夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~ 作:サッドライプ
明るく楽しく救助活動!ヒーロー願望が満たされるぅ~。
そんな単純な世界ならよかったんですけどね。
上に下にの坂道含めて立体迷路みたいになってる洞窟を、エルザの指示通り方向にさくさく進んでく。一時間もしないくらいのうちに、俺にも生きてる人間の気配が感じ取れた。
「来るな……来るなぁぁぁっっ!!」
あーあーモンスターに囲まれてぶんぶん剣振り回してる。
一日中不気味な風音が鳴り続けるし、ふいに暗闇になるダンジョン。そんな恐怖体験しながらさまよった疲れと緊張の果てに、真っ青で引きつった顔しながら無茶苦茶な動きでの攻撃を繰り返すにーちゃん。剣で飛んでる相手を斬るのはかなり難しいってどっかで読んだ気がするし、当然のように巨大コウモリ達に避けられてる―――っていうか遊ばれてる。弱ったところに群がってちゅーちゅー(遠回しな表現)しそうだなこれ。実際にはたから見るとグロ一直線な光景になる予感しかしない。
好き好んで血抜きミイラの早作りを見たい趣味もないんで、さっと近づいて全部地面に叩き落とす。いや俺敵じゃないから斬ろうとすんなって、反射的にビリビリして黒焦げにしそうになるから。
「ぶいっ!電光石火のオール電化、安全安心を即日配達!サンダーラット見参っ!!」
「あ……え?」
大声で名乗りを上げるとぽかんとして動きが止まる、俺よりちょっと年上くらいのEランク
「ギルドの救助依頼を受けて来ました。昨日この
「救助……。助けが、助けが来たのかっ!?」
シスターエルザが優しく声を掛けるとさらに効果はばつぐんだ。
するとそのまま一日中洞窟の中駆けずり回って土ほこりまみれのカッコで、うちのワンコにすがり付こうとしたんで間に入ってブロック。女の子がこれに密着するのはかわいそうだもんな。
で、詰め寄るのは俺相手でもよかったのか、ガチ恋距離♂でこっちガン見してきたんでちょっと引いた。
「仲間とはぐれたんだ……お願いだ、他の奴らも……っ!」
「………エルザ、他に生きてる気配は?」
「ありません。この方だけです」
「だってさ」
「――――」
ひゅ、っと息をのむ音が聞こえた。
まあ残念でもなんでもなく、彼が一番最後だったってだけの話なんだろう。
どうにもエモノをじわじわいたぶって遊びながら殺す趣味の悪いモンスター達だったみたいだし、運か実力かは知らないけど一番粘ったから一番最後に回されて、そうしてギリギリの瞬間に俺達が来た、と。
そんなこと言ったってこの人には自分ひとりを残して仲間が全員殺されたなんてすぐに受け入れられるわけがない。
「嘘だ。適当言うな……」
「残念ですが」
「嘘だ噓だ信じるかっ!!みんなは―――はがっ!?」
「悪いけど、話は街に戻ってからな」
ただ同情はするけど、モンスターがうろうろするダンジョンの中でこの人が納得するまで付き合う義理も俺達にはない。
ものすっごーくてかげんして電流ビリビリすると人間スタンガンでこの通り。
気絶させてそのままお米様だっこで抱えて、来た時と同じようにエルザナビでダンジョンから脱出。今回は救助人数一人だったし、街まで運ぶだけの簡単なお仕事だった。
その帰り道の途中で。
『彼、ミュートを逆恨みするかもしれません』
「かもねー」
「軽いですね!?」
プリナちゃんに指摘されたことを、そのままそうだろうなーと受け入れる。
これまで助けてきたのは大体パーティー丸ごとで、そうじゃなければダンジョンに入った頃には助ける相手が誰も生きてなかったから、こういうのは今回が初めてのパターンだ。
今肩でかついでるこの人の気持ちが分かるとは言わないけど、仲間を失った後悔とか悲しみとかやり場のない感情をその場に居ただけの相手に向けてしまうのを、理不尽とかみっともないとか言うつもりもない。
「俺を恨んでこの先も生きる気力が作れるんなら、それはそれでいいんじゃないの」
もしトチ狂って襲い掛かってきても、俺どころかエルザにさえ勝つイメージが全然想像できないし。
