夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~   作:サッドライプ

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 繰り返しますが、この主人公にピ○様のご加護とかありません。
 そう思い込んだから電撃とか高速移動とか出せてるだけのただの精神異常です。




聖教徒エルギノーザⅥ

 

 さて、俺たちが今進んでるこの山道のダンジョンだけど、一本道で山のてっぺんまで延びているらしい。頂上にはお約束のようにボス鳥が居て、それを狩って帰るのがいつものエルザのルーティーンなんだって。

 

「ボス鳥ってどんなの?」

「すっごくすっごく大きいんですよ。こーんなのっ」

「こーんなかっ!」

「こーんなですっ!!」

 

 手を上から横に大きく伸ばして振るケモ耳シスター。超デカいって表現なんだろうけど、なんかその動作が面白くてマネしてみる。そしたらまたエルザが同じ動作繰り返すから、俺もまたやって――――「こーんな」「こーんな」と二人して意味不明な体操みたいなやり取り。

 

 

『………ミュート?』

「あ、はいマジメにやります」

 

「わっふー♪」

 

 

 やめ時が分からなくなって五往復くらいしたあたりでプリナちゃんがインターセプトかけてくれた。そして楽しかったのかエルザは普段の3割増くらいにっこにこの笑顔になった。

 『飼い主に遊んでもらって上機嫌のわんこ』、みたいなフレーズが思い浮かんだけど、さすがに違う……かなぁ?スカートのお尻のあたりがすっごくもさもさ揺れてて、その下でしっぽがぱたぱた振れてるっぽいけど。

 

 そんな感じでぐだぐだしながらのダンジョン攻略だったけど、飛んでくる鳥モンスターはエルザが全部射ち墜とすし、そもそもこの子にとっては何度も攻略したダンジョン。ボス戦は前回まで一撃必殺はさすがに厳しい感じだったって言ってるから、俺の出番もあるかなー、ってちょっとわくわくしてたんだけど。

 

「………エルザ、道ほんとにこっちで合ってる?」

「あ、あれー?おかしいです?」

 

 聞いといてなんだけど、一本道だったのは俺もちゃんと覚えてる。でもちょっと道幅が狭くなったな、と思うといつの間にか森の中に突っ込んでいた。ていうか後ろを振り返るともう道がなくなってて、向こう側が見えないほど木々が密集してる。

 

 

【呪…樹…ジュ……怨ォン……】

【罰伐抜跋ッ!!】

 

 

 木々、っていうかモンスターだ。根っこのあたりが気色悪くうねってるし、耳ざわりなうめき声が中から聞こえるような植物なんざあってたまるか。

 枝には膜がやけに金属質で鋭いムササビみたいなのがわらわら止まってるし。

 

『誘いこまれましたか』

「アクシデント発生、ってやつ?エルザ、こういうのよくあんの?」

「いえ、今まで一回もこんなことは……、ッ」

 

「ババッ!?」

「るせえよ。今話してるのわかんねーか」

 

【【【―――!!】】】

 

 困惑するエルザに飛び掛かって来た一体を電撃で叩き落とす。かざした手から空中を走った稲妻に撃たれて、ぷすぷすと焦げ臭くなりながらぼとりと地面に落ちるそいつの姿を見て、周囲のモンスター達も警戒を濃くしたのが気配で伝わってくる。

 

 たぶんだけど、こいつら最初は俺たちを罠にかけたってバカにして笑ってたんだと思う。実際武器が弓で範囲火力も持ってなさそうなエルザだけだとちょいキツい場面かもしれない。

 

 木モドキの方は魂を持ってないタイプの敵ってことでエルザのレーダーも働かなかったんだろう。なら数で囲んでボコれるように悪知恵を絞って利用してるのは物騒な飛びネズミたちの方か。

 

………もしかしたらここが不人気狩場だってのも、コンドルの奇襲に慣れてワンパターンだって安心した冒険者をハメる仕組みがこういう風に出来上がってて、二重に根性の悪いダンジョンだからなのかも。二つ目の罠に掛かった冒険者は帰らぬ人になるし、コンドルにやられたのと区別がつかないし。

 

「ソロクリア未達成残念でした、っと。選手交代な、エルザ」

「あぅ。はいです……」

 

