夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~   作:サッドライプ

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 頭スカスカ?ああ、いい奴だったよ……。





抗魔士ギルドⅠ

 

 抗魔士(イムニティ)ギルド支部長、ポルフィロモナス・ジンジヴァリスの起居(ききょ)する部屋はギルド支部庁舎内にある。

 

 人類最前線都市に置かれ、所属する抗魔士(イムニティ)は六千に達する。遺宝産業が経済活動の多くを占めているこの街では、取引先やその家族まで含めればこの都市の住民全てが“関係者”とすら言える巨大組織。主席行政執行官であるこの都市の首長よりも抗魔士(イムニティ)ギルド支部長のヴァリスの方が立場が上とすら見られている。

 当然、その運営が生半可な労力では足りないことは言うまでもない。常人であれば安息日も昼夜もなく働き通して一月保つかどうか。この都市の抗魔士(イムニティ)の中で最上級のヴァリスをして夜遅くまで業務が立て込むことも珍しくないのだから、自室が同じ建物内で移動の手間が省けるのは楽と言えば楽だった。

 

 懸案(けんあん)も数多く、責任は無尽蔵。この日は日没後すぐに業務が終了したが、あらゆる意味で災害級のバカを相手にしたこともあり精神的な疲労は否めなかった。

 

「……む?」

 

 晩酌がてら保存食でも摘まんでさっさと寝よう―――そう思ってわずか十数秒の帰路を辿った先のドアを開くと、中からぱたぱたと足音と気配が近づいてくる。

 

 

「あ、おかえりなさいマスター」

 

 

 スープの沸き立つ音と匂いを背景にエプロン姿で出迎えたのは、先に退勤した受付嬢の一人だった。

 長い前髪が掛かっていても分かる大きめの(まなじり)。落ち着いた清楚な美貌と、形式ばった制服でも飾り気のない地味な私服でも誤魔化しきれない肉感的なボディライン。だがギルドの男どもがこぞって邪な眼を向ける外見や『押せばイケそう』と錯覚する控えめな言動よりも先に、ヴァリスにとっては“先代ギルド長の妹”である。

 

 友人の妹、兄の友人という言葉にすれば微妙な関係ながら、共に食卓を囲んだ回数が数えきれないくらいには交流は長く深い。

 

「ちょうどよかった。そろそろご飯できますよ」

「またか。物好きめ」

 

 ヴァリスの自室と先程は言ったが、家具キッチン浴室収納そして複数の寝室まで揃ったこの部屋は『ギルド長の公邸』という性質を持っている。当然彼女の兄の住処だった時期があり、先代の妹であるアクティにとっては多感な時期の大半を過ごした家だ。先代の殉職に伴い代替わりしたからと言って殊更(ことさら)に追い出すのは躊躇(ためら)われたこともあり、寝室以外は共用という一言では形容しがたい男女共同生活に至っている。

 

 

(せっかくマスターと同棲しているんですもの、こういう新婚さんイベントは逃せないじゃないですか♪♪♪)

 

 

 女の方は脳内まっピンクのようだが、それはさておく。今はヴァリス視点の認識の話である。

 

 アクティに対して極力辛辣な言動を心掛けているヴァリスだが、一つ屋根の下で食事を共にしておいて相手を黙殺するようなことはしない。敵の多い自分は彼女に嫌われて遠ざけるべきと思っているだけであって、傷つけたい訳では断じてないのだから。

 組織のトップと受付という断崖の格差こそあれ、同じ職場で話題に事欠かない毎日を過ごしている以上食事の席で自然と雑談になる。

 

「今日も色々な意味ですごかったですね、カスミ・ユートさん」

「……取扱いを一歩間違えればあのイカズチがこの街に降り注ぐ。厄介な来訪者を抱えたものだ」

 

 今日の話題は何を措いてもコレだ。ただの一撃で比喩抜きに山を砕く、そんな規格外の暴威とどう向き合うべきか。しかも今日も傍にあの『正体不明』が控えていて、そちらは対応を誤った場合にこちらに敵対する意思があることが明確に分かっている。アレがミュートよりも実力に劣る、という楽観はするだけ無駄だろう。

 

 彼を当てがわれた住所に案内した受付嬢クロケからの報告では、『うまい話に罠を警戒した』際に生きた心地がしなかった、と言っていたが、Aランクの超人が警戒して発した威圧感と本気の殺意の区別など常人に付くわけがないからあてにならない。

 つまり、何がミュートにとっての地雷(タブー)なのか把握できていない。かと言って下手に詮索すれば『正体不明』が激怒する。

 コミュニケーションは彼の友好的な態度を(うかが)いながらの非常に神経を使うやり取りだった。

 

「でも救出依頼受けてくれることになったじゃないですか。さすがマスターです」

追従(ついしょう)は要らん。それで業務評価が甘くなるとでも思うか」

「そういうのじゃないです、もう」

 

「だが問題は、シュードモナス・エルギノーザか」

 

 とはいえミュート本人との対話は今日の時点で終わった話。むしろ一番の不安要素は、彼の隣にいて同じパーティーを組んだあのシスターの方だった。

 

 三人―――否、『二人』で雷の件の釈明に訪れたと聞き、ヴァリスは即座に彼女の資料を用意させて目を通した。

 親に捨てられ聖教会の孤児院で育ち、長じて抗魔士(イムニティ)として活動。1年以内に養育投資の完済とDランクへの昇格はかなり優秀な部類である。休日は市井で除霊のボランティアをやっているあたり、典型的な『実践派』と思われる。