不安がないのなら恐怖もない、なら今日これっきりの相手が俺をどう思っててもそこまで気にすることじゃない。
『自己犠牲のおつもりですか?それは―――』
「そんな立派なもんじゃないって」
プリナちゃんはきっと心配してくれてるんだと思う。もしかしたら本当にそういう経験があったのかも。
けど、俺は自分を犠牲にして顔も知らない誰かを救うヒーローになったつもりはないから、その忠告は多分ズレちゃう。
子供の頃見てたヒーロー番組で、「見返りを求めたらもうそれは正義じゃない」って言ってたヒーローが居た。
でもそのヒーローを応援してた“こどもたち”からすれば。一生懸命みんなのために戦ったヒーローになんの見返りもないのは、それこそ正義じゃない。
見返りがあって当たり前なんだ。
ダンジョンに潜るのは結局暇つぶし。ついでに大した手間でもなく人の命が助かるならってこの活動を引き受けただけ。それでクエスト報酬っていう見返りを俺はもらってる。だったら。
「お金もらってお仕事でやってるんだし、ちょっとくらい嫌な思いしてもそんなもんでしょ。
これが
ソーシャルビジネスだっけ。ちゃんと費用とつり合うだけの収益が出るビジネスとしてやるからこそ人助けも長続きするんだって学校の先生が言ってた。こうしてちょっと真似っこをやって見るだけでもその感覚がよく分かる。
「人助けって、仕事か趣味でやるくらいがちょうどいいんだなーって」
仕事なら、不快なことがあってもそれで稼いでるから納得できる。趣味なら、気が乗らない時はわざわざ無理にやらなくていい。
生きがい、使命感、義務感。英雄になりたい、みんなから尊敬されたい……そういう形のないものを頼りに人助けをするのはよっぽど特別なメンタルしてる人だろうし、それでもきっとすごく辛い気持ちになる。見返りを求められないのに、やり続けないといけないんだから。
「………エルザの前でこういうこと言うのはだいぶアレか」
「いえいえー。除霊のボランティアをやってたから、エルザはミュートさんに出逢えました。
エルザはちゃんと見返りをもらってますっ」
「お、おう」
純粋そのものな笑顔でそう断言されるとやっぱりちょっと恥ずかしい。本当に悪い気しないっていうか嬉しくなるけども。
一方で、プリナちゃんは何かかみしめるように黙り込んだ後、たった一言コメントするだけだった。
『ミュートは賢いですね。――――私なんかよりも、ずっと』
『隠蔽』の効果もあって最後はちょっと聞き取れないくらいか細い声で。
俺のバカさ加減を、どうしてかうらやましがってるように感じた。
ちなみに。
逆恨みされるんじゃないかっていうプリナちゃんの心配は半分当たって半分外れた。
「救助クエスト報酬として、こちらの金額をあなたのギルド口座から差し引きますね」
「嘘だ。適当言うな……」
「言いませんって。掲示板に張り出してますよね?救助依頼はギルドが出してますけど、報酬はギルドが把握する“被救助者の現有資産の半額”があてられるって」
「なっ……ぐっ……」
ギルドに連れてってもっかいバチバチ―――えーいーでー、だっけ?―――して起こしたおにーさんは、クロケおねーさんが見せた明細を見て目の前が真っ暗になってて、ある意味仲間の死に悲しんでる暇さえなさそう。
………全滅したら所持金が半分に。こういうシステムかーって初めて知った時は感心した。
この金額自体が高いか安いかで言えば、どうなんだろう?元の世界の海や山の遭難だと捜索するのに何千万、下手すると億とかカネ掛かってるって聞いたことある。
それを遭難者に直接請求が来ることはほとんどないらしいけど、本当だったら遭難した本人が払わないといけない金額っていうことには間違いない。そう考えると、持ってるだけの金額の半分はちょっと割引入ってる感じなのかなあ。
救出依頼は行きで探し回る苦労、帰りは足手まといを連れてて危険、ロクにドロップアイテムの回収もできず稼げない。これがあの有名な3K……。
なら代わりに、そのダンジョンのランクの人がこれまで貯めてきた財産の半分をクリア報酬に。それだけ払われれば上位ランクの人たちもやってみようかな、ってなる時もあるだろうって感じ?
