夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~   作:サッドライプ

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 視点が増えるに連れてつい初心を忘れそうになるので、こまめに挟もう純愛ほのぼのいちゃらぶ回。




迷宮救助隊サンダーラットⅢ

 

 ダンジョンに出発して一日経っても帰ってこないパーティーへの救出クエスト。それを優先して受ける係『迷宮救助隊サンダーラット』なんて、人の生き死ににちょいちょい関わるようになって。

 そもそも向かった頃にはもう手遅れで誰も生きてないってことの方が多いし、助けられても恨みがましい目で見て来ることもあったり、たまーに普通にありがとうって頭下げるやつらも居たり。

 

 けっこーシリアスっていうか一応マジメな顔してないといけない場面も多いけど、そんな経験をしてじゃあ何か心境の変化があったかって訳でもなく。「今のお仕事をどう考えてますか」とかインタビューで聞かれたら答えにすごい困る気がする。やりがいがあるかは果てしなくビミョーだし、嫌な思いもするし、かと言って嫌々やってるってわけでもないから。

 『暇つぶし』ってそのまま答えると果てしなく炎上案件だし、実際その一言だとなんか違う気もする。一番ぴったりなのは『仕事』なのかな。

 

Q.今のお仕事をどう考えてますか?

A.仕事。

 

 わあバカっぽい。いや実際バカなんだけどさ。

 

 ただバカはバカなりに、今の自分がなんか変だってちょっと感じてる。

 

 俺がしてきた経験は、マンガの主人公だったらもうちょっと「こぼれ落ちた命が~」とか「もっと助けられたんじゃ~」とか「俺は何のために~」とか悩むシーンが入るところだと思う。

 なのに今の俺は、特に深く悩むこともなくプリナちゃんといちゃついてエルザに世話焼かれてっていうそれまでの生活を過ごしていた。

 

――――いや、それもちょっと違うか。

 

 救助クエストの為に色々なダンジョンに入って、色々な景色を見て、色々なモンスターと戦って、時々誰かが助かったり死んでたりを見届けて。

 

 

 そういう刺激があるから、俺とプリナちゃん、あとエルザとの日々の生活ももっと幸せというか生き生きした感じというか、そういうポジティブな気持ちで過ごせてる気がする。

 

 

 いや人の心。ってツッコミがどっかから来そう。せめて死に目に立ち会ったやつのことくらいは心に刻んでおけよって言われたら返す言葉もない。ないんだけど。

 なんでか本当にそこまで気にならないというか、一晩寝て起きたら「今日もがんばるぞー」としか思わなくなってる。

 

 本当に、なんか変。他人が死んでもどうでもいいってくらいならそもそも迷宮救助隊なんてお仕事、暇つぶしでも引き受けないんだから、じゃあなんで見知らぬ誰かとはいえ死に接して何もショック受けてないんだろう。

 

「なんだかなー」

「どうしました、ミュート?寝心地よくないですか?」

「あり得ないです」

 

 そんな考え事をしている俺を、少し困った顔で上からプリナちゃんがのぞき込んでくる。

 俺の下にはやわっこくてすべすべな極上のまくら。何製かなんて言うまでもないよね。

 

―――えっちなイラストで時々あるようなむちむち太ももじゃなくてほっそりしててでもしっかりやわらかい女の子の太ももが結局原点にして至高で最強なんだよね。それをぐーでぽんぽん叩いておいでーってしぐさがひざまくらのお作法これは絶対譲れない。体勢も色々あると思うけど、女の子のぺたん座りからの正面に寝転がって90度が俺は好き。顔上下で互い違いになりながら見つめ合うと幸せはじけちゃうのやばいって!

 

 ということでベッドの上でプリナちゃんのひざまくら体勢なう。

 

「プリナちゃんこそ大丈夫?足しびれたりしない?」

「そんなこと。ふふっ、これでも抗魔士(イムニティ)の端くれですよ?何時間だって平気です」

 

 いつものふんわり笑顔がいつもと違う正反対の角度で見れるとまた違った魅力があってよき。そろそろうれしはずかし同居生活もなじんで来た感はあるけど、ほとんどいつも俺に笑いかけてくれるのがデフォなの本当に愛されてるなーって感じで嬉しい。

 

「あと退屈だなーってなったりしない?俺はおひざの感触だけで一日中いけるけど」

「私も、ミュートを膝に乗せているだけで何日でもいけるくらいです。

 それにこうやって気遣ってくれる優しい彼氏さんを癒してあげたいですから」

「プリナちゃん……っ」

 

 いい子過ぎて時々本当にこんな理想の女の子が俺の彼女になってくれたんだろうかと現実を疑いそうになる。夢なら永遠に覚めないでいい。

 

「おつかれさまです。外での活動は、やはり気力を使いますよね」

「………ん」

 

 手はほっぺやあごのあたりをなでくすぐってて、心地いいこそばゆさを提供してくれる。

 今エルザが俺になでられてる時みたいなふにゃふにゃ顔になってる気がするけど、それ含めてこっちを見守るヒスイ色の眼にはあたたかい光だけが宿ってた。

 

 これで目元を手のひらでフタされて人肌アイマスクされたらすやすやお昼寝モードに入りそう。癒しプリナちゃんの安心感ハンパなさ過ぎる。

 

「プリナちゃん。お悩み相談、いい?」

「はい。なんでも言ってください?」

 

 このひざまくらで眠れるのはぜーたく過ぎるけど、せっかくだから起きてずっと後頭部の幸せを感じていたい。

 襲いかかってくる眠気を散らすため、話のネタにさっき感じてた俺自身の違和感を相談してみることにした。

 

