夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~   作:サッドライプ

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 書き溜めに追いついちゃってるので、今後更新はペースダウンします。
 最低限週一はなんとか維持したい……。




抗魔士ギルドⅡ

 

 どうしたものか。

 

 カスミ・ユートの来襲以来抱え続けた悩みが、様相を変えてギルド長ヴァリスの胃を痛め続けている。彼が来るまでは曲がりなりにもこの都市で最強の超人だった身、その程度で荒れる内臓をしていないので、普通にアクティの作った肉多めのスープをパンを浸しながら流し込んでいたが。

 

(最悪のシナリオは、宗教屋共に好き勝手なことを吹き込まれて彼がギルドに敵対的になること―――ではない)

 

 転がされやすい性格なのが一目見て分かる少年だが、同時にそれなりの教育を受けた善人という見立てもできている。ギルドと犬猿の仲である聖教会から悪意に満ちた風聞を教えられたとして、こちらの言い分を聞かないで一方的に敵対してくるということはないように思う。

 ヴァリスはギルド支部長として四大州連邦の一角であるこの国の王相手にも折衝(せっしょう)を行う立場。会話さえできればミュート相手に「どっちを信じていいか判らない」状態に持ち込んで行動保留させるくらいに弁が立つのは当然の話。

 

 ただ、問題はそれ以前の話。

 明らかにミュートを気にかけ、こちらが詮索(せんさく)しただけで容赦なく殺気を飛ばしてくるあの『正体不明』が、彼を都合のいいように利用しようとする悪意に果たしてどの程度寛容なのだろうか。

 そして仮に『彼女』が直接的な手段に訴えた時、その矛先はどこまで向かうのか。

 

 P・エルギノーザは聖教会の孤児院で育った修道女だが、同時に抗魔士(イムニティ)ギルド所属のDランカーでもある。シスターを(そそのか)した教会の生臭共が“行方不明”になる程度ならヴァリスは鼻で笑うだけだろう。だがそのとばっちりがギルドやこの都市に向かうのは看過できない。

 

「そうなると、エルギノーザの身辺調査を密に……だが奴はここ数か月ソロで、元いたパーティーも全滅していたか。難しいな」

 

 追うべきは『正体不明』も傍にいることを許している例のシスターの動向。なぜ一緒にいられるのか、カスミ・ユートにどうあって欲しいと願っているのか。

 

 今後行動を共にしているAランク抗魔士(イムニティ)の気配察知を搔い(くぐ)って監視など不可能である以上、過去の言動から彼女の行動様式を割り出すしかない。

 ボランティアによる除霊活動をしていた、というのは把握しているが、シスターとしての公的な立場の善行だけでなく私人としての言動まで含めて観察しなければ読み違える。

 

 だが私人として最もエルザのことを知っていたであろう同じ孤児院出身のパーティーメンバーは蝕巣(フォーカス)内で帰らぬ人となっている。

 ならば孤児院のスタッフにと言っても、ギルドと関係性最悪の聖教会に探りを入れるのはそれ自体がこちらの事情を勘繰(かんぐ)られるリスクがある。エルギノーザがそうであるように、信仰心やしがらみから聖教会の立場を優先して動く抗魔士(イムニティ)だって一定数居るのだ、完全秘密裏に内偵し放題とはいかない。

 そのせいで教会がエルザの現パーティーメンバーに興味を持つ、などということにでもなれば(やぶ)を突いて蛇どころではないモノを出してしまいかねないだろう。

 

「………ふふっ」

「む、何がおかしい」

 

 ならばどのようにして―――とああだこうだ眉間(みけん)(しわ)を寄せて悩みつつ、食事のペースは落とさないヴァリスを食卓の対面に座るアクティは微笑みを浮かべて見つめていた。

 事態の深刻さが分かっていない筈がないのに、なぜそうも落ち着いて笑っていられるのだろうか。半眼で(とが)めると、唇に手の甲を当てたまま言い訳らしきものを飛ばして来る。

 

「たぶんですけど、エルギノーザさんは彼を利用して何かしてやろうとか、教会の為に働かせようとか、そういうことは考えてないと思います」

「何故そう言い切れる」

「………女の勘?」

「馬鹿か貴様は」

 

 

(~~~~~っっ♡♡♡)

 

 

 理屈もへったくれもない根拠に罵声を浴びせると、なぜか真っ赤になって身もだえる女。

 こういう反応が返ってくると分かっていながら時々とぼけたことを言い出し、その度にこうして傷ついているのだが何故学習しないのか。

 

 まさかメガネ越しに(さげす)まれながら罵倒されることできゅんきゅんするのがクセになっているなどとつゆ知らぬヴァリスは、一度思考をリセットする為に別のことを考え始める。

 

(本当にこの娘は、何を考えているのか)

 

 アクティの兄である先代ギルド長セグニスとは親友であったこともあり、決して浅くない付き合いの間柄ではあるのだがいまいちその思考回路が掴み切れない。

 