 でも今日ここには俺もプリナちゃんも居る。

 はっきり言って全方位から何十体と囲まれてエルザを庇いながらだろーが、この状況に全然危機感を感じない。殺意が足りない。あの遺跡の化け物モンスター共に比べて、火力(ATK)が足りない。速さ(AGI)が足りない。頑丈さ(VIT)が足りない周到さ(DEX)が足りない―――『格』(LV)が全然足りてない。

 

 なるほど、これがランク差。半年以上あれだけヤバい連中と戦いっぱなしだった俺はさすがにBランクくらいはあると思うけど、それでDとかEのモンスター相手にするとこうなると。

 レベル差の暴力でカスダメすら発生しない。怖くない戦いってのはこういうこと。

 

「うん、ちょうどよかった。いっこ試したい技があったからさ、エルザのガードお願いできる?」

『お任せを。……ミュートのかっこいいとこ、見たいなー?』

「よしきたっ」

 

 プリナちゃんってばうまいんだからもー。

 可愛い彼女さんの応援にテンションぶち上げ状態で俺は腕を上げて天を指さす。頭の中で↓B入力するだけだから特に必要ない動作なんだけど、気分的に。すると木々の隙間から射してたお昼時の太陽が“いなくなる”。分厚い雲に隠れて見えなくなったんだろう、これからあるものを落っことすためだけに俺の能力で造られたでかい雲に。

 

 日暮れよりも薄暗くなった森の中、モンスター達は本能で「ヤバい」と思ったのか一斉に向かってくる。うん、何をしようが結果は変わらないけど。守りを固めても、逃げを打っても、なんにしても遅過ぎる。

 

 

「一瞬だからよく見とけよ?―――自分にカミナリが落ちるシーンなんて、一生一度の最初で最後だ」

 

 

 ピカっとな。

 

 

 あの湖の底じゃ天井が邪魔で全然使えなかった最大火力。周囲全てを吹き飛ばしたい時に使いたくてもどかしくてしょうがなかったロマン砲。

 

 次の瞬間、俺の体にしびれるような衝撃が走った。視界は真っ白にちかちかスパークして、ごろごろと腹に響く音がうるさくて他に何も聞こえない。………いや、俺目掛けて落雷したんだから全部当たり前なんだけど。

 

 

「~~~っ!!でもなんかこれ、すっげー爽快!!」

 

 

 ここしばらく戦いから離れてなまりかけた体に活が入ったっていうか。回避とかなんも考えないで全集中力を攻撃に傾けて技を放ったことはそういやこれが初めてで、それがこんなにもスカっとするなんて。

 これは週一回ぶっ放すのを習慣にしてもいいかも。そう思って回復した視界に飛び込んで来た光景は――――。

 

 

 

…………。

 

「それでDランク蝕巣(フォーカス)ごと 山 一 つ を 消 滅 さ せ た のか、貴様は」

 

「消滅させたなんて、そんな大げさな。ちょこっと削れただけじゃないすかダンナ」

「誰の目から見てもはっきり分かる程度に山の稜線(りょうせん)の形が変わったようだが?」

「りょーせん?」

「………もういい」

 

((難しい言葉の意味が分からなくてぽけっと首をかしげるあなた様可愛いです))

 

 “ちょっと”やり過ぎて蝕巣(フォーカス)丸々一つを潰したのは流石にまずいかなあと自主的に抗魔士(イムニティ)ギルドに出頭した二名ぷらす一名(透明)だが、そこはバカとバカを全肯定するわんこ(ぷらすステルスお姫様)というツッコミ不在集団。百戦錬磨の荒くれ達を震え上がらせる冷血ギルド長ヴァリスの真顔詰めが、悲しいことになんの効果も発揮していなかった。

 

「再度確認する。そこのカスミ・ユートが蝕魔(インフェクター)の群れを殲滅する為に放った雷で、Dランク蝕巣(フォーカス)『猛鳥の峠』を消滅させたと」

「はいですっ。ミュートさんすごかったです!」

「ふ、ふふーん」

「…………」

 

 元気よく答えるエルザに、ちょっと照れながら得意げにするミュート。そして再度頭痛を堪える素振りで沈黙するヴァリス。

 空気を読めてない振る舞いなのは分かっているのだが、エルザからすれば文字通りに目に焼き付けたあの殲景を誇りたくて仕方ない。

 

