛すぎるので生きようと思います。

 

 そちらは今頃冬でしょうか。風邪など引かないようにしてください。

 

 二人の息子、霞悠斗より。けーぐ。

 

 





 溺愛(物理=裏ダンジョン水没)

 水属性ヒロインなので、実はちょっとだけ湿度が高いかも知れません。

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