 例によってうまく説明できない俺の話を根気強く聞いてくれるプリナちゃん。そもそも俺自身理由が分かってない………と思ったけど、彼女の顔を見ながら話してて一つだけ「これかも?」って思うことがあった。

 

「感性が麻痺している、とも違うようですね。ミュートの気持ちが(ふさ)がないというのならそれが何よりなのですが」

「それなんだけど、違ってたら悪いんだけど」

「なんでしょうか?」

 

 

「プリナちゃんってもしかして、人間嫌い?」

 

 

「―――。いいえ、壁蝨以外(にんげん)はそこまで嫌いというわけではないですよ?」

 

 

 わあ声がちょっとひんやりしてるー。表情は変わらないんだけどそれだけにガチ感がある。これ嫌いじゃないけど好きとも言ってないってパターンだ。つまり:どうでもいい。ていうかそうじゃなきゃ常に外で姿隠して俺とエルザ以外の誰とも話さないの、ストレスでおかしくなるのが普通だよねよく考えたら。

 ただこれはずっとずっと俺に好き好きアピールしてくれるプリナちゃんだから分かった変化で、そうじゃなきゃ絶対見抜けないくらいの演技だった。裏返せばどれだけ俺を愛してくれてるのかってにやけが止まらなくなりそうだけど。

 

 あのバケモノだらけの暗い遺跡の底でたったひとりで封印されていた女の子。そこには『誰に』『どうして』封印されたかが絶対にある。気にならないわけじゃないんだけど、プリナちゃんは言いたくなさそうだから聞いてない。でもきっといい理由じゃないことには間違いないんだろう。

 そして、理由が分からなくったって。

 

 

「大好きなプリナちゃんが嫌いなものだから、俺もちょっと嫌い。変かな?」

 

「―――っ」

 

 

 ギルドの人たちとか、商店街の人たちとか、よく話す人たち以外のこの世界の人々は、“少し嫌い”なところからスタートしてるのかも知れない。そりゃちょっと嫌な奴が死んだからってあんまりうじうじする気分にならないよなって思うと最近の感覚にも説明がつく。

 

 そんな風に思ってると、本当にプリナちゃんが俺の目元に手を当てて目隠ししてきた。

 

「………疲れているんですよ、ミュート。少しゆっくり頭を休めてください」

「ふぁい」

 

 柔らかいおてての感触が目元全体を幸せにしてくれて、本気で意識が遠のいた。目の周りって急所の一つだし大事な場所だからすっごい敏感なのを俺は深く深く実感した。それにこのシチュ自体が俺のひざまくらリクエストのフィニッシュなわけで。

 ぷかぷか水に浮かぶよりもリラックスした気持ちで、俺は最高にぜーたくなお昼寝モードに入ってしまうのでした。

 

 ぐー。

 

 

 

…………。

 

「――――くひっ♪」

 

 ああ、ダメだ。

 

 可愛い『理想のおよめさん』と程遠い、卑しさに(あふ)れた笑い声が漏れてしまった。

 勿論ミュートがしっかり眠りに落ちていることは確認していて、それまで(こら)えていたのに気の抜けてしまったせいでもあるが。

 

 それに今自分が浮かべている表情もいただけない。興奮で目を見開きながらくつくつと湧き上がる喜悦のままに、口元が限界まで引き上がっているのを自覚している。

 彼の視界を(てのひら)で塞いだのは、この顔を見られないために彼の愛しいリクエストが好都合だったからだ。

 

 だって仕方ないだろう。

 

 

―――大好きなプリナちゃんが嫌いなものだから、俺もちょっと嫌い。

 

 

 人懐っこくて、嘘や誤魔化しに容易(たやす)く乗せられてしまうくらい猜疑心(さいぎしん)が薄くて、そして『手間にならない範囲なら』『暇つぶしのついでに』という判断基準はややドライながらも見ず知らずの誰かの為に手を差し伸べられるくらいには善性の少年。『ちょっと嫌な奴』にすら、命が助かるのならその方がいいだろうと思ってしまう善人。

 彼がその純粋な心で愛情を注いでくれたからこそ、『■■リナ■』は救われそして全てを捧げることに決めた。

 

 そしてついさっきそんな彼の心に見えたシミ。

 私が嫌いなニンゲン達を、ちょっと嫌いになってしまった。なってくれた。その邪念は、まぎれもなくプリナの影響で着色された黒く(きたな)い心のシミだ。

 

 

(私が、私がっ。ミュートの心を汚した………♡)

 

 

 全身全霊で愛する恋人に、不可逆の痕を刻んだ。まるで赤黒く(ただ)れたキスマーク。決して消えないソレに彼女が覚えるのは満足感以外にあり得る訳もない。

 仄暗い独占欲がオーバーフローするほどに満たされ、悦楽が総身を駆け(めぐ)る。彼を膝に乗せていなければ、自然と全身の震えを解放して(もだ)えて奇態を(さら)していたに違いない。

 

 本当に、どれだけこの人は私を喜ばせてくれるのか。どれほど愛させてくれるのか。

 

「ミュート、ミュートっ………♪」

 

 (ささや)くように名前を呼ぶ。耳にやっと届くくらいの、眠る彼にとっては優しい子守歌。だが(はた)から見たら醜悪な怨霊が呪いの言霊を塗り()めているようにしか見えないだろう。それくらい今のプリナの表情は邪悪そのものだった。

 

 けれど。

 

 

 

「―――良かったですね、プリナ様」

 

 ベッドサイドの椅子に座ってその光景を観察していたエルギノーザは、ただただ慈愛の表情でそれを寿(ことほ)ぐのみなのであった。

 

 

 





 わーいほのぼのー。

>「これでも抗魔士(イムニティ)の端くれですよ?」
 ぶっちぎり最強なので端っこに居るという意味では間違ってない。

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