 常人では登るだけですら訓練を要するそこそこ険しい山道が、『焼け野原』と化していた。

 斜面ではない、まったくの平面化。土砂すら熔融(ようゆう)する熱量の輝く雷霆(らいてい)が地盤ごと地形を抉り、“山崩れ”を起こしたのだ。その結果は先ほどギルド長が触れたとおりで、北北西数十キロは離れたこの街からでも不自然に削れた凹線から山向こうの空が覗けてしまっている。

 当然ながら蝕魔(インフェクター)はおろかそこにあった蝕巣(フォーカス)自体も跡形もなく焼き尽くされ、もう灰の荒野しか残っていない。

 

 エルザはケモノだ。プリナの狂愛を魂に焼き付けられて、ミュートが『ペットモンスターが欲しい』と思ったから自らに畜生であることを課し、思考回路も価値観もそれに合わせたものに上書きしている。

 そんな彼女にとって、自らを従える飼い主が強いことは己が強くなること以上に誇らしいこと。

 

(エルザのご主人さまは、強くて優しくてかっこよくて可愛くて最高なのです!)

 

 詰問?に使われている応接室のソファに座って無理やり押さえていなければ、しっぽがかつてないほどわっさわっさ揺れていただろう。耳もシスター帽の下で窮屈にぴこぴこ揺れていて、ギルド側の職員の視線が何度か不審そうにそちらに向けられていた。

 

 とはいえ彼らもそれどころではないだろう。

 

「住民達に不安と動揺が拡がっている」

 

―――当然だ。雲一つない快晴の中、突如として空の一部に暗雲が発生。閃光と轟音の後、毎日見ていた山が抉られて形が変わっていたのだから。

 

 いくらこのパーシャルが人類最前線都市といえど、ここまで発展した都市では蝕魔(インフェクター)の脅威に実感のないまま日常を過ごす常人の市民も多い。文字通りの“天変地異”を目の当たりにしてパニックになる者もまま居ることだろう。『英雄』の復活する―――裏を返せば英雄がまた必要になる脅威が発生することになる―――予言の年まであと一年を切った今だからこそなおさらに。

 たかが一般人など千人集まっても、■■になる前のDランク抗魔士(イムニティ)だったエルザにすら及びはしない―――が、この夢現世界(パラソムニア)において『集団の共有するイメージ』がどれだけ厄介か、プリナの知識を共有しているエルザには分かる。

 

「大丈夫です。あれはエルザを救うためにミュートさんが頑張ってくれた証拠です。

――――『聖教会のシスター』である、私を救うために、です」

「………ッ、相変わらずのようだな宗教屋。

 孤児上がりにもしっかりと教育が行き届いているようだ」

 

 だが群衆の幻想など、扱いさえ見極めれば都合よく操作は可能。先手を打って立場を利用し美談を喧伝すれば、何も考えずに流されてくれる愚民は多い。愚か者ほど情報を精査せずに周囲に伝播(でんぱ)するから、底辺から三割程度でも信じさせれば全体を掌握したも同然。

 ギルド長もまた、そうすることを示唆されて不快げに眉を歪めながらも、社会不安の解消という観点から必要性は認めているのか反対する様子はない。

 

 

(称えなさい、憧れなさい、勝手な希望を抱きなさい。その祈り(呪い)ご主人様(ミュートさん)に集まれば、きっと素敵なことになります)

 

 

 この世界の常識のないミュートと他人に慣れ合うつもりのないプリナの二人の行動を、この都市の社会規範と()り合わせる………それがP・エルギノーザの生かされている理由で生きる理由。

 バケモノになる前のエルザには想像もつかなかった冷笑的な思考と我欲を含んだ思惑をも込めて押し通す彼女の微笑みは、まるで聖女のように清らかに見えるものだった。

 

 

 

「……つまり、どーゆーこと?」

 

 愛すべきご主人様は、前提知識が圧縮されまくった会話についていけずにぽかんとしているだけだったが。

 

 

 

 





 準伝説級みたいな真似をやらかしてツヤツヤテカテカしている自称電気ネズミ。知能までそれ相応になる必要はないんだよ…?

>エルザだけだとちょいキツい
 というより、ミュートくんと絡まないでソロ狩り続けてればエルザはここで死ぬ運命でした。
 マインドクラッシュされた時点で死んだようなもの?うん、それはまあ。

>これは週一回ぶっ放すのを習慣にしてもいい
 よくないと思います。ダイナミック自然破壊。

>底辺から三割程度でも信じさせれば全体を掌握したも同然
 なんかどっかの幼女が講義でも始めそうな集団扇動の心得。

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