 

(……いや、ストレプト国州の教皇庁ならいざ知らず、断絶山脈を越えたこの国で『実践派』と『信仰派』の境目などあるか怪しいか)

 

 『英雄様と同じように高潔な生き方をしよう』と『英雄様が蘇れば全部やってくれるからそれに備えよう』。このエンテロ国州でまで派閥争いをやっているかは疑問だが、エルザは少なくとも前者寄りだろう。

 ただしどちらにしても、その教えと抗魔士(イムニティ)ギルドの理念が相容れることはない。

 

 千年前、かの英雄は素晴らしい奉仕精神をもって世界中の人々を救った。聖教会とはその英雄譚を教典として倫理、秩序、社会規範を定めた唯一の宗教組織である。固有の名前が定められていないくらいには、『宗教』という言葉と同意義であるまでに世界中に広まっている教えだ。

 無私、慈愛、弱者救済。英雄の生きざまを称え、その信念をそのまま美徳と定めた教えは力なき人々の間で当然のように受け入れられた。

 

―――当然だ。自分を弱者であると言い張れば、助けてもらえるのが当たり前。恵んでもらえるのが当たり前。そんな自分達に都合のいい信仰(ルール)、拒絶する方がどうかしている。

 

 この世界には抗魔士(イムニティ)とそうでない者、超人と常人という明確な区別が存在する。ならば当然に前者が強者、後者が弱者だ。強者とされた者は圧倒的多数の弱者を助けて当たり前、恵んで当たり前……こんな一方的な関係が長続きするだろうか。

 

 もちろん大抵の普通の抗魔士(イムニティ)は、どこぞのバカのように『蝕魔(インフェクター)を倒し続けてその遺宝と成長分の肉体強化で飢えを凌いで日々生き続ける』なんて狂気的な真似は不可能だ。食事や寝床、娯楽を用意する常人達が彼らを敬し尊重することで共生関係を維持できれば問題はなかっただろう。

 

 だがニンゲンは慣れる生き物だ。忘れる生き物だ。現状に満足よりも不満を抱く生き物だ。

 命を懸けて異形を退治し自分達を守ってくれる存在への敬意を忘れ、時にその武力を恐れて排斥すらしようとする。あまつさえそんな扱いを受けた抗魔士(イムニティ)側が不服を唱えれば、『慈愛の精神が無い、恥を知れ』などと増長した非難を返す『弱者様』達が居る始末。

 

 挙句の果てにはせっかく英雄様が平穏を取り戻した大地で、人間達は権力を求めて相争う。尖兵はもちろん抗魔士(イムニティ)―――などとふざけた仕儀に至り、強者は信仰ではなく原初の摂理に定められた権利を行使した。

 

 

 弱肉強食。強さとはそも自分の都合を自分より弱い相手に押し付ける力のこと。

 ならば弱者が強者を食いものにするなどあってはならず、相応の対価を用意しない()め腐った者達のために動く道理などどこにもない。

 

 抗魔士(イムニティ)達による自治組織、ギルドが結成された。

 当時の社会秩序に反旗を翻す結社であり、聖教会を筆頭とした体制派は当然これを弾圧しようとして―――どうやって、という当然の問題にぶち当たる。

 

 最弱と言っていいレベルの抗魔士(イムニティ)ですら、常人が十人寄って(たか)って棒で叩けばなんとかなるか怪しいという実力差。これが埋まるのなら初めから強者と弱者などという区分けは存在しない。

 様々な事情でギルドに合流しなかった抗魔士(イムニティ)達も居たが、誰が好き好んで自由を求めて拳を振り上げた仲間を力づくで制圧したいものか。それも自分達の権利を抑圧する人間達の為に、だ。

 

 そうして有無を言わさずの鎮圧ができず、所属する抗魔士(イムニティ)に対して国が命令することができなくなった時点でその団体は世界に『承認』されたものとなる。

 台頭した抗魔士(イムニティ)ギルドが世界最強の武力集団として権力構造に地殻変動を起こし、既存の統治者も機嫌を(うかが)わなければならない巨大組織と化したのも必然だっただろう。

 

 

………話が盛大に逸れたが、そうした経緯で抗魔士(イムニティ)の自治と権利を主張するギルドと、強者(イムニティ)は弱者を救うべきと主張する聖教会の仲は当然のごとく水と油である。

 

 互いに権力組織として、社会秩序の為に取引や交流を行うこともあるが、相手に向ける感情としては“憎悪”という表現でも大げさにはならないだろう。

 

 そう、目下の問題であり城塞都市パーシャルのギルド支部長ヴァリスの頭を悩ませているのは。

 

 

 たった一人で都市を壊滅させかねない災害級抗魔士(イムニティ)カスミ・ユートが、ランク差にもかかわらず聖教会シスターのP・エルギノーザと同じパーティーを組む程度に親しげにしていることだった。

 

 

 

 





 外から見るとこんな感じのやべー組み合わせ。
 実態?飼い主とペット。

>自分を弱者であると言い張れば、助けてもらえるのが当たり前
 この小説はフィクションです。現実の特定個人、法曹かぶれ、マスコミなどとは何の関係もないといいな(危険球)

>『慈愛の精神が無い、恥を知れ』
 この小説はフィクションです。現実の政治団体、NPO法人、マスコミなどとは何の関係もないといいな(暴投)

>相応の対価を用意しない()め腐った者達のために動く道理などどこにもない
 この小説はフィクションです。現実の不法いm(退場)

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