払う側も、死んだら貯金を使うも何もないんだからその半分で命を買い戻したと思えば決して高い買い物じゃないはずだ、って――――理屈はすっごい通ってる、理屈は。
あのギルド長が考えたんだろーなーってのがなんとなく分かっちゃう。
「仲間がいなくなって、装備もボロボロで……そんな時にこんな金額取り上げられるってのかよ!!」
「規則ですので。ギルド所属の
「あんなん全部読んでられるか!」
「……っ」
死にかけてたところをやっと助かったと思ったら立て直すための貯金が半分消える。ニコニコ受け入れられるかっていうとそんなわけないのは見てのとーり。ただ、それで悪くもない相手に当たり散らすのが人間として立派かっていうとうーん。
これを戦う力のない黒髪の一般人なのに、
さすがにルールを教えてるだけの彼女がそんな風におどかされるのは、ちょっとひどい。
「まーまー落ち着けおにーさん。ちょっと電気マッサージして
「!!く―――っ!!」
視界の端っこでこれみよがしに指先から放電すると、なんかすごい悔しそうな顔でにらんできた。えー、なんか俺命の恩人なのに悪者感になってるのなんで?
「ちょっと!せっかくミュートさんに命を助けてもらったのに、そんな風に―――」
「エルザすてーい。ややこしくなるからおさえておさえて」
「…………わぅ」
忠犬エルザの気持ちは嬉しいけど、もうこのやり取り自体さっさと終わらせたい。ムカつかないかっていうと嘘になるけど、ここまで超てかげん込みで二発バチってるからぶん殴りたいまでは行ってないし。
このあと後ろでちょくちょくイナヅマの弾ける音を鳴らすと、嘘みたいに大人しくなって説明を聞いて依頼達成書にサインして帰って行った。
最後まで俺とクロケおねーさんにうじうじした視線を向けながら。
逆恨みされるんじゃないかっていうプリナちゃんの心配は半分当たって半分外れた。
半分はギルドが恨まれ、半分は俺が恨まれる感じだったんで。
あ、救出依頼が俺達が来るまで全然消化されなかった最後の理由。それがこの特殊な報酬体系。
報酬がそいつの稼ぎ次第だから不安定、あんまり格下の救出は旨味が少ない、せっかく助けても恨みがましく思われるから気分良く終われないのが原因って―――エルザが言ってた。実際今回かなり気分悪い。
「助けてくれてありがとね、ミュートくん。………だいぶ複雑だけど」
「いーっていーって」
複雑なのは俺が持ち込んだみたいなトラブルだからだろうけど、それでもちゃんとお礼を言えるクロケおねーさんみたいな人も居る。
『あの頃から何一つ変わっていない。何故にこうも愚かなのか』
「そんなもんでしょ。お金入って来たし、ちょっとおいしいものでも食べて帰ろうぜ」
「はいですっ!」
SNSとかよーつべとか見てたらあの百倍くらい性格終わってるのがゴロゴロしてるし。いちいち引きずっても仕方ないから切り替えていこー。
>電光石火のオール電化
意味不明だが多分ミュートくん本人もよくわかってない。ふいんきだけで決めセリフを作っている……。
>「人助けって、仕事か趣味でやるくらいがちょうどいい」
その程度のことを、言われるまで千年も気づかなかった愚か者、なんて。なんかもーちょくちょく普通の意味でも湿気てるんだからこの水属性ヒロインちゃんは……。
>受付嬢大変だなぁ
君がいなければこれまでほとんどなかったことだよ。
クロケおねーさんほんとミュートくん担当貧乏くじ。
>『何故にこうも愚かなのか』
大丈夫?粛清ゲージ的な何かが溜まってない?
>いちいち引きずっても仕方ないから切り替えていこー
SNS全盛で色んな人が本性剥き出しにしてる時代の令和育ち。
まだ理解できる理由で態度が悪いなんて可愛い方な扱い。