夢現世界の災凶姫~Disastress in the Parasomnias~   作:サッドライプ

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 飲み会のつづきー。

 ワイバーンをぶった切ったりグリフォンを丸焼きにしたりする超人達がひしめくナーロッパ系冒険者ギルド受付嬢の実情を真面目に考察すると結構地獄絵図だよね。




抗魔士ギルドⅣ

 

 ギルド受付嬢の朝は早い……という訳ではなく、むしろかなり厳密な規則性が組まれたチーム単位のシフト制で出勤している。

 いくつか理由はあるのだが、まず第一はそうでないと体も心ももたない、というのが真っ先に来るだろう。

 

 まず通常業務からして、日々蝕魔(インフェクター)との殺し合いを生業(なりわい)とする超人達相手の窓口業務だ。ただの常人が何百何千束になろうと薙ぎ払えるような相手に、時に煩雑(はんざつ)な規則や要望に反する裁定を伝え、至近距離での敵意を浴びることもある仕事。

 

 当然不快になったからと簡単に暴力に訴えるような狼藉(ろうぜき)者は最初から門前払いされている。ギルド憲章で組合員への暴力は厳重処罰とされているし、周囲に同じ抗魔士(イムニティ)が居て何かあれば止めに入ってくれるだろう。

 だがそれらの要素は最初の実力行使に架せられた絶対の安全装置(セーフティ)という訳ではなく、「ついカッとなって」簡単に引き千切られる紙の封印でしかないのだ。その最初の実力行使、衝動的に突き飛ばされるだけで後ろの壁に叩きつけられてご臨終、となるケースも常人にとっては決して絵空事ではない。

 

 ギルドの窓口というのはそんな命の危険と隣り合わせの業務である。

 かなりの繊細さとそれなりの鈍感さという矛盾したものを併せ持っていなければまず適正外だし、実際精神を病んで退職する職員も後を絶たない。人材を使い潰す余裕などある訳もなく、勤務時間を厳密に区切り残業などもっての(ほか)。一方で対価として支払われる俸給は、時間比率からすれば常人の働き手としては最高クラスの待遇なのも当然の話だった。死亡……じゃなかった志望者数はお察しだが。

 

――――なら受付も常人ではなく抗魔士(イムニティ)を雇えばいい?その程度のことはとっくに試されている。我が強く、多かれ少なかれ攻撃性を持ち合わせている抗魔士(イムニティ)に接客をやらせてトラブルが減る可能性など万に一つもないし、接客される側は「同じ抗魔士(イムニティ)なのにこいつだけギルドでぬくぬくしてやがる」という不公平感からなおさら不満を抱きやすくなるという、少し考えれば分かる当たり前の因果が証明されただけだった。

 

 そんな命がけという意味で紛れもなく戦場と言っていい危険な職場。信頼できる仲間などという贅沢は言わないまでも、行動パターンを把握できてそれなりに実力に信用がおける相手でなくば隣に居て欲しくないというのは当然の心理。誰だってたった2メートル隣の席で他人が起爆した爆弾に巻き込まれたくはないだろう。

 必然、呼吸を心得た者同士がチームで固まるようになり、勤務シフトに住み分けが発生するようになる。

 

 これが理由の第二。アクティ・クロケ・ロジーが互いを『戦友』と認識しているのもこういった理由である。

 

 そして理由の第三だが、クロケが『サンダーラット』の担当という話にも帰結する。同じ時間窓口に座っているなら、交流を重ねて“間合い”を心得た相手を多く受け持つ方がまだ安全で安心という理屈は理解できるだろう――――周囲の抗魔士(モブ)による抑止力は一切期待できず、ただのじゃれあいでも戦闘力的にライオンにじゃれつかれた方が万倍マシなどこぞの電気ネズミは例外中の例外として、だ。

 そういう訳で練達した受付嬢ほど『お得意様』を何人も抱えているし、利用者側も気心の知れた受付嬢の方が当然話が早く進むからわざわざ他に話を持っていったりしない。

 

 となると、いつに行けば担当の受付嬢が居るのか分かるように、決まった日程間隔の決まった時間で勤務体制を組むのも当然のこと、というわけであった。

 

 

…………と、まあ長々と語ってしまったが、だからどうしたという話なのかと問えば。

 

 

「あたしがこつこつ築き上げてきた『お得意様』の絆がぁ~」

「ふふふ、感謝してもいいのよ?」

「やはり持つべきものは頼れる同僚ですよねっ」

 