 

………話は少し逸れるが。

 

 ギルド長の公邸が庁舎内にあるのは、当然のように身の安全への備えである。

 その影響力の強さで政治権力から(うと)ましく思われ、教義に反する理念を掲げて宗教勢力から目の敵にされている組織の長だ。この都市全体を見ても片手で足りる人数しかいないBランクの実力でもって頭を張っているとはいえ、暗殺を警戒して日々の無用な外出を最低限にするのは当然の心構え。

 最悪の場合に庁舎を城砦(じょうさい)として立て()もることすら視野に入っているような場所である。

 

 亡き友に後事を託された身としては、彼の愛した抗魔士(イムニティ)ギルドという組織を護り抜くことと同じくらい、忘れ形見であるアクティのことを気に掛ける責務がある。だがこんな備えが必要になるような、恨みを四方八方から買う立場のヴァリスの周辺に常人である彼女を傍に置いていてはいつ巻き込むか知れたものではない。

 心を鬼にして冷たく接し、危険なギルド関係から足を洗って堅気(かたぎ)の世界で暮らしてもらいたいものなのだが―――何故だか年頃の女が男と一つ屋根の下となるこの部屋を出ていく気配すらない。

 

 まあある程度は仕方がないと言えば仕方がない。兄以外のアクティの親族と彼女は完全に縁が切れている。

 

 『常人の間に抗魔士(イムニティ)が生まれた家庭』ではたまにある話だ。超人である兄をどうしても愛せず、次に生まれた常人の妹は自分の子にすら怯える大人よりも頼りがいのある兄に(なつ)き、兄を(ないがし)ろにする両親を(うと)んだために両親もまた妹までも愛せなくなった。

 兄のギルド長就任とともにそちらへ着いて来て親類関係がそこで断絶した以上、兄を失って天涯孤独となったアクティはここ以外に今は行き場所がない。

 

 ただ、災害級バカ(ミュート)との遭遇では無様を(さら)したとはいえ、曲者揃(くせものぞろ)いの抗魔士(イムニティ)共相手に受付嬢を続ける胆力のある女だ。

 遺宝の知識や交渉能力も身についている以上、商売でもなんでも身を立てる方法がいくらでもある筈なのに、当然のようにこの部屋に居ついてしまっている。

 

 何故。もっと冷たくしなければ足りないとでも言うのか。

 

 遅めの夕食を綺麗に食べ終え、テーブルに積まれた皿を流し台で洗いながらヴァリスは懊悩(おうのう)する。

 

「65点。隠し味のつもりだったのだろうが、擦りが甘かった。香辛料の粒が残って食感を損ねていた」

「あぅ。はい、気をつけますね」

 

 せっかくの料理にケチをつけてみても、怒ったり悲しんだりする気配がない。機嫌が悪くなる気配すらない。

 本当にどうすれば彼女は自分を嫌ってギルドから出て行ってくれるのか。

 

 こちらの問題に関しても、答えが出る気配がなかった。

 

 

 

 なお。

 

(妻が料理を作って旦那様が後片付け。私達今すごく新婚さんしてます♡)

 

 冷たいのは言葉だけでべたべたに甘い気遣いが随所(ずいしょ)に出ているのにアクティは普通に気がついてるし、罵声を浴びせられても自分の被虐嗜好を刺激してくれるスパイスとしか思っていない。

 なんならヴァリスの態度は「兄さんが死んでからちょっと(すさ)んじゃったけど陰のあるマスターも素敵だなぁ」くらいにしか考えていないし、それが自分の性癖にドはまりした今の同棲生活が幸せ過ぎて、うっかり唯一の肉親だった兄が死んだ悲しみすら完全に忘却の彼方になっている始末。

 

 そんな頭まっピンクだからこそ、エルザがミュートに向ける視線は自分がマスターに向けるのと同じ、一切打算のない純粋な好意だと。ヴァリスの心配は杞憂(きゆう)なのだという真相に辿り着いているのはなんともはや。

 

 

 頭が良くて真面目にものを考える人間が必ずしも幸せとは限らない、ということである。

 

 





 鬼畜陰険冷血クソボケメガネ。

ギルド長V「くくく、メシを作ってもらっておいて偉そうに採点する。これは嫌われるに違いない……」
受付嬢A「ちゃんと料理を味わってくれて好みと改善点も言ってくれる旦那様(マスター)だいしゅき♡♡♡」

 コントかな?

>カスミ・ユートにどうあって欲しいと願っているのか
 「ご主人様でいて欲しいですっ☆」
 読めなかった…宗教家が大量破壊兵器に接近して考えることが「ペットになりたい」などと、ギルド長の眼を持ってしても…!

>過去の言動からその行動様式を割り出す
 あ、すみませんそれ無駄に特攻自爆してマインドクラッシュする前の話なんで…。

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