 実力差というものを肌で感じられる抗魔士(イムニティ)であればなおさら、あの国家崩壊級の電気ネズミとは極力距離を置きたいわけで。

 つまり彼にとって『おなじみのクロケおねーさん』である受付嬢もまた然り。“話が早く進むから”程度の理由で僅かでも地雷が埋まっている可能性があるところに声を掛け続ける理由もなく、彼女の窓口だけ閑古鳥(かんこどり)が鳴いていた。

 

 さらに言えば隣でクロケの仕事ぶりを知っているアクティやロジーに声を掛けても同じくらいスムーズに手続きが終わるのだから、何の違和感もなく皆そちらに流れている状態なのである。

 もし受付嬢の業務査定が営業成績のノルマ制だったら、同期に顧客を全て横取りされて暗澹(あんたん)の極みといった有様だっただろう。だがカスミ・ユートの相手をしているというただ一点でもって、彼女の給与はむしろ一番上の(ケタ)の数字が変わるくらいには色がついていたりはする。

 

「いいじゃない、むしろ労力的には減って貰えるお給料は増えてるんでしょ?」

「使う機会がないわよぉっ!」

 

 だってヤツ、救出依頼の確認の為に毎朝ギルドに来るんだもの。クロケもまた、どうせ誰も話しかけてこない勤務時間を減らす代わりに毎朝早朝出勤を課されて遠出も夜更かしもできない実に健全なライフスタイルを強制されていた。

 

「あ、ここの会計ごちそうさまですクロケさん」

「だからって勝手にタカる流れにするなぁっ!」

 

 半分冗談半分本気で煽ったら元気に噛みついてくるあたり、まだまだクロケに余力はありそう―――そう分析してマスターに報告しようと考えている相当イイ性格をしたアクティのことはさておき。

 

 

「うるせえよさっきからよォッ!!グチりたいのはこっちだっつうの!!」

 

「………ぅぇ」

 

 

 酒が回って声が大きくなった―――以前に抗魔士(イムニティ)の聴力であれば容易に聞き分けられただろうが―――のを咎める更に大きな声が店内に響いた。

 

 2つ隣のテーブルから男が立ち上がってこちらへずかずか歩いてくる姿を認め、クロケの顔が露骨に歪んだ。

 

(彼は……)

 

 緑系統の色が一目で識別できる程度には濃い色合いの髪、つまりEランク。先日の救出任務の騒ぎの際にも居合わせていたアクティは、その男について『自パーティーが全滅する中一人ミュートに救出された生き残り』として記憶を一致させた。

 その際の振る舞いを考えれば、これから彼がどうするか容易に予想できてしまう。

 

「いいよなあお前らは。俺達抗魔士(イムニティ)が必死こいて稼いできた金で楽に食っていけるんだからよお」

 

 案の定乱暴な口調でクロケに絡み始める。

 

 (いわ)く、遺宝の査定をわざと低くして差額を懐に収めている。

 曰く、気に入らないパーティーには蝕巣(フォーカス)の情報をわざと渡さない。

 曰く、割のいいクエストは一部のパーティーで結託させて持ち回りを斡旋している。

 曰く、曰く、曰く……。

 

 どこぞの誰ぞの受け売りとしか思えない、受付嬢への聞くに()えない言いがかり。

 本人が思いついた訳もないだろう、反論の十や二十は思いつく定型的ないちゃもんである。

 

「……検討します」

「………確認します」

「…………万が一そういうことがあれば速やかに改善します」

 

 だが下手に言い負かして逆上させれば命の危険がある以上、クロケに出来るのは言質を取らせないよう受け流すことだけだった。いっそその場しのぎでへこへこしながら命乞い出来ればという心理もなくはないのだが、『ギルドの受付嬢』がそれをやる=ギルドの面子を(おとし)める、ギルドが抗魔士(イムニティ)()められることを意味するため、ペナルティとして命以上に尊厳を懸けた制裁に怯えなければならなくなる。

 

 だからクロケは顔を伏せぎみにして定型の返事を繰り返す。

 そんな苦しく惨めな思いをしても、これはただの時間稼ぎだ。

 

 だが、時間を稼げれば……「ついカッとなって」という初動さえ抑えられれば十分だった。

 

「てめえ!さっきから同じことばっかり、チョーシこいてんじゃ」

 

 

「君こそいい加減にしろ。見苦しいぞ」

「あん?なん――――ご、ごべッッ!!?」

 

 

 脇腹に膝、斜めに浮いた体が折れ曲がって下がった後頭部に肘。

 

 常人の受付嬢達にその一瞬の動作を見切れる動体視力はなく、理解したのは他の客に制圧された酔っ払いのクズがぴくぴくと痙攣しながら酒場の床に這いつくばっているという結果だけだった。

 為したのは暗めなオレンジ系統の髪色の青年。アクティの面識のある―――というか『お得意様』の一人であるCランク抗魔士(イムニティ)、H・アルヴィだった。

 

「く、そ……」

「自分の命を救ってもらっておいて、依頼金額が気に入らない?本当なら全財産差し出しても釣り合わないだろうに。

 自分の命の価値を値切ろうだなんて、自分がそれ相応の安値でしかないと言っているようなものだろう――――僕なら勘弁だ。こうはなりたくないな」

「ッ、~~~ぐ、このぉ」

 

 こういう意味でも『お得意様』を作るのはギルド受付嬢にとって自衛の一環である。

 同じ酒場に居合わせたよしみで、言葉でも迷惑な男を打ちのめしてくれた彼にアクティがぺこりと頭を下げると、なぜか焦った様子で気にすることはないと掌を向けてきた。アクティは気にしないことにした。

 

 ちなみにギルド受付嬢への暴言、脅迫も憲章違反として制裁の対象であるため、此度(こたび)のアルヴィの行動に(せめ)は一切ない。むしろ罰金としてこのEランクの男の今後の口座残額や遺宝査定額が楽しいことになる。それでもまた同じことを繰り返すようであれば―――翌朝路地裏で冷たくなっていても誰も気にしないことだろう。

 

「解散、しましょうか」

「ああ、ならこの男は僕がその辺に捨てておくよ。店内で“戻され”でもしたら迷惑だ」

「重ね重ね、ありがとうございます。このお礼はまた後日」

「……っ、本当に気にしなくて大丈夫だよ!じゃあまた今度っ。アクティさん、いい夜を」

「?はい、いい夜を」

「~~~~っ」

 

 ともあれ飲み直す空気でもないため席を立つ受付嬢達。酔いが完全に冷めて気力を使い果たしたクロケを支えながら、ロジーは「毎回アルヴィさんはなんで挙動不審なんだろう…?」と内心首を傾げつつも応対するアクティを呆れた目で眺める。

 

「罪な女ね……」

 

 かくもハードなギルドの華の一幕。

 ヴァリスがアクティをギルドから遠ざけたいのはこういった理由もないではない、というのがよく分かるある夜の出来事だった。

 

 

 

 ちなみに。

 

(これで恩を返せたとは思わないけど……でもアクティさんにいいところを見せられたかな。

 いやいやダメだそんなこと考えちゃ!そんな下心なんて僕にはない!!)

 

 このアルヴィという青年、かつて蝕魔(インフェクター)蝕巣(フォーカス)内で増殖し過ぎて溢れ出すスタンピードが起こった際、Eランクだった時分にAランク蝕魔(インフェクター)に襲われるという窮地に陥ったことがあり、そこを命と引き換えに先代ギルド長セグニスに救ってもらったという経緯がある。

 肉親の死の原因となったにもかかわらず、(わだかま)りを抱いた様子もなく分け(へだ)てなく受付嬢として接してくれたアクティに惚れ込み、亡き彼女の兄に恥じないAランクになったら彼女に告白しようと心に決めていたりする。

 

 分け隔てなく、その他大勢と一緒の対応を、受付嬢として、アルヴィにしているアクティに。ギルド長ヴァリスとの同棲生活に浮かれてうっかり兄の死の悲しみをどっか別次元に放り投げてしまっているアクティに。

 

 仮にその告白の日が来たとして―――結果はまあ、言うだけ野暮だろう。

 

 

 





 あーあ(先行入力)

 ところで本編には全く関係ないですが、「ボクが先に好きですらなかったのに」ってどういう表現すれば的確なんですかね?()

>命と引き換えに先代ギルド長セグニスに救ってもらった
 親友だった先代がそういう経緯で殉職しているわけで、救出依頼なんて制度を作った現ギルド長の内心にどんな感傷があったかと想像してみると――――「マスター、癒してあげたいな♡♡♡」―――ごめん今変なノイズが入った。

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